ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
今日もいつも通りの授業、いつも通りの休み時間。
下江コハルさんが教室を出る前に、イヴちゃんが身体能力をがっと使って*1教室の出口横に立った。
「……コハルさん……」
「な、なに?!」
「……ちゃんと、お話ししたい……少し、いい……?」
きょろきょろと誰かを探してすがるような目で辺りを見渡す下江コハルさん。不思議そうな目、心配そうな目、ほんの少しの軽侮の目が主にイヴちゃん、次いで下江コハルさんに注がれた。
「……い、いいけど?!少しだけならね!」
休み時間、10分しかないからな。イヴちゃんは下江コハルさんの手を取った。ちょっと抵抗するけどびくともしないのに慄然とする下江コハルさん。イヴちゃん、近距離パワー型だからなあ。
「に、逃げないから!離して!」
パッと手を離してたたらを踏む下江コハルさんが「ちょっと!」とイヴちゃんを睨んだ。ごめん、と呟くイヴちゃん。イヴちゃんにも珍しく焦りが見えるな。
屋上前の階段踊り場。クラシカルな窓から陽光が差込む中、2人が向き合う。イヴちゃんが盾を床に置くと、床が小さな悲鳴を上げた。
「……どうして、私達の事を避けてるの……?」
「さ、え、避け……」
再度辺りを見渡す下江コハルさん。もちろん誰もいない。もじもじして下を向いて、イヴちゃんと目を合わせないまま話し始める下江コハルさん。イヴちゃんは下江コハルさんの目をしっかり見ている。
「避け、避けてないし!!たまたま!そう!ちょっと用事があるだけ!」
「……休み時間に、席を外すのは……」
「聞かないで!その……えっと、あれ!あれよ!お手洗いだから!!」
首を傾げるけど追及はしないイヴちゃん。ほんまかなあ、とは思うけど。アレアレ言っておっちゃんみたいになってるし。
「話はそれだけ?そ、それならいいけど」
「……うん。お昼とか、勉強会とかは……」
「あ、駄目!私、正義実現委員会のエリートだから!最近あれが忙しくて!お昼も会議とか、そういうの!」
「……寂しいから、時々でも、来てほしい……。レイサちゃん達も心配してるし、私も、コハルさんと仲良くしたい……」
段ボール箱の中から見上げる子犬の目線のイヴちゃんに、うっ、と呼気を詰まらせる下江コハルさん。
「わ、わ、わかったわよ!そ、その、た、たまにね!と、友達!だし?」
「……ありがとう……」
両手で下江コハルさんの手を握るイヴちゃん。顔が真っ赤になって小さくぴょんぴょん跳ねてる下江コハルさん可愛いね。
あ、階段下の方からこっそりのつもりか、宇沢レイサさん、朝吹ソフノさん、報野モユルさんと止めるべきか迷ってるのかわたわたしてみんなの袖を引いている伊落マリーさんが覗き込んでる。
とりあえず2人の表情を見て大丈夫そうだと判断したっぽいみんなが顔を引っ込めた直後、下江コハルさんが階段下をちらっと見て、腕時計を見た。
「も、もう昼休み終わるし、わ、わ、私、戻るから!」
「……あっ、待っ……」
イヴちゃんはまだ聞きたいこと、話したいことがあるみたいだけど、下江コハルさんは手を振り払い、階段を小走りで去ってしまった。
溜息をついたイヴちゃん。
(……ジル、これで良かったのかな……)
(うーん。正解があるかっていうと、難しいなあ。まず、下江コハルさんはなんでイヴちゃん達とあんまり顔を合わせないと思う?)
(……なんで……?わからない……)
(そこが宿題かなあ。噂するみたいであんまよくないかもだけど、宇沢レイサさんとか、親しいみんなだけに相談してみたら?)
(……そうする……。ジルだけに答えを頼っちゃ駄目、ってこと、なんだよね……?)
