仮面ライダーデュアル   作:八咫ノ烏

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一年と半年もの間、投稿すっぽかしてて本当に申し訳ありませんでした


Archive.3 選択と決断

「はじめまして二人目の仮面ライダー。私は如月史帆。少しだけあの怪物に詳しい一般人さ」

 

 そんな怪しさ満点の女の名乗りに警戒心を抱き、距離を取る海梨と鈴奈。二人の目には、如月に対する少なくない恐怖と不信感が宿っている。

 そんな視線で見つめられた如月は、思わずポリポリと頭を掻きながら苦笑を浮かべた。

 

「ここまで怪しまれるとはねぇ……。少し心が痛いな」

 

 そうは言うものの、しかし海梨と鈴奈からすれば疑う要素しかない。

 

 彼女はあの熊の化け物と戦ったあとに現れた。それも、たまたま通りがかったというわけではなく、その怪物目当てでこの場所へ来たらしい。

 そのうえで怪物に詳しい一般人を自称しており、加えて海梨のことを二人目の仮面ライダーと呼んだ。つまるところ、彼女は一人目の仮面ライダー、この街にある噂の大元の人物を知っているということになる。

 

 それを知るのは、自分自身が仮面ライダーであるかそれと敵対している人間かの二択であるはずだ。どうあれ、彼女たちが警戒心をむき出しにするのも当然であった。

 それを理解している如月は、敵意を向けられても仕方のないことであると自分に言い聞かせながらここへ来た理由を語る。

 

「そもそもの用事はこの怪物……アパタイトにあったのだけどね。もしかしたら新しく現れたらしい仮面ライダーに出会えるかもしれないとは思っていたけど、まぁ偶然というやつさ」

「……ってことは私たちを殺しに来たってこと?」

 

 海梨の背に隠れながら鈴奈はそう返す。如月はアパタイトというらしいあの熊の怪物の支援を目的にここへ来て、そのついでに仮面ライダーを殺しに来たのだと。鈴奈はそう解釈したらしい。

 その解釈に思わず如月は肩をがっくりと落とし、

 

「い、一体どうしてそう解釈するんだいキミぃ」

 

 と困惑を露わにする。どうやら鈴奈の解釈は間違っているらしい。

 これがその証拠だ、とでも言いたげな表情で二人のことを指差すと、冷静に敵意を否定する。

 

「第一、殺しに来たというならこんな無駄な会話などせずに攻撃しているさ。それに君たちがまだ五体満足で生きていることそれそのものが、私の敵意や殺意を否定する材料になるわけだ。それでもまだそう警戒するかい?」

 

 確かに、如月の言う通りである。仮に殺しに来たというなら、呑気に長話をする義理など如月にはないはずだ。問答無用で襲い掛かって然るべきだろう。それをしていないというこの現状が、如月の敵意を否定している。

 さもありなん、とどこか言いくるめられたような気を感じながら二人は一旦警戒を解いた。ずっと気を張っていても疲れてしまう。

 

 とはいえ、疑問が尽きたわけではない。

 

「それで、新しい仮面ライダー……私たちに会って何をしようとしてたの? 楽しくお茶したいってわけでもないんでしょ?」

 

 表に出る人格をリイからカイに交代し、もうこちらにも敵意はないと示すためにこやかに笑みを浮かべながら彼女はそう尋ねる。殺しに来たわけでなく、そのうえ単に興味本位で動くような人物にも見えない。であれば、きっと何か用件があるはずと判断するのも当然だ。

 突如にこやかに微笑み出した海梨に、如月は思わず先までの彼女とは別人のようだなどと考えながら指を一本立てた。

 

「一つ、提案をしようと思ってね」

 

 提案。もしや協力してもう一人の仮面ライダーを殺せとでも言いたいのだろうか。今に至るまで自分たちを攻撃してこなかったことも、それで説明がつく。

 が、如月は海梨の予想に全く反することを口にした。

 

