ようこそ一之瀬帆波の幼馴染がいる教室へ   作:クリスマン

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たくさんの人に見てもらえているようで本当に恐縮です。誤字報告も本当にありがたいです。

そんな中申し訳ないのですが、今後更新頻度が落ちるかもしれません。リアルが忙しくなってきたので…
せめて週一更新はしたいな、と思います。これからもどうぞよろしくお願いします。


神崎隆二の思案

五月一日。『Sシステム』の正式公開で、クラスはなかなかの混乱に包まれた。まあ仕方ない。Aクラスの特権はともかく、赤点は即退学というのはなかなかにショッキングなルールだ。

俺は赤点を取るほど情けない人間にはなる気はないし、Aクラスの特権にも個人的にはそれほど興味はないが、最も評価の高いクラスとして卒業するという目標は達成を目指すと考えればなかなか悪くない。俺にできることを精一杯やってクラス闘争に挑んでいく所存だ。

 

……しかし一之瀬もSシステムに勘付いて口止め料をもらっていたのには驚いた。彼女の人の良さから俺は疑うだけで終わるかもしれないと思っていたが、しっかり調査して考えたようだ。

先生がこのことを発表した時クラスメイトは三人も口止め料をもらった仲間がいることにかなり驚いていてすごいすごいと持て囃していたが、近いうち彼らもわかるだろう。この学校で受動的で在るのは最も愚かな姿勢であることを。

 

もともとクラス委員のようなものを生徒側で勝手に作っていたのでリーダー決めなどはあっさり済んだ。もちろん、一之瀬がBクラスの頭を務めることになった。

俺はいわゆる参謀格になった。昨日の小テストで一之瀬に次ぐ成績をおさめたことと、真面目な性格が評価されたようだ。ありがたいことである。

 

だが、小テストで一之瀬と同率一位となっていて星乃宮先生からも目をかけられている悪原はクラス闘争に完全に興味がないようで、『クラスの足を引っ張る気はないが、俺は俺のやりたいようにやる』『話があるなら神崎を通せ』と宣言し、全て俺に押しつけて帰ってしまった。明日顔を見たらその場でシメようと俺は決意した。

 

しかし今回の件で改めて実感したが、一之瀬の求心力と支持率は学年でも間違いなくトップだ。類稀な善性とそのルックスも人気の高さに一役買っているだろうが、ほぼ間違いなく彼女は一種のカリスマ性を有しているタイプの人間だ。でなければここまで高まった人気は説明できない。おまけに頭も回る。

そして最も厄介なのは、一之瀬を敵に回すことはBクラスに在籍する生徒ほぼ全員を敵に回すことと同じであるということだ。

 

一之瀬は、一見するだけならまともだ。今だって様子がおかしいわけではない。だが悪原が関わってくると、途端に何かがおかしくなる。

その言いようのない何かの正体が俺にはわからないのだ。過去への罪悪感や、単なる恋愛感情だとは思えない。それが何とも言えない不気味さを与えてくる。

 

激動の一日であったが、急遽開催された全員での話し合いは『とりあえずこれからクラス闘争頑張りましょう』というあまり話し合いをした意味はない結果に落ち着き、解散となった。

 

翌日、いつも通り悪原と綾小路と登校した。クラス同士が争うことになっても、別クラスだからといって綾小路との関係をいきなり終わらせるようなことはしない。

 

しかし、綾小路には同情しかない。昨日ゼロポイントと聞いた時点で察していたが、星乃宮先生から直接聞いた時は本当に顎が外れるかと思った。クラスポイントがゼロとは……。

綾小路は悪原同様クラス闘争には興味がないらしいが、クラスメイトがうるさくなりそうじゃないかと懸念を口にすると、『それはない』と少し満足げな顔をした綾小路にそう返された。何があったのか、何をしたのかはわからないが、四月最後の小テスト満点から見てもやはり綾小路はとても優秀だ。悪原だけでなく、さらにもう一人凄まじく優れた友に恵まれて俺は幸せ者だ。徳は積むものだな。

 

だが何やら昨日変な女子生徒に絡まれたらしく、なんでも幼馴染を名乗る顔も名前も知らない生徒に呼び出しをくらったらしい。しかもその女子生徒は訳のわからぬことを喚いて話にならなかったのでそのまま帰ったとのことだ。

幼馴染と聞くと複雑な気分になるようになってしまった。言い方から察してはいたが念の為にその女子生徒は本当に幼馴染なのか?と問うてみたが、やはり答えは『知らない』『見たこともない』『名前も聞いていない』の知りませんトリプルコンボ(命名・悪原)を決められてしまった。

悪原もだが、幼馴染を持つ者はみんなこう、変な苦労をすることになるのだろうか?