(そうそう。ごめんね)
(……ううん、意地悪じゃないのはわかってるから……)
うーん。まあ、中間テストであんだけ大見得切ったのに成績とんでもねえ事になっちゃって合わせる顔が無い、ってだけなんだろうけど。
お昼休み。今日は屋上でのご飯。伊落マリーさんは来てくれたけど、ちょっとだけお冠だ。
今日はイヴちゃんチョイスのスシだ。で、出た~!完全食品だ~!!!!っていっても、特上とはいえスーパーのパックスシだからそんな高級品ってわけでもない。ここのスーパーのスシ、味は悪くないけど。朝吹ソフノさんと伊落マリーさんのも皆と同じサイズで、余ったら誰かが食べるスタイル。お吸い物はインスタントだけどちょっといいやつ。魔法瓶でお湯を持ってきたのを紙カップに注いでいくイヴちゃん。
支度をしているイヴちゃんに、みんなが頭を下げる。
「イヴさん、ごめんなさい。さっきのコハルさんとのお話、気になってしまって……皆でこっそり覗いてしまってました」
「ご、ごめんね……?」
「「ごめんなさい」!」
イヴちゃんは首を横に振った。
「……私は、いい。みんなで行ったら、コハルさんも緊張しちゃうから、言えなかったのはごめん。でも、コハルさんには謝っておいて……」
頷く一同。イヴちゃんは微笑んだ。
「……じゃ、食べよう……?」
硬かったみんなの雰囲気が和らぐ。スシはやっぱりテンション上がるもんね。
わいわい話ながらご飯を食べる一同。
「……百鬼夜行の桜花祭、初日は見られなかったから、今週の土曜に行こうと思う……みんな、行かない……?」
「行きましょう!!!」
「お、いいね!って言いたいけど、ごめ~ん。彼女と回る約束しちゃった」
元気一杯即答のてへって顔の報野モユルさん。これが本物のてへぺろ……!まあでもそらそうか。こないだの彼女さん、男前(?)だったなあ。
「陸上部の練習があるから、ちょっと無理かな。ごめんね」
「私も、今週末はシスターフッドの行事に出ないといけなくて」
残念そうなイヴちゃんと、器用にも残念そうだけど同時にちょっと嬉しそうな複雑な顔をする宇沢レイサさん。
今回の放課後お掃除は空き教室だとか倉庫の確認。カツアゲしてる1グループ発見したので、宇沢レイサさんが黒板側の扉を開けて名乗りを上げた直後に
今日で『ティーパーティーの至宝』展が終わり、黄金パスタサンプルの見納めなので、お祈りはお休みにして、宇沢レイサさんと部活前の時間で付き合ってくれる報野モユルさん、伊落マリーさん*3と美術館にやってきた。
じいっと見入るイヴちゃんと、何が良いのかと口には出さないものの怪訝に思っているらしい2人。
「あの、イヴさん。もし良かったらですが、この作品にどういう魅力があるか教えてくださいませんか?」
少し窪んだ皿に盛られたミートソーススパゲティ、フォークで一口分が持ち上げられた状態。ミートソースの凹凸や麺もちゃんと表現されており、着色さえすれば食品サンプルとしても使えるくらいではある。まあ純金なんだけど。
イヴちゃんは首を傾げた。さらりとサイドテールが揺れる。
「……まず、黄金の輝きが、この暗い照明に反射して渋く光っている……」
ふむふむと頷く伊落マリーさんと、頷いて揺れるフード下猫耳の動きを目で追っている報野モユルさん、イヴちゃんを見てニコニコしている宇沢レイサさん。
「……造形の素晴らしさは、言うまでもないと思う。パスタと、ソース、具の細かい仕上がり。フォークで持ち上がった麺のねじれ具合も見てみて……」
ほう?と作品前のガラスに改めて顔を近づける2人。
「ふーん、確かに細かいところまで注意深く作られてる感じだね」
「なるほど……細部に美は宿る、という言葉通りですね」
同意を得られた事にふんすと鼻息荒く頷くイヴちゃん。本人的には重々しくしてるつもりな感じで更に口を開いた。
「……そして、コンセプト的にも内容的にも別に金で作る必要は全くないのに、わざわざ金で作る下品な趣味のばかばかしさ。美と成金趣味の高度な調和が、最高に下らない一品として完成している……」
そんなこと考えてたんだ?!って僕は地味にびっくりしちゃった。
「……美術書とかの受け売り。ほとんどは……」
イヴちゃんは賢いなあ、って頭を撫でる報野モユルさんと、一緒に撫でたさそうにうずうずしている宇沢レイサさん、真面目に感心してる伊落マリーさん。
その後、事前に「黄金パスタサンプルだけを見たい」と言っていたとおり、イヴちゃんが完全に動かなくなったので、付き合うつもりで腰を据えた宇沢レイサさんと2人に「部活/シスターフッドに行くからまた」と声をかけてから2人は出て行った。
たっぷり30分は眺めただろうか。宇沢レイサさんは途中からイヴちゃんの顔しか見てなかった。上機嫌だったから退屈はしてなかったんだろう。
「満足しましたか?」
「……してない、けど……。会期中はたくさん見たし、そろそろ行かないと、今日のシフトが……」
ああ、と得心する宇沢レイサさん。自警団のパトロールが当たってるんだよな。宇沢レイサさんも付き合ってくれるらしい。
イヴちゃんと宇沢レイサさんがパトロールをして、正義実現委員会とも協働しつつ3グループ、延べ40人くらいを破砕して正義実現委員会の拘置所へ連行した。
あきらかに2人が誰か判って的をかけてくる奴らもいて、治安の悪さに笑ってしまったけど、反面名前が売れてるのにちょっと真顔になってしまった。まあ並のチンピラだとどっちか1人でも相当無理があるんだけど、ヘルメット団とかスケバングループが友達の友達とか呼んで100人単位とかで囲まれたら危ないかもだからなあ。
2人でシャワーを浴びて、正義実現委員会の休憩室で晩ご飯何食べようか話し合いながらごろごろする2人。
あ、部屋の隅の棚に『資料用として後日保管するため汚さないでください』って注意書きがでかでかと貼られてるから何かなと思ったら、雑誌のバックナンバーが置いてある。前に小悪党が言ってた『実話ライフルズ』も置いてあるな。
(イヴちゃん、そこの『実話ライフルズ』取ってめくってくれない?)
