ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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美術展で会った人だろ いやまだ始まってないけど

 いつも通りの授業、ただし今日も授業は例の美術展の都合で午前中だけ。明日から一般向けの美術展が始まるから、今日はえらいさんの行事がある。ほーんって感じ。まあイヴちゃんも警備のおしごとで出るから他人事でもないんだけど。

 3時間目の休み時間、クラスメイトに小テストの答えを聞かれていたイヴちゃんにお客さんがあった。ティーパーティーの制服を着ている知らない……あれ、金髪のセミロングをお団子にして眼鏡をかけていたのでわからんかったけど、ヘリの操縦士さんだね。

(イヴちゃん、アビドスにヘリで行った時の操縦士さんだよ)

 操縦士さんはにこりと微笑んだ。きつめの目つき*1が笑顔で相殺される。

「ごきげんよう、御蔵さん」

「……ごきげんよう……」

「私、飯郡(いいごおり)ハナハがティーパーティーの桐藤ナギサ様から伝言を預かってきました。今読んで、返事をもらえる?」

 クラスメイトの控え目だけど隠しようのない注目の視線が2人に集まる。

 操縦士さんもといハナハさんは上品な仕草でポシェットから手紙を取り出してイヴちゃんに手渡す。「外で待ってようか?」という飯郡ハナハさんをイヴちゃんは制して封を開いて手書きの流暢な手紙を読む。

 ティーパーティーに預けっぱなしになっていたアビドスの大蛇(ビナー)のパーツについて、『ティーパーティーの至宝展』で今日から1週間展示していいかという話だった。

(……別に、いいよね……)

(ええんちゃう?別に急いでないしね)

 調査研究の成果は教えてくれるかなあ。そういう条件つけてなかったから無理か。

 ともかく、イヴちゃんは小さく頷いた。

「……構いません、とお伝えください。それと、飯郡さん、イヴと呼んでください……」

「じゃあ、私もハナハと呼んでもらって大丈夫。ありがとう、イヴさん。ナギサ様には確かにお伝えしておきます」

 飯郡ハナハさんは優雅に一礼してから教室を出て行った。

 さっき話してたクラスメイト以外にも人だかりができる。

「イヴちゃん、ティーパーティーの人、何の話だったの?あ、やっぱり自警団の話?」

「……自警団の話、なのかな……?美術展で、私の持ってきたお土産が展示されるかも……」

「へー、すごい!」

 うんまあ、お土産っちゃお土産だし、自警団の仕事でアビドス行った時のだから合ってはいる……のか?

 授業の開始時間が近いし、人垣はあっという間にはけた。

 宇沢レイサさん達も心配そうな目でイヴちゃんを見てたけど、イヴちゃんが小さく微笑んで手を振ると安心してくれたらしい。下江コハルさんだけはそれを見てからぷいっと顔を逸らして「私は最初から興味無かったし!!」というアピールをしている。可愛い。

 

 いつも通りのお昼。今日のお昼ご飯チョイスはイヴちゃんで、ステーキアンドキドニーパイ*2とフィッシュアンドチップスとサラダ。朝吹ソフノさんにはどっちも量を減らした代わりにサラダ多め。ミレニアム土産の銘菓チョコレートをデザートに。

 下江コハルさんも伊落マリーさんもそれぞれ正義実現委員会とシスターフッドに、昼からの式典の打合せに出ないといけないので今日は不在。

「コハルちゃんもマリーちゃんも大変だね」

「レイサちゃんとイヴちゃんも、自警団として出るんじゃなかったの?」

「はい!スズミさんから『式典中は私の後ろに立っていて、終わったら各団体幹部の後ろについて護衛を。襲撃とかがあったら反撃してください。打合せはしません』ってメッセージが来てました!」

 見た見た。まあ実際、自警団の普段の仕事も即興でやってるみたいなもんだしな。他の団体と違って、自警団代表の守月スズミさんも何かスピーチとかがあるわけでもないみたいだし。それにしても、飾り気の無い素直さというか、守月スズミさんの性格の良いところが出てる気がするね。

 一応イヴちゃんもメッセージを確認したけど、同じことだけで追加の連絡とかは来てない。

 お、古関ウイさんからメッセージが来た。

『ティーパーティーから使者は来ましたか?アビドスから持ち帰ったものについて、イヴさんの言う『神秘』を持つ人間、すなわち多くの生徒の人目に晒すことが浄化の儀式となるそうです。今日、後でお話しましょう』

