ようこそ一之瀬帆波の幼馴染がいる教室へ   作:クリスマン

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綾小路がDクラスに対し批判的である描写があるため、念の為今回よりアンチヘイトタグを追加しました。



綾小路清隆の方針

オレはDクラスの生徒の誰とも連むことなく、Bクラスの悪原九郎と神崎隆二の二人と共に日々の大半を過ごしていた。この自慢の友人の存在に、散々オレを孤独だどうだと言ってくれた隣人の堀北の鼻を明かせてやれたと思ったが、いつも通りの毒舌で追い返されてしまいやはり堀北とは友達にはなれそうにないなと思った。

 

だがそんなことは大したことではない。重要なのは、九郎達との青春が楽しすぎるということだ。

 

あの白くてつまらない部屋では決して体験できないであろう、新鮮な時間に毎日が超特急のように流れていく。周りの奴らが騒がしいのを我慢して真面目に授業を受け、九郎たちと昼食をとり(九郎は自炊をしているらしく、神崎とオレも始めてみることにした)、放課後はSシステムを見抜いたご褒美で手に入れたポイントでケヤキモールを駆け巡り、時には学校施設を利用してスポーツをしたり、誰かの部屋に集まって持ち寄ったお菓子を開きボードゲームやカードゲームなどに興じて(たまに勉強会になったりするがこれも趣がありとても勉強が捗る)、そして明日何をするかを話し合って約束して帰り、風呂に入って眠る。

 

面白いのは、悪原が時々『じゃんけんで負けた奴は荷物持ち』や『このゲームで負けた奴は全員にアイス奢り』なんていった如何にも友達同士でやりそうなことを挟んでくるところだ。

大体は運で決まるので、勝敗に一喜一憂するあの感覚は筆舌に尽くし難い。

 

まるで飽きる気がしないのでオレは休み時間になるとすぐBクラスの教室へ行き、九郎たちと過ごしている。さっさと抜け出してもDクラスにまともに関わりのある生徒などいないから気にならない。

最初は別クラスであることに距離感のようなものを勝手に感じていたが、以前一之瀬に生贄にされたことによりBクラスの生徒たちとも顔見知りぐらいはできたし、なんなら会ったら挨拶して軽く喋るぐらいの関係になった生徒が何人もできた。

 

そして休み時間が終わりDクラスの教室に戻る時、オレはその度に心の底から思うのだ。オレもBクラスがよかったと。

 

オレは床につく時毎回、「ああ、もう今日が終わってしまうんだな」と残念に思いながらも「明日の予定が楽しみだ」と期待に胸をワクワクさせている。

 

ほんの少し前、そう、入学する前の頃のオレでは想像もできないような輝かしい青春が人生を彩っている。この三年間がオレの人生の中で最も美しいものになるのは間違いない。

 

さて、最近オレは目標とまではいかないが、達成できたらいいなぐらいの気持ちであるひとつのノルマにチャレンジしている。

それは2000万ポイントを貯めることだ。

正直Dクラスはうるさすぎだし特に興味を持てる人間もいないので離れられるなら離れたいと思っていたところ『ポイントで買えないものはない』という教師たちの言葉を思い出し、職員室で聞いてみたところ『2000万あればクラスを移動できる権利を買える』と知ったのだ。

今まで達成できた人間はいないらしく、最高で1000万ほど稼いだ生徒もいたが詐欺がバレて退学になったとのことだ。それはつまり、やり方次第では2000万を稼ぐことも不可能ではないということになる。

 

というわけでいろいろ手段を模索したところ、現状最も効率のいい稼ぎ方は賭け事だとわかった。

 

部活中の先輩たちに喧嘩をふっかけて、『そっちが勝ったらこれだけ支払う、オレが勝てばこれだけのポイントをもらう』と言って賭け事の場を作り勝利さえすれば一気にポイントを稼げるのだ。特に三年生にはポイントを持て余し気味なやつもいるみたいで、Aクラス、Bクラスなどがおいしい相手だというのはすでにデータから調べがついている。

 

まあ要するに道場破りをしているわけだ。幸いこの学校には多くの部活があって相手はいくらでもいるし、同級生にバレて『なぜそんなに色々できる』と言われてもオレには無敵の言い訳『親が厳しくて色々やらされてた』があるし、ギリギリの勝ちを演出するために実力を調節したり、時にはわざと負けたりもして相手をいい気にさせれば、結果として安定した収入が得られるのだ。

