ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
イヴちゃんが開ボタンに飛びかかろうとしたが、和泉元エイミさんが間に立って、イヴちゃんは急停止。エレベータはそのまま閉まって下降し始める。エレベータのボタンは地下4階までだが、和泉元エイミさんは4階、2階、6階、2階、10階、5階、1階、10階のボタンを素早く押す。
「……みんなのところに、戻りたい……」
「このエレベータは、地下に着くまで3分かかる。往復で最低6分かかるし、ヒマリ部長が上りをロックしてるはず。それだけかかったら、もう上では決着が着いてる」
不満げな表情*1で黙り込むイヴちゃん。気まずい空気にうろたえてか、宇沢レイサさんがあわあわと口を開いた。
「あの、今のボタンが隠しコマンドですか?」
「そう。でも今回限り、じゃないかな。多分」
「裏世界に行く方法の簡略版ですよね?」
「知ってるんだ」
「はい!自警団は噂の聞き込みを元にパトロールすることもありますから!まあ、私はあんまり得意ではないので、スズミさんや他の方にお願いする事も多いんですけど……はは……」
イヴちゃんもぶっちゃけ得意じゃ無いしへーきへーき。2人揃ってると勇気が出るのか、最近はちょっとずつ2人とも頑張れるようになってきたんだけど、まだまだぎこちない感じなんだよな。
ともあれ、沈黙を生みたくないからだろうか、宇沢レイサさんは早口で続ける。
「本当は各階に止めて、5階で知らない女の人が乗ってくるのを待って、でも話しかけたらいけないんですよね」
「そう。着いた先も、変に柔らかい床だとか、焼け焦げた見覚えの無い倉庫みたいな場所だとか、『下りて探検してくるって言った友達が行方不明になる』だとか」
僕もこういう話好きだからうんうんって聞いてるうちにイヴちゃんがぷるぷる震えはじめた。
(イヴちゃん?)
(……こ、こわい……)
「あれ、大丈夫?」
イヴちゃんは真っ青になってしゃがみ込んでしまった。
「イヴちゃん、大丈夫ですか?!」
様子を見ようとしゃがみ込んて顔を寄せた宇沢レイサさんにイヴちゃんが抱きつく。うぇへっ、と小さく変な声を上げる宇沢レイサさんが恐る恐るイヴちゃんの肩に手を回して抱きしめた。
ちんと音を立ててエレベータが止まる。和泉元エイミさんの言葉は嘘では無かったらしい。地下4階どころじゃない深さだな。
「イヴちゃん、立てますか?」
頷いて宇沢レイサさんの肩を借りつつもぷるぷるしながらも立ち上がるイヴちゃん。まだかなり顔色が悪い感じ。
「あ、部長から連絡。『ゲーム開発部は先生の指揮の下、床と天井のワイヤ保持部を射撃破壊してC&Cからの逃走に成功』だってさ」
ふぅ、と安堵の溜息をつく2人。
「じゃあ、とりあえず問題は解決したみたいだし、ヒマリ部長のところに行きたいんだけど……大丈夫?」
顔面蒼白なまま頷くイヴちゃんにちょっと困った顔を見せつつも先導する和泉元エイミさん。
宇沢レイサさんがイヴちゃんの前でしゃがみ込む。
「イヴちゃん!背負っていきますよ!」
「……いいの……?」
「はいっ!お任せください!……あっ重い、いや盾がですよ?!」
ショックそうな顔のイヴちゃんと慌ててフォローする宇沢レイサさん。
溜息をついた和泉元エイミさんがスマフォを操作すると、廊下の奥から無限軌道付のロボットがやってきた。
「その盾と銃はこっちで運ぶから」
持てるけど結構重いな……という感じだった宇沢レイサさんがホッと一息ついてイヴちゃんを抱え上げ直す。ふとももとか結構がっつり触ってるのに気付いたらしく、手をあちこち彷徨わせているが、却ってあちこちなで回すみたいになってしまいイヴちゃんがくすくす笑う。
「……くすぐったいよ……」
「あっ、あっ、ご、ごめんなさい!」
「ごめん、部長が待ってるからいちゃつくのは部室でお願いできる?」
ジト目の和泉元エイミさんに耳まで真っ赤になった宇沢レイサさんと首を傾げたイヴちゃんが頷いた。
それなりに長い廊下、地下らしい湿った暗い空気をLEDが照らし換気装置がかき回す中、運搬ロボットが結構ぎしぎしみしみし言いつつもなんとか部室まで着いてきてくれた。
