ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
本当にミレニアムに出資してる幾つかの企業のCMが挟まり*1遂に1位が発表された。
「1位は、新素材開発部の『赤そうで赤くない、でもちょっとだけ赤い肩部用装甲板』!!」
緊張が切れた、葬式の空気が一画に漂う。がたん、と一瞬だけロッカーが跳ね上がった。
「お、終わった……」
「う、うえええん!!今度こそ終わりだぁぁ!」
「……ああ……」
「CMを挟んで今回の特別発表があります!」
おろおろとする天童アリスさん、渋面の宇沢レイサさん、泣き始めた才羽モモイさんを見て、一瞬立ち上がってから手を握りしめて座る早瀬ユウカさん。イヴちゃんが左手を早瀬ユウカさんの握り拳に伸ばしてふわりと包み込むように触れる。
場違いのように陽気なCM。うわ、生演奏使ってる。こんな場面で無かったらちゃんと見ておきたいくらいリキが入ってるな。
がちゃ、とロッカーが開いて花岡ユズさんが出てきた。
「ゲームの評価は、悪くなかった。次こそもっと評価を出して、もっと広い部室をもらおう」
「そ、それはいいんだけど。ぐすっ、でも、ユズとアリスが……」
「モモイ、ミドリ。もう誰も私の事をクソゲー開発者なんて呼ばないし、呼んでも気にしない。私、寮に戻るから。ゲーム開発部のみんなと、心配してくれる人達と、先生がいるから、大丈夫」
花岡ユズさんはゲーム開発部の皆とイヴちゃんを見てから、早瀬ユウカさんと宇沢レイサさんに頭を小さく下げた。早瀬ユウカさんもうるうるしている。
「"アリス、シャーレに来る?"」
「はい。先生は信じられます。でも……皆とはもう一緒にいられないのですか?」
「ううん、そんなことないよ!ゲーム開発は毎日できるし――」
「お待たせしました!!それでは、今回初の試みとして設けられた、特別賞の発表です!!!!」
「大事な話してるのに、何?!」
流石に無茶なお怒りをする才羽モモイさん。ステージの照明が強くなり、ふっと視線を向ける一同。
豊見コトリさんがモニタを指さし、解説を続ける。
「ミレニアムプライスの賞は本来7枠ですが、今年度は審査員の協議の結果、特別賞を設けました!特別賞は、ゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』です!ミレニアムプライスは実用性を軸として表彰を行ってきましたが、今年はゲームという新しい角度から実用性を照らし出してくれました。過去を思い起こし、未来の可能性を感じさせてくれる作品です!」
他の審査員らしきロボットの人が発言を引き継ぐ。
「想像を次々超える展開、コンセプト、不可思議な世界観と困惑の連続でしたが、RPGの根本的な楽しさをしっかりと描いた作品だと思います。ゲームに熱中した過去の思い出を鮮明に思い出しました。ミレニアム外部の方々からも好意的な評価が多数上がっているようです」
小さなどよめき、「私もちょっとだけのつもりが徹夜になっちゃった~」「面白いよね、まだ途中だけど」などと好意的なささやきやざわめき。
「あ、あわわわわ……」
「や、やった……?」
「おめでとう!!みんな!!!」
ぎゅーっと才羽姉妹を抱きしめる早瀬ユウカさん。ぐえ、と悲鳴がステレオで上がる。
「……やったね……おめでとう……」
「おめでとうございます!」
「やりましたね!!!」
「やりました!!!」
喜びを爆発させるみんな。
「その、私もプレイしたの。手放しに名作とは言えないけど、良いゲームのプレイ後感を味わえたわ」
照れくさそうに褒める早瀬ユウカさん。
安堵の表情で微笑むイヴちゃん、重苦しい空気に魂が口から出そうだったのが一転ニコニコの宇沢レイサさん。
「今の発表以降、TSC2のダウンロード回数が1万を超えました。コメントも大幅増で、好意的評価が231、否定的・疑惑のコメントが242、残りは不明です」
「結構賛否両論じゃない?!」
「結局、駄目ってこと?!」
「ううん、そんなことないよ。一番参考になったって評価されてるコメント、見て」
