ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
あー、え、こいつが黒幕……ってコト?!
「"つまり、ニャン天丸さんが君の雇い主なんだね?"」
うつむいた捕虜ちゃんの顔色はもう漂白が効いたまっさらの紙のようだ。
「……まったく、無能なだけでは飽き足らず、雇い主の足まで引っ張るとはな」
「え、う、嘘でしょ?!ニャン天丸さん、何で……」
「そんなに花火をホログラフィックに変えるのに反対だったのデスか?!」
「ふん、儂はニャン天丸ではない。路地裏の独眼竜、ニャテ・マサムニェよ!」
眼帯をつけて大見得を切るニャン天丸さん、あーなんか、小悪党?うん、ニャテ・マサムニェさんね。はいはい。そういやそんなんやったな。最近、原作知識全然思い出せんなってきてヤバいわ。こいつは正直小物だったと思うけど、めっちゃ大事な事も思い出せなくなってきて怖い。
と僕がぼんやり思っている間に、緊迫した問答。
「別に、全部ホログラフィックに置き換えるわけじゃないし、いわば変化球の一つです。花火組合*1にだって、ちゃんと調整して――」
「花火なんぞどうでもいい。キヴォトス全体で花火産業のシェアなんぞ、日常お前らガキ共が振り回すオモチャの何十分の一、何百分の一に過ぎん。最近、ミレニアムに買収された会社があるのは知っているだろう?祭りの需要があろうが無かろうがどっちみち3大校の資本が入れば花火部門なんぞ吹き飛ぶ」
3大校の、という辺りで宇沢レイサさんとイヴちゃんをじろりとねめ回すニャテ・マサムニェ。あんだこのやろー。
「経済侵略の尖兵を連れた先生などとつるむなど馬鹿馬鹿しい。貴様らガキ共が祭りを仕切るのがそもそも気に食わんのだ。儂に任せればもっと利益はがっぽりたっぷり!それを貴様らはやれ参加者の楽しみだの、百鬼夜行の魅力を伝えるだの。下らん。金が全てよ」
「"そんな下らない事で、シズコ達を襲ったの?"」
「下らんだと?金は何もかも賄える。例え命であってもだ。馬鹿なガキの忍者ごっこに付き合う価値は充分にあるくらいにはな。だが、魑魅一座も忍者のガキも無能だった」
静まりかえってしまった一同の中で、ニャテ・マサムニェと先生だけが丁々発止と言葉の火花を散らす。
「"そのために、イズナを利用したの?"」
「そうとも。魑魅一座の無能ども何十人分の戦力にはなった。まあ、シャーレの先生にトリニティ自警団の星と白髪頭、それに修行部の変人ども、百夜堂のガキどもを相手にするのは無理だったがな」
「……私達の事を、知ってたの……?」
「先生はニュースで見ない日が無いだろう。お前らは、儂みたいな大物悪党でも読む『実話ライフルズ』の治安維持組織特集でちらっと載っていたからな」
自分で大物とか言うんだ。小物臭すぎる。
しかし嬉しくねえ。実話系雑誌*2ってキヴォトスにもあるんだな。先生も宇沢レイサさんもイヴちゃんも理由は違うだろうけど、顔をしかめた。
「忍者などという子供騙しに――」
「"忍者は子供騙しじゃない"」
「……ニンジャは、カラテで時代を支配した半神的存在だから……」
「"え、半神?あ、いや、それはともかく。忍者は格好良いし、実在もしてた"」
先生が一瞬面食らって可愛らしい顔をしてから、キリッと表情を戻す。
「本物の忍者というのは斥候と隠密、密偵に暗殺辺りが相場だろう。派手なアクションなんぞせん」
急に正論ぶっ込んでくるやんけ。小悪党の分際でよ。
「……ニンジャは、目立ってなんぼ……」
いやに突っかかってくるなこのガキ、みたいな顔をするニャテ・マサムニェ。
「"それに、生徒の夢を嗤うのは、私が許さない"」
「許さないだと?ならどうするね、先生?」
(あっ、イヴちゃん。ちょっと、天井を銃で撃ってくれない?)
イヴちゃんは無言で盾を持ち上げた。ギョッとするニャテ・マサムニェと先生。銃口は天井を向いた。先生の手を引くイヴちゃん、大人しくイヴちゃんの近くに来る先生。
「……耳、塞いで、先生……」
(あっ、ショットガ)
遅かった。
「ふぎゃ?!」
塞翁が馬。瓦礫と一緒に久田イズナさんが転がり落ちてきた。
「ど、どうしてわかったんですか?!」
「……どうしてだと思う……?」
「と、トリニティの精鋭だから……?」
「ふ、普段の訓練の成果、ですかね……?私も気付きませんでしたけど」
冷や汗を流す久田イズナさんと困惑した宇沢レイサさんにイヴちゃんは無言で微笑んだ。
宇宙タヌキ顔になって天井の大穴を眺める河和シズコさん。
(……どうしてわかったの……?)
