ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
「あうう……」と呻く阿慈谷ヒフミさんと、イヴちゃん、阿慈谷ヒフミさんを交互に見る先生。浦和ハナコさんは面白そうに小さく笑っている。白洲アズサさんはきょとんとしつつ、勉強を始める支度をしている。
イヴちゃんは一度座って、チャドーの呼吸をしてから立ち上がった。
「……先生、ヒフミさん……コハルさんの様子を、見てきます……」
「あ、あうう……お願いできますか?」
先生も頷く。まずは生徒同士の方がいい、ってことかな。
隣の教室前。イヴちゃんは扉に手を伸ばしてから戻して胸に手を当て、深呼吸。
(イヴちゃん、しんどかったら代わろうか?)
(……ううん、私がしないといけないと思うし、したい……)
うんうん、えらいなあ。
イヴちゃんは再度深呼吸してから意を決して隣の教室のドアをガラッと開けた。机の上に何も置かず、一番ドアに近い椅子に座ってぼんやり外を眺めていた下江コハルさんがギョッとした顔でイヴちゃんを見る。つかつかと近づくイヴちゃん。
「な、何しにきたの?!」
「……困ったこと、ない……?」
「ない!!!出てって!!!!」
立ち上がってイヴちゃんの肩を掴んで押し出そうとする下江コハルさん。なんか見覚えがある景色だな。下江コハルさんの方がちょい背が高い*1が、イヴちゃんはパワータイプなのでびくともしない。
はずなんだけど、下江コハルさんの目を、目の奥を見てたイヴちゃんがびくりと怯えて一歩後ずさった。
「出てって!」
「……あ、ぅう……」
下江コハルさんの目に確かに拒否と怯え、虚勢の色。それに圧されてもう1歩、2歩下がる。
「……つ、次は……一緒に、勉強して……」
ぎりぎり教室の際で踏み留まるイヴちゃん。下江コハルさんの目に映るイヴちゃんも怯えた目をしていた。こっちは捨てられそうな事に対する怯えの色。更に1歩下がって遂に教室を出てしまったけど、右手で下江コハルさんの制服の左手の袖を掴む、いや、つまんだ。
口を開きかけた下江コハルさんがもにょもにょと口ごもる。はっきりと拒絶したいんだろうけど。今、全身が映る写真を撮ったらタイトルは『ひろってください』で決まりって感じのイヴちゃんに腰砕けになってしまったみたいだ。
「わ、わかった!気が向いたらね!でも今日はいや!」
イヴちゃんは手を離し、教室の扉がぴしゃりと閉められた。拒否された辛さと次の言質が取れた安堵が混じった溜息を漏らす。視界の隅、こっそり様子を見ていたっぽい先生と阿慈谷ヒフミさんが慌てて顔を引っ込めた。イヴちゃんは気付いてないっぽい。
教室に戻ってきたイヴちゃんに、皆何も言わなかった。浦和ハナコさんが白洲アズサさんの判らないところを教えている。
阿慈谷ヒフミさんは先生に何か教わっている。イヴちゃんは教室の後ろ、隅の椅子に座り込んだ。
(よく頑張ったよ、イヴちゃん)
(……でも……ううん。ありがとう、ジル……)
緊張が解けたのかぐったり気味に座り込んだイヴちゃんがぼんやり眺めていると、皆ちらちらとこっちを気にしているのがわかる。邪魔になるのも良く無さそうだと、イヴちゃんは皆に断って外に出て、スマフォに送られてきていた予定を確認している。
第1次補習試験は明後日の夕方。場所はここ、テスト範囲は今学期の中間テストまで。
(……1次試験に受かれば、一番いいんだけど……)
(そうだねえ)
これが何だっけ?爆破されるんだっけ?あーそうだ、車両を抑えておいた方がいいな。なんか使った気がする。
(そうだ、イヴちゃん。第2次試験の日程ってもう来てる?)
(……第1次試験が駄目なときは、1週間後……)
(万が一のためだけど、正義実現委員会でもクラスのでもいいから、車を1台抑えておいて。公式のルート以外にも、羽川ハスミさんとかにも頼んでおいてくれない?)