 

無料商品を活用したりして日々の出費を減らすよう心がけておけば、意外にもなかなか順調にポイントが貯まっていくもので、昨日と今日とでの稼ぎを記録しておいて確かめてみるとこれが結構面白い。ゼロポイント生活も全然可能なこの学校のシステム上、オレは九郎たちと遊ぶ時を除いてほぼポイントを吐くこともなく資産を築いていくことができている。すでに九郎がもらった口止め料を上回る量のポイントを稼げているのはちょっとした優越感を与えてくれる。

 

オレがゼロポイント生活をしていることに九郎たちは何もツッコまない。Sシステムの答え合わせをした時もそうだが、九郎も神崎も頭がいい。スピードに差はあれども一を言えば十を理解し、十を言えば百まで自力で上り詰めることのできる力があの二人にはある。勝手に都合のいい解釈をしてくれているだろう。たとえば、『浪費家にならないよう気をつけているんだな』とか。

残高は誰かに見せびらかすわけでもないし、何よりオレがいきなりBクラスに移動してきた時の九郎たちの反応を思うと笑いが込み上げてくる。これからクラス闘争が始まることをオレは知っているが、Bクラスはそんなピリピリしそうな戦いの中でもきっといい雰囲気だろう。ああ、楽しみだ。

 

はてさて今オレは水泳の授業を受けているのだが、男子たちがうるさい。

聞き耳を立ててみると、どうやら女子の胸の大きさがどうとかで盛り上がっているらしい。

 

くだらないな。オレからすれば全く興味がない。

一昔前の、青春に対し偏った知識を持っていたオレならば見事に勘違いをしてあの中に混ざって行こうとしたかもしれないが、今は九郎たちとの本物の友情を、真なる青春を知っている。ああいう話題もそれらしいと今も思わないわけではないが、結局九郎たちと繰り広げる時間の前にはあんな低俗な話題など、うち棄てられたド田舎の集落の、雑草に埋もれた側溝に溜まっているヘドロも同じだ。

声をかけられはしたが断った。ノリが悪いとか聞こえてきたが知るか。

なんだか不快な気持ちだったが、五月の超展開を思えば少しは溜飲も下がるというものだ。

 

プールサイドで座っていると、堀北に絡まれた。オレがああいうのに混ざっていかなかったことが意外だったらしい。流石にひどくないか?

世間知らずだったオレとて常識は弁えてる、と反論すると今回はすんなりと認めて引き下がっていった。

しかし堀北の言っていたことからわかるが女子にはあの話題、モロバレしてるな。実際視線を移してみると、ほぼ大半の女子が、腐ってウジの湧いたゴミを見る目で、男子に侮蔑の眼差しを向けていた。

ゴミを見る目の対象外となっているのは、名前を知っている限りではオレとみんなをまとめ女子人気も高いイケメンの平田、授業を真面目に受けている数少ない貴重な常識人(と思われる)幸村、あとはひとり鏡の前で何やら自分に見惚れている高円寺ぐらいか。

高円寺は今のところ極端なナルシストという印象でしかないが、こうして肉体を拝むと只者じゃないのがよくわかる。美と実用性を両立した筋肉だ。それこそ高円寺ではないが、確かに美しい。無駄を省かれていて、合理性を突き詰めているように見えても、それこそ無駄に見えるような美しさが、筋肉の合理性と強さを損なうことなくそこにある。

 

まあ高円寺はどうでもいいな。それより水泳の先生が今言っていたことが気になる。

 

『俺が夏までに必ず全員泳げるようにしてやる』と宣言し、それに泳ぎの苦手な生徒が無理だとか必要ないでしょといってゴネたが、先生は『いや、必ず役に立つ』と言い切って授業を始めた。

 

授業以外ではあやふやなことしか言わない教師が、ハッキリと断言した。これが引っかからないほど、オレは愚かではない。ホワイトルームで培ってきた注意深さが、それを許さない。

これは身勝手な期待になってしまうが、今の先生の言葉を聞けば九郎や神崎も絶対に疑うはずだ。…もう言ったように、オレの理想の押し付けとも言える期待なのは認める。しかしオレはそう確信してもいた。

