ようこそ一之瀬帆波の幼馴染がいる教室へ   作:クリスマン

9 / 29
エタってたまるかエタってたまるかエタってたまるか……
忙しくったってエタるのだけは……

とりあえず、お楽しみください。


一之瀬帆波の鬱勃

うーん、ちょっと神崎くんをなんとかしたいね。私と九郎くんの蜜月を邪魔しすぎ。

そろそろ動くべきかなと私は考えていた。

 

最近ずっと神崎くんに九郎くんとのお喋りを邪魔されていてちょっとムカムカしてる。あの時ちょっとだけお話ししたのは間違いだったかなあ、と今になって思うけど手遅れすぎる。

 

九郎くんは私のこと避けるし、神崎くんは九郎くんと休み時間の間ずーっと喋ってるし、放課後になると綾小路くんまで加わってくるしで私の入り込める隙間がない。

無理に割り込んだら空気が悪くなる。それぐらいはわかるし自重もする。

 

…でも、サビシイなあ。

 

そういえば水泳の授業でつい見ちゃったけど、九郎くんの背中のあの傷は何?あんなの…知らないよ、私。

かなりわかりやすく跡が残ってて、心配だからなでなでしてあげようと思って声をかけてみたけど『触られたら痛む』って言われちゃった。ひどいよね、柴田くんには『見た目はアレだけど痛みはない』って言ってたのにさ、なんで私だけそう差別するのかな。

…あ!そっか、幼馴染を心配させまいとしてくれたんだね。でもそれをするならさ、台詞を言うべき相手が逆だよね。ふふ、君らしくないドジだなぁ。

 

でもそのことについて九郎くんは何も訂正することなく時間は過ぎ去っていった。毎日チャンスを窺ってるけど神崎くんもなかなか隙を見せてくれないね。

 

そうこうしているうちについに五月になってしまった。『Sシステム』の真相開示で、クラスは結構ざわついたけど私がなんとか場を収めることができた。神崎くんとお話しした何日か後に私も『答え合わせ』しに行って無事に口止め料をもらえたけど、そのことについて神崎くんや九郎くんが結構追求を受けてたなあ。なんで知ってたのに黙ってたのかが気になるのはしょうがない事だとは思うけど、なんで私にはこないんだろ。昔から同じようなことが多い。

共犯なのに私だけちょっと注意されるだけで終わって、九郎くんはどやされるみたいなことがよくあった。私にはそれが理解できなかったし今も理解できない。

 

ひとまず落ち着いて、クラスのリーダー決めが始まった。一瞬で私になった。

うん…びっくりしたよ。私が何か言う前に私に決まっちゃったからね。誰か一人が言い出してみんなもそれに賛同する、みたいなのじゃなくて本当一斉にみんなが私を挙げたんだよ。信じてもらえてるのは嬉しいんだけど、なんだかなぁ…。

サブリーダーは神崎くんになった。九郎くんじゃないのが残念だ。でも九郎くん、クラス闘争に興味ないみたいだし…私も正直、積極的に闘争に励みたくはない。でもみんなでAクラスで卒業するっていうのは目標としてはいいものだと思う。だから全力を尽くして頑張っていくよ。

 

これから頑張っていこうと誓い合った翌日、休み時間に綾小路くんが教室にやってきた。

 

『疑うのはわかるが、オレは絶対にスパイ行為はしない』って綾小路くんは顔はいつも通りの無表情でも、クラスのみんなに真剣に訴え掛けていた。

私は綾小路くんを信じることにした。

もちろん出禁にしてもよかったけど、綾小路くんが嘘をついてるようには見えなかったし、そもそも九郎くんからの心象が第一だし…。

 

ついでにDクラスの様子がどんなものか聞いてみたんだけど(他意はないよ)、まあ、うん。大変らしい。櫛田ちゃんとか大丈夫かな?

