ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
床にめりめり悲鳴を言わせつつ盾を持ち上げ、ふらふらとログハウスのドアを出たイヴちゃん。雨はまだ止んでないが、傘を差そうか迷うくらいになっている。
硬い表情で紅茶を飲んでいた宇沢レイサさんがぎょっとして立ち上がった。
「イヴちゃん?!大丈夫ですか?!」
イヴちゃんは無言で宇沢レイサさんに抱きついた。見る見る真っ赤になる宇沢レイサさん。恐る恐るという感じで、イヴちゃんの背中に手を回して、背中をさすりながら抱きしめてくれる。
「そ、その……と、とりあえず、行きましょう!」
隣の宇沢レイサさんを接待(?)してたティーパーティーの人の困惑した目線も痛いしね。
まだ日は高いし、ご飯にも早いので、学園を出て喫茶店にでも入ろうかという宇沢レイサさんの提案に、イヴちゃんは「良かったら前行ったリサイクルショップを見に行きたい」と返した。途中から紅茶飲めてなかったし、味も全然わからなかったからか、店に入る手前の自販機でアイスココアを買って、ほとんど一気飲みに近い速度で飲み干して小さくむせ、宇沢レイサさんに背中をさすられて落ち着いた。
「ど、どうしたんです……?」
店に入って賑やかな人の声をBGMに、ぽつりぽつりとさっきの話を説明するイヴちゃん。最初憤っていた宇沢レイサさんは究極的には頭を抱えてしまった。
「こ、コハルさんが……?ど、どうすれば……?」
「……本当にコハルさんかは、わからないけど……」
(ごめんね、イヴちゃん。役に立たんかった)
(……ううん、きっと、私が頑張らないといけないことだし、ジルがいたから、一人で無理ってならなかった……)
(ありがと。まーでも、僕とイヴちゃんどころか、宇沢レイサさんと3人がかりでも良い知恵出てこない話ではあるけどね~)
乾いた笑いをかわす僕とイヴちゃん。文殊菩薩の知恵ってのはそんな都合良くは出てこないな。キヴォトスに文殊菩薩がおるかわからんけど。
前、黒服に遭遇したせいで見られなかった立体物コーナーを見たかったらしいイヴちゃんに考え事をしながらついて来てくれる宇沢レイサさん。もちろん手は堅く握られてる。
立体物コーナー、もちろんリサイクルショップなので中古品なんだが、ガラスケースの中に組み上がって塗装までされたプラモやフィギュア、ドールや玩具類が並んでいる。ロボットなんかは2人とも割と好きなので眺めつつ、さっきの話をしているけどあんまりこれと言った打開策が出てこない。ていうか中古なのに結構良い値段するな。
ふっとその奥の方、あんまり
「……あ、あっち見に行きたい……」
「行きましょう!!」
奥の方、ガラスケースの一角に完成品と塗装しかけの食品サンプルや模型が並んでいる。さっきまで硬かったイヴちゃんの表情がふにゃりとほぐれる。
値札が貼ってないな。あ、解説文が貼ってある。
『非売品。昨年度末、新入生が入らず解散したトリニティの立体・模造品部の作品です。部を再建してくださった方に無償でお譲りします』
ぱああ、とイヴちゃんの顔が明るくなる。
(え、待って、新しい部作る感じ?)
