ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
泣きじゃくる下江コハルさんをイヴちゃんと先生とおろおろする阿慈谷ヒフミさんが何とか宥めてから一旦解散になった。他の2人は困った様子だけであんまり戦力にならなくて……まあ、初対面だからしょうがないんだろうけど。
明日の放課後からは基本的に泊まり込みになるので、イヴちゃん含む補習授業部に参加する面々は泊まりの支度をしないといけないのだ。
イヴちゃんはお泊まりの荷物を支度する前に、指定された旧校舎の掃除を手伝いに行く先生と同行することに。ぽちぽちと宇沢レイサさんグループに言える範囲だけの話を投げた。
雨がやっと止んだ歩道を歩きながら、聖園ミカさんから持ちかけられた取引の話をぽつぽつ先生に相談するイヴちゃん。
先生は立ち止まってちょっとしゃがみ、イヴちゃんと目線を合わせた。
「"まずは、期日までにもう一度しっかり話し合うことかな"」
「……先生は、やっぱり、生徒同士の間の話には入らない方が良いって思う……?」
「"そうだね。基本的には"」
先生は頷いてから微笑んで言葉を続ける。
「"でも、イヴは今困ってるんだよね。相談に乗るし、その話もちゃんと、ミカにも聞くけど、いい?"」
イヴちゃんはこくりと頷く。
あっ、それで思い出した。まーた変なタイミングになっちゃうな。
(イヴちゃん、今日、圧かけられたばっかでなんだけど、先生に『桐藤ナギサさんと聖園ミカさんの話をちゃんと聞いてあげて』って言っておいて)
(……う、うん……)
「……せ、先生は、どっちの話も聞かないといけないって、思う……よね……?」
「"そうだね。もちろん、イヴの話を信用してないわけじゃないけど、例えばミカからしたら言えてなかったりちゃんと伝わってないこともあるかもしれないから"」
「……ミカさんもだけど、ナギサさんの話も、聞いてあげてほしい……」
「"ナギサ?うん。今の話とはまた別でって事だよね。わかった"」
(……何か、あるの……?)
(補習授業部自体の話と、あと、たまに夢の中で来る狐耳の話が長い百合園セイアさんいるでしょ。あの人の話で相談がある、はず。多分)
(……そうか、ティーパーティーの人だもんね……)
そういう話だったよね、確か。違ったっけ。
補習授業部には裏切り者がいるって疑ってるんだったはず。イヴちゃんはあの中に仮に裏切り者がいても何とかできるし、最悪、遅滞行動*1して正義実現委員会とか自警団の応援が来るまで持ちこたえるのを期待されてるんだろう。そういう意味でも確かに最適な人材の一人ではあるんだよな。かーっ、超絶可愛い上に勉強もカラテも出来るからなー!イヴちゃんはなー!有能過ぎてつれーわー!別に僕が有能な訳じゃないけど、代わりにドヤっとく。
いやでも、裏切り者がいるんだっけ?いないんだっけ?確かいなかった気がするんだが。でも外から攻められたりした気もする。確か聖園ミカさんがなんかどっかの学園の私兵連れてくるんだったよな。結局この面子から情報漏洩はされてるんだっけ?白洲アズサさんのお友達だった気がするから、白洲アズサさんが黒なのか?
掃除がてら地形も見ておいた方が良さそうだなあ。
先生とイヴちゃんがキヴォトスのロボアニメの話で盛り上がっていると、あっという間に旧校舎に着いた。あれ、消防車?*2が止まってるけど何だろう。
先生は急なメッセージが来たみたいでイヴちゃんに断って立ち止まってスマフォを見ているので、てくてくとイヴちゃんだけが先行する。
「……何か、ありましたか……?」
声をかけて振り向いたのは半袖ハーフパンツの体操服姿の飯郡ハナハさんだった。鋭い目つきがイヴちゃんを刺す。微笑んだ本人にそんなつもりはないんだろうけど。
「……ハナハさん、お疲れ様です……」
「ふふ、お疲れ様です。この放水車のことよね?ティーパーティーが昔々に暴徒鎮圧用に保有してたけど使ってなかった車両なの。この間、私達が修理したから、長時間の動作チェックも兼ねて外壁の掃除用に持ってきただけ。そこまで汚れてなかったから、放水はしなかったけど」
使う前から燃えちゃったらどうしようかと思ったよ。
「私も掃除の手伝いのつもりで来たのだけど、ちょっと呼び出しがあったから失礼しますね。あちらの、噂の先生にもご挨拶したかったけど」
忙しそうだなあ。他のティーパーティーの人に声をかけて、他の体操服の子(多分同じくティーパーティーの人なんだろう)の運転するスクーターの後ろに乗せてもらって去って行く飯郡ハナハさん。
「"ごめんごめん、急な相談だったから"」
かぶりを振るイヴちゃん。
「……掃除、行きましょう……」
イヴちゃんも腕まくりしてやる気満々だ。でも、どこを掃除したらいいかわからなくて首を傾げている。可愛いね。