(……読みたいなら、代わる……)
イヴちゃんに代わってもらって、ページをめくる。表紙と巻頭グラビア*4が剥がされていて、『資料として閲覧希望の場合は押収品保管担当者へ』と書かれたメモが代わりに貼ってある。
えっ、下江コハルさんがこういうの剥がして保管する担当者ってコト……?!
目次には扇情的で下品、卑猥なワードに学園生徒在籍のお勧め風俗店やら立ちんぼやら、不良グループの勢力図を追った潜入取材記事、毎号連載の『要注意治安維持機関生徒』*5、総合格闘技のKV-1特集。
やらしい記事は同じようにページがめくり取られている。まあ別に用事無いけどね。
「ああ、この間の悪い人が言ってた雑誌ですか?」
「そう。案外面白いなって」
潜入取材記事なんかぱーっと流し読みしたけど結構内実について触れられてて面白い。他の勢力との縄張り争いだとか、生活費に困ってたりとか、暗黒コーポの仕事を受けてるところだとか。
「出版社は違いますけど、記事の一部はクロノスの人が書いたりしてるらしいですよ。こういうのも勉強になるらしいです。昔、取材に来てたクロノスの人が言ってました」
へー。
「取材、受けたことあるの?」
「はい!『月刊キヴォトス』だったと思いますけど、期待の新人としてスズミさんと一緒に2時間くらいインタビューを受けました!まあ、自警団全体で3行くらいしか記事載ってませんでしたけど……」
あはは、と乾いた笑いの宇沢レイサさん。まあそんなこともあるよな。
しょうもない雑誌を元の棚にしまって、イヴちゃんに身体を返す。今日は集まりが悪くて、結局晩ご飯は2人きりになった。
たまには、ということで2人で洋食店に。落ち着いた雰囲気のレトロな内装で、確か報野モユルさんが一度ランチを買ってきて美味しかった気がする。
宇沢レイサさんはオムライス、イヴちゃんはアジフライ定食。お互いあーんして食べさせ合うナチュラルいちゃつき。オムライスは卵とろとろ型で美味しかった。アジフライも良い感じ。
帰る途中に事務局から連絡があり、寮管理人室に荷物が届いていたのを引き取ってきた。ヴェリタスからだから、多分パソコンだな。
段ボールを開けて中身を見たらやっぱりデスクトップパソコンだった。『ミレニアムプライスが終わったら返してください』とメモが貼ってあったので忘れないようスマフォにもメモ。セッティングは明日だな。
いつもの鍛錬とデバッグ諸々を済ませてスマフォチェックの時間。
あれ、河和シズコさんからメッセージが来てる。なになに。
『指定のアプリで全身の正面・横・背中側と足の写真を撮って送って下さい』
身長とかサイズとかの測定機能を兼ねたミレニアム製のカメラアプリ*6かあ。まあ、河和シズコさんだから変な事はしないだろう。多分。イヴちゃんも特に疑うつもりはないみたいで、さくっとDLして写真をタイマーでパシャ。
(超能力とかがあって浮かせたりできたら自撮り便利なんだけどねえ)
(……ビス○神拳もできる……)
でっかい盾もあるしね。ふふ、と笑い合う僕達。
コハルの答えはもちろん弥縫策ですが、イヴも人付き合い経験少なくて押していけないので取り敢えずで流されてしまっています。ジルは「こういうのは自分でやらないと経験にならない」と思ってるので傍観の構え。
コハルも人付き合いが決して得意では無い方だし、テストの成績は惨憺たるものだったのでまだ関係完全修復までの道のりはかかります。まだ実力テスト、期末テストもあるので……。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。