(……やりたい……)
(良いんだけど、まずは今日の話片付けてからね)
(…………も、もちろん、そう……)
今ちょっと言い淀んだな。そんなにか。
「……新しい部、作るってどうするんだろう……レイサちゃん、知ってる……?」
「イヴちゃんが助成金を取ってきてくれたくらいですから、イヴちゃんの方が詳しいのでは?」
それもそうか、ってくすりと笑う2人。
「スズミさんなら知って……あ、そうだ!さっきのも一緒に、スズミさんに相談……」
宇沢レイサさんが良いことを思いついたという顔をした瞬間、イヴちゃんのスマフォが鳴った。
ティーパーティーの事務局から『桐藤ナギサ様からのお呼びです。申し訳ありませんが、可能であれば急いで本部のテラスにお越し下さい』の呼び出しだった。ええ、って困惑の溜息が2人から同時に漏れる。
「……急ぎ、かあ……」
(僕も急いだ方がいいと思う。さっきの今だし、)
(……そうだよね……嫌だなぁ……)
「と、とりあえず、行きましょう!行く途中でスズミさんにメッセージは送っておきます」
しぶしぶ、って感じで頷くイヴちゃん。つーかさっきまで本部にいたんだから言えよな感があるが、これが派閥政治の弊害なんだろうな。
リサイクルショップ滞在時間10分ちょいだったな。もう学校を出て繁華街まで出ちゃってたので行ったり来たりも面倒。スケルチを呼ぶかちょっと迷ったくらい。たまたまバス来てて学園内巡回トリニティ本部経由のに乗換できたんで割と早く戻って来られたけど。雨足が強くなってきて、窓ガラスを雨粒が叩くバス車内でぽちぽちメッセージを送りつつ、心配そうにイヴちゃんの顔をチラチラ見てる宇沢レイサさんと、雨を弾く音を軽快に鳴らす天井を見上げて魂が出たみたいな顔をしているイヴちゃん。今日は本当にやること多いってなってるもんね。
またも宇沢レイサさんは外の待合室で待たされることになり、うんざりした顔をする*1イヴちゃん。
何度も同じ人が呼び出されるのも慣れたものなのか、ティーパーティーの人達も何も言わない。いつも通りテラス前で盾と銃を置いて、テラスに案内されると、桐藤ナギサさんと聖園ミカさん、そして先生がいた。なんか前も見た組み合わせだな。
「急にお呼び立てしてすみません、御蔵さん」
「やっほー、さっきぶり☆」
「"お疲れ様、イヴ"」
「……遅くなりました……」
「いやいや、ナギちゃんの無茶な呼び出しにも素早く応えてくれたよね。さっすが自警団の重鎮☆」
聖園ミカさんからさっきの圧みたいなのがちらついているというか、どこか空々しい明るさというか。イヴちゃんも一瞬背筋をぶるりと震わせて、目礼してから勧められた席についた。
「さきほど、先生に了承を得て、補習授業部の発足が正式に決定しました。補習授業部のご説明は、もうミカさんから聞いていますね?先日の実力テストで優れた成績を取られ、治安維持にも貢献が厚い御蔵さんに、補習授業部の監督官をお願いしたいのです」
や、やられた。イヴちゃんが思わず聖園ミカさんの方を見ると、見事に綺麗なウインクをされた。
(……う、うそでしょ……)
(先生が捕まるタイミングの直前に会談ねじ込んだんかな……)
考えてみたら、聖園ミカさん的には別にこの後にイヴちゃんに揺さぶりかけても全然困らんのだよな。その時は多分返事の締切をもっと早く切るか、条件を細かく分ければいいだけだし。あ~後知恵。どっちにせよ今時点では何ともならんか。イヴちゃんはミルクをたっぷり紅茶に入れて、シュガーポットから砂糖を3杯入れて2口飲んだ。
「……か、監督官というのは……何をすれば……?」
「いつもと一緒だよ。成績の悪い子に勉強を教えて、悪い子を捕まえるだけ」
「"さっき見せられた名簿だと、2年の子もいたはずだけど……"」
「御蔵さんは、先日開催された実力試験で3年の部を受験し、6位の成績を収めています。実力試験は1学期の開催日時点までの範囲を全て網羅したものですから、御蔵さんは3年1学期までの範囲に関して問題が無いということです。偶然その成績を取る確率は『時計の部品をプールに投げ込んでかき混ぜたら時計が組み上がる』程度のものですね」
「そうそう。先生もイヴちゃんが強いのは知ってるでしょ?トリニティの厄介者のお世話にぴったりの人材ってわけ。うちのパテル分派が誇る逸材だからね!」
うちの、を強調した聖園ミカさんに対し、こほん、と咳払いした桐藤ナギサさん。
「その言い方は適切ではありません、ミカさん。彼女達もトリニティの大切な生徒です。いわば愛が必要な人達ですよ。それに、うちのと言いつつ、後援会の一員なだけでは?」
「あっはっは、言い方。あ、後援会だって大事な派閥の仲間だよ?ね、イヴちゃん?」
わかりやすい火花を散らす2人と、心配そうな表情で尋ねる先生。
「"イヴは、大丈夫なの?"」
イヴちゃんはうつむいて紅茶に写る自分の顔を眺めた。イヴちゃんにしては驚異的にわかりやすい表情で、眉間に皺が寄っている。苦虫を追い払うように、追加で2杯砂糖を入れる。