旧校舎内の窓も扉も全部開け放たれて、体操服姿の子達が忙しげに掃除をしている。指示をしている子*3に先生とイヴちゃんが指示を受けて、掃除に混ざって作業することしばし。
(着替え持ってきたら良かったねえ)
(……この制服は今日か明日の朝、クリーニングに出しちゃおう……)
洗い替えあるし、それでいいか。
「自警団の審判者!宇沢レイサと自警団、正義実現委員会の応援参上です!!!」
旧校舎入口の方から朗々と響き渡る名乗りに小さなざわめきと失笑、人手が増えたことへの安堵の溜息が混ざる。結構広いからなあ、この校舎。指示を出していた子が応援の受入と指示のためだろう、走って行く。
誰かが気を利かせて差し入れのジュースを持ってきてくれていたらしく、宇沢レイサさんがイヴちゃんと先生の分も持ってきてくれた。
「先生、イヴちゃん、お疲れ様です!!」
「……レイサちゃん、ありがとう……」
「"レイサ、ありがとう"」
「いえいえ!!私も何か、手伝えたらなって!!まあ、自警団と正義実現委員会の方々に声をかけてくださったのはスズミさんなんですけど。あ、詳しい話は伏せてもらってますから!」
本当に良い子だなあ。守月スズミさんもありがてえ。
宇沢レイサさんは辺りをキョロキョロと見渡してから、小さく笑う。
「でも、イヴちゃんと私の分の着替えも持ってきたら良かったですね!」
「……お願いしておけばよかった……今着てる服はクリーニング、出しちゃお……」
くすりと笑う2人。
「"私も着替え、持ち歩いた方がいいかもしれないなぁ……"」
しみじみ言う先生。戦闘汚れとかもありそうだし名案かも。
断続的にティーパーティーや自警団、正義実現委員会の手伝いの子が来てくれたお陰で加速度的に掃除が進み、日没ちょっと前に綺麗になった。蛍光灯をLEDへ交換するのもついでにやってくれたようで、LEDのちょっと頼りない光が綺麗になった旧校舎を照らす。
ん??んん???何だここ、すげー見覚えがあるが。ゲームで見たってことか?いや、わざわざ専用のグラフィックなんか作らんよな。イヴちゃんが普段通ってる校舎とは作りが似てはいるけど、似てるとかそんなレベルじゃないんだよな。何だこれ。既視感ってやつかな。
通電や水道、ガスの開通チェックをしている子達の間を縫って、窓を閉めていくイヴちゃん達。外から人数分のベッドとロッカー、あと多分先生用らしき小さな金庫を運び込む作業が遠目に見える。
「あっ、イヴちゃん!プールがありますよ!」
窓の外を指さす宇沢レイサさん。プール、プールねえ。使ってないプール遊ばせてるのすげーな。そもそも今のトリニティ、基本は室内温水プール*4だから、露天のプールも昔の施設なんだろうけど。
「……プール、使うかな……」
「"補習の息抜きとかに使えるかも?"」
「……なるほど……放水車……まだ、あるかな……?」
(放水車で掃除するってこと?)
(……そう……)
(いいね)
名案。折角わざわざ運転してきた車だし、使わずに終わるより全然いいよね。
放水車は撤収の時にティーパーティーの子達を乗せるつもりだったのか、駐めっぱなしだった。近くにいたティーパーティーの子にイヴちゃんがお願いすると、その子がどこかに連絡し、更にそこからどこかに連絡し……待つこと数分。了承が出たみたい。
先導するイヴちゃん達について徐行で放水車を転がしてくれたティーパーティーの人がプール前で車両を止めて、ホースの繰り出しをしている。水栓側への接続は宇沢レイサさんがやっている。
「……レイサちゃん、凄い……」
「"レイサ、流石だね"」
「自警団の活動で、初期消火とかの手伝いをすることがあるかもと思って、講習を受けました!!」
えへへ、と赤くなって照れる宇沢レイサさん。操作方法を教わりながらふむふむと頷くイヴちゃん。
無事接続が終わって、放水が始まったのでプールの方の様子を見に行く3人。
ホースの先端を持ってくれていた子が若干大変そうだったのでイヴちゃんが交代。イヴちゃんの膂力だと片手持ちなんだよな。薄暗くなってる中でも、苔とかヘドロみたいなのが放水でかっ飛んで行くのが見えて楽しい。何かこういうゲームあったよね。3人とついでに手伝ってくれたティーパーティーの人もこういう光景は好きみたいで目が輝いていた。人間の「手軽に綺麗にしたい」欲を刺激する景色だからなあ。
まー、実際使おうと思ったら細かいところは人の手で掃除しないといけないだろうけど、かなり手間は省けたよね。多分。地形見るのは暗くなったので明日だな。
もうとっくに睨まれてるけどイヴもジルも知りません。
未だにまたしても何も知らない御蔵イヴさん(15)状態です。
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