 

授業を受けたあとまた休み時間にいつも通り綾小路はやって来た。すでにクラス闘争は始まっているが、Bクラスの誰も綾小路の訪問を取り立てて騒ぎはしなかった。

教室の前で綾小路が『絶対にスパイ行為はしない』『オレは友達と話す時に腹の探り合いなんてしたくない』『もしオレが約束を破った証拠が出ればその場でオレを退学させる契約をしてもいい』と真剣に話したのも大きいだろう。だが一之瀬が『契約なんてしなくても来ていいよ』の一言で認めたのが最大の理由であるのは間違いなく、彼女が許可した時点で『綾小路を拒まない』ことはこのクラスの暗黙の了解の一つに加わったと言ってもいい。

……綾小路を拒まなかった一之瀬の真意はわからないが、今はいいだろう。

 

綾小路曰く、Dクラスはお通夜のような状態らしい。誰もが何かを言いたそうにしているが、誰も何も言い出さないのでかなり嫌な空気感で気分が悪いようだ。

ついでにDクラスの生徒がどれだけやらかしたのかを聞いてみたが、もう言葉が出なかった。綾小路が不憫でならない。これには流石の悪原も黙り込んでいた。悪原は正直なところ見た目は不良のようだが実際は授業はちゃんと受けるし普段の素行もいいし先生の手伝いも意外としている。

今では休み時間が来る度に、Bクラスで心を休めないとやってられないと綾小路は本気でため息を吐いていた。まあ…そうだろうな。

 

昼休みになり、いつも通り三人で昼食をとる(最近は柴田などクラスメイトとの付き合いもあったため、三人でテーブルを囲むのは実際のところ結構久しぶりである)。

悪原が自炊をしているからなんとなく綾小路も、俺も自炊を初めてみたのだが、切り方も火加減も盛り付けもなかなか難しくて、毎回不恰好な弁当を持っていく羽目になっている。

悪原の弁当はとても整っており、見た目が綺麗なだけでなく彩りもあり栄養バランスも考えられている。店で出されていてもおかしくないと思えるレベルだ。

…遠くのテーブルにいる一之瀬がものすごくガン見してきているのが絶妙に気になってしまう。どうでもいいが、彼女も自分で弁当を作ってきているらしい。幼馴染として一之瀬をどう思っているのか悪原に聞いてみたい気持ちがないこともないが、機嫌を損ねるのは目に見えているし悪戯に人のパーソナルスペースに土足で踏み込むほど俺は無礼な人間ではない。

 

話の肴に水泳の授業で悪原の背中にある傷跡のことを話そうかと少し思い悩んでいた時、ある一人の女子生徒が接触してきた。

 

「どうもこんにちは。悪原九郎さん」

 

「……あぁ、どうもこんにちは」

 

こういうのもなんだが、その子は人形のような美しさを湛えている少女だった。何か疾患を抱えているのか杖をついている。

あまり興味はないのか悪原はぶっきらぼうに返していたが、横の綾小路がかなり嫌な顔をしていたのが妙に印象に残った。

 

「私の清隆くんが、お世話になっているようですね」

 

「……話はそれだけか?」

 

悪原に問答を続ける気はないらしい。失礼ではないかと思えるような速度で話を切ろうとしたが、次に少女が紡いだ言葉に無関係の俺も驚かされる。

 

「いいえ、終わっていませんよ。私の幼馴染を横取りした話も、あなたが私よりも早くSシステムを見抜いた話も」

 

──ピン、と、辺りが静まり返ったように思えた。すぐさま先程までの活気が戻る。だが、周りの人間はこちらの様子を、会話を窺っているのがわかる。

次に口を開いたのは、綾小路だった。

 

「イタズラに誤解を招くことを言うのはやめろ。オレはお前の幼馴染じゃないし会ったのも昨日が初めてだろ」

 

普段はポーカーフェイスであまり感情に動きが見られない綾小路だが、今この時はわかりやすく感情が顔に出ていた。

眉間に皺を寄せて、タレがちな目つきも今は鋭い。自分は今『不愉快』だということを、周りにまでアピールしているかのようにあからさまに雰囲気を変えていた。

女子生徒は微笑はそのままにしつつも悲しそうに眉を下げた。

 