桐藤ナギサさんと、そのお付きのティーパーティーの子が眉をひそめた。
そのお付きの子がタブレットをイヴちゃんに持ってくる。
「そうそう、対象者のリストもお見せしておきますね。もちろん、これから集めに行くメンバーとはいえ、他言は無用でお願いします」
阿慈谷ヒフミ――成績不良、中間テストの一部及び実力テスト全部欠席
白洲アズサ――成績不良及び正義実現委員会弾薬庫への立てこもり未遂
浦和ハナコ――著しい成績不良及び風紀紊乱、素行不良
下江コハル――著しい成績不良
イヴちゃんが内心で呻く。
(……こ、コハルさん……え、ヒフミさん……?あと、他の2人も名前聞いたような……)
(白洲アズサさんは部室棟裏の初掃除の時に、浦和ハナコさんはファン・レイン号を宇沢レイサさんと掃除したとき会ってるよ)
(……ありがと、ジル……)
イヴちゃん達が気を使って聞かなかったのも裏目だったかなあ。
先生に目線を向けて、小さく頷いてから口を開くイヴちゃん。
「……条件をまず聞かせてください……外出と自警団、それと他の学校の友達との活動は、できますか……?」
「もちろんです。監督官はあくまで補習対象ではありませんから。とはいえ、放課後から夕食程度までは事実上ほとんど拘束されることになるでしょうし、報酬も用意しましょう。皆さんが無事補習テストに合格すれば、私の出来る範囲でですが、『私が出来る事を一つ聞きます』」
「わお、ナギちゃん太っ腹!」
桐藤ナギサさんのお腹に手を伸ばそうとする聖園ミカさんと、それに冷たい目を返す桐藤ナギサさん。
情報量が多すぎてちょっとぐるぐる目になりつつある中、イヴちゃんはちゃんと質問を返した。
「……逆に、合格出来なかったらどうなりますか……?」
「そうですね。処分も決めてしまいましょう。監督官の監督責任をどこまで見るかですが、これから決める補習授業部の処分に準ずる形とします」
「で、具体的な報酬の方は漠然としてたけど、どういうのを考えてるの?」
「御蔵さんのやりたいこと次第ですが……そうですね。御蔵さんがお好きな、ティーパーティーの美術品の一つ、『黄金のパスタサンプル』をお貸しするというのはどうでしょう?」
あっやべ。これはヤバい。いくら何でも刺さりすぎている。まだ具体の処分が決まってないのに。
(イヴちゃんちょ)
「やります」
ア!*2
阿慈谷ヒフミ
『念には念を入れて』フィリウス分派とパテル分派の両方(お互いがお互いの動きを知らないまま)からモモフレンズ運営企業に依頼と補助金の支払いがあったため、ペロロのゲリラライブが複数回発生して阿慈谷ヒフミの欠席が増えた。
原作同様、ブラックマーケットでの覆面水着団の指揮官の疑いが掛けられている。
※覆面水着団に関しては、イヴは普通の隠蔽と証拠品処分、スマフォの通信歴と位置情報追跡により全く疑いが掛かっていない。
白洲アズサ
成績不良は原作と同じ。
いじめ被害者を助けた結果、加害者にハメられて正義実現委員会に追跡され、催涙弾倉庫ではなく、弾薬庫に立てこもったものの、被害者の証言により疑惑が晴れ、『未遂』で厳重注意で終わっている。
ただ、成績不良の度合いは相当であり、かつ平素の言動も不審でクラスにも馴染めていないので今回補習授業部に巻き込まれた。
浦和ハナコ
原作と同じ。2年になってから成績が急降下し匍匐前進へ。
去年及び原作と比べ校内の治安はかなり改善されているものの、派閥や政治闘争は解決されていないので、依然として本人からトリニティの不審も根強い。
逆に、本人の持つ人脈や情報面から上層部に警戒されている。
下江コハル
成績不良は原作を圧倒的に上回る上に、学園側からの『中間テストの成績を鑑み1年次のテストを受けるのを勧める』という至極当然の忠告を蹴ってまで3年実力テストを受けて爆死しているため、学園側の心情がより悪化している。
羽川ハスミの対ゲヘナの態度は軟化しているものの、軍隊兼警察である正義実現委員会の抑えを効かせるための人質はやはり欲しく、上級生から好かれているという点と圧倒的な成績の悪さで選出もとい補習授業部に巻き込まれた。
御蔵イヴ
成績抜群を逆手に取られた。
トリニティ側の本人に対する負い目、他校(特にミレニアム)への接点の厚さ、自警団の伝統的な権力からの独立志向、加えてそれなり以上と評せる戦闘能力の高さから警戒されている。
先日、ミレニアム地下で特異現象捜査部へ招待された際に和泉元エイミが会長の名を出したことから『ミレニアムのビッグシスターと直接接触した可能性がある』と情報局から報告があったことが拍車をかけた。
本人の権力志向の無さも『何を餌にしていいか判らない』点から却って警戒されているが、この度ティーパーティーの倉庫で腐らせていた悪趣味な美術品で無事釣り上げられた。
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