ようこそ一之瀬帆波の幼馴染がいる教室へ   作:クリスマン

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『暴力事件』について詳しく描写するタイミングを完全に見失いました。


神崎隆二の決心

悪原のことが恐ろしい。それはもちろんいい意味でだ。これほど凄まじい能力を持つ人間がすぐ近くにいることだけでも感謝できるのにこの男は俺の友人にまでなってくれた。

さらに、悪原を通してDクラスの綾小路清隆とも友人になることができた。驚くほどのポーカーフェイスで何を考えているのか一見まるでわからないが、接してみると顔に出なさすぎるだけでごく一般的な男子高校生といった印象を受ける。ただ、本人曰く親が相当に厳しかったらしくコンビニに行ったことがないなど世間知らずなところもある。そんな綾小路もすでに俺の良き友人だ。

 

さて入学二日目。俺は悪原の圧倒的な実力によって打ちのめされていた。悪原から見れば、俺が勝手に膝をついているようなものだろうが。

 

だが仕方ないだろう?奴は本来一ヶ月後に新入生へ明かされるはずの『真実』を入学式当日、つまり学校生活一日目にして暴いてしまったのだから。

 

──確かに、ヒントはあったのだろう。

 

質問されてもほとんどの場合ハッキリと答えを言わない先生たち。至るところに設置されている『無料商品』。『無料』の学食メニュー。帰りに見かけた自販機にも『無料』のミネラルウォーターがあった。

ポイントを浪費した生徒への救済措置と言えばそれまでだが、俺は疑い続けていた。しかし俺一人では間違いなく疑念の答えを出すことはできなかっただろう。

悪原は違った。疑念の答えをあっさり導き出した。あの時は俺と綾小路もいたが、悪原はきっと一人でも答えを出せただろう。

 

そして悪原は俺たちに『ヒント』を与えてくれた。おかげで俺と綾小路も納得いく『答え』を出せたが、その納得できる答えを踏まえて思い返すと、悪原が与えてくれたヒントは本当に大きなものだったと感じる。ほとんど答えに近いと言ってもいい。

 

さらにこのことから考えると、この学校の進学率・就職率百パーセントという実績も疑わしくなってくる。流石にこればかりは嘘ではないと思いたいが、何らかの条件が存在すると考えておくべきだろう。またしても悪原頼りになってしまうが、あの時言っていた『生徒を実力で測るのなら、学校が定めた基準があるんじゃないか』という言葉から考えると、この基準を下回ったものは進学・就職のバックアップを受けられないのではないかと思えてくる。さらに最悪の場合を考えるなら…基準に対し著しく実力の足りない生徒は、退学になるかもしれないという可能性も。

 

そして朝一番に三人で登校し、職員室で『答え合わせ』をしようという約束通り、俺たちは星乃宮先生に一人ずつ順番に、自分の予想を説明した。

 

先生は随分と楽しそうだった。その反応から、俺たちの予想は、悪原の予想は正解だったとわかる。楽しそうと言っても、間違いを笑うような意地の悪い笑顔ではなかったからだ。

 

説明を終えると、先生はお見事!と拍手をした。近くにいた他の先生たちも、嬉しそうに頷いたり感心した様子で俺たちを観察していた。そして星乃宮先生は俺たちに口止め料として学校側から多額のポイントを支払う代わり、このことは他の誰にも絶対に言わないこと、それを誓う契約書にサインをしてもらうことを条件に『Sシステム』の詳しい仕組みについて語ってくれた。

 

やはり、来月振り込まれるポイントは10万ポイント固定ではないらしい。生徒達の授業態度や生活態度を観察して、そこから評価をつけて振り込むポイントが決まるのだという。(観察とはどうやって?と思っていたところに悪原が「あの監視カメラでだろ?」と言って俺はまた驚かされた。俺は監視カメラに気づけてもいなかったのだ!)