「共にこの街を守らないかい?」

「……え~っと?」

 

 思わず海梨はこめかみの辺りを指でグリグリと押しながら素っ頓狂な声を出す。共にこの街を守る、ということは怪物と戦っていこうということなのだろうか。

 完全に予想していたものとは違う提案を、時間をかけて飲み込んでから聞き返した。

 

「共に守るってことは……あの化け物と戦うのに協力しろってこと?」

「まぁ、そういうことになるね」

「マ、マジか……」

 

 返された肯定の言葉に、海梨は頭を押さえて悩みだす。この誘いに乗るということは、戦いに身を投じるということ。それ即ち死と隣り合わせという状況が数え切れないほど増えるということだ。

 そんな危険な誘いに乗る意味はあるだろうか。

 

 答えに詰まり、黙りこくった海梨。そんな彼女を説得するかのように、如月は地面に転がっていた無骨な機械──アパタイトに変異するときに使用するのだろう腕輪を手に取りそれについて語り始める。

 

「キミたちも知っていることだろうが、アパタイトは普通の人間じゃ太刀打ちできないほどの力を持っている。それどころか銃火器の類も完全に無意味であることから、警察や自衛隊であってもまともに戦うことはできない。彼らでさえ、一般人が逃げるための時間稼ぎをするだけで精一杯だ」

 

 確かに、以前の蜘蛛男も先に倒した熊男も到底普通の人間には発揮できない領域にある力をさも当然のように発揮していた。海梨が変身できなければ、確実に鈴奈もろとも殺されていたことだろう。

 それらに銃火器の類が通用しないとなると、対抗できる手段はただ一つ。

 

「けど、私たちならそれができる。だから協力してほしい。そういうこと?」

「あぁ。それで合っているよ」

 

 海梨の言葉に首肯を返す。変身することができる人間。その力だけがアパタイトに通用するわけだ。であれば、如月が海梨に協力を求めるのも納得がいく。

 

「敵は組織的に行動しているが、私たちは違う。少ない人数で、それも一人だけで相手しなくてはならない」

 

 そう言葉を続けて、海梨の目を真っすぐと見る。嘘を吐いているようにも、悪い方向へと利用してやろうと企んでいるようにも見えない。

 彼女は心から海梨の力を、デュアルの力を欲している。

 

 それを察した海梨は、そうだねと一言呟いて目を閉じた。心中でリイが自分にもう一度変われと声高に主張している。

 カイはそれに応じて主導権を彼女に渡して精神世界に戻っていく。それと入れ替わるように体を動かせるようになったリイは、ゆっくりと目を開けると首を横に振りながらひとまず現時点での考えを伝える。

 

「……メリットは、と聞くのはおかしいことだとわかってる。けれど、私たちにそれがない。むしろ、危険に巻き込まれてしまう。貴女たちに協力するにしろ化け物の味方をするにしろ、この戦いに関与する意味がこれっぽっちもないわ」

 

 海梨は二日ほど前まではただの一般女子高生だったわけだ。何かの間違いで意味の分からない力を手に入れてしまったとはいえ、それを理由にして危険に身を投じることもない。ただひっそりと普通の生活を送るというのも、立派な選択肢の一つではあるだろう。

 

 如月もそれに理解を示しつつ、それに対する返答を口にする。

 

「確かにキミの言う通りで、この戦いに協力するからと言って何かをもらえるわけでもなければ、他者から英雄視されたり称賛されるようなこともない。むしろ、命の危険に遭う可能性が増えるばかりか、死ぬことさえあるだろう」

 

 そこで彼女は一度言葉を区切る。命の危険がないと言わない辺り、激しい攻防を繰り広げてきたのだろうことは想像に難くない。唯一戦える仮面ライダーの負担も、推して知るべしと言える。

 