 

お昼休みになった。九郎くんたちはいつも通り三人でご飯を食べにいった。私も後を追う。少し離れた席に座って、九郎くんたちを見ながら私もお昼ご飯を食べる。

 

前々から気づいてたけど、神崎くんや綾小路くんもお弁当を作り始めたらしい。九郎くんのお弁当、綺麗だもんね。きっと憧れたんだろうな。

まだおかずの分けっことかはしてないけど(毎日見てるからわかる)、もし私より先にやっちゃったら…私、どうにかなっちゃうかもね。

 

楽しそうにしている三人を見ると私はどうしようもなく胸が苦しくなる。

 

後悔してるばかりじゃ何も生めないのは中学生の時に痛いほど分かってるけど、それでも悔やまずにはいられないね。

 

でも嬉しいこともあった。九郎くんにつきまとう綾小路くんにお話しをしようと思って先回りしていたら、坂柳さんと同盟を組むことができたんだから。

坂柳さんは綾小路くんの幼馴染なんだけど、綾小路くんからは忘れられちゃってるらしいんだ。ひどいね、綾小路くんは。坂柳さん泣いちゃってたよ。女の子を惚れさせた責任は取らないとダメだよ?

 

こういう言い方するのは人を評価するみたいであまり好きじゃないけど、それでも敢えて言うなら、坂柳さんはとっても優秀な人だ。九郎くんみたいに『一番できる子』の枠に入ってる人なんだと思う。ちょっと体が弱いせいで運動は苦手だけど、それを補って余りあるぐらい頭がいい。

 

そして今まさに、坂柳さんが九郎くんたちと話をしているところだ。

 

なんていうか、本当に天才同士って感じだね。独特の雰囲気があって、オーラのぶつかり合い?みたいなのが感じられる。

色々話していたけれど、坂柳さんが私の名前を出した途端九郎くんは機嫌を悪くして、坂柳さんを挑発した後にどこかに行ってしまった。私の存在自体が君にとって負そのものみたいで、それが仕方ないとわかっていても、何度そう思っても、やっぱり悲しいよ。

 

幼馴染を眺められないお昼休みに意味はない。私はさっさとお弁当を片付けて、その場を後にした。

 

それからは特に何事もなく時が経って、私たちは勉強会を行っていた。中間テストに備えるためだ。

赤点を取ったらその場で退学だもんね、可能な限り勉強しておいた方がいいし、勉強することを習慣づけられればより赤点のリスクも減る。可能な限り退学者を出したくはない。

九郎くんは案の定参加してくれないけど、神崎くんはサブリーダーの立場もあってよく参加してくれる。

みんな真面目に取り組んでくれてるから順調にクラス全体の学力が上がってきてると思う。今のところちょっと躓くことはあっても詰まることはないし。

 

けど問題が発生した。二週間後に控えたある日、星乃宮先生から予定変更を伝えられたんだけど、その内容が驚くべきものなんだよね。

 

端的に言うと、中間テストの範囲が全科目で変更になった。

 

配られたプリントに、変更範囲が記載されているけれど…周りのみんなはかなり不満そうな感じ。そうだよね、私もびっくりしてるよ。急すぎるテスト範囲の変更通知、しかも変更されるのが全科目だもんね。楽勝だと思ってたらいきなりハードルを上げられたんだから。

これまで勉強会をする時は特にノルマも決めてなかったけど、今日からは設けたほうがいいのかなあ。

 

「ごめんね。でも、Aクラスに次いで優秀と認められたBクラスのみんななら、絶対赤点を回避できるって先生信じてるよ!連絡はこれで終わり、ホームルーム始めるね!」

 

横の九郎くんをちらっと見てみると、面白そうに笑っていた。幼馴染の私だからこそわかる。九郎くんは、今の先生の言葉の真意を理解したんだ。

 

放課後、先に勉強会を始めてて欲しいと神崎くんにお願いした。かなりしぶられたけど、君が心配してるようなことはしないよ。まだ好感度も低いだろうしさ。

 

「待って九郎くん!」

 

私は帰っている幼馴染を呼び止めた。嬉しいことに、九郎くんは顔だけだけど、ものすごく嫌そうだったけど、振り向いてくれた。

 

「聞きたいことがあって…。朝に先生が言ってたこと、九郎くんは()()()()()よね?」

 

私の問いかけに九郎くんはすごく面倒くさそうにため息を吐いた。

 

「仮にそうだとして、だからなんだよ?俺はクラス闘争に興味はないし、神崎や清隆でなければ誰が退学しようとどうでもいい」

 

