ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
秋の行楽シーズン。3連休があったので僕はイヴちゃんとどっかに遊びに行きたいねと話し合った結果、楽しいお出掛けをすることにした。
連休前日の授業終了後、ミレニアムのエンジニア部に寄って新装備を受領とテストしてからキャンプにやって来ていた。
新装備テストは楽しかったけど割と疲れたんだよな。平日の授業に加えてその心身の疲労を癒やすべくゆるキャン。場所はアビドス砂漠なので環境的には全然緩くないガチキャンである。
イヴちゃんの数少ない(悲しい)友人である宇沢レイサさんとそのお友達達も誘ってみたのだが、宇沢さんは自警団の仕事と、ご友人達はガチすぎる行き先に「素敵だァ(幻聴)……頑張ってね」と普通に流されてしまった。悲しい。
ミレニアムから直行したのだが、鉄道を乗り継いでついたらもうイヴちゃんはそろそろ寝るくらいの時間であった。ミレニアムとアビドス、方向真逆だしな。時間的にはそんな削減されてない。
イヴちゃんは行き先が砂漠なので英陸軍DPM迷彩風、上下のパンツスタイルである。凜々しくてちょー可愛い。イヴちゃん何着ても可愛いんだけど、マニッシュな服装も似合うね。
迷彩自体も環境に噛み合ってて、結構視認性が下がる感じで便利。
今日はアビドスの元市街地外れに宿を構えることにした。廃屋と思しき住居に無断侵入も検討したけど、前世の僕が小鳥遊ホシノ激推しだったらしいし、イヴちゃんの身体で問題を起こして無用な事でヘイトを買うのは止めようと思い、普通にテントを張っている。
結局、廃屋戸建の軒先は使わせて貰っているが、焚火も敷地外でしているから許してほしい。
しかし、砂漠の中に日本風の戸建(借りてる家は2階建)が立ってるのすげー風景だな。木造の半端に古くさい戦後量産家屋って感じなのが更に不思議。
まあ、森林が無くなる前のエジプトではちゃんと木造建築もあったらしいし、日本家屋は「家づくりは夏をもって旨とすべし」って吉田兼好だっけ?が言ってたから、木が他の学園自治領から輸入出来るならそこまでおかしくないか。
砂に埋もれてる日本家屋、見てくれの違和感は凄いけど。
焚火はスターターで、燃料はちゃんと自分で持ってきたもの。最初の着火に埋まってた雑草のミイラを使わせてもらったけど、それくらいは許されるだろう。
小さく音を立てながら燃える焚火を眺めつつ、紅茶を飲むイヴちゃん。日中のアビドス砂漠はそれなり以上に暑いけど、夜はあっという間に温度が下がる。
(……紅茶、美味しいね。それにお星様がとっても綺麗……)
(そうだねえ)
イヴちゃんは天使だなあ。ふーふー、と、スティックシュガーとミルクたっぷりの紅茶に息を吹きかけて冷ます様も可愛すぎて可愛さで人が殺せるなら僕は3回は死んでると思う。
僕は人間じゃないけどね。紅茶美味いし星も綺麗なのは確かにそう。人工的な光源が少ないから、星空が恐ろしく綺麗。
これもイヴちゃんには伝えているけれども、今回はアビドス高校と接触、後は例のビナーくんとの接触、あわよくばビナーをトレインしてカイザーの基地になすりつけたい。
もちろんビナーくんを僕1人でぶちのめすのは無理だが、ミレニアムエンジニア部への土産に装甲板の一枚くらい剥がして持って帰りたいのである。
ゲームだとそんな大した相手じゃ無さそうな描写だった気がするけど、現実、人間丸呑みできるようなサイズのビームとミサイル撃ってくるオバケ大蛇と殴り合うのは無理。
ビナーの出現頻度はガスパール航空学校*1が定期的に撮影しているアビドスの砂嵐の様子や気象情報、カイザーの情報――カイザーが株主向けに出す情報でアビドス砂漠の開発のざっとした数値だけは出てくる――などである程度予測が付く。
もちろん、「ビナーがアビドスの砂嵐の大きな要因である」「カイザーが砂漠で探している『宝』はビナーも狙っているもの」「小鳥遊ホシノが来てくれれば物語補正で遭遇しやすい」という仮定に仮定を重ねたものなんだけど。
アビドス高校にわざわざキャンプをする通知をしてルートも伝えてあるのはそのためだ。 本来、生徒が他校の自治区内を政治的行為でなく勝手にうろつく分にはわざわざ他校に通知や許可を得るなどする必要は全く無い。基地だったり学園施設があったら不味いだろうけど。