「しかし、その力を持っている以上は同じことだ。どうあれ彼女たちが直接キミを狙うこともあるだろうし、その辺でアパタイトに遭遇したら否が応でも戦わざるを得ない。だろう?」

 

 確かに、噂の大元である一人目の仮面ライダーと同種の力を持つ少女のことを、その組織が放っておくだろうか。もし自分ならその芽が成長する前に刈り取ろうとするはずだ。そしてそれは敵組織についても同じこと、と海梨は考える。

 力を得た時点で、すでに平穏な日常とは別れてしまったのかもしれない。その点から見れば、如月の言っていることは何も間違っていない。

 

「確かにその通りね。でも……」

 

 そう言い、彼女は再び目を瞑って表に出る人格を交代する。

 カイは後ろに手を組みながら、申し訳なさそうにリイの言葉の続きを口にした。

 

「答えを今すぐにここで出すっていうのは難しいかな。ちゃんと考えさせてほしいの」

 

 今ここで勢い任せに決めたら後々後悔するかもしれない。だから、じっくりと考えたうえで結論を出したい。

 そんな海梨の言葉に、如月は確かにそれもそうだと大きく頷きながらメモに何かを書いてそれを手渡した。

 

「どうするか決めたら、この番号に電話を寄越してくれたまえ。私から急かすことはしないから、じっくりと考えると良い」

 

 メモに書かれていたのは、如月史帆の名と彼女の電話番号だった。海梨と鈴奈がそれをまじまじと見つめている間に如月はヘルメットを被り、二人に背を向けてバイクに跨る。

 エンジンを始動させ、それを一度吹かせてから思い出したかのように振り向いた。

 

「あぁ、そうだ。一つ言い忘れていたよ」

 

 バイザーを上げ、海梨の目を見つめる。

 その視線はどこか、品定めしているようで。

 

「仮面ライダーを名乗る、ということの意味。これもしっかりと考えておきたまえ」

 

 そう言い残し、彼女はここから去っていった。

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 

 如月史帆と出会ってから数日の時が過ぎた。

 その間、海梨は二人で深く深く考え込んだようで。

 

「ほら、そんな顔しないでさ。今日は一旦何も考えずに遊ぼ!!」

 

 それでも答えは出なかったらしい。ずっと険しい表情を浮かべていた彼女を見かねた鈴奈によってショッピングモールに連れ出されていた。

 

「そう言われても私、あんまり外で遊ばないからどうするのが正解かわかんなくて……」

 

 誘われた際にそう断りを入れたはずなのだ。

 

 二神海梨の見た目は普通ではない。

 黒と白が入り乱れた髪。赤と青のオッドアイ。その特異な見た目のせいで周囲の目線を良くも悪くも集めてしまう。その目線に込められた感情が好奇であれ奇異であれ、海梨にとっては負担でしかない。

 それが幼い頃から当たり前で、その視線に怯えるのも仕方なかった。その視線を避けるためいつしか彼女は家の中でしか遊ばなくなり、その結果外での遊び方がわからなくなってしまったのである。

 

 なのに今、彼女たちはモール内にある喫茶店にいる。

 

「ね、わりと楽しいでしょ」

「すずちゃんのおかげでなんとか」

 

 私がエスコートしてあげるし全額出してあげるから、などと教室で頼み込まれては仕方ない。そう言い聞かせてメロンソーダを口にする。

 端の席に座ったおかげか視線を集めることもなく、落ち着いてティータイムを楽しむことができている。それだけではない。モールを回ってショッピングしている最中も楽しそうにあれこれと喋りかけてくれたおかげで、周囲の目を気にする暇もなかった。

 

 おかげで買う予定になかった服や化粧品まで買ってしまったが、それを加味しても楽しいのは彼女のおかげである。

 それに感謝の気持ちを抱きつつ、彼女たちはある疑問を鈴奈へとぶつけた。

 

