ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
済みません……。
嫌そうな顔をして一旦口を閉じた古関ウイさんにイヴちゃんが質問する。
「……アビドスの大蛇の……?」
「ええ。イヴさんはもちろん触ったのでしょうけど、レイサさんは、アレに触りましたか?」
「確か……少しだけ?」
現場でかっ剥いだ後にアビドス勢と先生とみんなで記念(?)に触った気がする。
「その後、何かありましたか?例えばですけど、悪夢を見たりとか」
「いいえ?」
「……私も、特には……」
溜息を深々とついた古関ウイさん。ちらっと周りを見てから声を小さくして言葉を続ける。
「イヴさんがティーパーティーにアレを預けてから、小火器工廠の技術部門が調査に当たっていました。調査初日、2日目ともに関与した生徒12名から『悪夢を見る』という報告があったのです」
「えっ、もしかして怖い話ですか?」
宇沢レイサさんはちょっと嬉しそう。あれ、怖い話好きなのかな?意外なところに愛好家友達候補がいたとは。嬉しいな。
イヴちゃんはもう滅茶苦茶嫌そうな顔だ。僕がキマシ異臭を出した時以上にしかめっ面をしている。全力で聞きたくないって顔をしているが、古関ウイさんは無視してか気付いてないのか続ける。
「これを怪談の一種に含めていいのかは悩むところですね。1人を除いて全員同じ夢を見たそうですから。夢の内容は『視界が効かない真っ暗闇、熱い砂の中を泳ぐように掘り進める夢』だったそうです。砂湯の経験者が1人いて、その人が特に『砂だった』と主張したそうですけど」
「他の1人は、違う夢だったんですか?」
「ええ。『暗い谷底から、大勢の色んな種族の、裸の女の子が這い上ってきて、必死で崖を登って逃げる」
古関ウイさんのぼそぼそと小さい声が更に小さくなり、ちゃんと聞こうと身を乗り出す2人。
「後少しで頂上、助かるというところで、女の子に足を掴まれた。「連れてってよぉ!」』」
最後の迫力のある叫び声で、宇沢レイサさんとイヴちゃんが小さく椅子の上で飛び上がる。怪談語りまで才能があるのか。宇沢レイサさんは「面白いですね!」ってニコニコだけど、イヴちゃんは蒼白になって震えながら、宇沢レイサさんの左肩にひしっと抱きついた。ふるふると左腕を抱きしめられて、真っ赤になって固まる宇沢レイサさん。でも顔はふにゃふにゃなんよな。
その様子を見て、口から砂糖を吐きそうな顔になりつつも、古関ウイさんは言葉を続ける。
「両日とも、同じ内容の夢だったそうです。それに、何人かはお互いの夢の内容を伝えていたそうですが、ほぼ全員が同じ夢を見たのがわかったのは2日目です。まあ、2日目に関しては、聞こえないようでいて聞こえていて、潜在意識が影響したという考え方もできなくはありませんが」
「……そ、それで……?」
「ティーパーティーはシスターフッドと図書委員会に前例と対策の調査を命じました」
「あったんですか」
「ありましたね。シスターフッドには古典由来の『
苦々しげな顔の古関ウイさん。イヴちゃんはちょっとずつ落ち着いてきたみたいだけど、まだちょっと怖いみたいで宇沢レイサさんの腕を抱きしめたまま目線を彷徨わせる。数秒して何か閃いたようで、背を丸めて宇沢レイサさんの膝の上に座った。宇沢レイサさんはめっちゃ嬉しそうで顔真っ赤で困った風な顔を作ろうと努力してるけど全然上手く行ってない。
多分困惑してだろうけど、眉をひそめる古関ウイさん。でもツッコミはしなかった。諦めてるのか、このナチュラルいちゃつきに巻き込まれたらたまらんって思ってるのか。
しかし、確かに同じ調査してるのに、古関ウイさんから見たらなーんも伝わらんってなると怪しく思えるよな。キリスト教とも違うから憶測だけど、聖別の方をやったんだろうと思うけど、この辺って別に僕の記憶だと秘密でも何でも無かったはずだけど、シスターフッドはどう扱ってるんだろう。洗礼を受けないと秘蹟*1ってどれも見られないんかな~。洗礼はイヴちゃんの信仰を勝手に固定しちゃう的な意味でちょっとな~。
「同様の事例が、私の調査でもありました。『我々ヘイローを持つ、生徒の目に触れさせること』が解決策だそうです」
「……それで、美術展、ですか……」
「あれのためだけにってことですか?!」
古関ウイさんは首を横に振った。
「レイサさんも自警団の重鎮ですから、ゲヘナとの話は聞いてますよね?」
「あ、あの条約ですか?」
しっ、と何かを恐れるように小声で咎める古関ウイさんに、首をすくめて「すみません」と謝る宇沢レイサさん。
「まあ、ここにいる人達は知ってるかもしれませんけどね。主なのはもちろん、アレ絡みです。ですが、ゲヘナへの交渉材料としてもあの装甲板は使いたい。その装甲板が見ただけでうなされるようなものでは困ると」
つまんねー話をする顔で紅茶を飲み干した古関ウイさん。
「……安全、なんですか……?」
「展示前に、正義実現委員会に収監されてた生徒数十人に、刑期短縮と引換えに、誰も悪夢を見なくなるまで何日か凝視させたそうです。『現状でも、もう悪夢を見る生徒はほぼいないはず』だそうですが、じゃあ何で展示してるのかって話なのですが」
あはは、と苦笑いする宇沢レイサさんとイヴちゃん。
