ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
プールの片付けがあらかた終わって、ティーパーティーの人達が運び込んでくれた家具類含む荷物の確認中に、旧校舎入口から聞き覚えのある声が聞こえた。
お礼と挨拶をしながら、どことなく仲良くなった感があるあちこちの所属の生徒達の間を通り抜けてやってきたのは守月スズミさんだった。
「スズミさん!!!ありがとうございました!!!」
「……お陰様で、助かりました……」
「いえ、私は皆さんにお手伝いをお願いしただけで、結局掃除のお手伝い自体は間に合いませんでしたし」
守月スズミさんの先生を見る目が何となくしっとりしている気がする。先生に挨拶する守月スズミさんに気を遣ってか、「皆さんにお礼を言ってから、私達で確認をすませましょう」と囁く宇沢レイサさんに、頷くイヴちゃん。先生と守月スズミさんは先生用の部屋に歩いて行く。
旧校舎入口、三々五々帰ろうとしている子達にイヴちゃんと宇沢レイサさんもお礼を伝えていく。何人かは勘違いしてなのか「補習頑張って」と激励してくれた。2人とも補習受ける側ではないです……。
掃除を指揮してくれていた子がイヴちゃんに先生と生徒の人数分の旧校舎入口鍵*1を渡してくれる。ティーパーティーの人達は迎えのバスに、自警団と正義実現委員会の子達はこの後軽く打ち上げに行く子達と、引き続きパトロールに出るのか警邏用車両に便乗する子達に分かれた。
生徒達が一気に帰って、先生と守月スズミさんの声が遠くに小さく聞こえる。ほぼ2人きりになったのが嬉しいのか、宇沢レイサさんは満面の笑みでイヴちゃんの手をきゅっと握った。
「行きましょう!」
イヴちゃんも小さく微笑んで頷く。
上の階から屋上や窓の戸締まりを再確認してから家具の確認作業。
ややくたびれているとはいえ、エアコン5台*2、でかい冷蔵庫3台に乾燥機能付洗濯機3台、電子レンジ1台、非常用電源、ドライヤーも人数分。どれも正常動作。
シャワーもちゃんとお湯が出た。一安心だな。
生徒用の寝室として使われる用の教室を確認すると、ベッドは当然イヴちゃん含む人数分並んでいて、予備にだろう、折り畳み式のベッドがビニールをかけた状態で隅に置いてある。個人の荷物を保管できるように鍵付ロッカーも人数分。
他に机と椅子が4つ×2セット向かい合わせに並べてあるのと靴箱が設置されてシートが敷かれて靴を脱げる配慮がなされてて、少しでも快適に過ごして欲しいという気持ちが伝わってくるね。助かる。
「イヴちゃんは、ここでしばらく寝泊まりするんですね……」
「……そうだね……?」
「わ、私も泊まりたい……!」
一緒にお泊まり、もっと積極的にしておけば良かったって顔をしている宇沢レイサさん。
「……聞いてみる……?」
ぽちぽちとスマフォでティーパーティー事務局にメッセージを送るイヴちゃん。
あ、もう返ってきた。
「……『補習授業部への参加者以外の宿泊は禁止です』……」
がっくりする宇沢レイサさん。
「ま、毎日遊びに来ます……!」
「……夜だけしか無理だと思うけど、嬉しい……」
平日日中は普通に授業に参加、放課後は補習の勉強だから日中はシンプルに空いてないんだよな。休日も日中は同じように勉強だし。
放課後までは普通に会えるとはいえ、来てくれること自体イヴちゃんも嬉しそう。顔見知りばっかりとはいえ、あんまり馴染み無い人もいるしな。
イヴちゃんのスマフォが再度ぴろんと通知音を奏でる。ティーパーティー事務局からだ。
『監督官として、補習授業部参加期間中はスマフォの位置情報の常時提供に同意してください』
(……別に、いいよね……)
(大丈夫でしょ。万が一の事あったらスマフォ撃って壊して「銃撃戦で壊れた」って言ったらいいし。データのバックアップ、今日取っておこうね)
(……わかった……)
ポチッと承認ボタンを押すイヴちゃん。ブラックマーケットにでも行かない限りはまあ問題ないだろう。行くなら置いて忘れてったふりか銃撃戦のフリで大丈夫だしヨシ!
