ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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『神の造りたまひし野の生物の中に蛇最も狡猾し蛇婦に言ひけるは神眞に汝等園の諸の樹の果は食ふべからずと言たまひしや』(旧約聖書 創世記)


蛇でいてくれてありがとう いや全然ありがたくなかったわ

 トラックの荷台に6人分の不法占拠者と備蓄されていた各種物資弾薬類が証拠品として押収されるらしく、乗せられている間に火をおこして淹れた紅茶3人分。

茶葉は僕もイヴちゃんもわからなかったので、店員さんお勧めのを買った奴だが昨晩も美味しかったし多分大丈夫だろう。

昨晩も使った自前のチタンマグカップがあるが、違うカップを使って毒を盛ったと警戒されたくないので皆と一緒に取った紙カップで、自分の分は小鳥遊ホシノさんに選んでもらって、真っ先に口をつけた。

2人がそれぞれミルクと砂糖を所望したので、これも真っ先に自分のに淹れた。スコーンはないが、カロリー友めいたお菓子があるので差し出す。

僕はチョコ派、イヴちゃんはメープル派なのでチョコかメープルしかないのだが。

「ふぃ~、美味しいねぇ~」

「アビドスの朝は寒いですからねー♣」

 砂漠の朝晩は冷えると聞いて耐寒装備を持ってきて本当に良かった。昨晩も痛感したけど、本当に冷え冷えしている。その冷えてる分、空も高いような気がする。

「それにしても珍しいお客さんだよね。トリニティでキャンプが流行ってるとか?おじさん若い子の流行は知らないけどさ」

「どうでしょう。友人にはあまりいい顔をされませんでしたけど……。ああ、でも『私もベンチで寝るのは好きですよ!!!!』とコメントしてくれた友達もいましたね」

 くすくすと笑みが起きる。一度に警戒を解く――特に小鳥遊ホシノさんの方は――のは無理だろうが、一緒に火を囲んでものを食べて飲むのは少しは効果があるだろう。

 

 他愛のない話で盛り上がり僕と十六夜ノノミさんが紅茶をおかわりして飲み終えたところで、僕は本命の話題を切り出した。

「さっき、本の話をしてましたよね。僕は本がとても好きで、トリニティの古書館なんかも見に行ったことがあります」

「すごいらしいねぇ。おじさんはアビドスからほとんど出ないから見たことないけどさ~」

「私は一度、学校見学で外観だけは見たことがあります。あそこ、入れるのですね」

「図書委員会の許可があれば」

 緊張のあまり小さく咳払い。最推しの前だからというのもあるが、何しろ事が事だ。言わずに済ませようかという気持ちまで湧いてくるが、一人では流石に厄過ぎる。

「今日はアビドスの大蛇と、カイザーグループにひと泡吹かせに来たのです」

 小鳥遊ホシノさんの目がギロリと鋭く光った。十六夜ノノミさんは僕の発言というより、小鳥遊ホシノさんのその様子にあわあわしている。言ってしまった。

 

 そもそも例のアビドスの大蛇ことビナー*1はそれなりに優先順位は高いれども廃校対策委員会に顔合わせをするついでだ。奴の装甲板が欲しいというだけ。あれは確か古代人だか先史文明だかの産物がテトラグラマトン*2もといデカグラマトン堕ちをしたのが現状だったはず。

ミレニアムエンジニア部と、場合によっては明星ヒマリさんに接触して渡したいのだ。ついでにどうせ動きはしないだろうけど、連邦生徒会にでも一報入れておいた方がいいかなって気持ちもある。

解析して何かの役に立つならとっても嬉しいが。ついでにカイザーに轢き逃げの報復兼八つ当たりをする。あいつら舐めやがって。許さん。

「あいつを知ってるんだ?それで、どうしたいわけ?」

 僕は航空写真と気象情報を初めとする資料をスマフォに表示して見せた。

「地中を泳ぐ巨大で強靱な蛇はアビドスのみならずキヴォトス全土の脅威です。連邦生徒会に証拠品を見せたくて。放棄されたカイザーの宿営地を見る限り、レーザーとロケット砲みたいなものも持っているみたいですしね」