「鈴奈はどう思う?」

「私も楽しいよ」

「……ごめんなさい、言葉足らずだったわね。今のことじゃなくて如月のことよ」

 

 彼女たちが聞きたかったのは、友達である鈴奈の立場から見て仮面ライダーとして戦うか否かという選択肢についてどう思うかという話。当事者ではなく第三者から見ることで初めてわかることもあるはず。それが自身と親しい者であればなおさらだ。

 

 その疑問に鈴奈は少し考え込んでから、ゆっくりと浮かんだ考えを口にする。

 

「……友達としては、危ないことに首を突っ込んでほしくない。傷ついてるとこ見たくないしさ」

 

 それは当然のこと。誰だって友達が危険な目に遭う姿など見たくはないだろう。

 そういった答えが返ってくるであろうことは予想していたらしく、そうでしょうねとでも言いたげな表情を浮かべている。

 

 やはり断るか。あの日如月に言った通り、戦うことで発生するメリットもない。彼女やその仲間には悪いが、縁がなかったということで終わらせておこう。

 そう考えを固め、どう断ろうかと二人で考え始めたとき。鈴奈は先とは反対の言葉を伝えてきた。

 

「でも、誰かのために戦うんだ~ってなっても私は納得できるし、そうなるんじゃないかなって思ってるよ」

「……それはなぜ?」

 

 目を丸くして問い返す。そんなに戦っていそうな雰囲気をしているだろうか。それとも仮面ライダーである以上はそうあってほしい、という願望だろうか。

 あれこれとそれらしい理由を思い浮かべては消していく。そんなことをしている海梨に、鈴奈はそう感じたわけを話す。

 

「海梨ちゃんって二人ともなんやかんや優しいからさ。誰かが襲われてるのを、助けられる力があるのに黙って見てるだけってのが嫌だってなりそうな気もしてるんだ」

 

 彼女らが出会って一年ほど。その間の積み重ねで、海梨のことは大体把握できている。

 カイもリイも、考え方や性格こそ違えど根本的なところは同じ。それの度合いや表現が違うだけで、基本的には他者に優しいことに変わりない。

 

 そんな二人が、果たして怪物に襲われている場面を目撃した時に何もせず逃げられるだろうか。

 

「仮にその時は迷いなく逃げることが出来ても、後々罪悪感に押し潰されるんじゃないかな」

「そうだね……。きっと私には、私たちにはできないと思う」

 

 鈴奈の言葉に、カイは表に出てそう返す。リイもそれに心中から反対しない辺り、やはり鈴奈の読み通り同じなのだろう。

 海梨にもそれはわかっていた。全く関与しない、と宣言して力を封印するのも少し考えていたことだ。だが、それも鈴奈が言っていた通り自分にはできないはず。

 

「誰かが襲われているところに遭遇したら戦って、それで終わり。戦争には興味ないよ~みたいな風に動けばいいのかな、とも思うんだけどね」

 

 そう言い、ストローで残っていたわずかなメロンソーダを吸う。

 結局のところ、戦いから完全に逃れることは叶わないだろう。なら、せめてその関係値を極限まで減らして降りかかる火の粉を回避しよう。

 そういう思考での発言であったが、鈴奈はそれに難色を示す。

 

「二人が如月さんとその敵の間の戦いに参戦する気が全くなくても、相手からしたら自分たちの行動を妨害しているからって理由で敵扱いされると思うんだ。だから、あの人たちと協力した方がまだ安全なんじゃないかな」

「そうかな……?」

 

 鈴奈の指摘に思わず考え込んでしまう。海梨にその気がなくても、その行為は完全に喧嘩を売っているようにしか見えないわけで。それで結局勢力同士の戦いに巻き込まれてしまうくらいなら、最初からどちらかに……如月たちに肩入れしておいた方が色々と楽になるはずだ。

 

「言われてみれば確かにそうね……」

 