 浄化?儀式?持ち帰ったものってアビドスの大蛇(ビナー)の装甲板やんな?なんか不穏な単語が並んでるが何なん。イヴちゃんも首を傾げた。

 

 ご飯を食べて、2人の励ましの言葉を受けつつ宇沢レイサさんと連れ立って(もちろんしっかり手は繋いでる)学園内の美術館へ。地上4階、地下3階の計7階建、神殿を思わせる荘厳な石造りの立派な建物だ。

 周囲は外周警備に就くらしい正義実現委員会の子達がたくさんと、ぱらぱらと美術館内に向かう自警団員の子がいる。あ、下江コハルさんだ。気付いた宇沢レイサさんが大きく手をぶんぶん振り、イヴちゃんも胸元で小さく手を振った。下江コハルさんは「ばか!ばか!仕事中!」って口の動きだけで言っている。

 先輩らしき子(顔は見たことがある)が笑顔で下江コハルさんの肩を小さくつついて、渋々という感じで下江コハルさんも手をちょっぴり振り返した。イヴちゃんも小さく微笑む。先輩も2人に目礼して――繋いでる手を見てちょっと赤くなって、下江コハルさんに耳打ちした。多分だけど、下江コハルさんに「あの子達付き合ってんの?」みたいな事を聞いてるっぽい。猫目になって口だけで「ばかレイサ!ばかイヴ!」って言ってるっぽい。読唇術が使えるわけじゃないから推測だけど。しかし湯気を立てて怒ってる下江コハルさん可愛いなあ。

 

 建物入口の警備として立っている正義実現委員会の子に学生証を見せた2人は養生テープで貼られた案内を見ながら特に迷わず大会議室へ。

 えらいさんようさんおるなあ。暇なのかな?なんて言ったら怒られそうだけど。

「イヴにレイサではないか。ご苦労だな」

「あっ!こ、こんにちは……」

「……こんにちは、マコトさん……」

 後ろから急に声をかけられてキョドってしまった宇沢レイサさんの手をきゅっと握りしめるイヴちゃん。

 羽沼マコトさんと、お付きの万魔殿(パンデモニウム)の子は知らない子だった。護衛も兼ねているのか無言で小さくお辞儀するだけ。

「キキキッ、別に取って食いはしない。それにしても何だな。トリニティの高官は暇なのか?」

 もちろん2人にしか聞こえないようにという小声ではあるけど、ずばっと言っちゃったなあ。ブーメランのような気もするけど、いやこの人の場合は外交だからか。

「……マコトさんも、招待されてたのですね……」

「ああ。ゲヘナから寄贈された品もあるしな。同様のイベントをゲヘナでも開催予定だし、時間をやりくりして来たわけだが。お前達も含めて未来の部下で後輩の顔を拝みに来たと思えば悪くはない時間の使い方だ。おっと、またな」

 他のトリニティの偉い子に声をかけられたらしく、一瞬うんざりした顔をしてから胡散臭げな笑顔を浮かべる。

「やあやあ、君は、冷酷なる転入生管理室長君ではないか。アネモネ学院*3の元生徒は君の事を今でも愛してるかね?」

 そう言いつつ、羽沼マコトさんは現場から歩み去って行った。

*1
前もそうだったし、別に機嫌が悪いとかそういう感じではないようだ

*2
そのまま、牛肉ステーキ・腎臓がカットして入ってるパイ。美味い

*3
去年廃校になった学校らしい。トリニティが生徒の何割かを引き受けたのだとか。何かで読んだ。




飯郡(いいごおり)ハナハ
 ティーパーティー所属の2年生、行政官。ヘリコプター操縦と整備の資格を持つ。近眼で普段はコンタクト派だが、ヘリ整備作業などの時は眼鏡。視力が初等部卒業の頃から悪くなり、目つきも悪くなってしまった(遠くを見るときに目をすがめる癖がついたため)のを気にしている。温厚で同僚の信頼も厚く、上層部からの覚えも使い勝手的な意味で良い。中肉中背。髪は金髪のセミロング、整備の邪魔にならないように団子や三つ編みにする事が多い。中等部に妹がいる。

 書類仕事よりヘリ周りの業務担当の事が多く、今日は式典の先生送迎用に授業を免除されて朝からヘリの整備をしていた時に桐藤ナギサ直々の呼び出しでティーパーティー視点の要注意人物であるイヴへのメッセンジャーをやらされ、手紙を届けることになった。本人は気を悪くはしていないが、途中で他の子に任せていた作業が気になっていた。
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