ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
楽器含む荷物類を全部片付けて一足お先に街にやってきた可愛さの具現化、大天使イヴちゃんとそのおまけ、ジルです。
今日の演奏前から、硬さが違うピックに換えようかな*1という話をイヴちゃんとしてたので街外れの方にある楽器屋を見てきた。結局変わり種のピックをいくつか買っただけで終わったけど。まだかなり待ち合わせまで時間あるし、エフェクタとか見ようかなってぶらぶらしている。
(……柔らかいピックの方が、いい……?硬いピックの方がちゃんと弾けるような……)
(はっきり言っちゃうと、今時点で硬いピックに換えて上手く弾けるようになった気がするのは腕前を誤魔化してるだけなんだよ。ピックは指の爪の代わりだし、ピッキングの強さ弱さ早い遅いで音ニュアンスを表現するのが理想だから、正直あんまり早く硬いピックは使って欲しくないなって)
(……なるほどなあ……。ピッキング、奥が深い……。そういえば、さっきのエフェクタが……。あ……)
まあえらっそうにいってる僕もそんなちゃんと出来てないけどね。理想は指弾きなんだけどイヴちゃんの柔らかくて可愛い手が傷だらけになっちゃうのやだしなあ。
なんて考えてるとイヴちゃんが言葉を切った。ちらっと見えた路地裏に、6人で2人を囲んでるのが見えたから、一応様子を見に近づくイヴちゃん。繁華街の外縁だから、比較的いいトリニティでもちょっと治安悪目なんだよな、この辺。
2人のうち1人は隙を見つけたのか慌てて逃げ出し、もう1人が取り残された。囲んでる側はトリニティの制服を着ていて、遠回しな表現に金を寄越せと凄んでいるが、表現が遠回り過ぎるのか、囲まれてる黒いベレー帽*2を目深に被り、口元に白マフラーを巻き付け黒の上着を着たうおでっか。主張が凄い。白のスカートを履いて、重そうなハードケースを担いだ水色の髪の少女はピンと来てないようだ。
「おわかりですか?」
「で、でも、通行料が必要だなんて……」
って槌永ヒヨリさんやんけ!街をふらついてるタイプとは到底思えないけど、何かの任務帰りかなんかかな。
埒が明かないなと判断したのか、囲んでたうちの何人かが銃を取り出した。
イヴちゃんが強く地面を踏み込んで一気に近づき、後頭部に右手上段突きを入れる。*3
は?とざわめく囲んでる奴2人目のうなじに左足ハイキック。意識を失った2人目を3人目に蹴り飛ばし、くずおれてヘイローが消える1人目を掴み、一番遠い奴めがけ技術もなんもない力任せに投げて4人目に接近。
「な、こいつ、白髪頭――」
ちんたら構えるライフルの銃口を左手下段払いで払いのけ、反動を使って相手の右側に出て右下突きを脇腹に突き刺す。
5人目がやっとこさ銃を構えたのを見て、槌永ヒヨリさんが体当たり。よろめきつつ発砲するのを4人目の陰に隠れて盾にし、襟を掴んで持ち上げ十字締めみたいに締め上げつつ持ち上げた。そのまま4人目を抱えて体当たり。5人目は壁と4人目に挟まれて意識を失った。
6人目は背を向けて逃げ出したので、
「あ、あの、た、助けてくださってありがとうございます!ってあな、えっ、あっ?!」
槌永ヒヨリさんがぺこぺこと頭を下げてからイヴちゃんの顔を見て硬直した。この反応はイヴちゃんのことを知ってるんだな。手際よく拘束を続けながら、イヴちゃんがかぶりを振る。
槌永ヒヨリさん、こいつらに比べたら全然強いんだろうけど、狭い路地裏ででかい得物振り回し辛いだろうし、サイドアームだけで1対6は厳しいだろうから、タイミングが良かった。
「……もう大丈夫……正義実現委員会も来るから……」
「え、えっ?!そ、それはちょっと……き、来てくださ、って動かない……!」
槌永ヒヨリさんも相当力強い方だろうけど、イヴちゃんはもっとパワーがあるのでしゃがみ込んでるのを起こして引っ張ろうとして悪戦苦闘してる。
「……正義実現委員会は、まずい……?」
「はっ、はい!いえ全然不味くはないんですけど!清くて善良な市民ですし!?」
怪しすぎんだろ。嘘下手か?
