ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
翌日。授業とお昼ご飯を普通にみんなで食べ(伊落マリーさんと円堂シミコさんは来てくれた。下江コハルさんは欠席)、放課後、宇沢レイサさんと分かれたイヴちゃんは旧校舎へ。
(……この旧校舎、『旧第18校舎』って書いてあったね……)
(使われてないけどそのうち使うかも、みたいな校舎いっぱいあるよね)
トリニティ、転入生はそんなに多くない方なんだけど、それこそアリウス的な分派があるんかな。
モモトークの補習授業部グループ*1に、阿慈谷ヒフミさんからの『本日の活動開始前にナギサ様から部長の私宛に連絡があるそうです。開始は16時からとさせてください』と連絡があった。
(あ、そうだ、イヴちゃん。補習授業部なんだけど、桐藤ナギサさん曰く『スパイの疑いがある人間をあぶり出す』ためのもので、3回テストに落第すると退学になるんだって。百合園セイアさんが昨日の晩、夢の中で教えてくれた。スパイはいないから安心して)
(……ふーん……)
イヴちゃんは道端に咲いてる藤に気を取られている。まだ1時間近く時間があるから、高いところから垂れ下がったところの方まで、しゃがみ込んで写真を撮りつつ、かたつむりか何かいないか探しているみたいだ。ふーやれやれ。イヴちゃんにどう伝えようか悩んでたんで、さらっと受け止めてくれてイヴちゃん?!
しゃがんでたイヴちゃんがバッと跳ねるように立ち上がる。
(……退学……???退学、って……学校を退学の、あの退学……?)
あっやべ、かなり動揺している。僕的には回避手段が幾つかあるから大丈夫かなって安易に考えちゃってたな。
(だ、だだ大丈夫!先生も助けてくれるし!イヴちゃんが教えるんだから行けるって!)
(……そ、そうかな……)
(それに最終手段として『パテル分派に入って全員助けてもらって、速攻で揉めまくって辞める』っていう大技もあるし!!)
(……ん??え???……)
イヴちゃんが可愛くてちょー良い子で賢くておまけに有能だからみんな欲しがるって事でしょ。つまり欲しがられなさそうな演技をすれば解決ってコト!
最終的に、他の学園に転入試験を受けられるように段取りをつけつつ、まずは試験合格を最優先にしようという話になった。むくれてるイヴちゃんを宥めるのが大変だった。まあ僕の伝え方が悪かったんだけど。もっと重々しく伝えるべきだったかな。
鍵を開けて扉を開け、補習用の教室の窓も開けて換気するイヴちゃん。まだちょっと僕におこ。ごめんて。
入口の扉は複数あるけど、阿慈谷ヒフミさんか先生がうんと言わない限りは、この扉以外は封鎖しておくことにする。実際、ドンパチ賑やかにやる羽目になるんだしな。扉閉めててもぶっ壊されるんだろうけど。
あ、宇沢レイサさんからメッセージが来た。
『例のゲヘナ関係ので、治安維持を強化したいということで、ティーパーティーから自警団と正義実現委員会の巡回強化指示が来ました。しばらく夜にいけないかもしれません!』
『無理しないでね』とぽちぽちするイヴちゃん。本当は応援に行きたいんだろうけど。
(……退学は、困る……)
(夜もなるべく勉強してほしいよねえ。最悪、僕が日中寝て、夜に自警団のシフト入るから)
(……お願いできる?……)
(もちろん)
実際、何も無ければ暇だろう。暇だよね?そうであってほしい。
先生と阿慈谷ヒフミさんが一緒に、ついで白洲アズサさん、下江コハルさん、浦和ハナコさんの順でやってきた。
先生と阿慈谷ヒフミさん、イヴちゃんは教室の前に。
20人分ほどの机と椅子がそのまま並んだ教室で、三々五々思い思いの席に着く。下江コハルさんだけ、離れた席に座った。
「ティーパーティー本部で、先生とお会いしまして」
「"補習授業部の話だったからね。別々にナギサと会ったんだけど"」
阿慈谷ヒフミさんは例の退学の話、先生は加えて『トリニティの裏切り者』の話を聞いたのかな。
「"第1次試験は明後日、17時からに決まったよ"」
浦和ハナコさんを除いてざわつく一同。いや早くね?!今日と明日の試験直前までしか使える時間が無い。
(……間に合うかな……)
(2次試験前にさくっと終わらせたいけどね……)
「ま、まあ……ティーパーティーの方々が掃除をして下さってましたし、まずは補習授業部の内容を説明します!合格するまでは、放課後にここに集まって勉強をして、宿泊をします。食べ物はティーパーティーの方が届けて下さるので、何か食べたいもの、飲みたいものがあれば私かイヴちゃんへ言ってください。テストは3回あります。そのうち1回でも、『全員が合格』できれば補習授業部をみんなで卒業できます!」
聞かされた内容からだろうか、最初はちょっとだけ声が震えていた阿慈谷ヒフミさん、最後は堂々とした感じ。