 鈴奈の言説に納得し、そのうえでどう行動するかを深く考え込む海梨。カラン、と溶けた氷が崩れる音が静かな店内に響く。

 そんな彼女を優しく見守りながら、鈴奈は食べかけだったモンブランを一気に頬張った。幸せそうに頬を緩め、目を細める。

 

 戦うことで、彼女のこういった幸せを守ることができるなら。見知らぬ誰かのささやかな嬉しさや楽しみを守ることができるなら。

 それはそれでありなのかもしれない。

 

「……ありがとね、すずちゃん。遊びに来た先でこんなめんどくさい相談に乗ってくれて」

「前に助けてくれたしこれくらいはしなきゃ割に合わないよ。それ以前に私たち友達じゃん?」

「鈴奈は優しいわね、本当に。」

「どうしたの急に二人して……。やめてよ恥ずかしいって」

 

 ほのかに頬を赤らめ、恥ずかしそうに手で覆った。耳まで真っ赤にしている彼女を海梨は微笑ましいと思いつつチラリと時間を見る。もう入ってから一時間は経過している。いくら喫茶店とはいえ、そろそろ出ないと迷惑になるだろう。

 そう考え彼女が席を立った次の瞬間、示し合わせたかのように穏やかな日常が終わりを告げた。

 

「うわぁなになに!? 爆発!?」

 

 モールの通路の方向から爆発音が響き、衝撃と共にガラスが砕け散る。

 

 絶対にろくなことは起きていない。十中八九あの怪物……如月がアパタイトと呼称していたあれの仕業のはずだ。

 直感的にそう判断した海梨は、財布を急いで取り出してそれを鈴奈へ押し付けるとすぐに店を出て音のした方へ向け走る。

 

 その先に、明らかに原因であろう黒づくめの何かが逃走していた。よく見ると貴金属の類を抱えているのか、キラリと光を反射して輝く紐のようなものが見える。

 それを視界に捉えた海梨は、急いで腰に手を翳してドライバーを生み出した。

 

「今回は私がやるからね!!」

 

 手の中に白いバックルを生み出した彼女は、心の中にいるリイに言い聞かせるようにそう叫んでドライバーの右側にそれを装着した。

 

《Dual Driver!! Ready!!》

「へ~んしん!!」

《Luminous side・Blooming!!》

 

 間髪入れずにバックルのスイッチを押し込み、変身。数多の白の硝片が宙を舞い、海梨の体に張り付いて白と赤の鎧へと変化していく。

 それらを身に纏った彼女は、徐に現れた無色透明の刀身を持つ剣を強く握り締め黒づくめの何かへ向けて跳躍する。

 

White knight who shines brightly(輝きを放つ白き騎士)!!  Dual luminous!!》

「待て~!!」

「ぐえっ!?」

 

 その背に蹴りを入れ、数メートルほど蹴り飛ばす。それが大事に抱えていた高そうなネックレスや時計などが手から離れ、床に散乱してしまう。

 少しだけ賠償だの訴訟だのという単語が脳裏を過ぎり冷や汗を掻くが、しかしそんなものは目の前の黒づくめが負うべきだ。責任を負わされぬよう、なんとしてでもここで倒して警察に突き出さなくてはいけない。

 

 そのような俗っぽい決意を固め、ゆっくりと立ち上がる黒づくめに切っ先を向ける。

 

「……カラスっぽいね」

 

 どうやら相手はカラスの怪人らしい。黒光りする口ばしを持ち、全身を包む羽はまさにカラスそのもの。貴金属を盗んでいたのも、カラスに光るものに惹かれる性質があるからなのだろうか。

 そう考えつつ相手の出方を伺うデュアルに、カラスは地団太を踏みながら怒りを露わにする。

 

「ふざけんな!! 少しでも傷が付いたら価格がダダ下がりするんだぞ!!」

「……盗んでおいてそれ言う?」

「うるせえ!!」

 