6人目を拘束して転がしたイヴちゃんが立ち上がった。
「……理由はわからないけど、わかった……。行こう……」
あからさまに安心した顔で右手を掴んで引っ張る槌永ヒヨリさんに素直に手を引かれて走るイヴちゃん。
少し走って別の路地裏。少し息を荒げる槌永ヒヨリさん、全然息を切らしてないイヴちゃん。
「ふぅー……改めて、ありがとうございます。イヴさん」
「……私、名前、言った……?」
「ひえっ?!へ、へへ……嫌ですね。さっきの人達が言ってましたよ。あ、わ、私は槌永ヒヨリです!」
嘘が下手か?手を掴んでぶんぶん握られていたイヴちゃんは首を傾げたが、自警団の仕事的に一方的に顔や名前を知られてることは珍しくないので追及はしないようだ。
「そ、それじゃ私は」
くるりと背を向けた槌永ヒヨリさんの腹が豪快な低音を奏でた。
2人がけの小さいテーブルに料理が収まりきらないほど並んでいる。
「おいひい!世界にこんなものがあるなんて?!おいしすぎます!!えへへ……でも、これを思い出してもう食べられないんだなって思うのも、人生なんですよね……」
何となく放っておけないなって思ったイヴちゃんがチェーンのファミレス*4に連れてきた。メニューを見せても遠慮というか、存在を知らない感じだったので、好みを聞き取って適当に注文した品を凄い勢いで食べている。
末っ子力凄いな。この子、イヴちゃんより年上のはずなんだけど、なんか妹っぽさがすげーあるし、髪型が似てるからかイヴちゃんも親近感があるみたいだ。この後みんなとご飯のイヴちゃんはアイスココアだけにしている。
「あっ!あの!これって追加で頼んで持ち帰りとかできますかね?!え、えへ、えへへ……」
会計イヴちゃん持ちなのに?!めちゃくちゃいい根性してるな。まあ仲間に、って気持ちはわからなくもないけど。
服越しにもお腹が膨れてるのがわかるくらい散々飲み食いして、一部のメニューしか持ち帰りできなかったので半泣きっぽい雰囲気になったのを可哀想に思ったイヴちゃんが近くのコンビニでファッション雑誌複数含むお土産をたくさん買って持たせてあげた。
「あの!イヴさん!ご恩は忘れません!!」
小さく微笑んで*5首を横に振るイヴちゃん。
何度も頭を下げて、大きく手を振って去って行く槌永ヒヨリさんを見送って、イヴちゃんも集合場所に行こうときびすを返す。
(……ベルトの魚の骨とお花のマーク、可愛かったね……)
(王冠を被った髑髏と薔薇じゃなかったっけ?)
(……魚の背びれだと思ってた……)
言われてみればそう見えるかも、アリウスのマーク。
(あのマーク、ちょっと調べてみてもいいかも)
(……そう?……じゃあ、今度図書館に行ったときにでも……)
アリウスについて調べたところで何かあるかはわからないけど。逆に今、アリウスの情報がないから堂々とつけてるんだろうしな。
反省会は下江コハルさんが珍しく最初に口火を切った。
「レイサとモユルは走りすぎ、イヴはモタりすぎ」
という指摘に尤もだと頷く演奏者一同。
「でもさ~、『モタったり走ったりを繰り返すのが駄目なんであって、一定のリズムキープできてるなら大丈夫』って私のドラムの先生は言ってたけどな~」
「そ、それでも!合わせるのに越したことないでしょ!」
うんうん、と頷きながら取ってきた飲み物とメニューを下江コハルさんに渡すイヴちゃん。
「初めてにしては凄く良かったと思いますけど」
「そうですね。しっかり素敵でした。今度、図書館のイベントとかでもお願いしたいくらいです」
下江コハルさんがぶんぶんと首を横に振る。
「そ、そんなの無理!!」
「……もっと練習したら、大丈夫かも……」
「こんなに忙しいのに?!」
まあそれはそう。選曲が難易度低めのばっかりだったから何とかなった感かなりあるもんね。
「でも、またやりたいですね!!!」
うー、と唸る下江コハルさんと、うんうん、と頷くそれ以外の一同。
「ま、まあ、気が向いたらね?」
いえーい、とハイタッチする報野モユルさんとイヴちゃん、おずおずとノる宇沢レイサさん、嫌そうな素振りだけどちょっと口元が緩んでる下江コハルさん。ニコニコで見守るみんな。
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