ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
楽しい演奏初披露からしばらくして、高等部1年1学期の実力テスト当日。実力テストはそれまで習った全項目が出るので、3年となるとかなり範囲が広いけど、イヴちゃんは3年範囲の予習2回目にさしかかってるくらいだから大丈夫だろう。
今日まで、伊落マリーさんは割とマメに一緒に昼ご飯を食べてたし、勉強会も毎日ではないものの来てくれてた。下江コハルさんは正義実現委員会の活動と訓練に力を入れているという*1ので出席してくれた率が下がってしまっている。楽器練習も一緒にしてたし、休み時間にはぽつぽつと喋ってはいたから、皆心配まではしてなかったが。円堂シミコさんもお昼たまーに顔を出してくれるようになってイヴちゃんも喜んでいた。
イヴちゃんは予定通り3年の試験を受けることにした。下江コハルさんも本気で同じ試験を受けるらしい。2年以下の3年試験を受ける面々に混じって座っていて「そういえば勉強してなかった」みたいな顔をしているが大丈夫なんだろうか。
実力テストが終わった後の打上げにも誘ったけど、真っ白なコピー紙をくしゃくしゃにした後みたいな顔の下江コハルさんは首を横に振るのが精一杯だった様子だったのでイヴちゃんも諦めた。
円堂シミコさんを加えた宇沢レイサさんグループみんなで打上げ*2をいつものファミレスでして、解散間際に報野モユルさんがスマフォの画面を見せてくれた。
「イヴちゃんが手伝ってたミレニアムのゲーム、やっと続きできるよ~。まあ、百鬼夜行に行き帰りの電車の中くらいだけどさ」
「……楽しんでくれたら、嬉しい……」
「買ったっきり積んでるわ。休日に遊びたいけど」
「私も少しずつやってます!」
「本を読みながらゲームできたらいいのに……」
テイルズサガクロニクル2、みんなご祝儀も兼ねて買ってくれたんだよな。凄い嬉しいね。
「普通にプレイする分にはいいんだけど、隠し要素も抑えておきたいからなー」
「あっ、ネタバレやめてよ?!」
「言わない言わない。ま、検索したらすぐ出てくるけど」
「……後のお楽しみ……」
ニコニコする報野モユルさんとイヴちゃん*3。まあ隠し要素ってあれでしょ、ゲームの中でイヴちゃんと殴り合う奴でしょ。本人が嬉しそうだから良いんだけどね。
なんて喋りながらだらだら喋って歩きつつ、買った別腹デザートのクレープを食べ食べしていると、円堂シミコさんが通りの向かいを指さした。
「あっ、新しいリサイクルショップができてますね」
指し示してるのはハード○フ的なでっかいキラキラしたチェーン店だ。6階建のビル全部のフロアに展開している気合の入りよう。古書も扱ってるのですごく行きたそうな顔をしてる。
「あっ、私は明日から百鬼夜行に行くから、そろそろ帰って準備しないとやばいかな~。ごめんね」
「私も明日も朝から部活があるから、ごめんなさい」
「私は構いませんよ!!!」
「……良いよ、付き合う……」
「はい、ソフノさんもモユルさんもありがとうございました。お休みなさい」
最初に「遅くまでは無理かな」って言ってた、ちょっとすまなさそうな顔の2人とはここでお別れ。
店内は新規オープンセール中で、同じく実力テスト開けの生徒達が帰り際に寄ってるみたいで、トリニティの制服の子達でごった返している。円堂シミコさんは凄いスピードで本棚をチェックしている。
とにかく混み合ってるので、隣とまではいかないけどお互い視界の隅にはいるようにしようと決めてから、ちょっと離れた位置で本を探す円堂シミコさんと、ぼんやり本を眺めているイヴちゃん、嬉しそうに手を繋いでいる宇沢レイサさん。
「……レイサちゃん、最近何か読んだ……?」
「うーん……。あ、そうそう。最近書いては無いのですけど、『挑戦状』を書くのが好きなんです!なので、モユルちゃんにも聞いて、百鬼夜行の書道の本をちょっとだけ読みました!」
「……カリグラフィ……いいね……」
「書道ですか?!」
地獄イヤーなの?円堂シミコさんが爆速で戻ってきた。
「この『説き語り百鬼夜行書史』と……ここには在庫が無さそうですけど、『説き語り山海経書史』はすごくわかりやすいですよ!山海経と百鬼夜行の文化は密接に関わっているのですけど、それぞれの書道文化と技術の影響なんかも書かれてて」