横開きの飾り気のない白い部室らしい部屋の扉には『息継ぎ禁止:ヒュー○ート・ブレイン・ウル○シュレーゲルスタインハウゼンベルガー○ルフ・シニア姓名暗唱部』と書かれている。
「部長、入るよ」
ノックをしてからドアを開ける和泉元エイミさん。
壁にでかいモニタが数枚かけられ、やや温かい部屋の奥に、白い車椅子の少女がモニタを見つめている。
「エイミ、ありがとうございます」
車椅子ごと向き直った、白銀の長髪少女が2人を見つめる。確かに自分で言うだけあってめっちゃ顔が良いな。
「御蔵イヴさん、宇沢レイサさんですね?初めまして。ご足労くださってありがとうございます。ヴェリタスの部長であり、この度発足した特異現象捜査部の部長を兼ねた、ミレニアム最高の天才清楚病弱高山植物系美少女ハッカー、『全知』の学位を持つ明星ヒマリと申します。そう、例えるならコマクサであり」
「部長、長くなりそうだから先にエアコンの温度下げるね」
「エイミ、待ってください。この温度でもかなり寒いのに」
「は、初めまして!トリニティ自警団の北極星、宇沢レイサです!!!」
「……同じくトリニティ自警団、御蔵イヴです……」
「気軽にヒマリとお呼びください。私もエイミも、お2人をお名前でお呼びしても構いませんか?」
「そういえば聞いてなかったね」
言いながらエアコンの温度をガンガン下げているらしい和泉元エイミさん。ぎしぎし言いながらウッドペッカーと盾を下ろしたロボットが来客用らしき椅子を奥から持ってきてくれた。*2
明星ヒマリさんの問いに頷く2人。
「客人用の椅子が整ってなくてすみません。何分地下の空きスペースを当座で使っているだけで……エイミ、エイミ、お願いですから設定温度を上げてください。私のパフォーマンスが発揮できません」
「上に何か着たらいいじゃない。毛布持って来ようか?」
背負われて運ばれてる間手持ち無沙汰だったからか、宇沢レイサさんの首筋に頬ずりしてたイヴちゃんが椅子に腰掛けた。宇沢レイサさんはもう耳も首筋も顔も真っ赤っ赤だ。
「えっ、すごく暑いですよね?!」
「……そう……?ちょうどいい温度かな……」
宇沢レイサさんは暑いっていうか照れ由来で血行が滅茶苦茶良くなってるだけだと思うよ。
客人の意見という援護もあって割と低めの温度に設定されたエアコンが唸りを上げる中、諦めて上着を引っ張り出した明星ヒマリさんごそごそしていると、飲み物にアイスティーを人数分準備してくれていた和泉元エイミさんがばつが悪そうに言う。
「部長、ごめん。2人を連れてくるときに揉めそうだったから会長の命令って言っちゃった」
あからさまに嫌な顔をする明星ヒマリさん。
「あの下水道のヘドロ女の権勢がないと何もできないと思われるのはしゃくですが、やむを得ません。C&Cとも大変だったようですし」
「そうなんだよね、先生も呼べなかったし」
「あら、先生はもう来てくださいますよ?」
えっ、という表情の3人に、ドヤ顔の明星ヒマリさんが扉を指さすと、こんこんとノックの音がした。
「"お邪魔します"」
「初めまして、先生。ヴェリタス部長にして特異現象捜査部部長、ミレニアム最高の叡智の持ち主にして清楚な高嶺の花、病弱超天才美少女ハッカー、『全知』の学位を持つ明星ヒマリと申します」
「"先生をしているよ、よろしくね。ヒマリ。改めて、エイミもよろしく"」
椅子ともう1人分のアイスティーを取りに行こうとした和泉元エイミさんに明星ヒマリさんがホットティーを頼みつつ、手をつけてないコップをそのまま先生に渡す。イヴちゃんが心配そうに先生に尋ねる。
「……先生も、ゲーム開発部のみんなも、大丈夫……?」
「"大丈夫。私も含めて誰も怪我もしてないよ。C&Cの方も怪我とかはしてないはずだし、今日のところは無事に収まったかな。ファミレスの請求はシャーレに回してもらうことにしたし。緊急の話だって聞いたから、祝賀会に一緒に参加できなかったのは残念だけどね"」
今日のところかあ~。安心した顔をした宇沢レイサさんと対照的に、大丈夫かなって顔をしたイヴちゃんがアイスティーにガムシロップを2個入れた。
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