「……今のあなたにとってはそれが現実。しかし、それでも寂しいものですね。この学校に入学するまでの、私たち二人の虹色の日々が、運命の絆が、何者にも断ち切れない繋がりが無かったことになっているなんて」

 

正直どっちが正しいのかわからない。この女子生徒が嘘をついているようには見えないが、俺としては友人であるぶん綾小路を信じたい気持ちが強く、それによって女子生徒の言っていることが少し疑わしく感じている。そもそも言い方が変だ。まるであの時の一之瀬のような…。

 

「自己紹介もしない奴と話すことはねえな。行こうぜ」

 

もう昼食自体はほとんど済ませていたこともあり弁当をさっさと片付けた悪原は立ち上がる。俺たちも続こうと思ったが、あの女子生徒がそれを許さなかった。

 

「坂柳有栖」

 

「あ?」

 

「坂柳有栖。私の名前です。所属クラスはA。趣味はチェス。ご覧の通り先天性疾患を患っているため運動はまるきりダメ。さあ、自己紹介は済ませましたよ。私とお話をしましょう?」

 

人当たりのいい微笑みを見せるが、その笑顔の奥に何か好ましくないものが渦を巻いているのがなんとなくわかる。

俺は正直さっさと行きたかったが、悪原は少し興味を持ったのか話に付き合うことにしたらしい。俺も綾小路もやりとりを見守ることにした。

 

「俺も自己紹介をしようか?」

 

「いえ、結構です。あなたのことは概ね調べていますから」

 

「あー…あの長身ポニテか。何尾けてきてんだと思ってたが、あんたの指示だったってわけだな」

 

長身ポニテが尾行していたと聞いてもまるでピンと来なかった。俺たちは多くの場合三人で行動している。その長身ポニテ生徒が悪原のことを調べるために尾けてきていたというのなら、必然的に俺たちも見られていたことになる。だが俺は全く気づいていなかった。悪原は気づいていたのか…。

 

「何かしてくるわけじゃないしほっといたが、まあまあ不快ではあったぜ」

 

「それは申し訳ありません。彼女にはもっと対象に不快感を与えない尾行をするように言っておきましょう」

 

彼女って、やはり女子生徒か。なぜ彼女はこの坂柳という生徒に従っているのだろうか。悪いが友達関係であるようには見えない。何か弱みを握られていると考えるのが普通だが…。

 

「さて、単刀直入に言いますが、私があなたに接触したのは、悪原九郎さん。あなたに今日ここで宣戦布告するためですよ」

 

──坂柳の言葉に、俺は耳を疑った。

悪原に宣戦布告?調べていると言っていたが、悪原に勝てると思っているのか?そもそもなぜ?

 

「宣戦布告?そいつはまた物騒だな。俺があんたに何をしたっていうんだ?」

 

悪原も当然疑問に思ったようで、やや大袈裟にビビっているようなジェスチャーをしながら坂柳を油断なく睨んだ。

 

「私よりも早くSシステムを見抜いた時点であなたが私の相手になるのは必然でした、が。それさえパンのかけらのように些細なことになるほど、あなたはとてつもない罪を犯したのです。そう、清隆くんを私から奪ったこと……」

 

「奪ったとか人聞きがワリーな。清隆はあんたの所有物でもなんでもないだろ。初めての友達は俺だったとまで言ってたぜ」

 

「それは当然です。私と清隆くんは運命の仲なのですから、友達や家族などといった関係を超越した世界にあるのです。そう、それは太陽と月のように尊く美しい関係。何者にも邪魔することは許されない。それをあなたは我が物顔で踏みつけていって…」

 

坂柳の顔も不快感に歪んだ。笑みもだんだん貼り付けられたようなものになってきている。正直言うとかなり不気味だ。言っていることもわけがわからない。俺も綾小路もドン引きしていた。

 

「天才の相手は同じ天才にしか務まらない。私はこの学校在学中に必ずあなたを排除し、清隆くんを取り戻します。そしてもはや誰にも邪魔されない、できない世界で、私と清隆くんは愛のエデンを築き上げる……」

 

「なるほど完璧な計画じゃねーか、不可能だという点に目をつぶればよ」

 

もう俺は帰りたい。坂柳の言っていることがわからない。俺は確信した。この坂柳という女子生徒は一之瀬と同じタイプだ。しかも一之瀬と違って公衆の面前でこういうことを宣言するのだからよりひどい。

綾小路を見ると、かなり顔色が悪くなっていた。そうだろうな、無関係のはずの俺も気分が悪いんだ。思い切りターゲットにされているお前の心中察するぞ、綾小路。

 