 

『夏までに』『必ず役に立つ』……このことから考えると、いくつか思い浮かぶイベントがある。

水泳大会が最も可能性ありそうじゃないか?秋や冬にやると寒いだろうからな。

このことについて話し合うのが楽しみだ。頭のいい二人との議論は楽しい。停滞する時間が少ないからだ。どんどん話が進んで、早々に話が終わる。遊ぶ時間も減ったりしない。

 

ここで面白いことに、水泳レースをして一番速かった生徒には5000ポイントを先生からくれるイベントが発生した。逆に成績の悪い生徒は放課後補習だ。水泳の苦手な生徒たちは阿鼻叫喚の地獄絵図だが、オレとしては……正直、どうすべきか迷っていた。

 

オレは自称であっても事なかれ主義。平穏な学校生活を送るべく実力を隠してきた。まだ実力を発揮するような機会なんてなかっただろうと言われればそれまでだが。

これからも可もなく不可もなし、といった成績で過ごしていこうと思っていたが…足踏みせざるをえない。

 

九郎たちは優秀だ。実力ある人間と見て間違いない。特に九郎の方は、所謂天才と呼ばれるようなタイプだとすら思える。神崎も優れた能力を持っている。秀才と言って差し支えないだろう。

そんな奴らと友人であるオレだけが平凡というのは、なんだか、よくない気がするのだ。

 

実力を出すとして周りにはそれを隠すとなれば、九郎と神崎の存在は都合のいい隠れ蓑になりそうだが…友人を、そんな道具扱いするのはどうも気が進まない。ホワイトルームでオレは延々と、他人は道具だと叩き込まれてきたのに。

 

……オレが生まれて初めて見たものは白い天井だった。その後の人生も白い部屋の中で生きてきた。オレの記憶は白に潰れていた。

 

だが、九郎たちがそれをぶち壊してくれた。

 

あの無限の白なんて、幼き頃の記憶の彼方のようだ。出会ってまだひと月も経っていないのに、もうオレの頭は九郎たちに塗り潰されていた。

…友達に、嘘はつきたくない。

あいつらにとって、誇れる存在でありたい。

友達とは……打算などない対等なものであるはずだ。

 

「高円寺。オレと勝負しろ。お前が勝てば5万やる」

 

「…ほう?なるほど。どうやら私としたことが、とんだ見落としをしてしまっていたようだ。綾小路ボーイ」

 

気がついた時にはもうオレは高円寺に喧嘩を売っていた。

他の連中は底が知れてる。そんな中唯一、未だ不透明な相手なのが高円寺。実力未知数の相手に、オレは勝負を挑む。

この戦いに勝ち負けは関係ない。オレだけが最後に勝てばいいなんてくだらない。白い世界から抜け出すための第一歩。

 

そう。勝つならあいつらと、だ。

 

そしてオレは全力で戦いに臨んだ。予選は言うまでもなくトップで突破。その時は高円寺に勝利したが、あからさまに手を抜かれたのはわかっている。オレの実力を見定めようと奴が考え、そのために手を抜いたのもわかっている。だから敢えて全力を出した。

 

山内や池ら、堀北すら含めた誰もがオレの記録に驚愕している中、高円寺だけは好戦的に、しかし余裕に笑った。

 

「認めよう、綾小路ボーイ。君は私の人生史上初めて、この私の前に立ちはだかるに値する、強敵であるとね」

 

そして決勝戦。オレは先ほどの泳ぎを振り返り自己評価を下し、改善点を見つけ、それを基にし、より無駄を省いた動きで決勝に臨んだ。

 

だが、高円寺にはギリギリ勝つことはできなかった。高校一年生にして日本新記録を叩き出した高円寺は悠々と先生から5000ポイント、オレから5万ポイントを徴収して高笑いしながらプールサイドを去っていった。

勝てなかった原因はなんとなくわかる。オレ自身の『飢え』足りなさだ。今のオレは、勝利に飢えていなかった。ホワイトルームで、今でも脳内再生できるほど同じ調子で聞かされ続けてきた教えを捨てたのだから当然だ。

これからのオレはきっと弱みを見せてしまうことだろう。勝利に飢えないオレはもはや最高傑作でもなんでもない、ただ能力が高い、非凡なだけの人になる。

 

だからなんだと言うんだ?

