ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
トリニティ中等部3年の御蔵イヴはカイザーグループの大型トラックに轢き逃げされ、胡乱な憑依者を脳内に抱え、翼を失う。ミレニアムの医療技術により機械の翼を移植されたことをきっかけに、ミレニアムのエンジニア部、早瀬ユウカ、ゲーム開発部、ヴェリタス、特異現象捜査部などと縁ができる。
また、宇沢レイサ、下江コハル、伊落マリー、円堂シミコを初めとする友人ができ、自警団の役職を預かる。
ミレニアムとの繋がりや他校での活発な活動を疑われ、補習授業部の手伝いを命じられるイヴ。エデン条約締結を無事に迎えることはできるのか。
部員集めに苦労しないの、何というか上意下達の楽さがあるね まーあんま集めたくない感じの部活ではあるが
あっ、と言い切ってから気付いたイヴちゃん。
(……ごめん、ジル……まずかった……よね……?)
(ま、まーしょうがないよ!先生いるから何とかなるって!)
条件闘争が出来なかったのが悔やまれるけど、何だかんだ言って舌戦であの2人にイヴちゃんも僕も勝てるか怪しいもんだしな。それに、先生にこの段階で条件伏せてるってことは、多分だけど後出しでいくらでも変えられるんだろう。
えらいさんと舌戦する経験を積めなくて経験値ロス、くらいに思っておこう。それに、どっちみちイヴちゃん的には阿慈谷ヒフミさん*1と下江コハルさんがおる時点でもう蹴る択が無いから、出せる材料が知れてるしな。
「ありがとうございます。それでは、お願いします」
「……あ、あの……できれば、部室棟の良い部屋を1つ、補習授業部が終わってから使いたいです……パスタサンプルを飾って、皆さんに見せたい……」
「わかりました。先ほどの条件とあわせて了承しましょう」
頷いて笑みを浮かべ、紅茶を一口飲む桐藤ナギサさん。
「じゃあ、早速補習授業部の『愛が必要』な子達に声掛けお願いできる?実際の活動開始はいつからがいいかな」
「"再テストの日程が決まってるなら、早ければ早いほうがいいね。借りられるのはどこかな?"」
先生も頷く。
「旧校舎で今は使用していないところがあります。そちらをお使いください」
タブレットをぽちぽちし、トリニティ内の地図を出すお付きの子。先生とイヴちゃんに見せて、イヴちゃんはどこかすぐわかったみたいだ。
(掃除、頼んだ方がいいね)
「……掃除や補修はしなくても、使えますか……?」
(……補習だけに、補修が欲しゅう……って、言っていい……?)
(ま、またにしよ?)
「ああ、そうですね。今日中に確認と清掃をさせます」
「じゃあ、パテル分派の方からも人手出してもらおうかな」
お付きの子に伝えると、きびきびと連絡をし始めているみたいだ。
「"イヴ、早速手伝ってもらっていい?"」
「……わかった……」
「"じゃあ、ナギサ、ミカ、またね"」
最後に、補習授業部(予定)面々のいる場所を教えてくれた、お付きの子にも声をかける先生。
手伝いを申出てくれた宇沢レイサさんに概要と下江コハルさんが選ばれてしまっていることを説明してから「誰が入ってるかはまだ未発表だからくれぐれも内緒に」と謝って先に帰ってもらった。夜の予定も読めなくなっちゃったしね。
あ、モモトークで守月スズミさんからメッセージが来ている。部の新設について教えてくれてるのと、もう一つについては結構考えてくれたみたいだけど、最終的には『先生に相談してみては』という結び。お礼を伝えてから、『先生は今トリニティに来ているので、後で相談します』と返すイヴちゃん。
そうだなあ。なんで先生に相談しようって思いつかなかったんだろう。先生、頼りにならん事無いんだが。どっちかというとこっちから手伝ってる案件の方が多いからあんまイメージ無かったってことかもしれん。
やってきたのはティーパーティー本部内にある図書館*2。過去の議事録や政策資料なんかが入った、比較的小ぶりな*3一室だ。
「あれ、先生?イヴちゃんも!」*4
暗黒街のボスもといペロキチ姐、阿慈谷ヒフミさんだった。
図書室から出て、ティーパーティー本部の高級そうなふかふかの赤絨毯が敷かれた廊下を歩きながら話す。
「ナギサ様から『ここで待っていて欲しい』と言われたのですが、先生とのお話だったんですね!」
「"そうなんだ。あのさ、端的に言うけど、ヒフミ"」
「はい?」
「"中間テストと実力テスト、欠席しちゃったんだよね?"」
