ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
イヴちゃんが起きるちょっと前に静かにパソコンの設置と配線を済ませたジルです。「反応性がいいものが欲しい」と言ってたのを覚えててくれたのか、単に余ってただけなのか、インターフェイスは全部有線だった。助かる。
モニタ置く場所もモニタアームを同梱してくれてたのでPCデスク横につけられたしありがたい。返却の時に間違えないように写真撮った上で布テープ巻いておいたからあんしん。
いつも通りの日常、お昼に下江コハルさんは来てくれなかったけど、休み時間は少しずつ会話の頻度が戻ってきている。実力テスト前には関係修復できたらいいんだけど、どうだろうな。
放課後、僕がお祈りをしてから、自警団本部で事務をしてるイヴちゃんに話しかける。
(ところで、イヴちゃん。テストの成績が悪い子のこと、どう思う?)
(……どう、って……?)
(恥ずかしいとか、怠けてないかとか)
(……私も、別に成績良くなかったし、特に何とも……)
ああ、そうだったなあ。この辺も下江コハルさんの焦りがいまいち伝わらないところなのかな。子育てする親っていうとイヴちゃんに失礼なんだけど、まああくまで例えとして。どこまで言ったらいいか悩ましい。自分で気付いて欲しいと思うし、そもそも下江コハルさんがイヴちゃんに対してぎくしゃくしてる原因は全然違うことだったりしたらまるっきり見当外れの話になっちゃうし。*1
今日は久々に夜の警邏。別のエリアを回っている宇沢レイサさんと合流して少しパトロールしてから、羽川ハスミさんと守月スズミさんと晩ご飯の予定。
銃撃戦をしていた不良グループ2つ、合計15人ちょいを横合いから殴りつける簡単なお仕事を済ませて、正義実現委員会に引渡ししてたのでちょっとだけ合流が遅くなった。
残り4人くらいになってから慌てて「白髪頭だ!一時休戦しろ!」とかわめいて逃げようとする子と抗戦しようとする子達が物理的にかち合ってるのを見てちょっと笑っちゃった。しかしみんな血の気が多いなあ。
晩ご飯はワイルドハント南部家庭料理*2のお店だった。守月スズミさんお勧めの店らしい。
「イヴさん、レイサさん、お疲れ様です」
「お疲れ様です。レイサさん、ご飯は久々ですね。イヴさんとは何気に初めてでしょうか」
何だか疲れた顔の羽川ハスミさんと血色良好な守月スズミさんが迎えてくれた。紅茶を飲んで2人でおしゃべりしていたようだ。
お互いの近況から雑談に花が咲いた。面子が面子だけに防衛関係の話も比率が高い。
「そういえば、イヴさんとレイサさんが教えてくださったパルクール、評判がいいですよ。弾着観測や迂回、偵察と使い勝手が広いです。夜は気をつけないと、足を滑らせて3階から落ちて捻挫した子も出てしまいましたが」
キヴォトス人じゃないなら死んでるな。守月スズミさんは呆れつつ感心した顔で宇沢レイサさんを見て呟く。
「『名乗りは省略していい』と言うのを譲らなかったのが、意外な形で実を結びましたね」
えへへ、と照れくさそうに笑う宇沢レイサさん。褒めてないと思う。
「……レイサちゃんと、スズミさんは、お付き合いが長いの……?」
「自警団に入ってからしばらくしてからですね!銃撃戦の技術を色々教わりました!」
「かなり長い付き合いなのですが、力任せで突進するだけだったのを改めきれなかった、不肖の弟子のような気持ちです」
「え、不肖なんですか?」
不満げな宇沢レイサさんの表情に皆がくすりと笑い、釣られた宇沢レイサさんも笑う。
「まさかあのスズミさんが弟子を取るなんてと、意外な気持ちでした」
「昔の話は勘弁してください」