お泊まりは明日からってことで、まだ先生と話したそうな守月スズミさんを置いて戸締まりを先生に頼んでから、宇沢レイサさんと海鮮百鬼夜行料理*3を食べてお家に帰ってきた。
円堂シミコさんにモモトークで『勉強を教えることになったので、初等部から高等部2年の期間分、長期貸出できる本があればお借りしたいです』と送るイヴちゃん。なんか良い本あると助かるね。
(お休み、イヴちゃん)
(……お休み……)
僕も今日は疲れた。ちょい長めに寝ても許されるかな。
ローカルコトダマ空間だ。後ろでイヴちゃんが布団にくるまってすやすやしてる。穏やかな寝顔がまじで可愛いな。前と掛け布団の柄が変わってる気がするが。*4
どことなく有無を言わせないようなノックの音がして、扉が開かれた。
「お邪魔するよ」
あー、セクシーフォックスさんこと百合園セイアさんだ。イヴちゃんを見てから僕に目線が動く。
「イヴは寝ているのか」
「今日は色々ありまして……」
「サンクトゥス分派の部下から救護騎士団を通じて報告がさっき来たよ。やはり迷惑をかけることになったね」
「いや、まさか巻き込まれるなんて思ってなくて参りました。せめてお泊まりは強制じゃな……いや、逆か。勉強時間を稼ぎたいから、このまま強制してもらった方が良さそうですね」
「そんなに心配なのかい?」
「約2名ほど、純粋に成績に不安があります。ちなみに、合格できないとどうなる感じですか?」
浦和ハナコさんはなんかめっちゃ賢いんじゃなかったっけ。
「通常の補習授業部であれば、夏期講習で夏休みほぼ全滅程度だが」
それも困るなあ。
「今回はわざわざシャーレの権限を使って、退学にさせるつもりらしい」
やっぱりか~~~。困る。大いに困る。イヴちゃん1人というか、イヴちゃんのコネとツテを使って別の学校に転校にしても、イヴちゃんは他のみんなと会えなくなって悲しむだろう。
「わざわざそこまでするってことは、補習授業部の中にスパイなり破壊工作員がいる。というか疑われてるってことですか?」
「それは君達以外でか?」
「?もちろん」
「裏切り者と言って良いかは難しいところだが、外部の学園と強い接点を持っている生徒という意味で言うと、白洲アズサだ。補足しておくと、浦和ハナコもシスターフッドとの繋がりが強いが、今のシスターフッドの総体として、政治的野心はない」
白洲アズサさんか~~。怪しすぎて逆に違うんかなって思ってたが。
「念のため言っておくと、白洲アズサはトリニティ側のエージェントとして働いてくれている、いわゆる二重スパイだからな」
「そうなると、中には実際の裏切り者はいない……?」
「そうなる」
胡乱げな記憶が合ってた事に安堵する僕。
「それは良かった。イヴちゃんに『疑いながら暮らして』って言いたくないですからね」
「君は過保護だね」
くすくすと笑う百合園セイアさん。
「僕が一番大事なのはイヴちゃんですからね」
僕の原点にして頂点だからな。
「ブレないね」
もう一つ大事な事があった。
「あ、聖園ミカさんから『お前もパテル分派に入らないか?』って感じの勧誘を、イヴちゃんの友達含めての脅しを込みで受けました」
「接触があったのは聞いていたが、勧誘だったのか。で、どう回答するつもり?」
「補習授業部の進展如何と、イヴちゃんの判断ですね。イヴちゃんには向いてないと思うので、できれば避けたいですが」
うーん、と考え込む百合園セイアさん。
「どうしても避けがたいなら、遡ってサンクトゥス分派に既に入っていたという事にしてもいいが。問題が解決したら、脱派したことにしたらいい。遡って文書を用意しておこう」
「ありがたいですけど、それも条件があるのでは……」
「鋭いね。私が公の場に姿を現すまでの間、実際にサンクトゥス分派の一員として行動してもらうことになる。実績は必要だろう?ずっといてくれてもいいくらい、イヴは個人的には部下に欲しいところだが、本人の気質が向いて無さそうだからな」
ニヤリとチェシャ猫めいた笑みを浮かべる百合園セイアさん。
わかるけど、問題の解決になってなかった。いや、クーデターに巻き込まれるよりはマシか。あとイヴちゃんはそういうの本当に向いてないと思う。
「まあ、クーデターに巻き込まれるよりはマシですか。厚かましいお願いですが、保留で準備だけお願いしておいてもらっても?」