「あ、はい。あはは……大事な用事がありまして……」
「"それは後で聞くとして。結果、再テストと、『補習授業部』の部長をお願いしたいんだ。詳しい話は明日、またナギサがしてくれるけど"」
「え、えええ~!?」
小声で叫ぶ阿慈谷ヒフミさん。
「あ、いえ、確かに欠席しましたけど……あうう……わかりました。あれ、そうなると、イヴちゃんも?」
イヴちゃんと先生両方首を横に振る。
「"イヴは監督官として、ヒフミの仕事を手伝ってもらうことになった"」
「……3年の今日までの範囲は、わかります……」
先生がシッテムの箱*5を阿慈谷ヒフミさんに見せた。
「えっ3年の実力テストで6位?!6位って6位ですか?!」
ドヤ顔をするイヴちゃんと困った笑みを浮かべる先生。素直に感嘆する阿慈谷ヒフミさん。
「"そんなに凄いんだ"」
「トリニティはとにかく大きい学校ですし、『文武両道』を掲げてますから、勉強の質も高いんです」
ひとしきり感心する阿慈谷ヒフミさんと先生、イヴちゃんが傘を差してしばらく雑談しながら歩き、やってきたのは正義実現委員会本部。
「正義実現委員会本部、初めて入りますね……」
「"まあ、所属してないと用事無いよね"」
そりゃそうだな。イヴちゃんはもちろんしょっちゅう来てるので顔見知りの自警団や正義実現委員会の子と行き交う度に軽く挨拶しているが、先生と阿慈谷ヒフミさんは不思議そうな目で見られている。
まずは事務室の1つ。先生がノックして3人が入室。手前のソファに銀髪で大きな白い翼の人物が腰掛けている。お茶とお菓子は出てるけど、向かいの正義実現委員会の子2人にお説教されてたところらしい。
「とにかく、次からは気をつけてくださいね」
「できる範囲で努力する」
素っ気なく聞こえる返事に青筋を立てつつも立ち上がって頭を下げ、退出していく正義実現委員会の子1人と、もう1人は部屋の隅に立って立哨らしい。
「"初めましてかな。シャーレで先生をやっているよ。よろしくね"」
「先生か。ああ、いや、初めて見たものだから。私は白洲アズサ。よろしく、先生」
小さく目を見開いて驚きを表現したのは白洲アズサさんだった。
「初めまして。2年の阿慈谷ヒフミです。アズサさん、同じ学年ですよね?アズサちゃんって呼んでいいですか?」
「あ、ああ、構わないが……」
補習授業部自体が長丁場になりそうだからか、初手から距離を詰めにかかる阿慈谷ヒフミさん。
「……お久し振りです。1年の御蔵イヴ、です……部室棟裏でお目にかかりました……」
「自警団の役職付とは知らなかった。それで、先生とヒフミ、イヴは何の用?」
「"単刀直入に言うね。アズサには成績不良の生徒達に勉強を教えて、再テストを受けてもらう『補習授業部』に入ってもらうことになったんだ"」
「そうか……」
がっくりとうなだれる白洲アズサさん。
「成績が悪いのは自覚していた。いかようにも処分して欲しい」
「"処分を免れるための補習だからね!?"」
「そ、そうです!一緒に頑張りましょう!」
「うん?そうなるとヒフミもイヴも成績が悪いのか?」
「……私は、勉強を手伝う方……」
「1年生なのに手伝ってくれるとは、イヴは凄いのだな。助かる」
率直な尊敬の目にちょっと照れるイヴちゃん。小さく微笑む阿慈谷ヒフミさん。
「それで、補習授業部はこれで全員なのか?」
「いえ、この建物の中にあと2人います。ご一緒に来てくださいますか?」
「ああ。作戦行動のための顔合わせとブリーフィングは重要だからな」
「"う、うん……そうだね……?"」
せやな?まあマジでそんな感じになるはずだから大事なんだけど。うん。
建物内に慣れてるイヴちゃんが先頭に立って下江コハルさんを探しにぞろぞろ。押収品保管室前にはいなかったので、他の子に聞いたところ、今日は訓練の後に休みの上級生に代わって留置場の番をしているらしい。行き交う子達に不審な目で見られながら*6連れ立って歩く一同。
あ、おった。多分留置場に続くのであろう頑丈そうな扉の前の椅子に腰掛けている。幸い下江コハルさん1人だけだ。イヴちゃんの顔を見てちょっとだけ顔を明るくしてから仏頂面に戻り、先生に目をやって不審げな目をし、知らない人が2人おる!!って感じの猫目に毛を逆立てて警戒する下江コハルさん。わかりやすい。
「ちょっと、イヴ!と、先生!誰、この人達?!」
「あはは……初めまして。2年の阿慈谷ヒフミです」
「同じく2年、白洲アズサだ」
「そ、それで?!阿慈谷さんと白洲さん?!何の用事?!」
「"私から話すね"」
