ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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吐き気がする邪悪なテスト範囲 いやそこまででもない

 毎日毎日顔色が悪くなっていく下江コハルさんと試験会場を一緒にして心配そうな大天使イヴちゃんのどっかから沸いたおまけ、ジルです。

 イヴちゃんは細かいミスがぱらぱらあったけど、古代語以外はまあ大丈夫じゃ無いかな。古代語がな~。イヴちゃんも僕も苦手なんだよな。80点以上はいけてるとは思うんだけど、この教科が平均点押し下げてきそう。

 

 そうそう、試験最終日の前日に図書館の会議室*1 に、意外な乱入者があった。左茶髪、右金髪、銀髪のポニーテール、トリニティ制服を全体黒っぽい感じに改造してあるけどスカートの長さは普通にした制服の女の子が駆け込んできた。見覚えある顔だけど誰だっけ。

「あっ、いたっす!レイサ姐さん!イヴ姐さん!助けてくださいっす!!!」

 くそでか大声で宇沢レイサさんグループの皆が目を丸くしている。*2イヴちゃんの刮目、めっちゃレアやで。いやそこまでレアじゃないか。

「あっ、えー……杏山カズサの……」

「……乱入してくるとは、とんでもないやつだ……」

 宇沢レイサさんが頑張って言葉を絞り出して、イヴちゃんがああ、って顔をした後に呟く。ああー、舎弟ちゃん。

「あっ、えっ、名乗ってませんでしたか?!」

 宇沢レイサさんとイヴちゃんが頷く。そういや聞いてないな。

「カズサ先輩の一番の舎弟、飯郡(いいごおり)ヨシヨっす!えっと、お2人はレイサ姐さんとイヴ姐さんの友達っすか?!よろしくお願いしまふぎゃっ?!」

 後ろから襟首を掴まれて宙吊りになる舎弟ちゃんもとい飯郡ヨシヨさん。おーやってんね~って顔で自己紹介をする報野モユルさん。

「あたし、報野モユル。こっちは朝吹ソフノ。レイサちゃんとイヴちゃんの友達だよ。よろしくね」

「ええと、飯郡さん?図書館ではお静かにお願いしますね?」

 後ろからつまみ上げるというかねじり上げるというかしてたのは円堂シミコさんだった。全然目が笑ってない笑顔で釘を刺す。片手で同じくらいかちょい背高い体格の女の子掴んで宙吊りにできるのすげーな。

「は、はいっす……すんません……」

 

 ぺこぺこ平謝りして許してもらった飯郡ヨシヨさんが会議室の扉を閉めてから、改めて話を聞く。

「ふー、図書館の中でぶちのめされるかと思ったっす」

「……飯郡さん、って、お姉さん、いる……?」

「ヨシヨでいっすよ!ティーパーティーにいるっす!」

「あれ、レイサちゃんとイヴちゃんの妹じゃないんだ」

「ち、ちち、違いますよ?!」

「……レイサちゃん、アビドスに行った時のヘリの操縦士さんの、妹さん……」

「ああ!この間も教室に来てましたね」

 頷く宇沢レイサさん。

「娘ならともかく、妹っておかしいでしょ」

 朝吹ソフノさんが報野モユルさんに引っ張られてかやや変な事を言い出す。娘でもおかしいよ。

 ギザ歯はともかく、目元は似てるかも。飯郡ハナハ(お姉さん)さんの方が目つき悪い(失礼)けど。

「……お姉さんには、教われない……?」

「姉さんとは別に仲悪くないんすけど、教え方あんま上手くないんすよね。教わっといて文句つけるのも何だしなーって思って。そうだ、カズサ先輩に教わろう!って思ったら彼女ができたんすかね。後輩放っておいて酷いっす!」

「杏山カズサに彼女?!」

「あの、同じ部活の黒髪ロングの先輩っす」

「……アイリさん……?」

 え、まじか。栗村アイリさんとくっついたんか。まあめっちゃ好き好きビームは出てたけども。

「まあ先輩に彼女が出来るのはいいんすよ。先輩が一番かっけーのは別にわかってるんで。アタシは愛人でも全然大丈夫っすし」

 冗談なのか本気なのかの発言に口笛を吹く報野モユルさんと、あわわって真っ赤な顔をする宇沢レイサさん。朝吹ソフノさんは苦笑い。イヴちゃんは首を傾げた。

「……それで、どうして私達……?」

「カズサ先輩が『イヴは凄く勉強できるからあいつに教わってきたら?』って言ってましたっす!」

 マルナゲやんけ。でもイヴちゃんはまんざらでも無さそうに胸を張ってドヤ顔をする。後輩より胸を張ってもボリュームが、いやまあこれが良いんだけど。

「それに、正義実現委員会に入るのには赤点多すぎると駄目らしくて!」

「ある程度はいいのね」

 朝吹ソフノさんが遠い目をした。一応、トリニティは文武両道を謳ってるはずだからやや不味そうな気もしなくもないが。

「中等部のテスト、日程は違いましたっけ?」

 宇沢レイサさんが首を傾げる。

「一緒っすよ?」

「……もっと早く来たらよかったのに……」

「なんか、何とかなるかなって思ってたけど駄目だったっす!」

 そんないい笑顔で言う言葉じゃない。

 うーん、と考え込む一同。みんなもまだ試験終わってないからな。

(イヴちゃん、断る?)