「まあ、即効性だそうですから、今夜寝て見る夢が悪夢ではないなら、多分大丈夫でしょう。ああ、長々とつまらない話をしました。今度はお2人とも、本の話をしましょう」
「本当にお疲れ様です」
「……お疲れ様、です……」
返事のような唸り声のような音を残して立ち上がり去って行く古関ウイさん。今度のことについて触れてくれる辺り、ちょっとは態度が軟化してくれたのかもしれない。
古関ウイさんが会議室から出るのと入れ替わりに入ってきたティーパーティーの子が「正義実現委員会ならびに自警団の警備業務はこれで終わりです」と伝えてくれた。
やれやれという感じで立ち上がって、宇沢レイサさんの膝の上に座っているイヴちゃんを見てギョッとする子、やってるなあ、って生暖かい笑顔で通り過ぎていく子、反応はまちまち。
「……レイサちゃん、この後、予定ある……?」
「無いですね!」
「……もう一回、美術展、見に行く……?」
「いいですけど、そもそも見られるんですかね?」
「……大丈夫、警備状況の確認のために、自警団と正義実現委員会の人は夕方まで入れるって貼ってあった……」
「じゃあ、行きましょう!」
美術館内は偉い子達から解放されたゆるい空気が漂っていた。イヴちゃん達同様、解放されたからついでに眺めていくかって子達と、明日の一般向け開場に向けて設備や展示品の確認のため忙しげに行き交う子達が行き交っている。
他の展示物は軽く流して、さっきお互いが足を止めたところを見に行こう、ってことで、まずは宇沢レイサさんが足を止めた腕時計のところに。
宇沢レイサさんは2人の花嫁の写真に見入っていて、イヴちゃんはしゃがみ込んで腕時計の細かい造形を眺めている。ティーパーティーの紋章が中央上に一番大きく入っていて、その下に小さくゲヘナの校章が入っている。針にも何か彫ってあるし、ベゼルとかも植物の蔦のような模様が入っていて凝ってるな。
「そ、その。イヴちゃん」
「……なあに……?」
イヴちゃんが宇沢レイサさんの方を見上げる。
「そ、その、ウエディングドレス、って、どう思います?」
「……可愛い、かな……?」
「そ、そうですよね!可愛いですよね!」
真っ赤になりつつちらっちらっとイヴちゃんの顔と写真を行ったり来たりする目線。多分、宇沢レイサさんなりに全力で「ウエディングドレスを着たいかあるいは着せたいか」的な探りを入れてるんだろうけど、問い方が漠然としすぎててイヴちゃんでなくてもあんまり判らんと思う。まあそもそもまだお付き合いしてないしちょっと段階早すぎるかなって。え、してないよね?
ピンと来た顔をしたイヴちゃん。えっ、ピンときちゃった……?今から宇沢レイサさんを抱き上げて結婚式しよう!とか言ったら密かに泣いちゃう。
「……コスプレ……?」
「あっ、えっ、あ……はい!するなら、これかなって!」
「……レイサちゃんなら、きっと、凄く可愛い……」
ちょっと残念そうだけど、てれてれする宇沢レイサさんは確かに可愛い。
ピンとは来てなかった。僕は内心ちょっとホッとした。良くない発想だとは思うんだけど。
黄金のパスタをじーっと食い入るように立ったりしゃがんだり斜めに身体を傾けたりと見つめるイヴちゃんと、しっかり手を繋ぎながらも文句の一つも言わずに付き合う(凄い偉いと思った)宇沢レイサさん。というか、宇沢レイサさんは途中からイヴちゃんの顔を見てるな。うっとりと溜息をつくイヴちゃんの顔、確かに見応えはあると思うし、ずーっと同じ展示品見てたら飽きそうだもんな。
「ちょっと、まだ見てるの?もう閉館時間なんだけど?」
呆れたような、というか呆れてるのだろうけど、後ろから声をかけてきたのは下江コハルさんだった。
「あっ、コハルさん、お疲れ様って、えっ、もうですか?!」
「……お疲れ様……」
「20分くらい見てたじゃない。もういいでしょ」
「……晩ご飯、ソフノちゃんと、モユルちゃんと行く予定なんだけど、どう……?」
「行きた……エリートの私は、この後も明日の警備とかの打合せがあるから!さっきの大騒ぎの後始末もあるし!」
確かに、正義実現委員会の先輩だろう。下江コハルさんを呼ぶ声がしている。伊落マリーさんも駄目だったし、今日はちょっと残念だね。
「……残念……」
「またお昼ご飯一緒に食べましょう!」
「あーもう!わかったから!ほら帰って!!」
さっきの大騒ぎって、って聞きかけたけど、照れっ照れで猫目の下江コハルさんが先輩に呼ばれているからか焦ってぐいぐい2人の背中を押して追い出したので聞けなかった。可愛いね。
美術館を出てからモモトークを見るとトリニティ・ゲヘナの防衛関係グループで「羽沼マコト議長が『先生を遊覧飛行に招待する』と称して半ば強引に先生を連れ出し、万魔殿のヘリに乗せて離陸したので、撃墜しないよう、また撃墜されないように」という案件でトリニティからゲヘナへの飛行ルートの下を装甲車両や船舶やらを出して警備したりとか大騒ぎだったらしい。なるほどな~。
2個目の夢は勿論例のあの話です。ナイフと
最近書き間違いが多すぎてヤバなってきました。済みません。
脳内で「骨髄って判りづらいだろうから便宜上『装甲板』とか『構造物』とか書こうかな」って思ってたのがそのまま反映してしまいました。
明日は急遽歯医者に行く案件が発生しそうなのでお休みです。
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