ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
先生を交えて再度エアコンの温度設定漫才があり、寒がる先生を味方につけて設定温度を少し上げてから、明星ヒマリさんがこほんと咳払いした。
「さて、本日お3方に来ていただいたのは、この度創設された『特異現象捜査部』の部長に任命された私から、お願いしたいことがありまして」
「……あの、先に、いいですか、ヒマリさん……」
めっちゃ珍しく、イヴちゃんが人の発言を遮ったので僕はぶったまげてしまった。むしろ話を聞く側に回って話を最後まで切り出すタイミングを失うタイプなのに。意外そうに明星ヒマリさんが目をしばたたく。
「はい、イヴ。どうぞ」
「……怖い話、ですか……?」
ああ、と明星ヒマリさんが手をぽんと叩いた。
「大丈夫ですよ。もちろん、特異現象を取り扱うので、事象としては不可解であったり恐怖心を煽る可能性が高いですが、あくまで科学的に説明しがたい事象を追跡し研究するものです。『この世には不思議なことなど何もないのだよ』という諺もあります」
高いですが、の辺りでイヴちゃんは身体のコントロール権を僕にマルナゲした。えっちょっと?!退院辺りで実験して以来やってなかったから忘れてたけど、イヴちゃんがコントロール権放り出して僕が引き継がないと、不随意筋の運動以外は全部放置して、外から見るとめっちゃだらけた状態になる。当然、人前でやるもんではない。身体が前のめりにがくんと傾いて椅子から転げ落ちそうになったのを慌てて立て直す。
(イヴちゃんちょっと?!大丈夫?!)
(……もう聞きたくないし聞かない……後で必要なことだけ教えて……)
完全に五感情報も切ってふて寝体勢に入っちゃった。脳内ライブラリで熊のぬいぐるみが動き始めた映画を見ながら、熊と巫女のギャグ漫画を読み始めるイヴちゃん。熊ブームなんかな。
まあ怖いの苦手だもんなあ。しょうがない。
アイハブコントロール。ここからは僕、ジルがお送りしますよ。
「大丈夫ですか?」
「イヴちゃん?!」
「"大丈夫?"」
「やっぱり、暑いから?」
かぶりを振って深呼吸。スゥーッ、ハァーッ。
「い、いえ。怖い物が苦手なもので……」
眉をひそめて、イヴちゃんというか僕の手をぎゅっと両手で握ってくれる宇沢レイサさん。君の手が温かい。
「本当は、リオ先輩の命令で作られて、今までは私以外の部員がいなくて何もしてなかったのだけど」
「リオが作った怪しい部活の部長に私が任命されたのは、いえ、そもそも、統制主義者のビッグシスターである彼女と、コピーレフト信奉者の私とでは水と油なのですが。同じ水で例えるなら、リオが下水道の汚水、私がピュアミネラルウォーターというところです」
「部長、本題」
「あら、そうでした。ともあれ、リオの依頼なら何でも絶対断るつもりでしたが、少々込み入った事情で断れない頼まれ方をしてしまいまして。おほん。お呼びした中身でしたね」
逸れまくっていた話を元の軌道に戻そうと再度咳払いをする明星ヒマリさん。
「イヴが持ってきてくれたアビドスの大蛇の構成部品の装甲板ともうひとつ、仮称『骨髄』です。特異現象捜査部の目的達成のためにはシャーレの権限と先生の力が必要ですし、そして実際に預言者の1体と交戦したお2人のお話もお伺いしたいと思いまして。だからといって今日、祝賀の雰囲気に水を差したくはなかったのですが、時間的に余裕が無いのも確かなのです」
少し申し訳なさそうな顔をしてから、明星ヒマリさんがモニタにアビドスで僕達が
「アビドス高校の皆さんからもらった動画と違いませんか?」
宇沢レイサさんがそう呟く。
「カイザーの敷地には当然、監視カメラがたくさんありますからね。シャーレが連邦生徒会に提出した報告書も、こちらは正しい手続きを踏まえて閲覧しましたが、不確定要素や不明瞭要素が多すぎます。別に先生やお2人が嘘をついているという訳ではありません。現状の説明ですよ」
「3人とも疑ってたら、そもそもこの場所に連れてこないから」
「ええ。我々は皆さんの手助けをお借りしたいのです。ここから先は、極秘でお願いしたいのですが、構いませんか?」
頷く先生、顔を僕と見合わせてから頷く宇沢レイサさん、最後に僕。まあ別にぺらぺら外に漏らしたりする気は無いけども。
「先日、ミレニアムの工事・通信ユニットAIである
「もちろん、ミレニアム内部、あるいは他の学園の誰かの仕業って線もあるけどね」
「ミレニアムの科学力はキヴォトスの最先端であると自負していますし、おそらくうぬぼれではないと思います。超常的にすら見える何者かが、あのアビドスの大蛇の他に存在するのではと疑っていますし、先生の報告書の注釈にも、『先生同様外部から来た人間がいて、統率される何か』の存在を示唆する記載がありましたね」
「"ゲマトリアのことだね"」
あー、あの面白おじさん、先生も会ったんだな。黒服以外まだ遭遇してねーんだよな。「その集団の存在も実在確認すらできていません。そうそう、このままだと推測に推測の屋上屋を架した状態ですね。」
アビドスの大蛇の背中をイヴちゃんが駆け登るちょーかっちょいいところを、やたらと映えるように編集されてるシーンを一時停止。ウィンドウを小さくしてから明星ヒマリさんが別のウィンドウを開いた。
『竟に、摂理へと至る
ホドって知識と理性の象徴でもあるんだっけ?
「先ほどハッキングと言いましたが、ハッキングの結果は改ざんや統制ではなく、感化というのが適切なようです。なぜそのような非効率な方法をとるのかも含め、犯人を突き止める必要があります」
「えっと、つまり……あのアビドスの大蛇がハッキングをしている、わけではないですよね……?」
小声で宇沢レイサさんが僕に囁く。その言葉を聞きとめた明星ヒマリさんが微笑む。
「そうですね。実際には、2者はまったく無関係なものかもしれません。ですが、手がかりがさしてないというのも事実です」
僕は頷いて答える。
「何をお手伝いすればいいですか?」
「現状は、今後の協力のお約束をいただければ程度です。もちろん、将来的にはシャーレを通じて他の学園に正式な協力要請を行います。最初はアビドス高校になりますが」
「"もちろん、喜んで手伝うよ"」
先生は即答。
僕は宇沢レイサさんの目をじっと見た。宇沢レイサさんも頷いてくれる。
「他の予定が無くて、学園の立場的に問題がない状態なら、私達は構いません」
南極だか何だか行くんだよね、確か。宇宙より遠い場所に興味はすげーあるけど、学校休んで行けるかわからんしな~。
「ありがとうございます。アビドス高校に行く前に、解析できた『骨髄』から推測できるアビドスの大蛇の構造をある程度復元し、囮として作ってみようかと思います。まあ、あくまで空の殻しか作れませんが」
「"つまり、友釣り……ってコト?!"」
先生のリアクション上手すぎるな。ドヤ顔をする明星ヒマリさん、冷たい目をする和泉元エイミさん、困って乾いた笑いを漏らす宇沢レイサさん。
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