ジト、と睨んでくる幼馴染。一見取りつく島もないようだけど、一応話は聞いてくれてるから交渉の余地はある。大丈夫、まだ大丈夫。

…『どうでもよくない』側に私が入っていないのは、残念だね。

 

「そうかもしれないけど……でも九郎くんにだって悪い話じゃないはずだよ!説明するから話だけでも聞いてほしいの」

 

九郎くんはようやく足を止めてくれた。よしよし、いい流れだね。

私は話をするために九郎くんに近づいた。手を伸ばしたら、幼馴染の頬に手を当てられるぐらい近いところまで。

 

「……近い。離れろ」

 

「だめ。他の人に聞かれたら大変でしょ?」

 

思い切り顔を顰められちゃったけど、この言い訳を打ち破ることはいくら幼馴染でもできないはず。周りに人はいないように見えるけど、こっそり聞かれていてもおかしくはない。なるべく小声で話し合いたい。…メールでもいいけど、今の九郎くんが私に連絡先を教えてくれるとは思えないし、どうせなら直接話して幼馴染の声を聞きたい。

ともかく私は説明を始める。

 

「先生は絶対赤点を回避できるって言ってたよね。私たちを信じてくれてるとも言えるけど、先生たちってさ、その、四月の時もあやふやにしか言ってくれなくて…肝心なところを説明してくれないじゃん。その先生が絶対って断言してたから…だから私は思ったんだ。このテストは、本当に絶対赤点を回避できる方法があるんじゃないかって」

 

ああ、ダメだなあ。九郎くんが話を聞いてくれてると思うだけで、たくさん話をしたくなっちゃう。もっと私の声を聞いてほしいって思っちゃう。

 

九郎くんは眉間に皺こそ寄ってても、興味は示してくれてるみたい。そう、私ならわかる。幼馴染だから。

 

「お前がそう思うんならそうなんだろ。それで?俺にとって何の旨みがある?」

 

そうだよね。この説明じゃ私の予想で終わってて、九郎くんにとってはひとつも良い話になってない。本題はこれから。

 

「プールの授業の時さ、水泳の先生が言ってたの覚えてる?一位を取った子には5000ポイントあげるって」

 

「それが?」

 

「それを今日思い出してさ、先生ならある程度ポイントの融通を利かせられるんじゃないかって思ったの。つまり、テストで満点とか取ればボーナスでポイントをくれてもおかしくないんじゃないかなって」

 

その時初めて九郎くんの顔が、倦怠以外のそれに変わった。少し目を見開いて、びっくりしているみたいだった。

今は予想してる風に話してるけど、実はもう裏付けは取れてる。先生に聞いたから間違いない。

そして、君のそんな顔を見られただけで今日は大満足。君に少しでも追いつきたくて、色々勉強したり学校のことを調査してた甲斐があったよ。

 

そして私は九郎くんに交渉を持ちかける。

 

「──ボーナスポイントが入ったら、そのうちの半分を君にあげる。仮にボーナスが一教科につき10万ポイントだとして、満点を取れた子が三人いたら九郎くんに15万ポイント入るんだよ。十人いたら50万、もっといたらもっと増える。どうかな?」

 

「へえ、確かに悪くない話じゃねえか。だがポイントはどう徴収する?そもそも満点取れなかったら意味ねえよな」

 

やった!乗ってくれた!私は幼馴染が私の話を聞いてしかも乗ってくれたという事実に感極まりそうだったけど、気合いで堪えながら説得する。

 

「九郎くんなら満点を取るぐらい簡単だと思うから、全教科分で50万ポイントを君は得られるね。そして、私も満点を取る」

 

これで九郎くんは75万ポイント獲得できる。依頼料としては充分なはず。

願い叶って、幼馴染は私のお願いに対して前向きな姿勢だ。

 

「ふーん。それで俺にどうしろと?」

 

「わかりきってるくせにイジワルだね。ふふ。……ポイントをあげる代わりに、九郎くんには『赤点を回避できる方法』を探してほしいんだ。もし見つけられたら私のボーナスポイントは全額あげるよ。これで100万ポイント。これならどう?」

 

