ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
宇沢レイサさんが跳び蹴りをかました反動を使ってお店のエアコン室外機に飛び乗り、更に飛び上がって隣の店の壁を蹴りつけて三角飛びの要領で庇を掴み、3階建の屋根にあっという間に登った。>ヮ<みたいな笑顔が眩しい。
「このトリニティ自警団最後の砦、宇沢レイサを倒そうと思うものは勝負です!」
「こいつさっきと名乗りが違ぎゃあ!」
宇沢レイサさんが前に出てヘイトを稼ぎ、イヴちゃんが後ろから大火力を投射して削り倒すというのが基本なのだけれども、2人ともパルクールが得意なので、どっちか、あるいは両方が高所をこうやって取ることがある。
2人ともゲームで言うところの
「あの馬、忍者はまだか?!」
「ただいま参上です!えーいっ!」
「くっ?!ぬぬぬ……ええい!」
屋根の上から見下ろし銃撃を効果的にして頭数を減らしていた宇沢レイサさんはトビゲリが突き刺さる直前ギリギリで気付いて、
「どうも、先生!久田イズナです!先生、やっぱり私の前に立ち塞がおおっとと?!」
アイエエエ?!ニンジャ?!ニンジャナンデ?!身体能力に優れたキヴォトス人の中でもやっぱり一段抜け出たものを持っているらしく、動きが尋常で無くいい。
宇沢レイサさんはニンジャではないけど一応アイサツだけは終わるのを待ってぶっ放す。あっさり避けた久田イズナさんは牽制のためかクナイ・ダートを数発投擲、銃身で弾いた隙に再度のトビゲリを入れたが、それも受けられたのであっさり切替え、シューティング☆スターを飛び石に大きく跳躍して空中で銃弾をばらまきつつ宇沢レイサさんの後ろに降り立ち、後ろ蹴りを放つ構え。
宇沢レイサさんはどっちかというと堂々と受けて反撃で倒す、という動きを好むので、後ろにくるくる回られたり搦め手を好んだりする相手はあまり相性がよくない。打たれ強さも相当だし反応できているからあっさりやられるとは思わないけど、
とはいえ、いくらニンジャが強いとはいえ、こっちも生徒4人がいる。1人で回天できるほど戦力に差があるわけではない。
「おい、忍者!撤退だ!」
残り10人程度、相手は意識を失った子を回収して逃げ出す算段を始めている。こっちも屋根の上の久田イズナさんと下の魑魅一座、先生の護衛と注意が分散していて『捕虜を取れないか』と河和シズコさんが先生に言ったみたいだけど、追撃自体が難しそう。
イヴちゃんも朝比奈フィーナさんへの支援を一旦中止し、屋根の上にウッドペッカーを叩き込む。狙いは久田イズナさん本人では無くて着地点の屋根だ。*1
「あっ?!先生、イズナは先生を倒し、きっと洗脳を解いてみせます!それまでしばしおさらば!」
宇沢レイサさんに追撃されるだろう穴へのしがみつき復帰より素直に落ちることを選んだ久田イズナさんはそのまま通りの逆側の窓から撤退したらしい。
しょんぼりした顔の宇沢レイサさんが屋根から飛び降りてきて着地した。
「何だか翻弄されてしまいました。すみません、イヴちゃん、先生、みなさん」
「"大丈夫、それより怪我はない?"」
「お2人とも強いデスね!さすがはトリニティ組から派遣された先生の用心棒デス!」
組ではないが。
「ありがとうございます、助かりました。追って叩けなかったのは残念ではありますけど。……っと、シズコ、怖かった~☆」
「"別に、繕わなくても大丈夫だよ……?"」
「な、何のことですか?シズコわかんな~い☆」
「……レイサちゃん、大丈夫そう……?」
「はいっ!平気です!」
漫才をしつつも逆襲に備えて全員が銃弾を込め直したり銃を確認して周りを見渡し、その気配がないのでまずは一安心。
先生と河和シズコさんが損害が出た建物にお詫びに回り、朝比奈フィーナさんが手榴弾やら地雷やらの危険な落とし物が無いか確認している間に、イヴちゃんは宇沢レイサさんの周りをくるくる回って怪我とかしてないかを確認している。今日は肌の露出も少なくてなおのことダメージは小さいようだ。小さいすり傷が何カ所かくらいみたいなので、消毒液を取り出してしゅっとかけておしまい。
一同は再び百夜堂に戻る。昼の営業時間が終わって、清掃に従事する生徒の立てる物音以外は静まりかえっている。今度は1階の一番奥の席だ。PRもしたしってことだろう。
河和シズコさん手ずから期間限定の桜サイダーが全員に振る舞われて、ありがたくいただいている。桜の香りがほんのりする美味しい飲料だ。
困惑気味な宇沢レイサさんがまず口を開いた。
「それで、先生、あの……さっきの屋根の方?はお知り合いですか?」