 ゲロビとVLSからミサイルのはずだが、接触してない僕がそれを知っているのはおかしいので適当にぼかしておく。

ミレニアムに装甲板を持ち込むことも一応伏せておく。政治的な警戒心を持たれたくない。

「衛星写真があるのに、証拠品が必要かな?」

「アビドス高等学校は大蛇絡みで無くても連邦生徒会に連絡したことはありますよね?」

 沈黙する小鳥遊ホシノさん。官僚主義の権化には物証が必要だと思う。もっとも、この証拠を突きつけてもアビドス絡みで腰を上げなかった連邦生徒会は動かないだろうという嫌な確信はあるが。

「あの大蛇、私達も戦ったことがあります」

「ノノミちゃん?」

 警戒心を隠さなくなった小鳥遊ホシノさんの圧が怖い。イヴちゃんはぷるぷるしている。可愛いね。僕も結構ブルってはいるが。

「私達3人では倒せないですよー、きっと」

「サイズは推測でしかありませんけど、あの大きさは無理でしょうね。ぼ、おほん、私が欲しいのはあいつの装甲板だけです。ついでにカイザーに一泡吹かせたいのですよね。私、カイザーの社員に轢き逃げされて翼がこんな感じになったので」

 この翼は格好良いし好きだけど、それはそれとしてあいつら許さねえ。どうせ言葉も解さぬ悪徳企業だろう?僕はにこりと微笑んだ。

「あくまで推測に推測を重ねてますが、カイザーの施設にあの蛇は執心のようです。そこで、トレインしてやろうかなって」

「「トレイン?」」

 

 トレイン。MMOなんかのゲームでモンスターを引き連れる行為のこと。今回引き連れるのはもちろんビナーくん。理想はビナーがカイザーの基地を襲撃して交戦中に横合いから殴りつけることだが、まあそう上手くはいかないだろう。

かなり日数をかければできなくもないかもだが、イヴちゃんは学業がある。日数も成績も足りているが、サボるほどの価値は無い。今日明日で駄目なら諦めようと思っている。

 

 アビドス高校に逮捕者と押収品を下ろしてから車両乗換え。車両ごと吹き飛ばされるリスクを考えると稼働品のトラックは貴重すぎて出せないということだろう。

動くのが奇跡としか思えないサンドカラーのオッター軽偵察車らしき車両――太陽に三角のマークはこれも辛うじて見える――に乗って3人でおでかけ。エンジンが相当へたっているらしく、重量軽減のためだろう、装甲板が剥がされている。

エンジンが息も絶え絶え、みたいな音を発していて、途中で故障しないかが不安になってきた。

 

 小鳥遊ホシノさん曰く、「アビドスで口伝の経験則だと、小規模な砂嵐が起きてる時に発生源側にいると遭遇する可能性が高い」らしい。その言葉の通り車を転がしていると、アビドス生補正なのか、一番問題になるであろう索敵と接敵があっさり成功した。

僕の安物偵察専任ドローンがビナーが砂中から跳ね上がる衝撃だけでたたき落とされるのを合図に力戦悪戦すること10分近く。

装甲板数枚を剥がして拾ったうえで、パトロールだか訓練だかに出てたらしきカイザーのあほ共にビナーを押しつけて逃げることに成功した。考えてみたら奴らも襲撃を受けてるんだから、位置予測と偵察くらいはそらするよな。

僕の盾の表面は飴がかかりたる如くという感じで溶けてしまったが貫通もせず手も足も出ず吹き飛ばされるなんてことはなかったので少し自信が持てた。

僕の盾より軽量で脆そうな小鳥遊ホシノさんの盾は同じくビーム直撃しても溶けてないので、これは神秘の差なのだろうな。

 当初はトレイン行為を倫理的に嫌そうだった2人も、偵察部隊に含まれていたカイザー製の見てくれは格好良い戦車と自走砲1両ずつが、ビナー共々砲撃に巻き込んで来たので考えを改めたらしく、順調に撤退できた。