 正論を返され言葉に詰まり、逆上したカラスは怒り任せにその腕を勢いよく振るった。腕から放たれた無数の羽がデュアル目掛けて飛んでいく。

 デュアルはそれを大したことがないと判断し、防御せずにそのまま突っ込んでいってしまった。

 

 しかし、その羽は照明の光を反射している。

 

「……っぶない!!」

 

 それに気が付いたリイが咄嗟に体の制御権を奪って床を転がり、ギリギリのところでなんとかそれらを躱す。目で追った先で壁や床に突き刺さっているところを見るに、かなりの鋭さを持っているに違いない。あのまま飛んでくる羽に突っ込んでいたらどうなっていたことか。

 

(もう少し慎重に動きましょう。さもないと諸共死ぬわよ)

「ごめんごめん。侮っちゃった」

 

 小言を言いながら心中に引っ込んでいったリイにそう言いながら、デュアルは立ち上がりざまにカラスの腹を縦に斬った。火花を散らしてたたらを踏む彼に追い打ちをかけるように、もう一度踏み込んで袈裟斬りする。

 

 うめき声を出し、背中から倒れ込むカラス。頭を強く打ち、ぼやける視界の中でデュアルが大きく剣を振りかぶっている姿が見えた。

 

「──ッ!!」

 

 歯を食い縛り、全力で振り下ろそうとしている。完全に殺す気だ。そうでなくとも致命傷を与えてやろうとしている者の動きであることに違いはない。

 このまま寝転がっていれば確実に喰らってしまう。

 

 とにもかくにも動かなければ、という状況で彼が取った行動は。

 

「オルァ!!」

「えぇ!? 足で止められたんだけど!!」

 

 足で受け止める、というまさかのものであった。足の鋭い爪で剣を受け止め、デュアルのそれを押し返そうとしている。

 それだけではない。空いている手で羽を引っ掴み、それを至近距離から投擲する。反射的に避けようとするが、半ば鍔迫り合いのようになっているこの状況でできるはずもない。胸に数個突き刺さり、そして順番に炸裂した。

 

 胸を襲った衝撃によって吹き飛ばされ、壁に叩き付けられてしまった。

 肺から空気が逃げていく感覚がして、彼女は胸を抑えながら苦しそうに喘ぐ。地面に蹲り、立ち上がる気配のないところを見るにその痛みは相当なものなのだろう。

 

 その様子を見てカラスは好機だ、と思ったらしい。散らばった金品の一部を拾い上げると、彼女に背を向けて急いで逃げていく。

 

 今のデュアル……カイに、カラスの逃走に気付くほどの余裕はないらしい。経験したことのない痛みと、もしかすると死ぬかもしれないという恐怖。それらに起因する動揺で軽くパニックを起こしているのだ。

 それを見かねたリイは再び体の制御権を奪うと、胸の痛みをなんとか堪えつつ立ち上がる。

 

「……ここからは私がやるわ。ちょうど気になっていたことも試せるし」

 

 そう言い、ドライバーから白のバックルを引き抜いた。地面に放り投げられたそれは細かい破片になって儚く宙に散っていく。

 それを目で追う彼女の左手には、すでに黒のバックルが握られていた。

 

《Dual Driver!! Ready!!》

「……サイドチェンジ、とでも言っておきましょうか」

《Gloom side・Blooming!!》

 

 白い姫騎士のような鎧が剥がれ落ち、黒のゴスロリ衣装のような見た目をした装甲が体を覆っていく。

 手の中に現れた二丁の銃をクルリと回しながら彼女は駆け出した。

 

The Black Archer Lurking in the Dark(闇に潜む黒き射手)!!  Dual Gloom!!》

「逃がさないわよ」

 

 逃げるカラスの背中に銃撃を加えていく。火花を散らし、体勢を崩しそうになるも彼は止まらない。

 

 止まれば倒される。仮面ライダーというものに遭遇すれば敗北あるのみだと、この怪人になるための装置をくれた人間がそう話していたのをしっかりと覚えていたからだ。

 