「以上です!さあ、自己紹介から!しましょう!」
「"そうだね。私からしようか。シャーレの先生をしているよ。この補習授業部では、顧問としてスケジュール調整や、勉強の手伝いをするから、よろしくね"」
穏やかな笑顔の先生。いつもながら恵体だなあ。背筋もしゃんと伸びてるし、睡眠もしっかり取れてるっぽくて何より。
ちょっと挙動不審気味な阿慈谷ヒフミさんが引き継ぐ。
「補習部部長を任せられました、2年の阿慈谷ヒフミです。趣味はペロロ様はじめとするモモフレンズです!」
次はイヴちゃんだな。
「……御蔵イヴ、1年です。監督官を命ぜられました……。監督と言いますが、実際には、皆さんのお手伝いを……」
下江コハルさんの鋭い視線にびくりとしたイヴちゃんが言葉を切った。息を浅く吸って、再度言葉を継ぐ。
「……お手伝いを、します。困ったことがあれば、言って下さい……。趣味は、食品サンプルとか、文具集めです……。よろしく、お願いします……」
下江コハルさんの鋭い目つきはイヴちゃんだけに向けられたものではなくて、全員を刺すような目でねめつけている。
何となく流れで、白洲アズサさんが自己紹介をした。
「白洲アズサだ。転校生で、2年ではあるが、カリキュラムの都合上まだ1年の科目を履修している。よろしく。趣味は……何だろう。思いつかないな」
「あら、アズサちゃんは転校生だったんですね?」
「トリニティでは比較的珍しいそうだな」
明らか知ってたっぽい浦和ハナコさんがフォローなのか何なのか、話題を拾った。
「トリニティは色々と大変でしょう」
「去年よりはマシになったと、数少ない友人からは聞いている」
白洲アズサさんと浦和ハナコさんがイヴちゃんの方をちらっと見た。まあ悪いお嬢様仕草の子は宇沢レイサさんとイヴちゃんがぶちのめしてたからな。ちょっとはマシになってないと正直困るっていうか。
白洲アズサさんが小さく皆に頭を下げた。
「ふふ。あら、私ですね。同じく2年、浦和ハナコです。趣味はお散歩♥ですかね」
やっぱりイヴちゃんをちらっと見る浦和ハナコさん。何?露出友達とか思われてたりしないよね?
最後になった下江コハルさんに視線が集中すると同時に、バン!と机を叩く下江コハルさん。イヴちゃんがビクッとした。
「私は認めないから!バカばっかりの中で1年だからって、あんた達を先輩だなんて認めないし!」
「……コ――」
宥めようとしたイヴちゃんをキッと睨みつける下江コハルさん。怯んですくむイヴちゃん。考えてみたら、宇沢レイサさんグループの子達とごっつい喧嘩した事が無い*2から、こういう経験が足りてないんだろうな。まあ、イヴちゃんには申し訳ないけど、何事も経験だから……。
「大体、私はあんた達と違って実力を隠してるんだから!中間テストと実力テストはそこのイヴに合わせて2年生用と3年生用の試験を受けただけだし!」
???という顔をする先生とイヴちゃん以外の一同。
「ですが、その試験の受け方で補習ということは、中間試験も駄目*3だったのでは?なぜ実力テストも上級生用のを受けたのですか?」
「う、え、そ、それは、私は正義実現委員会をこれから背負って立つエリートなんだし!自警団員に成績で負けてたら示しが付かないっていうか!」
?????という疑問符が明らかに増えた感じの一同を尻目に、明らかに虚勢としか思えない(本人の中では本気なのかもしれないけど)胸を張る下江コハルさん。
「ともかく、私が本気を出して1年の試験を受けたら、イ、じゃない、いい点数もすぐ取れるし、こんなバカの吹き溜まりもすぐおさらばってわけ!」
宇宙猫もとい宇宙ペロロ様顔をしている阿慈谷ヒフミさんと、何を考えてるか判らん笑みを浮かべる浦和ハナコさん。白洲アズサさんは何だか素直に感心する方向に行ったみたいだ。イヴちゃんより良い成績みたいなことを言いたかったのかな、言い直したの。
「い、いえ、あの、そもそも全員で良い成績を取らないと……」
「とにかく!!あんたらみたいなバカ達を先輩なんて認めない!」
「いいんじゃないか?我々は共同の目的を達成するために一時的に集められた、戦闘群のようなものだ。無理に仲良くする必要は無い」
(……戦闘群……?)
(カンプグルッペのことかな。本来の書類上の
(……なるほど……??)
浦和ハナコさんも頷く。
「私も別に先輩扱いされなくても構いませんよ、コハルちゃん」
「あ、あはは……」
「あっそ!バカが
ふん、と鼻息荒く、ガタンと席を立つ下江コハルさん。イヴちゃんは引き留めようとするけど、一顧だにせず教室を出て行ってしまった。
顔を見合わせる阿慈谷ヒフミさんとイヴちゃん。前途多難だな。1回目、アカンかもしれん。
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