渋い表情をした才羽姉妹に答えた花岡ユズさんがスマフォの画面を皆に見せる。
『プレイするか散々迷いましたが、このゲームに出会えて良かったと思います』
『冷静さと合理性しかないというミレニアム生への偏見はこのゲームで完全に払拭されたと思います』
ゲーム開発部の歓声が伝わっていき、表彰の当事者だと気付いた観覧者から拍手が起こる。
「あ、じゃあ、廃部は無くなるんだよね!?」
「そうね。ゲーム開発部の廃部は『臨時の保留』としてセミナーに諮るわ。私一人で決めるわけじゃないけど、保留が認められるのはほぼ確実。正式な受賞じゃなくて特別賞だから、数年分の活動実績とは言えないけどね」
照れくさそうに咳払いしてから、早瀬ユウカさんが微笑む。
「私の仕事が終わった後の憩いの場が無くなるのは困るから、しっかり頑張ってよね」
無言の先生をちらっとイヴちゃんが見たら、あ、泣いてる。美人の顔が台無しのぼろぐちゃな嬉し泣きの仕方だ。
みんな抱き合って泣いたり笑ったり忙しかったのが落ち着いた。
「じゃあ、私は式典の後片付けその他があるので。先生、ありがとうございました。イヴ、レイサ、またね。ゲーム開発部は落ち着いたら手続きがあるから、セミナーにちゃんと来なさいね」
「みんなと、一緒にいられるということですか?」
「そうだよ、アリスちゃん!!」
「これからもずっとよろしく!」
「よろしく、お願いします……!」
名残惜しそうに会場を後にする早瀬ユウカさん、良かったねえと頷き合う宇沢レイサさんとイヴちゃん。
晩ご飯は先生のおごりでファミレスに行くことになった。「賞金も出るし、私達は一躍時の人だから」と才羽モモイさんが調子こいていたけども、自身の口座残高を見て素直にうなだれて先生にまかせることにしたようだ。
まずはロッカーを戻してからということで、一旦大講堂からゲーム開発部に戻った。*2
エレベータ前で、滅茶苦茶露出が多いっていうかほぼ胸がまろび出てるんじゃないのって感じのピンク髪の生徒に呼び止められた。ふとももも露出すげーが。いやすげーな。やっぱミレニアムは痴女ニアムじゃん。トリニティも露出狂いるからあんまデカい声で言わんけど。
「あなたが御蔵イヴ?それと、宇沢レイサ、で間違いない?」
「……そう……」
「はい、トリニティ自警団要注目大売出特売!!!宇沢レイサです!!!」
宇沢レイサさん、調子戻ってきたのはいいけどなんか自己紹介が変な方向に走り出してるが大丈夫かな。
「先生にも用事があるといえばあるけど、今、先生が席を外すと困るだろうから。連絡先を渡しておくね」
ミレニアムらしからぬ、紙のメモを先生に渡す露出巨乳っ子。
「"君は?"」
「ああ。私は1年の和泉元エイミ。ヒマリ部長から頼まれて、御蔵イヴを呼びに来た。宇沢レイサも一緒に来てほしい」
「ヒマリ部長って、あのヒマリ先輩?」
「私達、これから祝賀会なんだけど」
「イヴもレイサもパーティメンバーで、友好度を高めるために一緒にご飯を食べに行きたいので、他の日にしてもらえませんか?」
当たり前だけど嫌そうなゲーム開発部一同。花岡ユズさんも発言はようできなさそうだけど不満そうな顔だ。顔を見合わせる宇沢レイサさん、イヴちゃん。
「ごめん。ちょっと緊急の用事なんだ。うーん……これは言いたくなかったけど」
「……言いたくなかったけど……?」
ちん、と気の抜けた音がして、エレベータが到着した。開いたドアの中には誰もいない。
「ミレニアムの会長からの依頼でもある」
ぐんと場の空気が重たくなった気がした。嫌がって騒いでいたゲーム開発部一同も押し黙る。*3
「……わかった。行く。みんな、また後で……」
「えっ、あっ、わ、わかりました。み、皆さん、また!」
和泉元エイミさんの先導でエレベータに乗る2人。ドアが閉まる直前に、見覚えのある派手なスカジャン、メイド服に明るい茶髪の子がドアの隙間を横切る。
「よお、おめでとさん。お礼参り待っててやったぜ。優しい先輩だろ?」
聞き覚えのある声と一瞬の焼けつくような視線を外に残して、ドアが閉まった。
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