そして九郎くんなら絶対に見つけられると私は確信してる。もう九郎くんが100万ポイントゲットできるのは確実。勉強会ではより気合いを入れて満点を目標にする。九郎くんが赤点を回避できる方法を見つけてくれたらモチベーションはより上がるはず。退学の心配がなくなるからね。みんな満点を目指す余裕ができる。学力は順調に上がってるし神崎くんもいる。決して不可能な話じゃないと思う。

他の子のボーナスポイントの半分を九郎くんに渡すって話も、私が説得してなんとかする。幸い私はリーダーだし、全額とかならまだしも半額ならまだギリギリ受け入れてもらえるかもしれない。

 

これでもダメなら、今の私の所持ポイントを全部渡して、毎月九郎くんにいくらかを譲渡する契約を結ぶのも吝かじゃないと思ってたけど…。

 

「──わかった。受けてやる」

 

やったね!

私は思わずガッツポーズをとりたくなった。ていうか抱きつきたくなった。でもそんなことしたら絶対白い目で見られるから、体の芯から湧き上がってくる衝動をなんとか抑え込んだ。

 

「ありがとう!本当にありがとう九郎くん!契約書はどうする?私が作っておこうか?」

 

「いらん」

 

それきり、九郎くんは何も言わず、振り返ることもなくどこかに行ってしまった。そっけない態度だったけど私は幸せいっぱいだった。光の世界にいるような気持ちだった。本当に晴れ晴れとしてて、今すぐラブソングでも歌いたいような、いい気分。

 

ルンルンしながら私は勉強会へ向かい、みんなからすごく機嫌が良さそうって言われちゃった。そこまでわかりやすいかなあ。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「赤点回避の方法を見つけた」

 

翌日、だるそうに九郎くんがそう言った時、私はきっと世界で一番間抜けな顔をしていた。

 

だってさ、え?翌日だよ?お願いした次の日に見つけたんだよ?どういうことなの…。我が幼馴染ながら本当に訳がわからない。一体どんな思考をしてるんだろう。

 

正直いきなり呼び出された時点で察してはいたけどさ。今の九郎くんの好感度から考えて昨日の依頼のこと以外で私に接触しに来るわけないし…あれ、目から水が。

とにかく、私は混乱しながらも話を聞いた。

 

「え、えーと、どんな方法なのかな?」

 

私の問いに、九郎くんはバッグからプリントを取り出して渡してきた。それを見ると、どうやらテスト用紙みたいで……いや、ただのテスト用紙じゃない。

これは──過去問?

 

「一年最初の中間は毎年必ず同じ問題が出る。その過去問を使えば一夜漬けでも赤点はまずねえだろ」

 

「……すごい」

 

過去問を持つ手が震える。すごい、本当にすごいよ九郎くん。君は…本物の天才だよ。

そんな凄まじい実力者が自分の幼馴染であることに、私は思わずニヤけてしまった。歓喜という感情が沸騰しているかのような感覚だった。

 

「…みんなには、私から説明しておくね。これならきっと満点を取れる子もいっぱい出てくるよ…!」

 

「ああ、そう…」

 

「…そ、それでね!もし…よかったらなんだけど…私と一緒にケヤキモールにある喫茶店に行かない?お礼に奢るよ!遠慮せず一番高いの頼んでもいいし、なんならカップル限定メニューを……あれ?九郎くん?」

 

気がついた時にはもう九郎くんはどこかに行ってしまっていた。勇気を振り絞ってデートに誘ったのに、無言で断られちゃった。…すっごい恥ずかしい。

 

その日の放課後の勉強会で、過去問を配って説明するとみんな大喜びだった。九郎くんを称賛する声も聞こえてきた。当然だよね、私の九郎くんはすごいんだから。誰にも渡さないよ。

 

テンションが大きく上がっているタイミングで、私は九郎くんとの契約を明かした。実際には『契約』とは言ってないけど。さらに、昨日から考えていた『クラス貯金』を提案した。

簡単に言えば毎月もらう分をいくらか私に預けて管理しようって感じ。調査のために高額なポイントが必要になるかもしれないし、無駄遣いしちゃって浪費癖がついたら将来大変だし、と説明したら満場一致で賛成だった。よかったよかった。

 