 

オレには……友達がいるんだ。楽しいこと、嬉しいことを共有し、知らないことを教えてくれて、悩みがあれば自分のことのように一緒に考えてくれる、親友が。

恐れることなど何もありはしない。

 

『人は道具なのかそうでないのか』という問題に答えを出せた──わけではない。

 

だが、少なくとも、九郎たちは……絶対に道具なんかじゃないし、この世の誰にも道具扱いなどさせない。

 

「…あなた、事なかれ主義なんじゃなかったの?」

 

「そうだが?今もそれは変わらない。平和に越したことはない」

 

「だったら、どうしてあんな目立つような真似を…」

 

「オレが求めていた高校生活を得るために、周りの目をいちいち伺う必要なんかないことを今さっき理解しただけにすぎない」

 

堀北にそう言い切り、オレは未だ先のレースの動揺が残るプールを後にした。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

それから時間が経ち、ついに来た。四月最後の日。未だに消えない安穏とした空気は、明日学校からの無慈悲な宣告により破壊し尽くされるのだろう。

 

だがオレには関係ない。その全てが無意味だ。オレと九郎たちは全て知っているが、Dクラスの連中が、自分たちの行いの結果に対してどんなに泣き叫ぼうがオレは興味がない。せいぜい、最後の楽園気分を味わっているんだな。オレはこれ以上嘲ることも、笑いもしない。

そんなことよりも来月から本格的に始まる戦いに対してどうするかを改めて九郎たちと話し合う方が重要だ。クラス間闘争などでオレたちの友情を引き裂くことなどできないが、しっかり決めておくに越したことはない。

 

そんなことを考えていると、どうやら今日は授業は無しで小テストをやらされるらしい。抜き打ちテストだから周りはブー垂れている。まあわからなくもない。

だが今回、オレは全力で取り組み、Dクラスと連む気はないことを明らかにする。

 

……そう意気込んでいたが、想定より遥かに簡単だった。ほとんど中学校のおさらいで、しかも今月の授業をしっかりと受けていればケアレスミス以外ではまず落とすことなどないような問題ばかりだった。

とはいえ、最後の3問は完全に別次元だが。

オレはホワイトルーム最高難度にして理想論とも称されたベータカリキュラムを生き残った唯一の人間だ。すなわち一般的な人間が一生のうちに修める学問をオレは全て学び終えているために、多少時間はかかれど何の支障もなく解くことができた。

 

九郎や神崎ももしかしたらいけそうだと思うが…あの問題はそもそも解き方を知らなくてはどうしようもないからな。もしあいつらがよっぽど先を予習していなかったなら…今回はオレがナンバーワンをとるかもしれない。結果発表の後はマウントの時間になるな。

 

オレは念の為に解答欄のズレや誤字脱字がないか見直しをして、あとは突っ伏し寝た。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「よう清隆!最後の問題は解けたか?」

 

放課後になった瞬間こちらから向かうまでもなく現れる親友。ちゃんと神崎もいる。

開口一番飛び出してきた質問に、オレは

 

「解けたぞ」

 

と、端的に答える。周りがオレたちの会話に聞き耳を立てているのがわかるが、そんなことはどうでもいい。

神崎は驚いたのか目を丸くし、九郎は一瞬ポカンとして……笑い出した。

 

「ハッハッハッハッハ!おまえあれ解けたのかよ!?」

 

「なんて奴だ…あれは高校三年生か大学入試レベルと見ていたのに」

 

流石の九郎もあれは解けなかったか。まあ、知らないものはどうしようもないな。あの問題文にはヒントもなかったのだし。

そして神崎も凄まじいな。問題のレベルを正確に把握している。

 

「親が厳しくてな。このレベルができたらすぐ次のレベルへ、みたいな感じでひたすら叩き込まれてたんだ」

 

嘘は言ってない。ホワイトルームでは、『できる』ことが当たり前だった。一度解いた問題は二度と出てこないし、同じレベルの問題も出てこない。できるとわかればすぐさま次の段階に映る。まあベータカリキュラムはノルマの難易度の跳ね上がり方もえげつなかったが。

 

「すげぇな!俺らの中で一番頭が良かったのが清隆だったとはよ!」

 

「……類は友を呼ぶとはこのことか」

 