「忘れられがちですけど、私の方が先輩ですからね。こういう時にそういう話をしていかないと」
くすくす笑う羽川ハスミさんに苦笑いする守月スズミさん。
メインディッシュは羽川ハスミさんと宇沢レイサさんがビーフステーキ、守月スズミさんはチキンステーキ、イヴちゃんは真鯛のポワレ。
宇沢レイサさんとイヴちゃんはずっと手を繋いでるし、あーんしあっているけど羽川ハスミさんも守月スズミさんも慣れたものだ。いやさすがにあーんは「え」って顔を一瞬したけど。
他の2人はあーんこそしないものの、みんなメインディッシュを少しずつ交換して味わっている。
「そうだ、この間のゲヘナとの訓練はどうでしたか?」
羽川ハスミさんが顔をしかめた。
「風紀委員長と行政官とは、まあまあ上手くやっていけそうです。お2人ともかなり癖がある感じでしたが」
「委員長は話がわかる方だとは思いましたけど」
首を傾げる守月スズミさんに羽川ハスミさんが溜息をつきつつ答える。
「何というか、あまり覇気がなさすぎるというか。行政官もかなり頑固そうでしたね」
「事前の評判とはかなり違ったのは、確かに。ふふ、頑固なのはお互い様では?」
小さく笑う守月スズミさんに「心外です」と呟いて苦笑いする羽川ハスミさん。守月スズミさんと割と気安い関係というか、仲よさそうで何より。
「……お元気そうでした……?」
「ええ。定時で帰れているそうですよ」
ごそごそとスマフォを取り出した羽川ハスミさんが、訓練後らしく、汗や泥で汚れているけど楽しげな集合写真を見せてくれる。空崎ヒナさん、スンとした顔ではあるけど確かに顔色も良さそうだし、隈とかも無い。写真だから絶対とは言えないけども、羽沼マコトさんはちゃんと約束を守ってくれているようだ。
「ですが、万魔殿の議長には参りましたね。開口一番『正義実現委員会の委員長は戦略兵器と聞いていたが、確かにデカい。先生と比べてもまだデカ女だな!』ですよ。行政官から失礼な人物だと警告されていましたから心の準備はしていましたし、悪気が無さそうなのが更に腹は立ちましたけど」
うーん言いそう。物真似は全然似てない。ええ……って同情的な顔をする宇沢レイサさんとイヴちゃん。
「確かに失礼極まりないとは思いましたけど、あれはゲヘナ一流の手練手管なのか、素なのか判断に迷うところではありました」
うーんと考え込む守月スズミさんと、怒りつつ呆れている羽川ハスミさん。
「そんな感じの人じゃなかったと思いましたけど。どちらかというと、人をやる気にさせるタイプというか」
不思議そうに呟く宇沢レイサさんとうんうんと頷くイヴちゃん。ギャグ時空で生きてる人だから、どっちも正解なのかもしれない。
「先生を引き合いに出すところも含めて、やはりこちらに対する牽制だったのかもしれませんね。まあ、そうとわかっても嬉しくはありませんけど」
「これから一緒に仕事をする相手としては、やりにくいですかね」
「ナギサ様の気難しさとどちらが上司として付き合いづらいか、判断に困るところかもしれません」
くすくすと笑い合う2人と、釣られて笑う宇沢レイサさん。イヴちゃんは困り顔。
「……私達にとっても上司、っていうのになる……?」
「自警団は独立性が高いですけど、予算はもらっていますからね」
悪戯っぽい笑みを浮かべたままの守月スズミさんと、「す、すみません……私のせいで……」とちょっと小さくなる宇沢レイサさん。イヴちゃんは宇沢レイサさんを慰めて頭を撫でる。
「まあまあ、私達正義実現委員会と協働して動いていたのは昔から同じですから」
「これからも独立性は維持していきたいところです。トリニティの底なし沼のような派閥争いに巻き込まれたら身動きが取れなくなりますからね。本当に」