宇沢レイサさんは差し出されるまま受け取って、買う気らしい。まあ確かに面白そうではあるが。
凄い勢いでフロアを回るものの、本のコーナーだけでも閉店までに全部見るのは無理そうだ。円堂シミコさんはかなり残念そうだったけど、まあしょうがない。
イヴちゃんは『ダジャレの作り方』という本にかなり興味を惹かれていたみたいだけど、立ち読みしてみたら前の持ち主が書いたらしい傍線や批判的な書込みがたくさんあって止めた。僕は『キヴォトス哲学概説 学園間交流小図付』が興味あったけど、すげー分厚いんだよな。読む暇あるかなあ、ってなってやめてしまった。
2人がとりあえず1階のレジに会計してる間にぶらぶらして、僕の希望で歴史コーナーを見ていると、向こうの棚の角から来た人にぶつかりそうになった。
「……ごめんなさい……」
「いえいえ、こちらこそ失礼。おや?奇遇ですね。クックック……」
うわ出た。面白おじさんこと黒服やんけ。っていうか、リサイクルショップなんか来るんかよ。
「おや、失礼。あなたは……」
(イヴちゃん、代わっていい?)
(……うん……アビドスで会った、変な人だよね……?)
(そうそう)
そんな変なおじさんみたいな。まあ面白いおっさんやけど。
行き交う他のお客さんの邪魔にならないよう、隅の棚の横、壁際に移動する僕達。イヴちゃんも僕も大好きだし、先生も好きそうなロボのプラモ箱が棚に積み上がった一画で壁に寄りかかる黒服と、それを見上げる僕。なんかシュールだな。
「こんなお店に来るのですね」
「もちろん。若作りするつもりはありませんが、知っていることと知らないことには大きな違いがありますからね。クックック……」
「今度は、トリニティにご用が?」
「その問いにははいともいいえとも答えられます。が、あなたが聞きたいのはそれですか?アビドスの大蛇とあなた方が呼んでいる存在について知りたいのでは?」
「『あなた方の解釈』については非常に興味があります、が」
僕は言葉に詰まった。差し出せる対価がないんだよな。
「より神秘を高められたようですね。その訓練方法と、実際の訓練を1度拝見できれば、『私の』知りうる情報であれば提供可能です」
毎晩やってるビームガン*4の練習か~。あれ見せたらなんかなるか?先生の大人のカードが青輝石を経由してないっぽい*5から、見せても問題ないか?
いや、やめとこ。黒服に情報提供するリスクがわからんすぎる。それに、自室に侵入された経歴があるから、黒服がその気になるか、そうでなくても曲解されて伝わったらトリニティにいる情報提供者やら協力者やらがあの銃をポッケないないしようとする奴が発生するかもだし。黒服自体は盗みなんかしなさそうな雰囲気はあるが。
そうりきせんの前口上の話、本人の口から聞きたくはあるんだけどなあ。声かっちょいいしな。
「そもそも、私達生徒が預言者を撃退するのは、あなた方の利益にもなるのでは?」
「おや、条件折り合わずですか。その気になられたら是非ご連絡ください。お友達もお迎えに来られたようですし、私はこれで。クックック……」
抱えていた商品を持ったまま階段の方に去って行く黒服。*6
先生にモモトークで『トリニティの新しく出来たリサイクルショップで黒スーツで頭に亀裂が入ってる人に会いました。アビドスの大蛇についても何か知っているみたいです』と送る。マルナゲ?そうでもあるがぁ!
先生から秒で『"取引とかしてない?大丈夫?"』と返事が来たので断った旨伝えておく。正直、僕とイヴちゃんを足しても大人に対して0.75人前ってところだろうから、相当材料を揃えておかないと、まともな取引は難しいんじゃないかなって思う。個人的には好感があるくらいなんだけどな~。
ポチポチし終えた辺りで、宇沢レイサさんと円堂シミコさんが戻ってきたのが遠目に見えて、僕はイヴちゃんと交代した。
黒服が2人が戻ってくるのをどう察知したのかもわからんけど、不思議だな。神秘スカウター的なものがあるらしいし、それの応用なんだろうか。
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