焚火の下、イヴちゃんはすっかり熟睡したので、僕が身体を預かる。
万が一でも火災にならないよう、焚火を入念に消し、テントを――イヴちゃんがテントを張る経験を積むためで、元々移動するつもりだった――仕舞う。狩りの夜が始まる。
狂気的な事に、連邦生徒会は例の治安紊乱生徒鎮圧報奨金の利用者がいることに気をよくしたらしく、犯罪者鎮圧活動支援アプリなるものを開発しリリースしていた。
(1)アジトの類を通報し治安機関が確認できた
(2)活動範囲を通報し同上
(3)無力化に成功し同上
(4)治安機関に引き渡した
によりポイントが貯まり、翌月に現金もしくは何らかのポイントが振り込まれるという割と狂気的で警察国家か???みたいなアプリである。
アプリで疑わしき組織や建物やエリアの情報を共有できるし、アプリを通じて写真を撮ると位置情報と時間も同時にわかり人相で前科や指名手配等の歴もわかる無駄に便利な代物でモモトーク連携も可能。
いや誰がこんなあほみたいなアプリに連携したいんだ????正気か。名前は「たいほったー」である。
いい加減にしろよ連邦生徒会。いやでもこれマッポスコアっぽいな……。
ヴァルキューレ警察学校のイマイチさといい、やっぱりここはネオキヴォトスだった……??
とはいえ、場数を踏みながら金を稼ぐという目的には非常に噛み合ってていいことなので、僕が夜遊び用に使っているスマフォには入っている。
イヴちゃんのスマフォには入れてない。勝手に位置情報送信とかされてそうで入れたくないし。
まあ僕が作ってるスマフォも飛ばし*2のとかじゃなくて、イヴちゃん名義で作ってるからあんま意味無い警戒かもしれないけどね。
アビドスに限った話ではないが、学校が統制を喪失すると学籍を持たない人間や犯罪者、テロリストの出入りやら基地・策源地化を止めることができなくなる。
前世の破綻国家のようなものというか、学校が事実上の国家であるキヴォトスではそのものだ。
アビドスには廃校対策委員会しか行政組織がないし、今年時点では3人*3しかいないはずだ。
到底広大なアビドスに手が回るはずもないし、大半の土地を実効支配しているであろうカイザーグループも治安維持などには興味はないだろう。
つまり、例のカタカタヘルメット団以外にもアビドスを根城にしている不良グループは山ほどあるわけだ。
カタカタヘルメット団とかち合ってしまっても別に多分問題はないだろうけども、カイザーの援助が入ってて手強かったりする可能性が高いので、一応避けるつもりではある。
夜の砂漠に品の無い罵声と銃声が響き渡っている。あらお下品ですこと。まあ僕も上品さなんて持ち合わせてないが。
わめき散らしながらスケバンが2脚に据えた軽機関銃を撃ちまくってきた。軽機関銃の火力はアサルトライフルに換算すると12挺分の威力があるらしい。
もっとも、キヴォトスでは撃つ側と撃たれる側の神秘という係数が関わっているから、単純に12倍の火力を発揚しているわけではないだろうが。
事実、今の僕は機関銃弾を喰らってもさして痛くない。アサルトライフル下に装備したグレネードランチャーで擲弾を数発、土嚢裏めがけて撃ち込み、機関銃手を黙らせておいた。
慌てふためいたチンピラが家の中に引っ込む。まさか屋内戦をやろうというわけではないだろうなと思ったところで、裏手から轟音が鳴り響いた。
連中が根城にしていた空き家の勝手口に仕掛けておいたクレイモアがしっかり役割を果たしてくれたらしい。
やれやれ、地の利が無いからとはいえ、まさかこんな素人っぽい連中相手に、屋内戦をやりそうになるまで手間取るとは。本当に屋内戦をやらずに済んでよかった。
全員を拘束し終え、襲撃前に別の場所に隠しておいた盾と銃その他の荷物を回収してから、軒下にコンクリブロックで寝床を作って一眠りしていたところ、車の近付いてくる音で目が覚めた。
砂漠の朝焼け、滅茶苦茶綺麗だな。高層建築どころかマンションなんかも少ないエリアだから、日光が美しく空を照らしているのが見えて気分がいい。
近寄ってくる車両はウラル-4320っぽいトラックだけど右ハンドルで、ボンネットに掠れた太陽と三角形のマーク*4。運転手は十六夜ノノミさんらしきうおでっかな人物。隣にピンクのアホ毛が見えた。椅子が低いんか寝てるだけなのか、まじでアホ毛しか見えない。
(イヴちゃん、起きて)
(……んん……?)