「それに。天才の相手は天才にしか務まらないって言うなら俺を狙うのはおかしいんじゃねえの?頭に自信がねえわけじゃないけどな」

 

「ふふ、度の過ぎる謙遜は嫌味になりますよ悪原くん。私は自分が天才であると確信しています。その私が天才だと言うのですから、あなたは天才なのですよ。それにあなたが天才でないと言うなら他の生徒は何なのでしょうか?」

 

限りなく、極めて、これ以上ないほど遺憾だが、今ばかりは坂柳と意見が一致した。悪原。お前が天才でないなら俺は一体なんだ。欠陥品か何かか。

 

「とはいえ、あなたの自己評価の不自然な低さの理由はわからないでもありません。悪原くんは、一之瀬さんと幼馴染のようですから」

 

突然の暴露。最後のところだけ無駄に強調して話したせいで、周囲がその言葉にかなり反応しているのが伝わってきた。好奇の視線が集まっている。

おそるおそる悪原を見てみると……ああ、あれはダメだ。本気で不愉快そうだ。

 

「彼女は天才とまでいかずとも、非凡な存在であることは間違いありません。そんな人物が常に身の回りに存在していれば、せいぜい自分は周りより少しできる程度だと思い込むようになってもおかしなことではないでしょう」

 

「じゃあな」

 

あまりにも強引に話をぶち切ってしまった悪原は背を向けて何処かへと歩き出す。そんなに嫌だったのかと、俺は苦笑いしてしまいそうになってしまった。

 

「まだ話は終わっていないのですが」

 

「幼馴染を名乗る変態の話なんか聞いてたらこっちがおかしくなる」

 

立ち去ろうとするのを呼び止めた坂柳だったが、悪原の言葉を聞いた瞬間青筋が浮かび上がった。これ以上ないほどわかりやすい形で頭に来たことが伝わってきた。

俺と綾小路はつい顔を見合わせた。

 

「私の言っていることが妄言だと言いたいのですか?」

 

「天才には変態が多いらしいじゃねえか。そもそも清隆が否定してる以上、あんたの言ってることはまるきり嘘にしか聞こえねえなあ。仮に本当だったとして……」

 

「一ヶ月ぐらい会わなかっただけで存在ごと忘れられたんだ。良い思いをしてたのはあんただけで、実はよっぽど嫌われてたんじゃねえの?」

 

鼻で笑った悪原は、それ以上言うことはないと背中で語りながら再び歩き出した。俺たちもこの場には居続けたくなかったので悪原の後をついていく。

その場を去る直前、坂柳から物凄い不吉なオーラを感じ取ったが、後ろを振り向くことはできなかった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

坂柳から逃れたはいいがどこへ行くのだろうと思っていたら、悪原が足を運んだのは図書館だった。

 

「ここは図書館か。本を読みたくなったのか?」

 

「精神的に疲れたんだわ」

 

綾小路の言葉に、悪原が若干ため息混じりにそう返した。まあ、図書館とは基本的に静かな場所だ。たくさんの本に囲まれてただただ黙って本を読んでいると、精神は安定してくる。おまけに知識も得られる。何もせず座ってぼんやりしているだけでも、図書館独特の空気が安らぎを与えてくれる。

心を休めるにあたって、図書館はとても適した場所と言えるだろう。

 

一旦解散して俺は図鑑が置いてある辺りをうろつきながら、考え事をしていた。

 

あの日から今日まで俺は一之瀬を斥けるため、様々な手を使って悪原を守っていた。一之瀬は相談役としても評判の高い人間であり、彼女に話があるという生徒は多い。そういう奴らを一之瀬のところに仕向ければそれだけで足止めになるし(悪原さえ関わってこなければ彼女は底抜けのお人好しにすぎない)、休み時間もなるべく悪原と過ごして一之瀬を牽制する。少し席を外そうという素振りを見せるだけですぐ敏感に反応してくるので本当に油断ならない。

 

さらに俺の味方には驚異のダークホース、綾小路もいる。彼の力も借りれば如何に一之瀬と言えど手も足も出せまい、と思っていたが……彼女も、一人ではなかったということか。

 

坂柳の存在は想定外そのものだった。

 

これが単なる先兵ぐらいならよかったのだが、残念ながら坂柳は人を使う側の人間……非常に優れた能力を持つだけでなく、攻撃性も高い危険な人物だ。一之瀬に唆されて言われるがままになっている道具ではなく、彼女と手を組めるだけの立場と能力を持っている強敵だ。悪原に真正面から喧嘩を売ったことも驚きだが、彼女もSシステムを見抜いていたという事実が『格上である』ということを俺の精神に強く伝えてくる。

 

しかも綾小路に執着しているらしいのがこれ以上ないほど厄介だ。幼馴染というのは変な奴しかいないのか?