 

とまあほとんど予想の通りだったが、ここで意外だったのは綾小路の予想が最も正解に近いものだったということだ。悪原の予想よりも、先生に説明された仕組みに近いものだったのだ。本人曰く勉強も運動も自信はない、とのことだったが俺はすぐさま綾小路への評価を改めた。綾小路の言っていたことが全くの嘘とは思わないが、地頭は相当に良いのではないかと感じたのだ。

 

そして突然、まだ説明の途中なのに悪原が口を挟んだ。そう、真に驚くべきはここからだった。少しは俺も悪原が見ている世界に近づけたか?と愚かにも思い上がっていたところにまた、途方もない実力差を見せつけられたのだ。

 

「大体わかりましたよ、先生たちが隠してることが」

 

「うーん?Sシステムの仕組みは包み隠さず全部話したよ?監視カメラで常に行動を観察して記録してるのも認めたよ。なのにまだ何か隠してるって疑うんだ?」

 

星乃宮先生は実に興味深そうに悪原を見つめた。周りの先生たちも何か期待するような雰囲気だ。おそらくだが、先生たちから見ても悪原は相当に優秀で、期待の持てる生徒なのだろう。

俺たちも含め、この場にいる全員が悪原に注目していた。

 

「ええ、そいつを今から説明しようと思うんですが、もし正解だったら口止め料を倍にしてくれません?」

 

「……いいだろう。話してみなさい」

 

口止め料の倍増。そのことに先生たちは少し驚いたようだったが、悪原の要求を許可したのはAクラスの担任だという真嶋先生だった。

 

そして悪原は説明を始めた。今職員室にいる全ての人間が、悪原の演説に耳を傾ける。

 

「普段の素行から評価して振り込むポイントを決める、と言ってましたが、それはきっと生徒一人一人じゃなくクラス単位で決めるんじゃないですか?」

 

「ほう。なぜそう思う?」

 

「会社に当てはめりゃいいんですよ。一人がやらかしたら責任は会社そのものにいくでしょ?たとえば、ある会社で働いてる人がその会社の評判を落とすようなことをしたら、収益が落ちたりして給料に響く可能性がある。バレないと思ってやっても意外と見られてたりしますが、それはそこかしこに監視カメラが設置してあるこの学校も同じですよね」

 

「クラス毎とはいえ評価されるのであれば絶対にクラス間でポイント支給額に差が出るでしょう?それによって明らかになるのは優秀なクラスとダメなクラスの存在。そこからさらに考えられるのは、この学校は四つのクラスで競争みたいなことさせるんじゃないかってことです」

 

「…ふ、面白い話だな。確かに説得力はある。だがひとつ穴があるぞ。……なぜ学校がクラス同士を競わせるなんてことするのか、そこの説明ができていない」

 

…真嶋先生の通りだ。悪原の言っていることが間違っているとは思えないが、なぜそんなことをさせるのかという理由が説明されていない。そう不安に思っていると、悪原は実にあっさりとそこに関する説明も始めた。

 

「そうですね。ここでこの学校の謳い文句が出てくる」

 

真島先生の眉がピクッと動いた。

 

「進学、就職率共に百パーセントですよね?いくら国が力を入れてる学校だからって、まさかそんな美味い話があるはずがない。いやむしろ国が主導するからこそですかね、優秀な成績を残す人間と、まるで結果を出せなかったり逆に損害を与えるような人間が同じ扱いをされるだなんてありえない。会社に利益を出す人間は出世して、逆に結果を出せなかったりそれどころか損害を出すような人間はいつまでも下のままだしクビになる可能性もある」

 

「……」

 

「つまり何が言いたいのかっていうと、この学校が進路をサポートしてくれるのは『最も優秀なクラスに在籍してる生徒』だけに限るんじゃないですか?」

 

──ごくり、と生唾を飲み込んだ。背中に冷たいものが流れているのがわかる。……レベルが、違いすぎる。

悪原の見ている世界は、一体どんなものなんだ?なぜそこまで見抜くことができる?考えることが…できるんだ。確かに俺も『進学・就職率百パーセント』を疑ってはいた。だがそう考える根拠は悪原が昨日言っていたあの質問に依存しており、俺一人で導き出したものではない。

それを悪原は自力で考え、大いなる自信をもって説明してのけた。いっそ恐ろしいまでの実力。もう俺は…この友人以上に、尊敬できる人間などできないかもしれない。

 

他の先生たちも少なくない動揺を見せている中、真嶋先生は静かに笑った。

 

「……大サービスだ。さらにもう一つ存在する、ある法則を当てられれば口止め料を三倍に引き上げてもいいぞ」

 

「へえ?」

 

「ちょっと真嶋くん!?」

 

驚いたのは星乃宮先生。まさかまだ隠している情報の存在を示すどころか、口止め料を三倍にまでするとは予想外と言ってもよかったのだろう。

だがはっきり言って俺はもはや予想すらひとつもつかない。まだ隠されている謎だと…?そんなものが本当にあるのか?