(……後輩に、何か教えるって、初めてだから……したい……)

 イヴちゃん、立派になったなあ。単に好奇心的なものかもしれないけど、嬉しい。

「……晩ご飯までは、この勉強会があるから、あんまり教えられない……」

「その後でもいいっす!横で勉強してるんで!暇な時に教えてくださいっす!」

 僕が平行して教えるって手もあるけど。あ、そうだ。

(じゃあ、僕が先に寝ておいて、夜中になる前にイヴちゃんと交代したらいいか)

(……名案……)

 徹夜は本当は効率良くないんだけど、左右別に教えるの、特にイヴちゃんの友達の前では見た目がアレ過ぎてやりたくねーからな。お休み。

 

[イヴ視点]

 ジルが寝たので、頭の中が凄く静かになった。最近は生活時間を合わせてるから、何だか珍しい感じ。

 別に頭の中が騒がしいからって、普段も考え事に困ったりはしないけど。

 

 私自身の勉強は「あと何点伸ばせるか、ミスをどれだけ減らせるか」っていうレベル(ジルに見てもらっても間違いなさそう)だから、あんまり根を詰める気になれない。サボっていても時間がもったいないから、ちゃんと勉強はするけど。

 一人ならこんなやる気にはならなかったと思う。毎日がとっても楽しい。試験もそんなに苦じゃない。みんなと違う教室で受けるのはちょっと嫌だけど。

 それに、何だか右手が寂しい。レイサちゃんの手、すべすべで柔らかくて、ずっと触っていられるからかな。

 

 19時くらいに日中の勉強会はおしまい。学校近くの商店街をみんなで歩く。「昨日はカツ丼だったから、今日はカツカレーにしよう」とモユルちゃんが言ったので、みんなでカレー屋さんに来た。

 言い出しっぺのモユルちゃんはほうれんそうチーズカレーを食べててちょっと笑っちゃった。モユルちゃんはそういうハシゴ外すの好きだよね。

 後輩のだから、ってみんなでヨシヨさんの分を出し合った。先輩って感じがして、ちょっとわくわくする。

「先輩方、ご馳走さまっす!」

 みんなはここでお別れ、みんなとの楽しい時間は今日はおしまい。別にヨシヨさんとの時間が苦痛とまでは言わないけど、初めて――でもないか――けど、そんなに長く話してない人と話すのは得意じゃ無いから緊張する。

 

 ファミレス、バーガーショップ、と悩んで、結局目についた24時間営業のチェーンの喫茶店にした。いつものファミレスには、みんながいないときに連れて行くのはちょっとためらっちゃった。入ってから、チェーン店を使いたがらないジルならこの店は選ばなそうだなと思う。

 当然、ここも奢ってあげることにする。先輩だから。少し背筋がむずがゆい。

「ご馳走さまっす!嬉しいっす!」

 私はホットココア、ヨシヨさんはコーラフロート。

 

 何かのメッセージが来てたらしく、ヨシヨさんは私に断ってスマフォを触っていた。

 無事終わったらしく、スマフォをヨシヨさんがしまったタイミングで注文した品が来たので、私は口を開いた。

「……ヨシヨさん、明日の科目はどれ……?」

「これっす!」

 タブレットで提示された科目一覧を見る。古代語が入ってるのに内心ちょっと顔をしかめる。でも、中等部のだから大丈夫かな。

「……過去問はタブレットに入ってる?テスト範囲、どこがわからない……?」

「何がわかんないかがわかんないっす!!」

 溜息をつきそうになるのを我慢する。最初は私もそんなものだったし。

「……暗記しないといけない部分以外で、わからないところをやっていこう……」

「はいっす!!!」

 ちらりとタブレットの時計を見る。ジルが起きるまでは1時間ちょっと、朝までは11時間。どれだけ教えられるかな。

 

 大体、わからないところの洗い出しが終わった。テスト範囲からかなり遡ったけど、これだけ整理できたらいいと思おう。

 困った。初等部の頃からつまずいているところが多すぎる。本当はもっとしっかり教えたいけど、試験が明日、厳密に言うともう10時間くらいしかないから間に合わない。まだ1科目目なんだけど。