もし彼女の言うことを信じるなら、坂柳は天才であり悪原と同じタイプの人間だということになる。綾小路と言えども坂柳にかかりきりになるかもしれない。となれば俺は完全に一人で一之瀬と戦わねばならない。

 

これまでは俺一人でもなんとかなってはいたが、今回で一之瀬が他人を使うことを覚えてしまったことはかなりの痛手だ。彼女のカリスマ性があれば兵士などクローンのようにいくらでも作り出せる。そして何より狂ってはいるが彼女自身は全く悪意がないのもあって、一之瀬の言葉を疑う者はまずいないだろう。

こちらも仲間を作るべきか?確か坂柳はAクラス所属と自己紹介していた。可能ならば同じAクラスに仲間を作って動きを見張らせておきたいが、相手が坂柳というのが最大の懸念点だ。適当な雑兵では、足止めすることさえ全く不可能だろう。

せめて坂柳の『遊び相手』ぐらいは務まるほど高い能力を持ち、Aクラス内でもそれなりの影響力があり(浮いている人物だと別クラスの人間である俺との繋がりを疑われる可能性が高い)、且つ裏切りの心配がない、信用に値する人間……いくらなんでも流石に都合が良すぎる。一応頭の片隅には置いておくが、この件は期待しないでおく。

 

悪原の存在自体がこちらにとっての最強のカードではある。悪原一人で一之瀬を潰すぐらいは造作もないと思う。

だが悪原は俺の友人だ。迷惑はかけられない。

友達にはかけてもいい迷惑というのがあるのはわかっているが、今起きている戦いに巻き込むのはどう考えてもかけてはいけない迷惑に入るだろう。

 

どうしたものか、ああしたものか……色々考えていると、遠くに綾小路がいることに気づいた。

話しかけようかと思ったが、綾小路のすぐそばにいる女子生徒の存在にそれを踏みとどまる。

 

もちろん坂柳ではない。銀髪なのは同じだが、坂柳と違って髪を伸ばしている。

 

何を話しているのだろうか。女子生徒の方から綾小路にぐいぐいといっており、一方の綾小路はタジタジだ。奴が何かをしでかしたとは思わない。女子生徒の様子から見ても痴話喧嘩とかそういう類のものには考えにくいしな。

 

近くにあった椅子に座ってしばらく眺めていると、俺が見ていることに気づいたのか綾小路がチラチラと助けを求めるような視線を寄越してくるようになった。まあ話しかけに行ってもいいのだが…あの女子生徒の存在がそれを躊躇わせる。

未だにすごい勢いで何かを話しており、綾小路は相槌を打ってはいるが目が回っていそうだ。

 

これはいよいよ助けてやるかな、と思って立ち上がったが、肩に突然ポンと手を置かれた。見れば、そこにいたのは悪原。

 

「親友の青春を、見守ってやろうじゃないか」

 

白々しい口調で、随分と意地の悪い笑顔だった。しかし俺はその言葉に乗ることにした。あの二人を見ていると自然と口角が上がる。微笑ましい気持ちになる。そして綾小路は今何を思っているのだろう。

 

見守り始めて少しすると、綾小路が女子生徒にどこかに連れて行かれてしまった。その時俺は確かに見た。保健所に送られていく捨て犬のような、綾小路の目を。

 

そして二人はミステリー小説のある辺りへ消えて行った。

 

「青春だな、神崎」

 

悪原の気持ちのいい笑顔がなんだか頭に来たので、思わず叩いてしまった。

『なにしやがる!』と小声で怒鳴るという高等テクニックを見せた悪原の文句を聞き流しながら、俺は友人に春が訪れたのかもしれないと、まるで巣立っていく雛を見る親鳥のような気持ちになった。

 

「風紀は乱すなよ、綾小路」

 

「神崎??」

 

思わずそう言ってしまった。俺がこんな冗談を言う時が来るとはな。自分の変化に、他ならぬ俺自身が一番驚いてる。

悪原のツッコミは無視して、俺は一之瀬と坂柳のイカレ幼馴染同盟のことを今だけは忘れることにしたのだった。

 

 




色々と今後が不安です。
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