ああ、心地良い。極端な実力差に妬いたりしない。真っ直ぐにオレを認めてくれる。ベータカリキュラムを受けさせられる中で次々脱落していくものの中には、オレだけが『できる』存在であることに強い嫉みを持ちながら消えていくものもいた。

だがこいつらは違う。ごく一般的な家庭で育ったのだろうに、『できて当然』といったオレを妬んだりしない。

 

クラス中から注目されてることさえまるで気にならない。堀北が何やらありえないだの嘘をつくなだの絡んできたが、九郎と神崎が黙らせてくれたのが嬉しかったな。

 

オレたちはその日、クラス闘争が始まっても交流はやめないと誓い合い、来月への景気づけにケヤキモールのレストランで普段より贅沢な食事を楽しんだ。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

ついに運命の五月一日が訪れた。念の為残高を確認したが、昨日確認した時点の残高と1ポイントたりとも変わりはしてない。つまり今月振り込まれたポイントはゼロポイントということだ。

まあ案の定と言うべきか、オレたちはぶっちぎりの不良生徒ということになったのだろう。

 

九郎たちにはもちろんポイントが振り込まれていて、確か6万数千ってところだったな。元々が10万ポイントだったのを思うと、それなりに評価を落とさずに済んだのだろう。

Dクラスはゼロだと言うと、九郎はしばらくずっと笑っていて、別れる時まで笑いを堪えていた。どうやら相当ツボにハマったらしい。逆に神崎は呆れを通り越し、諦めたような顔をした後にオレに同情してくれた。

 

話しながらゆっくり歩いていたので、オレが教室に入った時点でそれなりの生徒が登校していた。やはりポイントが振り込まれていないことについて話し合っているな。

どうやら学校側の不備だという説が主流らしく、オレも振り込まれてないのか訊かれたが正直にゼロだと答えた。しかし、学校側の問題にするとは面白いな。自分たちが悪いなんてちっとも思ってないのか?まあどうでもいいが。

 

そしてホームルーム、茶柱先生は『お前たちは本当に愚かだな』と教師失格の問題発言を飛ばしたが、正直同感だ。

 

その後説明された『Sシステムの真相』に、クラスはいつかのプールの時が可愛く見えるほどの阿鼻叫喚ぶりを見せた。あの時は泳ぐのが苦手な生徒たちだけが嫌がっていたのに対し、今回はほぼ全員が騒いでいるのだから当たり前ではある。

今更だが『クラスポイント』と『プライベートポイント』の二つの仕組みは今知った。オレたちはこれまで『学校側からの評価』と例えてきたが、それがこのクラスポイントということなんだな。

 

話を戻すが騒いでいないのは全てを知るオレと、高円寺。それとみんなを落ち着かせようと働きかける平田。あとは堀北ぐらいだが、彼女も多少動揺はしているらしい。

 

喚く生徒たちに先生は『学校はお前たちの授業態度などを見て評価を下した』『全てお前らの自己責任。自業自得だ』と冷徹に現実を突きつけた。どうしようもないほどの正論だ。しかし先生の口から遅刻欠席、居眠りの回数を伝えられたがこう振り返ってみると本当にひどいな。何もSシステムを見抜けとは言わないが、なぜまともに授業を受けるぐらいのこともできないのだろうか。遊んだり喋ったりするのは休み時間や放課後でいいのにな。

仮に九郎たちがこのクラスにいたとしても、授業中はオレ自身はもちろん、九郎も神崎もちゃんと静かにしているだろう。友達と話すのが楽しいのはわかるが時と場所は考えるべきだ。

 

怒涛の展開はまだまだ終わらない。先生は昨日の小テストの結果を『お前らは中学校で一体何を習ってきたんだ?』の痛烈な一言と共に張り出した。

 

……何度も言ってきたが、本当にこれはひどい。ひどすぎる。

 

百点はオレひとりだけ。他の生徒の視点に立ってみれば、最後の三問は仕方ない。あまり関係はないが流石の高円寺もここまで先の段階の勉強をしてはいなかったらしい。

だが最低点が驚きの数値だ。山内、池、須藤らの二、三十点台。一体全体どうなっているんだ?本当にこれまでの人生で何を学んできたのかわからない。もし彼らがホワイトルームにいたとしたら、最低難度のカリキュラムであっても一日で脱落しそうだ。…流石にそれは盛りすぎか?