「イヴ姐さん、すげー顔してるっすけど大丈夫っすか?ココア買ってきましょうか?」

「……ありがとう。大丈夫……教え方に、悩んでただけ……」

「えー、めっちゃわかりやすいっすよ!?」

 裏表のないにこにこ笑顔が眩しい。う、正直、あんまり面識が無い私にこんなに無邪気な笑顔を向けてくれるのは重い……。

 ヨシヨさんの信頼に応えてあげたいけど、どうしよう。できることはなるべくしてあげたいけど。あ、ユウカさんは、こんな気持ちだったのだろうか。

 ああ、それにしてもどうして1人で考えてるんだろう。ジルがいないとやっぱり大変。ジルがいないとき、私はどうしてたっけって思う。まだ1年ちょっとなのに。それに、私以外の人も、みんな1人で考えてるの?大変。

 頭の中で起き上がる気配。あ、ジルが起きた。

(……よかった、ジル……)

(おはよう~。えー、どんな感じ?)

(……これこれもにゃもにゃ、こう……。「根っこまで叩いて追って潰さなきゃいかん」……って感じ……)

 ジルが考え込む気配。私は遡ってちゃんと理解をさせていかないと難しそうだと思う。夕方までにやったところを確認したけど、そこまで覚えられない感じでもないし。

(わかった。代わるよ。時間があったらイヴちゃんの言うとおりなんだけど。あと9時間ちょいしかないからなあ)

 身体の主導権をジルに譲る。ジル、どうするつもりかな。

 

 ジルは私がやってたみたいに自分の頬を叩こうとして、掌を眺めて少し固まった。

「あ、あの、イヴ姐さん?」

「ヨシヨさん、ちょっと、軽くだけど、気合を入れるのに頬を叩いていい?」

「え?い、痛くしないでくださいね?姐さんの本気でぶん殴られたらアタシ死ぬっす」

「しないよ」

 あくまで軽くだけど、ジルはヨシヨさんの両頬を軽くぴしゃっと叩いた。

 

 スゥーッ、ハァーッ、っと、チャドー*3の呼吸をしてから、ジルは身を乗り出した。

「いい、ヨシヨさん。中等部の勉強は、理解とかそういうのじゃない。中等部の勉強は、ただの暗記だから」

 え、ええ……そうかな……。さっきまでの私の説明と180度方向転換したのに面食らった顔をするヨシヨさん。

「あっ、えっ、そうなんすか?!っていうか、イヴ姐さんなんかすげー圧が強いっす!」

「そう。時間がないからそういうことにしてて。今回は……」

「は、はいっす……」

 ジル、割り切ってとりあえず今回だけ凌げばいい感じにするみたい。時間が足りないからしょうがないか。本当はあんまり良くないけど。

 

 本当に暗記を詰め込むだけ詰め込ませてるジルに断ってから寝て起きたら早朝。ヨシヨさんは変な色の汗をかいて長く伸びていた。

「も、もう無理っす……」

「まだいける。テスト問題を見ただけで吐き気を催すくらい詰め込まないと……」

 ええ……。そんなことに……?

(……ま、まあとにかく、ジル、ありがとうね……先輩らしいこと、できたなら嬉しい……)

(いいってことよー)

 よろめくヨシヨさんを何とか中等部の寮に送っていって、私もシャワーを浴びて着替えた。2人いると、交代で休みも取れるしとっても助かる。

 私1人ではあそこまで割り切れたかもわからないし、自分の試験と両立も無理だったと思う。

 初めて、ジルの助けを借りてだけど、先輩らしいことができた。嬉しい。

 うん、今日の試験も頑張ろう。

*1
円堂シミコさんが気を利かせて予約しておいてくれていた。圧倒的感謝

*2
伊落マリーさんはシスターフッドの同級生に誘われて欠席

*3
百鬼夜行の茶道との関係があるのかないのか、ジルの説明だとよくわからなかった。




飯郡(いいごおり)ヨシヨ
 中等部3年生、元不良。ギザ歯がチャームポイント。身長161cm、スリーサイズは平均値よりちょっとある。髪は左茶髪、右金髪、銀髪のポニーテール(エクステ)。杏山カズサの強さに憧れて第一の舎弟を自称している。正義実現委員会に入りたいが、犯罪行為はしていなかったものの不良として夜間徘徊などをしていたことと成績に問題があり、また体力面でもやや厳しいことから入部は高等部1年になりそうである。素直な性格で、一度尊敬した人物には全幅の信頼を置くやや危なっかしいタイプ。銃は杏山カズサに憧れてブレン軽機関銃を使っているがあまり身体にあっておらず、喧嘩も弱い。声がでかい。
 高等部ティーパーティーの飯郡ハナハは姉である。姉妹仲は不良として活動していたときはややギクシャクしていたが、今は良好に戻った。

 ヨシヨの勘違いで、まだカズサとアイリはつきあってません。

 今週は歯科医通いとNileのライブがあるので土日くらいまでお休みになるかもです。

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