とにかくみんなのモチベーションは大きく上がったはず。これは本当に私と九郎くん以外に満点が出そうだ。満点を取ることができた生徒がいればそれだけ九郎くんは得をするし、私への評価もちょっとだけ期待できる。見直してくれたら御の字、マイナスにはならないことさえアピールできればそれでいいかな。

 

ちなみに過去問のことを坂柳さんに伝えてみたけど、もう気づいてたみたい。坂柳さんもすごい。天才の頭の中ってどうなってるんだろうね。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

いよいよ中間テストが一週間後に迫った日のこと。その日私たちは図書館で勉強会をしていたんだけど…

 

「フランシス・ベーコンだ!」

 

「正解っ!!」

 

少し離れたところでDクラスの生徒たちも勉強会をやっていた。それ自体はいいんだけど、その、正直言っちゃうと、騒がしいなあって。図書館なんだからもっと静かにすべきじゃないかな…。

一度気になったらドツボにハマる。ノートに向かっても身が入らない。他の子達もちょっとイライラしてる雰囲気で、あまりよくないね。

 

そろそろ注意しようか、と思っていると、別クラスの生徒──Cクラスの生徒らしい──が何やら絡んで…Dクラスを挑発する旨の発言を飛ばした。その言葉に、赤髪で体格の良い男子生徒が反応する。

確かにかなりストレートな悪口だったけど…胸ぐら掴むのはどうかと思うなあ。

 

収まるどころかますますヒートアップしていく騒ぎに、これはもう止めに入るしかないねと思って立ち上がったんだけど、私より先に割り込んだ人がいた。

 

「うるせえぞおめえら」

 

…九郎くん。

 

「あぁ?関係ねえ奴は引っ込んでろよ!」

 

赤髪の生徒が凄むけど、九郎くんはそよ風に吹かれているかのようになんともない様子。かっこいいなあ。

 

「引っ込むのはてめえの方だノータリン。図書館でギャアギャア騒いで邪魔なんだよ。授業もまともに受けられねえ不良品どもが」

 

…あー、九郎くんやっぱり口が悪いや。昔から上級生にも臆さず噛みついていってたけど、今も変わってはないみたい。九郎くんはかっこいい人だけど、口の悪さはちょっぴり気になっちゃう。まあ、泣きどころがあるぐらいが可愛いなんて聞いたこともあるけどね。欠点がある方が逆に愛せるみたいな。

 

ともかく言い方は酷いけど九郎くんの言ってることは正論。図書館で騒ぐのはマナー違反だからね。周りの人たちも内心同意してるんだろうね、空気が変わってきてる。それぐらいは赤髪の生徒もわかるのか、悔しそうに押し黙った。

 

次に九郎くんはCクラスの生徒を睨んだ。

 

「てめえもてめえだ。言い方考えりゃこんな騒ぎにならなかったのがわからねえか?」

 

Cクラスの子は何も言わない。言えない。言えるはずがない。

 

「これでクラスポイントの減少に繋がったら笑えるよな」

 

九郎くんは鼻で笑って、色のない声でこう言った。

 

「このことが龍園の耳に届いたら、おまえどうなると思う?」

 

ビクッ!と、Cクラスのその生徒は肩を跳ね上げた。何か考えるように俯いて、顔は青ざめてる。どうしたんだろう。『龍園』っていう生徒が何か関係しているのかな。

 

「お、おまえ、まさか龍園さんが言っていた…?!」

 

その子は震えた声で九郎くんに問いかける。『なんだ、聞いてたのか』と、幼馴染はため息混じりにそう言った。

そして投げかけられた言葉に九郎くんは目つきをより鋭くして答えた。

 

「あいつに伝言な。『飼い犬の躾ぐらいまともにしろと、悪原が言っていた』って」

 

Cクラスのその子は、顔色の悪いまま図書館を後にした。色々気になることが多いね。九郎くんと龍園という生徒のことが特に。

ともかく止めてくれたことにお礼を言おうと思って、他の本棚のところに向かおうとしていた九郎くんに近づくと、

 

「待って」

 