 

隣の堀北は信じられないとでも言いたげな目でオレを見ていた。

 

さらなる追い討ちに、赤点となった生徒はその場で退学という爆弾が投下される。一番点の低かった須藤はかなり顔色が悪く、山内や池も今にも泣きだしそうだ。

 

そしてクラス分けはAからDの順に優劣が定まっていること、Dクラスは(この学校始まって以来ぶっちぎりの)不良品の集まりということ、この学校が進路をサポートするのは最も優秀なクラス…すなわちAクラスの生徒のみだという事実が告げられ、さらなる大混乱が巻き起こる。

 

「…浮かれていた気分は払拭されたようだな。最後になるが、私が説明したSシステムを見抜き、Aクラスの特権も知っている生徒がこの中にいる」

 

最後に余計すぎる一言を残して、先生は悠々と教室を出て行った。

 

……周りの視線がオレに集中しているのがわかる。まあ、そうだよな。いくらDクラスが不良品だとしても、唯一の百点満点の生徒が目につかないほどバカじゃない。

 

「……綾小路くん。あなたよね?」

 

普段は人を突っぱねてばかりの堀北が、クラスを代表するような形でオレに問う。

 

「そうだが?」

 

オレは逃げも隠れもせずただ正直に認める。

 

「なんで黙ってたんだよ!俺たちだって知ってさえいたら、こんなことにならずにすんだのに!」

 

今のは山内か?急に割り込んできた山内の言葉がトリガーとなったのか、周りもそうだそうだとギャーギャー喚き出す。

 

──鬱陶しいな、不良品のくせに。

 

心の奥底に黒いものが溜まる感覚。今のクラスはどうやっても止められないだろう。平田や櫛田の声もかき消されている。

そこでオレはかつて、生徒会長がやっていたことを真似してみることにした。

なるべく無感情に、静かに静かに圧をかけていく。

 

……

 

 

やっと静かになったか。この空気では、もうオレに口を利けるのは堀北だけだ。

 

「まずみんなが知りたがってることを答えるか。『なぜ黙ってたのか』」

 

全員がオレの話に耳を傾けている。…なるべく早く済ませたいな。

 

「オレはBクラスの悪原九郎、神崎隆二との三人でSシステムを調査して先生たちに答え合わせをした。そしてオレたちは学校側からこの契約書を渡された」

 

オレはバッグからあの契約書のコピーを取り出す。そう、シチュエーションだけでもやってみたかった──こんなこともあろうかと。

全員が契約書に注目する。オレは堀北にコピーを渡し、自らの目で確かめてもらう。

 

「バラせば退学になるからな。黙ってるしかないだろ」

 

誰も反論しなかった。当たり前だな。これで喚くようならそいつはもう不良品どころじゃない、欠陥品だ。

とはいえ腹の底で何を考えているかは大体想像がつくが。

 

そして、オレはこの話を終わらせるために、今後のために、オレ自身のために、明確な意思を表明する。

 

「先に言っておくが、オレはAクラスを目指す気は一切ない。足を引っ張ることも、協力することもない。なぜなら、オレはAクラスの特権に興味がないからだ」

 

「クラスポイントも興味はない。プライベートポイントならいくらでも稼ぐ手はある」

 

「そして、お前らのことも興味がない」

 

方針は定まった。変更する予定は一切ない。オレはこの実力至上主義の学校で、親友たちと共に勝利する。それ以外は全てどうでもいい。

ただし、オレたちの勝利の障害になりうるものは必ず排除する。

 

「……なぜ」

 

「なんだ?堀北」

 

「なぜなの…?」

 

堀北が理解できないものを見るような目でオレを見る。その瞳の奥底を覗き込んでみれば、収まりのつかない混乱と、微かな恐怖の色が見えた。

 

「質問の意味がわからないが、それに対する答えはあの時と同じと言っておこう。だがもっとわかりやすく、説明してやるか」

 

オレは九郎たちと育ててきた絆の時間を脳裏に流しながら、目の前の人間たちをただ見ながら本心を口にした。

 

 

「オレの求める人生に、お前らは必要ない」

 

 

 




実はタイトルの付け方間違えたかなと後悔し始めています。
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