 いや、ゲームだと6人+先生の指揮で何とかなってた弱敵の部類だったがやっぱ実物はとんでもないな。

図体が馬鹿でかいだけで脅威、火力の途轍もなさで驚異、砂に潜る鬱陶しさで恐怖だ。相手が常にどこで戦うかの主導権を握れるのは最悪としか言い様がない。

地中貫通爆弾か列車砲に徹甲弾でも積むかで対策を考えないと不味いかもしれない。使用を検討していた新装備は使わずに済み、特にカイザーに見られなくて済んだのに一安心。

 何しろ楽園という名で伝わるドージョーでイヴ・ニンジャをそそのかしたのは蛇なので、あの蛇野郎から何か話しかけられるかなと思っていたが、それも無かったな。

名付けは特にキヴォトスでは存在を強く定義する。僕じゃなくてイヴちゃんが出ていれば奴は何かを唆したりしてきたのだろうか?

 

 まだカイザーの連中とビナーがドンパチ賑やかにやっている中、幸い吹き飛ばされなかったオッター軽偵察車に乗り帰途に着く僕達3人。

十六夜ノノミさんがアクセルを思い切り踏み込んでも全然スピードが出ないので、中々ビナーが遠ざからないのが怖かったけど、無事に僕達からはタゲが外れていたっぽくて何事も無く戦場を離脱できた。

 このままアビドス中央駅まで送ってくれるらしい。

「うへ~。とんでもない目にあったね」

「お2人が前線を支えてくださったので助かりましたー♠」

「僕、盾持ちとしては前に前に出て殴り合いたい方なので、ご迷惑をおかけしたかも」

「いやいやー、狙いがばらけたから助かったよ。普段はタンク役、おじさん1人だからね」

 同じ敵を囲んだからか、少し親しくなれたのだろうか。2人とも名前呼びを許してくれたしモモトークの連絡先を交換した。

イヴちゃんはビナーくんの恐怖でまだぷるぷるしている。まあわかるよ。怪獣やもんなあんなん。

(僕が意識を失ったら何もかも放り出して逃げてもらわないといけないから起きててもらったけど、意識を保ってるだけで本当に頑張ったよ。ありがとう、イヴちゃん)

(……こ、怖かった……)

 何なら2人のうちどっちか担いで逃げないといけなかったかもだしな。

 

 辛うじて営業を続けている店がまばらに残っているアビドス中央駅の、見るからに暇そうな獣人(犬)の客待ちタクシーが1台だけある駅前のロータリー。

 帰り際、僕は2人に礼を言ってから最後の布石を置くことにした。

「アビドス高校の犯罪証拠品と落とし物の保存期間はどれくらいですか?」

「んん?今日のトラックで運んできたアレの話?」

「ええ。押収した犯罪証拠品は返還を求められなかったらアビドス高校のものになるのでは?」

「え、ええー……」

「あっ!なるほどー♠」

 苦い顔をする小鳥遊ホシノさんと十六夜ノノミさん。心情的には気にくわないだろうが完全に合法かつ倫理的にも問題ない行為だ。

それに返還を求めるといっても「不法占拠を続けるので弾薬を返して下さい」なんて奴がいるか?いやキヴォトスならいるかな……。

僕のキヴォトスへの信頼はマイナス方向にウナギ・ライジングだ。

ともあれカイザーの土地であっても、犯罪が行われている場合の捜査と押収に関してはアビドス高校に捜査権がある。

「まあ、考えておいてください。それでは、今日はありがとうございました。ホシノさん、ノノミさん」

「イヴちゃん、また来て下さいね~☆」

「またね、イヴちゃん。あんまり無理しないようにね」

 戦利品の装甲板は僕とアビドス高校側で半分ずつに分けて、ついでに十六夜ノノミさんが撮っておいてくれた動画をもらった。

 頭を下げて車を見送る僕。あっ、遂にエンストした。大丈夫かな……。

*1
こいつの名前をまだ知る機会がないはずだから、当分『アビドスの大蛇』呼びで通すしかない。

*2
古代ギリシア語で4文字。聖四文字、YHWHを指す。




 口語と文語なら文語の方が格好いい(中二病が治らない)

 ビナーは鱗(皮?)だけが目当てなので今回は省略。シロコはまだ拾われたばかりでアビドス高校内で療養中でお休みです。

 評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。

 紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.19
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