凛とした声に遮られた。見るとそこには綺麗な黒髪の女子生徒が。視線から察するに、私に声をかけたのではないらしい。となると九郎くんか。

確かに九郎くんはカッコいいけどこんなところでナンパはいただけないなあ。大体もう九郎くんには私っていう彼女がいるんだよ?…まだ彼女じゃないけど。唯一無二の候補ってことで。

 

九郎くんは心の底から面倒くさそうに振り向いた。

 

「なんだよ」

 

「訊きたいことがあるのだけど」

 

「手短にな」

 

「悪原くんは、なぜ綾小路くんと友人になったの?」

 

黒髪生徒の質問に、九郎くんは馬鹿馬鹿しいと言いたげに目を閉じた。

 

「なぜどうしてと訊かれても困る。俺がそうしたかったからとしか言えねえなあ」

 

「……そう。引き止めてごめんなさいね」

 

「別にいい」

 

黒髪女子生徒との会話は早々に終わり、九郎くんは近くの本棚からひょっこり顔を出した綾小路くんとどこかに行ってしまった。…いたんだね、綾小路くん。

 

女子生徒の目的が九郎くんをナンパすることでなかったことに安堵しつつ、私はついでにDクラスの生徒たちにアドバイスすることにした。だって、勉強してる範囲が違うみたいだし…。ライバルではあるけど、ほっとけないよ。甘いかもしれないけどさ。

テスト範囲のことを伝えるとかなり混乱していた。なんでDクラスの担任の先生は範囲の変更を伝えてなかったんだろ。

まあ、まだ一週間あるし…常に机に向かうような心構えでいれば、赤点を避けることだけなら充分できると思うよ。

 

その日はもう勉強会をやめにして、解散した。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

そして中間テストを終えた私たちに、テスト返却の時が来た。

その結果は驚くべきもので、全教科満点は三人だったけど、それでも一部の教科で満点を取ってる子が何人もいた。

 

Bクラスの結果発表の後、学年全体の順位が張り出される。そこには同率一位が何人もいた。

 

Aクラスでは、坂柳さんが全教科満点。

Bクラス、私たちのクラスから三人。一人はもちろん九郎くん。もう一人は私。そして最後が神崎くん。

Cクラスでは龍園翔という生徒がただひとり全教科満点を達成していた。

最後のDクラスは正直予想外だった。綾小路くんと高円寺六助という生徒の二人がオール満点を成し遂げてた。

 

そしてクラスごとの平均点を出すと……なんと、私たちBクラスがAクラスを超えてトップの成績を収めてたんだ!

 

星乃宮先生も大喜び、もちろんクラスみんな大はしゃぎで、私たちは中間テストを大成功で乗り越えることができたんだ。

ただリーダーである私は喜ぶだけではいられない。赤点は平均点を二で割った数字、ってことを知ったから。満遍なくみんなの学力を上げていかないとね…。

さらに今回は過去問があったけど、こんな都合のいいものが次もあるとは思えない。最初の試験だからこそ過去問という反則級のアイテムを使えたと考えるべきだね。きっとここからは真に実力を試されていくんだろうな…頑張らないと!

でも、やっぱりこんなに優れた成績を残せたのは嬉しいな。九郎くんにいっぱいポイントが渡るから、私への評価も期待できそうだしね!

 

そしてこのあと私は九郎くんとの約束をしっかり果たしてポイントを渡し、決意を新たに今後へ備えるのだった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

七月の生徒会室。ただでさえ普段から厳格な雰囲気のこの一室は、この度さらに重苦しい雰囲気になっていた。

 

「ではこれより、今週水曜日に発生した暴力事件について審議を執り行います。議長は私、生徒会会長、堀北学。進行は生徒会書記、橘茜が務めます」

 

現生徒会の会長を務める学先輩が宣言して話し合いがスタートする。

 

その言葉と同時に…私は、隣にいる九郎くんを見る。ほっぺたの湿布が痛々しいけれど、九郎くん自身はかなりどうでもよさそうな面持ちだ。……私は全くどうでもよくないよ…!

 

次に私はDクラスを……赤髪の男子生徒を──須藤くんを思いきり睨みつける。

 

(絶対、許さないから……ッ)

 

…ドス黒い怒りが、今の私の全てだった。

 

 




皆様の応援が本当に励みになっています…ありがとうございます…!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。