遠い目をする守月スズミさん。
「……そういえば、結構前ですけど、パテル分派の後援会に入ることに……」
遠い目をしたまま「後援会レベルならまだ、最悪全部の派閥を掛け持ちできるからセーフです」と呟く守月スズミさん。イヴちゃんがパーティ疲れで倒れちゃう。*3
楽しく歓談をしている間に、デザートのシャーベットが席に置かれた。羽川ハスミさんはミルク、守月スズミさんはレモン、宇沢レイサさんはサイダー、イヴちゃんはチョコ(イヴちゃんだけアイス)。一口ずつ交換する一同。
帰宅してからいつもの鍛錬諸々と寝る支度を済ませてデバッグを昨日の作業差分最新版まで進めつつ*4、ギターをアンプに繋げずに練習していたら、丹花イブキさんからビデオ通話マーク付電話がかかってきた。普段はモモトークなので珍しいな。ギターを置く時間を惜しんでイヴちゃんがスマフォを取る。
「イヴお姉ちゃん、こんばんは!」
「……イブキちゃん、こんばんは……どうしたの……?」
「えへへ、お昼寝しちゃったからかちょっと寝られなくて!マコト先輩にお願いして電話したの!今、迷惑じゃない?」
「……大丈夫……」
緊急事態じゃなくて安心したイヴちゃんがギターを壁掛けギターハンガーにかけた。*5
「あっ、それ、ギター?!イヴお姉ちゃん、ギター弾けるの?」
ぴょこぴょこと跳ねる丹花イブキさん可愛いし、私室らしくぬいぐるみで壁の一面が占拠されている。可愛い。パジャマは多分だけどⅢ号戦車の初期型?かな?がデフォルメされた黒い柄があしらわれた灰色のもの。羽沼マコトさんが後ろに座ってる。無地の黒Tシャツに紺の楽そうなハーフパンツだ。
イヴちゃんはThe Mighty Tior*6っぽい男がデカい斧を持ってるダサい黒シャツ、下はかっちょいいヘリが小さくあしらわれたゆるい長ズボン。*7
「……まだ練習してるところ……」
「えー!見たい!」
「……ふふ、ちゃんと弾けるようになったらね……」
「わーい!楽しみ!」
「わ、私もお姉ちゃんと呼ばれたい……」
丹花イブキさんを膝に乗せた姿勢で魂が口から出てるみたいな顔をしている羽沼マコトさんがちらっと写る。
「マコト先輩は、お姉ちゃんじゃなくて、先輩だから!」
何だか譲れない一線があるらしい。
「こ、こうなったら理想の姉を目指すしか……」
「イブキの目標の、かっこいい先輩!」
奇妙な断末魔の叫びを上げて後ろで尊死した*8羽沼マコトさんを余所に、丹花イブキさんが最近見た可愛らしいショートアニメの話で盛り上がる2人。うーん、確かにめっちゃ可愛いな。
アニメを何本か一緒に鑑賞してると流石に遅くなったので、やんわりと羽沼マコトさんとイヴちゃんで説得してお開きにする直前、丹花イブキさんが爆弾を投下した。
「イブキもね、トリニティの条約締結式に行くんだ!」
「あっ、ああ、いや、それに関してはまだ調整中でだな」
「イヴお姉ちゃんに素敵なところ見せるからね!」
あわあわする羽沼マコトさんと、ふんすと鼻息荒く目を輝かせる丹花イブキさん、ニコニコ*9のイヴちゃん。
「……楽しみにしてる……」
えっ、ええ~……大丈夫かな。条約締結式、なんかすげー鉄火場になっちゃった気がするんだが。まあ、羽沼マコトさんが何とかしてくれる……か……?
先週土日が忙しくてストックが出来ておらず、今週は平日毎日連載が難しそうです。
書きたいことは山ほどあるのに……。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり、誤字報告本当に有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。