もしかしたら、これは悪原を惑わす嘘なのでは?真に優秀かであるかを確かめるため、敢えて嘘をついて事実であるかどうかを見抜けるかを試しているのでは?

一度疑心暗鬼になるともう止まらない。

 

…しかしやはり、悪原は圧倒的に優れていた。絶対的に、真に頭のいい男だった。

 

「……クラス分けですかね?」

 

先ほどよりもよりわかりやすい衝撃が、先生たちに広がった。これまでは多少の仕草や目配せなどで動揺しているのがわかったが、今回は違う。互いに向き合って、ヒソヒソと何かを話している。

真嶋先生は目を見開いていた。

 

「単純に考えるなら、AクラスからDクラスの順で優秀、劣等ってとこですか?そんでもって『特権』にあやかれるのはAクラスのみ。優秀な順でクラス分けするのは大手の塾でもあったりするらしいですからね、ありえない話じゃないでしょ」

 

もはや俺は何も言えなかった。綾小路がどのような反応を見せているのか、どう思っているのかを見てみたい気持ちすら湧く余裕がなかった。ただ、悪原の言っていることは間違いなく真相そのものであり、正解に違いないという漠然とした確信があった。

星乃宮先生の額には少しばかりの汗が滲んでいて、真嶋先生は静かに俯き、また静かに顔を上げた。その顔はまるで見事なパフォーマンスを見た後のように、感動しているように見えた。

 

「素晴らしい。……本当に素晴らしいぞ、悪原九郎。『Sシステム』に気がつく生徒は毎年いるが、それだけに限らずクラス分けの理由と真実までを、入学して二日目で暴いてみせた生徒はお前が歴史上初だ。大いに誇るといい」

 

「恐縮です。威張り散らすのは来月までの辛抱ですけどね」

 

頭を下げた悪原は揶揄うようにニヤリと笑ってそう言った。

 

「そのようなことをする人間には思えんがな……よし、それでは口止めの契約を行う。三人ともこちらへ」

 

そこで俺はようやく現実に戻ってきたような実感が得られた。呼吸も忘れていたかのような気分だ。横の綾小路を見ると、やはりいつも通りのポーカーフェイスであったが、その瞳はなんだかキラキラしているように見えた。

俺たちは生徒指導室に案内され、三枚の契約書を渡された。内容としてはこんなものだ。

 

『悪原九郎、神崎隆二、綾小路清隆の三名は今回知った情報を来月まで絶対に他の誰にも話さないこと。それを破れば退学処分を下す』

『口止め料として神崎隆二と綾小路清隆には100万ポイント。悪原九郎には300万ポイントを学校から支払う』

 

ひゃ、100万か……ポイントがあって困ることなどなかろうが、ますます金銭感覚がおかしくなりそうだ。

悪原も「いいんですか?こんなにもらっても」と言っていた。後から聞いたが、もらえて50万ぐらいかと思っていたらしい。

だが、今回俺たちは見抜くのが大変早かったということで色をつけてもらうことができたらしい。正直全て悪原のおかげなので肩身が狭い思いだったが、

 

「おまえだってちゃんと考えたんだし、Sシステムの予想も間違いじゃなかっただろ?胸張っといたらいいんだよ」

 

……ただ、それだけの言葉に、俺は救われたんだ。

 

この先俺は悪原の背中を見続けることになるだろう。だがそれを悔しいとは思っても、情けないと思うことはない。

悪原を超えた先の世界にたどり着いたら、天才でもなんでもない俺はきっと何をしていいかわからなくなるから。そうして道に迷うよりは、背中を見続けることになってもその背を追い続ける道を俺は選ぶ。

この実力主義の学校で、俺はこの男の恥にならぬような人間になってみせる。

 

 

 

******

 

 

 

その後、一之瀬に生贄にされたことにより綾小路の紹介を押しつけられ、いい意味でも悪い意味でも押しの強い柴田をやり過ごし、異常に一之瀬との関係を問いただそうと詰め寄ってくる白波をかわし、ひとりだけ一之瀬に連れてかれた悪原をシバくぞと綾小路と誓い合った俺は今、生贄にしてくれた一之瀬帆波その人と対面していた。

話をしたいと言われ呼び出されたのだ。待ち合わせ場所は人気のないところを選んだみたいだが、まさかそのような勘違いはしない。しかし特に呼び出されるような心当たりがないことは事実で……いや、悪原か?