イヴちゃんを起こしながら、立ち上がって埃を払い、柔軟運動を軽くしてから敵意が無いことを表すために何も持ってない両手を上げた。
トラックがゆっくり停車すると同時に助手席側のドアが開き、銃と鞄みたいな盾を持ったピンク髪オッドアイの小柄な生徒、小鳥遊ホシノさんが飛び降りた。
身長が低いからそう見えるだけで、別に慌てている感じではない。うーん、めっちゃ可愛い。茫洋とした顔つきでパッと見目つきもぼんやりしているように見えるけど、目線は鋭く、警戒を隠そうとして隠しきれてないのがわかる。
イヴちゃんがちょっと怯えているのを感じる。顔つなぎがてらイヴちゃんに話をしてもらいたかったけど、引き続き僕が対応した方がいいかな。
「通報してきたのは君?」
「は、はい。トリニティ中等部3年の御蔵イヴです」
「すごいねぇ。一人でやったの?」
「アビドス砂漠には誰も友達がついてきてくれませんでしたから」
悲しいことに嘘ではない。まあ、よほどの事がないと夜のお仕事は誰かと一緒にやるつもりもあまりないが。
「腕に自信があるのかもしれないけど――」
「ホシノ先輩、駄目ですよぉー。せっかくアビドスを安全にするお手伝いをしてくれたのですから☆」
トラックを降りた十六夜ノノミさんが苦言かお説教を呈そうとする小鳥遊ホシノさんを止めた。ちゃんと下着つけてるはずなのに、何がとは言わんけどめっちゃぶるんぶるんする。いやすげーな。
「退路を確保したうえでやってますから。でも、お気遣いありがとうございます」
僕は臆病者だから退路は必ず確認していているし基本的に自分より弱い奴としかやらない。
それに、最悪、僕が気を失いそうならイヴちゃんを起こして荷物を全部捨ててイヴちゃんに逃げてもらうという手もある。
まあ、去年先輩を失ったばかりであろう*5小鳥遊ホシノさん的にはこういうのも思うところもあるかもしれない。
「うんうん、イヴちゃんは凄いのですね。あ、私は十六夜ノノミです。よろしくお願いしますー」
小鳥遊ホシノさんはほぼおじさん化完了しているっぽいが、切れ者だしキレッキレなのを隠すのがまだ下手という感じだ。
十六夜ノノミさんは謎の癒やされ力を感じる。僕は一推しの子に会えた感動を押し殺しつつ、穏やかに見える笑みを浮かべる努力をした。
「皆さんはこの家の中で猿轡と指錠をしたうえでくつろいでます。トラックに乗ってもらう間に紅茶を淹れますから、いかがですか?」
後書きでちらほら書いているゲームアプリのキャラクタ性能設定は滅茶苦茶ガバガバです。
作中で然程カラテを評価されていない子が凄い強かったり、逆に作中描写だとめっちゃつえーなのにゲームではボチボチだったりするのは、先生との指揮との噛み合いなのかなと思っています。
単機で強い子は元々強いから余り口出し改善の余地がなく、しかも他学園の子とは戦い方が違って噛み合いにくい。逆は大幅に良くなるとかそういう感じの。
★の多さは先生との指揮の噛み合いやすさ、程度に今作では解釈しています。★1ミユ水着とかSRT精鋭で気配隠蔽能力があんなに高い子が弱いとかちょっとわからなくなるので。
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紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.19