ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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宇沢レイサ視点です。ちょっと短いです。


【閑話】手紙を書こう

 トリニティの国語、現代文の授業には『人に手紙を書こう』という授業があります。といっても、解説は同じ学校のあなたには必要ないでしょう。

 誰に書くのか、迷うようになるとは思いませんでした。贅沢な悩みです。スズミさん、ソフノちゃん、モユルちゃん、コハルさん、マリーさん、シミコさんにはモモトークでメッセージを送っておこうと思います。

 初等部の時には、書く相手がいなくて結局宿題を出しませんでした。

 中等部の時には、お世話になった事務のロボットの方に宛てて書きました。あの人は喜んでくれましたが、今は転職してしまっておりません。元気にされてるでしょうか。まだスズミさんと出会っていなかったのです。

 

 さて、話がまた逸れました。中等部2年の冬に勇気を出してお見舞いに行ったことは、私の人生の一大転換点だったのではと今は思います。

 お怪我はもう大丈夫でしょうか?時折、事故の影響がまだ残っているのではと心配することもあります。*1

 

 書き始めた時には、何を書いていいのか悩んでいたはずなのですが、あまりに書きたいことが多すぎます。

 自分の話をしてもいいでしょうか。初等部の頃から、正しいということにこだわりがある子供でした。小さな違反も目について許しがたく、激情を抑えられなく、力が強い子供だったので、気がつくと周りには誰もいませんでした。

 でも、それでいいと思っていました。正しいことには何より価値があると思っていますし、それ自体は今も「何より」とつけるかは別として変わりません。

 

 中等部の2クラス合同の体育で、何度かあなたの顔は見ていました。ですが、確か一緒に組んだ覚えはありません。お互いに顔を覚えているかどうかくらいの間柄だったでしょう。

 私があなたを知っていたのは、授業ではなくて、ご入院前*2、秋も終わりそうな頃に校内をパトロールしていたときお見かけしたからです。

 

 カラスの雛を助けたことがあるのを覚えていますか。普通は夏の前に産卵する鳥だそうですが、秋にもまれに産卵することがあるそうです。

 しゃがみ込んだあなたが身じろぎする度に金髪のサイドテールが小さく揺れて、眼鏡に秋の太陽が小さく反射していましたね。じっと無言で雛を眺めているのを見て、守っている雛より大きいはずのあなたの方が、「今にも消えてしまいそうだ」と思いました。

 あの時、声をかけて「手伝います」と声をかけるために20分、いえ、30分くらいだったでしょうか。興味を示す猫を追い払ったり、不思議そうにあなたを見つめて通り過ぎる他の生徒を眺めているあなたに声をかけたかった。木の陰でじっと、ずっとあなたを見つめていました。

 結局、ハシゴと新品の軍手を持ってきてくれた正義実現委員会の方が来てあなたが立ち去るまで、私は声をかけることができませんでした。

 

 これを書いていて、ゲヘナに行った時にイブキさんから聞いた話を思い出しました。おそらくですが、私はその時のお2人に会っているはずです。

 いえ、正しくはこのときも、1人で寂しそうな悪魔族の小さな女の子に声をかけようとしてかけられず、やってきた金髪で眼鏡の同い年くらいの女の子と楽しそうに遊んでいるのを、公園の外から眺めていただけでした。

 遂にあの時の女の子に声をかけられたと思うと、私という人間の成長というのも捨てたものではないと思いました。

 

 何の話だったでしょうか。そう、あなたは我慢強く、とても優しい人だということを伝えたいと思っていたのです。もちろん、欠点のない人間はいませんが、あなたの押しの弱さと口数の少なさ、そして鈍さは、これらの美点の裏返しではないでしょうか。そう思うと、私のあなたへの感情は強くなります。

 この感情に名前があるのは知っていますが、安易に

 

 トリニティ高等部の寮は防音がしっかりしています。声の大きさを注意されることが多い私は、いつもそれに感謝しています。今日もそうですね。

「あー!!!!!」

 滑り始めた筆*3を慌てて机に叩きつけました。この課題は書き上げて講師のロボットの方にお見せした後に本人に渡すのです。

 参考にした本が、あまりにその、詩的すぎた気がします。

 それにこれを見せてしまったら、いくら何でもストレートに伝わってしまいます。いえ、伝わっても構わないというか、それで関係が進展するならむしろ望むところです。私の得意で大好きな挑戦状形式に仕立てて今すぐ渡してもいいくらいです。

「出来たらやってますよ」

 小さく呟いて椅子の背もたれにもたれかかると、椅子がぎしぎしと不満の声を上げました。進展しないだけなら構いません。もし嫌われたら?気持ち悪いって言われたら?言わないと思います。思いますけど。また1人ぼっちになったりしたら。

 暖かさを知らなかったから寒くても平気だっただけでした。きっと耐えられないでしょう。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

 ひとしきり呻いてから、冷蔵庫から飲みかけのソーダを取ってきました。ぷしゅ、と気持ちいい音がしました。

 蓋を捻ったら、私の気持ちが伝わって、そしてそれが心地よく受け取ってもらえればいいのに。柄にもなく、そんなことを思ってしまいました。これを飲み切ったら書き直そう、そう思いながら。

*1
「も」「が」で何回か書き直した跡がある

*2
ごをつけるかつけないかで何度か消しゴムをかけたりしている跡がある

*3
シャープペンシルです




 今日は2話分あります。

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