「"イズナだね。今朝、百鬼夜行を案内してくれたんだけど。悪い子じゃなさそうだけど、事情があるみたい"」
「……早くて、強かった……」
「あんな飛び跳ねることあるんデスねえ」
「魑魅一座だけじゃなくて、あんなも相手にしないといけないなんて……」
ほんとだよ。肉体能力だけでリアルニンジャやってるの、現実で敵に回すとすげー脅威だな。
桜サイダーを飲み干した先生が呟く。
「"どこか、応援を頼めるようなところはないかな?イズナがいないなら何とかなるかもしれないけど、それも難しそうだし"」
「……1対1で抑えるだけなら、きっとレイサちゃんか私ならできる……」
「次は負けません!……と思ってますけど、負ける気はしませんが、勝てるビジョンもいまひとつというか、あはは……」
やや圧されてた程度で、全然無理って感じではなかったけど、戦闘スタイルの相性の悪さがな。カラテの稽古つけてたらもうちょい展開が違ったかな~。銃ありきのキヴォトススタイル、得物のリーチの都合上、ニンジャのワンインチ距離とは当然相性がよくない。汚いさすが忍者汚い。向こうからしたら宇沢レイサさんにちょっかい出したあと放っておいて他に殴りかかってもいいわけだし。いっそ上から来るであろう久田イズナさんはガン無視して……。うーん、普段こっちがやってる効果的な戦法、当たり前だけど相手が使ってきても効果的だな。
「一応、百花繚乱に寄ってから、陰陽部に行きましょう。陰陽部は他の学校で言う生徒会みたいなものです。フィーナ、留守番頼める?」
「ハイ!委員長!」
「魑魅一座の奴らが、『腹が減って動けない』ってやってきたら?」
「ご飯を食べさせてあげマス!困った人を助けないのは任侠の名折れデス!」
「違うでしょ~!!!追い返すの!!本当、頼んだからね!」
「"じゃあ、案内してくれる?レイサ、イヴ、お願いね"」
(……どっちか残らなくて、大丈夫かな……?)
(先生に狙いを絞られる方が怖いからなあ)
(……それもそうか……)
百夜堂が最悪何とかなったら、うん。キヴォトスなんだし暴動で破壊された保険くらい入ってるやろ。河和シズコさんめっちゃ仕事できるガールだし。
と、一同が立ち上がりかけたところで、猫の人が1人入ってきた。
「やあ、災難だったな。まったく、ドンパチ賑やかにやってくれるよ」
「ニャン天丸さん!こちらはシャーレの先生と、トリニティから護衛に来てくださった宇沢レイサさんと御蔵イヴさんです。ニャン天丸さんは商店会の会長さんですよ」
えー、何だっけこの猫の人。なんか……ちゃんとストーリーに関わりある人だった気がするけど。
イヴちゃんは猫が好きなのでちょっと嬉しそう。猫の人はあくまで人間なので、撫でたり触ったりはしないけど。
「"こんにちは。いつも生徒がお世話になっているそうで"」
「ああ。よろしくな。で、祭りにも色々と今年は手を加えるんだろう?」
「ええ。今年の目玉のミレニアム製ホログラム花火もそうです」
(……翼についてる、これの強化版……?)
(確か、イヴちゃんのデータも含めてフィードバックを集約してこないだできたって言ってたばっかの新型だったような)
花火以外も色んなものを投影できるホログラフィック投影機を、特に花火の演出向けに改善したやつらしい。怪しげな脚部パーツらしいもの、自爆装置らしいもの信管除去済が脇に外されて転がっている。ナンデ?
「新しい事をやり始めたら、気にくわない奴が出てくる。生徒がそんな大金を使うのかってな。儂だってシズコ君にそう思ってるかもしれんだろう?」
「またまた、そんな事言って、ニャン天丸さんは色々と手伝ってくださってるんですよ」
「つんでれ、ってやつデス!」
「違うわい!ま、ドンパチの事は儂らは手伝えん。すまんな」
「いえいえ、とんでもない!これから陰陽部に相談に行くところですから」
「……そういえば、先に、電話とか……」
「駄目駄目!とにかく陰陽部の連中は腰が重いんだから!やれ『書類で出してください』だの『お力になれません』だの『お席がご用意できませんでした』だの、のらりくらり躱されるに決まってる!」
「"あはは……まあ、それじゃあ、行こうか"」
えー何だっけなあ。思い出せん。まあ思い出せんってことはきっと大した事じゃないんだろう。
宇沢レイサさんとイヴちゃんが椅子に座ってる間ずっと繋いでた手を離す。ちらっと寂しそうにイヴちゃんを見た宇沢レイサさんは先生の前、イヴちゃんは一同のしんがりを歩くつもりらしい。先生狙いって事は無いと思うけど、用心に越したことないしね。
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