「彼女は強い。遭遇すれば必ずお前が負けるだろう」

 

 見た目こそ教えてくれなかったが、しかしそれと遭遇した者たちがほぼ全員撃破されているというのだからその実力は本物のはずだ。

 そして、恐らくはその死神染みた存在が今自分へ向けて迫ってきている。足を止める選択肢など取れるはずがなかった。

 

「うおおおおッ!!」

 

 決死の覚悟でモールの吹き抜けになっている部分へ飛び込んだ。背中から生えている翼で地階に降り、その足で外へ出て飛んで逃げてしまおうという算段である。

 まさか後を追って飛び降りるなどという馬鹿げたことはしないだろう。そんな甘い考えの彼の背に、突如不可解な重みが加わった。それによってバランスを崩し、腹から地面に激突してしまう。

 

「ちょうどいいクッション材だった。礼を言うわね」

 

 重みの原因……デュアルはそんなことを言いながらカラスの頭を踏みつけ、銃口を充てる。

 

 カラスが吹き抜けに飛び込む直前、彼の背にギリギリ追い付いていたのだ。彼が飛び降りるのに合わせて彼女もほぼ同時に飛び込み、彼の背に飛び乗ったのである。

 結果カラスは着地に失敗した挙句人一人分の衝撃をプラスで食らうことになってしまったのだ。

 

 彼は今の状況を即座に理解すると、それから逃れるためにデュアルの足を掴んで勢いよく地面を転がった。それに合わせてデュアルも姿勢を崩され、地面に叩き付けられる。

 

 彼女の束縛から解放された。この際金品はどうだっていい。逃げ切ることができなければまるで無意味だ。

 

 散らばった金品に目もくれず彼は目の前にある出入口へ向かって全力疾走。

 

「正面から戦っていればよかったものを」

 

 そんなカラスに冷徹な視線を送りながら、彼女はバックルについているスイッチを押し込んだ。銃に黒いエネルギーが集まっていく。

 

「狙いやすくて助かるわ……!!」

《Full Blooming!! Gloom Strike!!》

 

 冷静に照準をカラスの背に合わせ、ドライバーから電子音声が響くのと同時に引き金を弾いた。

 放たれた二つの漆黒のエネルギー弾がカラスの背に直撃し、爆発を引き起こす。

 

 中から現れたのは覆面を被った全身黒の衣服に身を包む男。気を失って倒れているそれの近くに、あの怪人になるための道具が転がっている。

 変身を解除した海梨はそれを拾い上げ、まじまじと見つめ始めた。

 

「ねぇ、カイ。こんなもののせいで私たちの日常を邪魔されるなんて、気に喰わないと思わない?」

 

 いきなりそう問いかけられ、カイは今回含めて三度怪人と出会ったタイミングを思い返す。今回は鈴奈と遊んでいる最中であるし、前回は彼女を家まで送っている途中で出くわした。その前も下校中のことである。

 全部、何気ない日常の最中に起きた出来事だ。言われてみれば確かに気に喰わない。

 

「如月史帆の方に協力しましょう。邪魔するやつらを片っ端から潰していって、そうすればこんなくだらないものに怯える必要もなくなるわ」

 

 道具を握り潰し、そう提案する海梨の表情は怒りに満ちていた。友人との大切な時間を邪魔されたことに相当腹を立てているらしい。

 リイのその怒りをカイは否定せず、それどころか大いに同意を示す。

 

「……そうだね。やろう、私たちで」

 

 壊れた道具の破片を床に放り、手を握り締める。

 その瞳は決意に満ちていた。




[tips]如月史帆

突然海梨と鈴奈の前に姿を現した女性ライダー。
怪物に詳しいと語ったり、デュアルではないもう一人の方の仮面ライダーとの面識を匂わせたりとかなり謎に包まれている。
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