ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
鎧袖一触という言葉が相応しいイクサだった。
久田イズナさんがバルコニーから屋根を伝って飛び跳ね弾とクナイ・ダートをばらまき、首魁めがけて
包囲する人数が全然足りないので、かなりの数が逃げたし、気を失ったけど回収されて引きずられていった連中も多い。けれどもまあ、主犯であるニャテ・マサムニェの奪還を阻止できたのだから、防御*2としては大成功と言っていい。
宇沢レイサさんとイヴちゃん、修行部の面々はぶっ倒れた不良を拘束するのは慣れたもの。さくさく拘束しているうちにヴァルキューレと百花繚乱の子*3達が九四式六輪自動貨車っぽい車両でやってきた。
ヴァルキューレの責任者っぽい子と、百花繚乱の子が先生と話している間、主犯のニャテ・マサムニェはじめ、捕まえた連中を車両に乗せる作業が行われる。流石に材木みたいに積むわけにはいかんのだけど。1両でこの人数はかなりきついな。
「"情報提供者の子は、本人の希望を聞いてだけどどこかに転校か、入校の手続きを――"」
先生は最初の捕虜ちゃんの話をしているらしい。そのまま一緒に引き渡すのでは無くて、後で別便で引き取られるのだとか。
河和シズコさんは作業を手伝いながら、ちらちら先生とイヴちゃんの方を見て、外から見た百夜堂の屋根を見ている。
ああ、うん。えらい風通しよくなっちゃったからな。ご、ごめんね……。
作業が終わって一部の意識を取り戻した生徒に再度蹴りを入れて意識を奪ったりしつつ、何とはなしに生徒達が集まる。
先生に主になってください!って激アピって、とりあえずはシャーレの部員になった久田イズナさんが皆に頭を下げる。
「その、皆さん……すみませんでした」
「まあまあ、騙したニャン天丸が悪いデスし」
「そうそう。個人的には天井裏と屋根以外は気にしてないから!ね、イヴ!」
「……ちょっと、勢いあり過ぎた……ごめんなさい……」
しょんぼりうなだれる久田イズナさんとイヴちゃん。ニッコニコの朝比奈フィーナさん、一瞬だけ圧をかけて苦笑いする河和シズコさん。あ、でも今、さん付けが取れたな……。これは判りづらいデレなのか、逆に敬称いらねーやって事なのか。表情を見たら両方か?
「"ちゃんとシャーレの捜査の範疇だから、修理費はシャーレから出すから。ごめんね、シズコ"」
「ま、まあそれならいいですけど。早速業者さんを呼びましたし」
「……先生、ありがとう……」
「"次からは気をつけてくれたら大丈夫"」
小さく頭を下げるイヴちゃんと、笑って小さく手を振る先生。弁償することになったら僕が泣くな~って思ってたから助かった。
(ごめんねイヴちゃん)
(……ううん、加減が大事だね……)
いつでも全力フルパワーなのも大事ではあるけど、今回はある意味大事になりかねなかったからなあ。まあ大体僕のせいなんだけど。どきどきでしたわ。
修行部の面々と宇沢レイサさんが戻ってきた。宇沢レイサさんはイヴちゃんの右側の定位置に立って、左手を伸ばしてイヴちゃんの右手を握る。先生は微笑ましい目で見て、修行部の一同と朝比奈フィーナさんは何故か納得したような目、河和シズコさんは遠くを見る目をした。思索に沈んでいる久田イズナさんは気付かずに独り言を漏らす。
「真の忍者を目指すには、これからどうすれば……」
「……百鬼夜行に、ニンジャの先達がいるから……聞いてみたら……?」
意外にも(?)イヴちゃんが反応してスマフォの動画アプリを立ち上げて久田イズナさんに見せた。『少女忍法帖ミチルっち』のチャンネルだ。 「ジルが好きそうだから」という理由でイヴちゃんが見つけてきてくれた(その時のスクショは20枚くらいスマフォとPCに保管してある)んだよなあ。嬉しくて変な笑みが漏れちゃうね。
イヴちゃんは7人目のチャンネル登録者で、何気に古参。今の登録者12人だから、そんな自慢できる話かはわからんけど。
みんなもへーってスマフォの画面を眺めている。
「こ、こんな人達が……?!忍術研究部……?!ありがとうございます!」
「こんな部活があるんデスね?」
「イヴちゃん、こういうの好きですよね」
「……大好き……」
アッ!!!
別に僕宛ではないイヴちゃんの言葉につい意識を失っている間に改めての自己紹介やらなんやらが終わっていたみたい。宇沢レイサさんも何だかてれてれしてるから同様に巻き込まれが発生したようだ。
ヴァルキューレの諸々の手続きが終わったのか、撤収しようとする前に百花繚乱の子がこっちに近づいてきた。どことなく男前系というか凜々しい感じの黒髪の子。
「皆さん、ご協力ありがとうございました」
一旦言葉を切ってから一同を見渡し、宇沢レイサさんとイヴちゃんに目を向けた。
「ええと、宇沢レイサさんと御蔵イヴさんだね?お土産ありがとう」
「あっ!?あっ、はい!!その、はじめまして?!あっ!!あの!!!」
「……えっと……モユルちゃんの……?」
「そう、モユルからいつも話は聞いてるよ」
眩しそうに2人の繋いだ手を見る。
「ふふ、私もモユルと早く会いたくなったね。これからもモユルをよろしくね」
「は、はいっ!!宇沢レイサ、頑張ります!!!」
「……こちらこそ、モユルちゃんをよろしくお願いします……」
キリリとした動作で軽く礼をしてからトラックに飛び乗ってヴァルキューレの子達と去って行く報野モユルさんの彼女さん。うーん、キリッとしてたね。
「す、素敵な人、でしたね……」
きゅっと手を握る宇沢レイサさん。イヴちゃんは頷く。
「……モユルちゃんが惚気るの、わかる……かも……?」
まあでも、安心して任せられそう。いや誰目線かわからんけど。宇沢レイサさんさっきから顔赤くなったりと落ち着かない様子。明確に付き合ってる、みたいな人を見ると動揺しやすいんかなあ。
百夜堂に再度移動して、ご飯を頂いてから撤収する事になった。ヴァルキューレの九五式小型乗用車っぽい車両が来て、捕虜ちゃんは無事引き取られていったし、先生もほっと一安心して何を食べようか考えているようだ。
春日ツバキさんが座った瞬間に寝落ちして、これが部長の力かと一同が困惑するなども挟みつつ。
みんな思い思いのものを頼んでいるが、イヴちゃんは刺身定食を頼んだ。*4
何を頼もうか迷っている、右側に座ってる宇沢レイサさんの逆側の通路から水羽ミモリさんに小声で声をかけられた。真剣な面持ちだ。
「あの、イヴさん、少しいいですか?」
「……何ですか……?」
困った顔をする水羽ミモリさん。
「ここでは少し話しづらいことで、少しだけ……」
不安そうな顔をする宇沢レイサさんの手を一瞬きゅっと握ってから「大丈夫」と小さく言って手を離し立ち上がるイヴちゃん。何だろうね。どしたん?話聞こか?みたいな感じでもないなあ。
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