百合園セイアさんは頷いてから苦々しげな顔をする。
「ミカ主導のクーデターか。君からすると、本人はやる気のように見えるかい?」
「僕の目からは何とも。単にイヴちゃんが部下として便利だから欲しいだけの可能性もありますし」
「あくまで私の部下と救護騎士団、他に夢で接触している人間の情報を総合するとだが、恐らくミカは自分の政策、『アリウス分校との和解』の遂行のためにやる気だ。廃棄予定の旧式火器類や装甲車両の在庫が一致してない。パテル分派自体の動きはミカ自体が派閥掌握に熱意がなかったからわからないけどね」
マジかあ。平穏には終わってくれないんだなあ。あ、一応聞いておこう。
「『アリウス分校』というのは、頭蓋骨に王冠、薔薇の校章の学校ですか?」
「生徒と会ったのかい?そう、遙か昔に教義の不一致で分かれた古い分派、アリウスの校章だ」
トリニティ成立前に、トリニティへの連合化そのものを反対したアリウス分派が迫害に遭って姿を消してから数百年。ミレニアムの『廃墟』のような、忘れられたものが流れ着く場所の1つであるカタコンベ地下を散策していた聖園ミカがアリウス分派の生き残りと接触した報と、アリウス分派との融和を唱えたことを百合園セイアさんが教えてくれる。
「私とナギサは反対した。ナギサは、少なくともエデン条約の締結までは棚上げにすべきという立場でだがね。なぜ反対を?という顔だが」
コトダマ空間内での僕、ぬいぐるみなのに判るのかな。
「数百年前の遺恨を忘れていないだろうという推論からだ。恨みは肉ではなくて骨に宿るからね。骨絡みというわけだ」
面白くも無さそうに百合園セイアさんは言う。
「和解するなら和解するで構わないが、段階を踏まないと無理に決まっている。という附帯付反対をしたわけだ。そうして、聖園ミカの提案は否決された。はずだったのだが」
「だったら3人のコンセンサスによる意思決定形態を改変する、と」
「全く、ミカの短気にも困ったものだ」
溜息をつく百合園セイアさん。ほんとにねえ。
話の切れ目で、僕が口を開く。ぬいぐるみだけどちゃんと口は開く。
「もうひとつ、これはこの間思いついた仮説なのですけど。セイアさんのこの能力は、訪問者側の脳機能の一部がセイアさんの人格エミュレートに使われてるのではと思うんですよね」
「私の人格なり挙動あるいは言動を代替してくれていると?」
「多分ですけど、セイアさんとの接触をアクセス許可した結果、脳機能という資源が使えるようになっているというか」
「ふーむ、つまり……」
「『空気を吸って吐くことのように、HBの鉛筆をベキッとへし折ることと同じように。できて当然と思うこと。大切なのは「認識」すること。能力を操るということは、できて当然と思う精神力』だっていうことを伝えたいというか。受け売りですけど」
「……ああ、私の能力に『先』があるという意味か。先、先ね……」
ユメミル・ジツなら精神面へのハックだとか、あるいは精神攻撃への防衛とかもできるんじゃないかって思ってるんだよな。まあ実際には駄目かもしれんのだけど。
考え込んでいた百合園セイアさんが、不思議そうにイヴちゃんというか、イヴちゃんの布団を指さす。
「それで、その……『模型部』というのは……?」
「新しい部活を立ち上げたいらしいんですよね、イヴちゃんが」
「ははあ……まあ、例のお礼の内容を例えば『部活の予算を最大限にするように』とかにしても構わないが」
「イヴちゃんが欲しがるとも思えませんけど」
まあ権限を使って美術館の一室を借りれるとかなら喜ぶかもしれん。百合園セイアさんも苦笑いする。
「それもそうか。今夜はこんなところか。イヴによろしく言っておいてくれ」
お互い頷き合って、百合園セイアさんはローカルコトダマ空間から扉を開けて出て行った。
僕はイヴちゃんの布団に潜り込む。コトダマ空間内なのにというか、だからこそというか。イヴちゃんの身体が温かくて良い匂いする。こんなん役得でしかないな。最高。
セイアはジルとイヴをトリニティのために動いてくれると認識したうえで、「『自分達がミレニアムに与していると疑われている』のを認識・把握している」という前提(なので、「君達以外か」と確認している)でいます。
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