先ほど二人で抜け出していたが、悪原はげんなりしたような顔で…逆に一之瀬は、何やらつきものが取れたようなすっきりとした顔だった。

まさか、一之瀬は悪原に対して…そのような感情を?俺を呼び出したのは、そのことについての相談か?確かに俺は悪原とは友人で、すでにそれなりの仲だと思っているが…。

 

「ごめん神崎くん、遅れちゃった」

 

そんなことを考えていると一之瀬が来た。

 

「いい。どうせクラスメイトに捕まってたんだろう」

 

「あはは、そうだね。神崎くんと話があるからって言って断ろうとしたのに、勘繰られちゃって大変だったよ」

 

おい、それはどういうことだ。ちゃんと詳しく説明したんだろうな。また白波および一之瀬大好きクラブのメンバーに絡まれるのは勘弁だ。だいたい大変だったって、そもそも勘繰られるような言い方をしたということだろう。

 

すでにため息を吐きたい気分だったが、帰るわけにもいかない。あまり気乗りしていないまま、俺は話を聞くことにした。

 

「あのね…私たち、昨日10万ポイントもらったよね」

 

「そうだが、それがどうかしたのか」

 

「みんなは来月ももらえるって思ってるみたいだけど…私はそう思えてなくて」

 

その言葉に俺は内心驚いていた。綾小路を参考にしてなんとか顔に出ないようにしたつもりだが、もしかすると一之瀬も近いうちに気づくのかもしれない。

しかし、Sシステムの謎は決して簡単な問題ではない。疑いこそすれどもそこで止まる可能性は充分にある。俺も本来そうなる側だったのだろうな。

 

「単刀直入に聞くけど、神崎くんたちは答えを知ってるよね?私、聞いてたんだよ」

 

ぞく、と、寒気がした。

あの人当たりのいい態度と、優しい目が全て虚構であったかのような、氷のように冷たく、透明な眼差しで、一之瀬は今俺を観察している。

 

…聞かれていた。友人との会話に気を取られ警戒心を欠いた。なんとも情けない話だ。

これはもう隠しても無駄そうだと諦め、俺は認めることにした。

 

「そうか…あの時、やはり聞こえていたのか」

 

「うん。でも言いふらす気はないよ。バレちゃったらよくないんでしょ?」

 

そこも知られてるんだな。いや、当然か。

 

「大丈夫、答えは自分で考えるよ。きっと九郎くんが最初に答えを出したんだろうし」

 

「…わかるのか?」

 

急に悪原の名前を出してきて、しかも奴が答えを出したことを一之瀬が見抜いていることに俺はかなり驚いた。

 

「うん…そうだね。…実は今日神崎くんを呼んだのは、九郎くんについて話をしたかったからなの」

 

この展開は正直予想の範囲内ではあったが、それでも俺は意外性を感じていた。話とは自己紹介の時に悪原に無視されたことについてなのか?

いや、そもそも俺と綾小路が生贄にされた時、一之瀬は悪原を連れ出して二人だけでどこかに行っていた。あの時の悪原の表情、一之瀬の雰囲気を思えば…。

最初に考えていた、『一之瀬は実は悪原が好き説』が真実味を帯びてくる。

 

「悪原についてか。…思っていたんだが、一之瀬と悪原は過去に何かあったのか?」

 

「!……どうしてそう思ったの?」

 

「自己紹介の時、お前が悪原を呼び止めた時の顔から推察した。あの時の一之瀬は、どこか後ろめたさというか、恐怖感を覚えているように見えた。それに俺たち相手には苗字呼びなのに、悪原のことは下の名前で呼んでいた。過去に知り合った仲なのかと思ったんだ」

 

「……ふふ。大正解だよ神崎くん。私と九郎くんは…保育園の頃からの幼馴染だから」

 

幼馴染、か。一之瀬が一方的に悪原のことを知っている可能性もあったが、まさか保育園の頃から既知の仲だったとは思わなかった。幼馴染と言うからにはさぞ仲が良かったのだろうと思うが…今は、おそらく。

 

「九郎くんからはもう聞いたかな?私たちの過去」

 

「特に何も。強いて言えば、…奴は中学時代何かをやらかしたらしいが」

 

「……確かに、それは間違いないけれど。違うんだよ神崎くん。私の方が、もっとひどいことやっちゃったの」

 

そう言った一之瀬は今にも消えてしまいそうな儚さがあった。彼女は間違いなく優しい人間で、それも類稀な善性の持ち主なのだろう。そしてだからこそ、過去に縛られている。しかしそうだとして、それが悪いことだとは俺には言えない。むしろ、過去に囚われ続けているからこそ生きていられる人間も時にはいるものだ。