(久田イズナさんがめっちゃ強いニンジャだから、僕達が勝った後に撤収して油断してるところには絶対潜り込んでると思ってね)
久田イズナさんの有能さに賭けただけだ。外れたとしてもシャーレの予算からきっと補修費は出ただろうし。このレベルでぶっ壊したらちゃんと補修費出るかわからんけど。なんかちょっと屋根ぶち抜いて空見えてるしな。
「そ、それよりも!ニャン天丸殿、もとい、ニャン天丸はイズナを騙したのですか?!」
「『真の忍者ならこうする』というだけで都合良く踊ってくれたのは助かったよ。くく、さて。予定外だったが、お遊びはこれまでにしよう。幸い、魑魅一座の連中を集める時間は確保できた」
へー、見えないようにか何か合図したのか、一応備えておいたのか。最小限の悪党しぐさはできるわけだ。
部屋の中を見渡して、少し思案顔をする河和シズコさん。ぽん、と手を叩いて、一同を見渡し、ニャテ・マサムニェを指さした。
先生が最初に頷き、僕、次にイヴちゃんがピンときた。
イヴちゃんがつかつかとニャテ・マサムニェに近づく。
「儂が合図すればこの小さな店は吹き飛ぐぎゃ?!」
他のみんなも気付いたらしく、扉や窓を遮る位置に移動する。
イヴちゃんが右手だけで襟を掴んでニャテ・マサムニェを軽々吊り上げる。
「な、な、貴様、何をぐえ」
「……この人の命令は、お金をもらってるから聞いてる、だけだよね……?」
こくこくと脂汗を流しながら頷く捕虜ちゃん。河和シズコさんがうんうんと頷いて、事務室の扉を開けた。
イヴちゃんはニャテ・マサムニェを片手で吊り上げたままてくてくとバルコニー席*3の方に歩いて行く。からりと窓を開け、柵からニャテ・マサムニェを突き出す。
路地裏にたむろっていた魑魅一座の連中と、無関係な普通の大勢の観光客をはじめとする通行人達の視線が集まり、ざわめきが広がった。
「……選んで。魑魅一座を撤退させるか、ウッドペッカーに撃たれるか……」
「な、ぐえ、ぎ……」
(イヴちゃんイヴちゃん!首しまってる!)
空中で持ち場所を替えるイヴちゃん。
「な、き、貴様……!こういう時は儂と先生のどちらが正しいか、百夜堂を守りながら決戦が筋では無いのか?!」
見守っていた一同の中で、宇沢レイサさんが一瞬目を輝かせる。まあ宇沢レイサさん好きそうなシチュエーションではあるが。でも、河和シズコさんが首をぶんぶんと横に振ったので諦めたようだ。
「……ニンジャを馬鹿にして調子に乗ると、裏世界でひっそり幕を閉じる……」
ニンジャ汚いって憤ってる人ですやん。まあイヴちゃんも割とご立腹なのはわかったけど。
(……ニンジャは、恐竜に変身した神父とも戦える強い存在なのに……)
(アッハイ、ソウデスネ)
「わ、わかった!わかった!儂の
「報酬は出ない!引きなさい!」
やけくそじみたニャテ・マサムニェの絶叫と、河和シズコさんの補足に顔を見合わせて相談した魑魅一座のうち一部は引き始めた。
ん?一部?一部の連中はむしろ「ニャテ・マサムニェを助けて報酬増を引き出す!」とか息巻いて銃の安全装置を外し始めた。マジかよ。頭キヴォトスすぎんだろ。
「"イヴ、ニャン……もとい、ニャテ・マサムニェは百花繚乱かヴァルキューレに引き渡すから、拘束してさっきの事務室にでもお願いできる?"」
イヴちゃんは無言で親指錠と足にも手錠をかけ、壁の柱に簀巻きにし始めた。
「な、儂をこんな目に……貴様……」
なんか猫の人って、ちゃんと縛ってても逃げそうな雰囲気あるもんね。
銃の準備をしている最中、何かを閃いたらしき河和シズコさんが宇沢レイサさんにひそひそと耳打ちをする。ちょっと嫌そうというか、戸惑った顔をした宇沢レイサさんが頷いた。
「もっ、百夜堂の守護天使、宇沢レイサ!朝9時から21時まで営業、水曜定休です……よね……?」
「そこで自信なくさないで!ほらちゃんと宣伝して!」
一瞬しょんぼり顔になった宇沢レイサさんは切替えて、というかやけになったっぽいな。
「とにかく、百夜堂のガーディアンたる宇沢レイサをまず倒してください!」
調子を取り戻した宇沢レイサさんの朗々とした名乗りが通りに響き渡った。宇沢レイサさん、顔良いし声大きいから確かに宣伝要員としても良さそう。商魂たくましすぎんだろ。
ニャテ・マサムニェも縛り終えたし、修行部の面々は挟撃のために反対側から回り込むらしい。事務所側の窓から飛び降りて出て行った。百夜堂の2人と、他の店員さん達も銃を構える。場慣れしてるなあ。
大通りの通行人達も路地や遮蔽物、小道で見物の構えらしい。場慣れしてるなあ。
金、土は習い事があるので恐らく土曜はお休みです。
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