(……??わかった……)
ぽちぽちと連絡やらをこなすイヴちゃん。役に立たずに終わる方がいいんだけど。
諸連絡をして、スマフォに目を落としながらぼんやり歩いていると*21階に直結している体育館前に着いた。
何の気なしにイヴちゃんが右足を上げて一歩――。
(イヴちゃんストップ!ワイヤがある!)
びくりとそのまま一歩後ろに飛び退き、スマフォをしまってしゃがみ込んで目を凝らすイヴちゃん。
(……これは……手榴弾……?)
ワイヤの先が安全装置が外された手榴弾のハンドルにぐるぐる巻きになっている。多分ワイヤを引っ掛けると手榴弾が転がり出てきて時限起爆するんだろう。
(あー……誰かが防衛用に設置したっぽいね。多分白洲アズサさんだから、聞いてみる?)
(……ええ……)
イヴちゃんはスマフォを取り出し直して写真を撮った。
イヴちゃんが教室に戻り、白洲アズサさんに話しかけた。
「……勉強中にごめんなさい。これは、アズサさん……?」
「ああ、そうだ。一応、さっき軽く見て回って、防備が薄いと思ったから幾つか設置しておいた」
「……先生は、銃弾1発で死んでしまうそうです。だから、地雷原の標識*3みたいなものが必要……」
えっ、そういう話だっけ……?キヴォトス人の常識、イヴちゃんと暮らしてても中々身につかないなあ。
「そうなのか?!先生?!」
「"えっ、あっ、うん……はい……"」
凄く困った顔をする先生。
「それは不味いな。防衛計画を練り直さないと。ハナコ、済まない。折角教えてくれてるのに」
「いえいえ。それより、そんなに仕掛けたのですか?」
「むしろ不足しているくらいだと思っていたが」
「……先生が不慮の事故で大変なことにならないように、しませんか……」
「わかった。すまない。一旦回収してくる」
「……ナリコ、買ってくる……」
「鳴子ならある。イヴ、設置を手伝ってくれる?」
「……まかせて……」
どういう会話やねん。キヴォトスやべーとこだわ。
きびきび白洲アズサさんとイヴちゃんがトラップを安全(?)なものに更新して戻ると、そろそろ晩ご飯の時間になっていた。
「"ご飯、準備するね。好き嫌いとか、アレルギーとかある?"」
「……私も……皆さんは勉強しててください……」
「私も手伝います!」
「私は、アズサちゃんのお手伝いをしてますね」
「すまない、ハナコ」
先生、阿慈谷ヒフミさん、イヴちゃんでご飯を準備することになった。
大食堂が地下にあり、キッチンはそこを使うように言われている。ここも綺麗に掃除されていて、放置されていたらしい鍋やフライパン、包丁等々が洗って干してあった。
「コハルちゃんの分はどうします?」
「……持っていくので……コハルさんは、甘めの味付けで、野菜はくたくたが好き……」
阿慈谷ヒフミさんはあまり料理はしないみたいで、最初はちょっと危なっかしい手つきだったけど、すぐ慣れたみたいだ。
先生が玉ネギを炒める傍ら、イヴちゃんが鶏ガラと野菜を煮てブイヨンを作っている。
先生も結構手つきが危なっかしいけど、イヴちゃんも僕がちょっと教えたくらいだから、相対的に一番マシに見える。
「"やっぱりこういう時はカレーだよね"」
何となく切り札っぽいイメージがあるんだよな、みんなで泊まった時のカレー。先生は好きなものを最初に食べるタイプと見た。まあ何も根拠ないけど。
圧力鍋があったのでそれを使って調理している。中辛のルウを使って、隠し味にリンゴと蜂蜜を入れて甘めにするみたいだ。
ご飯も鍋で炊くので、イヴちゃんが洗ってセットした。
市販のナンキットでナンも準備するみたいで、阿慈谷ヒフミさんが作っている。
(……具材、ナンでもある……)
(アッハイ)
ドヤ顔のイヴちゃん可愛いね。
「"流石トリニティ、具材がナンでも揃うね"」
調理器具を置いてからハイタッチする先生とイヴちゃん。ナンなん。
「あはは……」
乾いた笑いと共に良い香りが広がってきた。
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