一之瀬はまさにその一例であると思う。彼女の善性は、周りの助力を得て過去から逃れたとして、その後の自分自身を許すことができないだろうから。

 

「九郎くんてさ、優しいでしょ?すっごく友達想いなんだよ」

 

「…そうだな。俺もそう思う」

 

「それに頭もいいでしょ?わからないことなんて知らないこと以外になさそうだよね」

 

「ああ。奴には驚かされっぱなしだ」

 

「運動もできるのは知ってたかな?小学校中学校通しで一番足が早かったんだよ」

 

「陸上部だったのは知っているが、それほどだったのか」

 

「手を握ったら恥ずかしがるのは?」

 

「…………???そんなこと知ってるはずが」

 

「ないよね。あるわけないよね。神崎くんがさあ、そんなことまで知ってたら、おかしいよね?」

 

「待て、一之瀬──っ!!?」

 

二度目の、寒気。

一之瀬の目が何かおかしい。目を合わせた瞬間恐ろしい何かを感じ、咄嗟に顔を逸らしたはいいが、彼女の顎の先すらまともに見れそうにないほどに俺は混乱と恐怖に惑わされていた。

何も表情が冷たかったとかそんなことはない。むしろ普段通りというか、悪原のことは本当に誇りなのだろうなと思えるような、自慢げな笑顔だった。のだが、何かが異常だった。 

 

「どうしたの、神崎くん。急に顔逸らしちゃって」

 

「私の顔が、どうかした?」

 

「ねえ」

 

見たくない。答えたくない。

俺はもしかすると、とんでもなくヤバイ人間と話をしてしまっているのではないか。そして、そんな人物が幼馴染だという悪原は、一体。

この二人の過去に何があった?疑問ではあるが、知りたくない。もし知ってしまえば、今以上に恐ろしい何かに襲われそうな気がしてならない。

 

「よく聞いてね」

 

俺は黙って頷いた。従わなければならないような、有無を言わさぬ威圧感があった。

 

「九郎くんはさ、直感で人を選んで人間関係を築いていくんだよ」

 

「私は、最初はお気に召されなかったんだ。後からなんとか覆せたけど、他に九郎くんから評価を改めてもらえた人は、私の知る限りこの世のどこにもいないんだよ。私だけなの」

 

「オンリーワンって考えることはできるけどさ。結局私は元々敗者だったんだよね。まず舞台に上がることさえ許されなかった、落ちこぼれ」

 

「できる限りの努力と、これ以上ない幸運で私は彼の幼馴染になれた」

 

「でも、私はその幸運に甘えて、失った。自分自身の生きる理由をね」

 

「君はいいよね。何もしなくても九郎くんから気に入ってもらえてさ」

 

「羨ましいよ。羨ましい。どうして私だけ、こんな惨めなんだろうね」

 

「おかしくない?なんで君はそう簡単に私の幼馴染の隣に立てたのかな」

 

「あれ、どうしたの。顔色悪いよ?」

 

「……ちょっと脅かしすぎちゃったかな。んー、とりあえずこれだけは覚えておいてくれる?」

 

 

 

 

 

「いつか絶対、取り返しに行くから。」

 

 

 

 

 

「──ごめんね、話が長くなっちゃって。もう戻ろっか」

 

俺はもう何も言えなかった。口を挟めばナイフで心臓をひと突きでもされてしまいそうな錯覚さえ覚えていた。

結局一之瀬の姿が見えなくなるまで俺は動けないままだった。

 

 

──っ冗談じゃないぞ!!

 

俺は歯を食いしばる。どう考えても認められない。あんな狂った人間に大切な友人をみすみす渡してなるものか!

だが俺は一之瀬の圧に負け、屈し、哀れな負け犬も同じの状態となった。情けない話だが。

しかし俺は一人じゃない。あの調子では一之瀬は近いうちに綾小路にも接触するだろうが、一時的に圧されても、あんな奴には渡せないと奴も必ず思うはずだ。

一人では無理でも、二人なら道を切り拓けるはず。

 

過去の過ちから悪原との繋がりを失い、今それを取り戻そうと躍起になっているらしいが、こちらこそ絶対に貴様の呪縛から悪原を取り返してみせる。貴様のような狂人は拒絶されて当然なのだということを脳の髄に叩き込んでくれる…!

 

 




いい加減だれてきたと思うので、そろそろクラス競争まで行きたいところです。
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