「先生は何だか怪しいから嫌!イヴ!説明して!」
地味にショックを受けてる先生。エ駄死センサ発動してるんかな。
イヴちゃんは頼られた(?)のが嬉しいのか先生にちらりと目線を向けて頷く先生を見てから、小さく微笑んで*7説明し始める。
「は、え?!補習授業部?!ぷっ、あ、思い出した!白洲って、今日も先輩に注意されてた人でしょ!」
「その通り。困っていた生徒を助けただけだったのだけど、助け方が不味かったらしい」
「1回だけならお説教なんてされないんだから!」
「確かに、意外と正義実現委員会の方々は親身というか、最初の方はお目こぼしくださいますよね」
「そもそも、細かい規則違反はそれは駄目だけど、って誰?!」
スクール水着のピンク髪、デッッでえっちなお姉さんが立っている。
「あら、御蔵さんと大人の方、お2人は初めましてですね。大人の方は噂に聞く先生でしょうか?」
「ちょっと、あんたなんで出てきてるの?!留置場で反省してて!」
ぎゅーっと肩を掴んで留置場の方に押し戻そうとする下江コハルさんを笑顔で抱きしめるえっちなお姉さんこと浦和ハナコさん。下江コハルさんは最近ちゃんと鍛えてるからそれなりに力は入ってるっぽいけど、1年差なのか知性だけじゃなくて膂力も強いのか、浦和ハナコさんはびくともしない。
「は、離して!!っていうかなんで水着?!さっき制服に着替えてなかった?!」
「あらあら、嫌われてしまいました」
離れてしゃーっと威嚇する下江コハルさんとニコニコ笑顔の浦和ハナコさん。
「……浦和ハナコさん、ですね……?」
「"初めまして、シャーレで先生をしているよ。2年のハナコだね?同じく2年の阿慈谷ヒフミと白洲アズサ、1年の御蔵イヴ"」
「補習授業部に先生、そして掲示板常連の御蔵イヴさん、いえ、イヴちゃんって呼びますね。長いお付き合いになりそうですし?皆さん、私を迎えに来たのですね?」
「"そう。これからよろしくね"」
2年生組は同じ学年だから、と気安く呼び合うようにしようと3人が決めている。
ぷふー、と笑っている下江コハルさん。いやちょっと待って。ここまで来て全然余裕の態度だから、僕はてっきり成績悪かったんだと思ってたけど……っていや悪いって。さっきの資料でも『著しい成績不良』ってバッチリ書いてたし。なんでこんな余裕なんだ。
頭の羽をぱたぱたさせつつ爆笑してる下江コハルさんが続ける。
「あはは!良いんじゃない!素行不良者に変態の組み合わせ!そこに『バカ』の称号だなんて、私なら一緒にいるだけで羞恥心で死んじゃいそう!」
「あ、あの……」
顔を見合わせる先生と阿慈谷ヒフミさん、イヴちゃん。白洲アズサさんは誰が補習授業部の後1人か知らないからきょとんとしている。浦和ハナコさんは何となく感づいてるんじゃないか?
笑うのをやめて真面目な顔をして首を傾げた下江コハルさん。
「っていうか、イヴもなの?掲示板に名前載ってなかった?」
「……わ、私は手伝い……勉強を教えたりする方……」
「イヴが??」
いや教えてるの見てたでしょ???って思ったけど、あの勉強会は1年しかいなかったか。
「さ、最後の一人は、下江コハルさんです」
「は?え?……私?」
えいやと告げる阿慈谷ヒフミさんの宣告に、蒼白になって黙り込む下江コハルさん。数秒硬直してから、慌てて阿慈谷ヒフミさんに食ってかかる。
「わ、私、成績そんなに悪くないけど?!」
急にやや弱気な謎の見栄張り始めるなあ。
「"じゃあ、この点数は間違いかな"」
下江コハルさん本人にだけ見えるよう、タブレットを見せる先生。多分直近2回分のテスト結果が載ってるんだろう。
再度真っ青になってうつむく下江コハルさん。体を震わせて、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「し、死にたい……」
あわあわ慌ててハンカチを取り出して涙を拭うイヴちゃんにされるがままの下江コハルさん。オツヤじみた雰囲気になってしまった。
エデン条約編に突入しました。500,000文字書いてようやくです。
読んでくださっている皆々様に感謝の言葉しかありません。誰も読んでくださってなかったら流石によう続けられないので…。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり、誤字報告本当に有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。