ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
後片付けが楽なように配慮されてだろう、紙皿と木のスプーンや割り箸が準備されている。おかわりも想定して鍋ごと持って教室に上がる一同。凄い良い匂いがする。
「まあ♥初等部の頃の給食みたいですね」
(……そういえば、中等部からは自分で準備するようになった……)
(自分でお金とご飯の管理するように、ってことなんだろうね)
「良い匂いだ。ありがとう、先生、ヒフミ、イヴ」
「"おかわりもあるよ!"」
「……耐ガス訓練は……?」
「"なんで?!しないよ?!"」
「あはは……でも、たくさんありますから。あまったら明日の朝も食べれますよ」
良かった。一同に行き渡ったのを見て、イヴちゃんは2人分を持って立ち上がる。
「……コハルさんのところに持っていく……」
「"ありがとう、イヴ"」
「お任せしてしまってすみません……」
「……友達、だから……」
首を横に振るイヴちゃん。
肘でノックしてからドアを開けるイヴちゃん。不機嫌そうに睨みつけた下江コハルさんの顔が一瞬輝き、元の仏頂面に戻ろうと努力している。
「なに?」
「……カレー……甘めに作った……」
「置いておいて」
反抗期の子みたいな答えだなあ。いや、年齢的にはまさにそんな感じ……?難しいお年頃だもんなあ。
「……一緒に、食べていい……?」
嫌!と反射的に言いそうになったっぽい下江コハルさんがごにょごにょと口ごもる。
「勝手にしたら」
「……うん……」
2人とも無言だったけど、食べてる最中のイヴちゃんは凄く嬉しそうだった。
下江コハルさんが誰にも意見を聞かずに最初にシャワーを浴びて、阿慈谷ヒフミさん、浦和ハナコさん、白洲アズサさん、先生、最後にイヴちゃんの順で入った。
白洲アズサさんは警戒の都合上、イヴちゃんとは離れた順番で入りたかったみたいだ。さっさと生徒用の部屋のベッドに入った下江コハルさんを除いて、先生含め先生の部屋で皆でのんびり髪を乾かしている。
この部屋も滅茶苦茶見覚えがあるな。前はもっと小汚かった気がする。いや、前って何だ?僕は一人で小さく混乱したけど、気を取り直した。
下江コハルさんはちらっと見えた限りピンク地のかたつむりの柄のパジャマ、阿慈谷ヒフミさんは青地にペロロ柄の薄手のパジャマ、浦和ハナコさんはなんか白のだぼっとしたワイシャツ*1、白洲アズサさんはシンプルな黒い部屋着*2、イヴちゃんは半裸で、腕が4本あって1本が血まみれの女の子が座禅を組んでるジャケットのシャツに下は黒のズボン。*3。先生はだぼっとしてるのにうおでっかなのが伝わる、シンプルな藍色のパジャマ。
イヴちゃんのシャツに、「いや、ダサすぎやろ……」みたいな目を一瞬皆にされたのは気のせいだと思いたい。いやダサいけども。
と、イヴちゃんのスマフォがぴろんと鳴った。宇沢レイサさんから「15分後、旧校舎外に行きます。会えませんか」とメッセージ。
「……レイサちゃんが来てるから、ちょっと会ってくる……」
「あら♥あらあら♥いってらっしゃい」
「気をつけて」
「"遅くなりすぎないようにね"」
補習授業部の部員も一応申請すれば外出もできるが、門限的なものがある。監督官のイヴちゃんには適用されないけど、まあ示しがつかないよね、みたいなところはある。
イヴちゃんは地下のキッチンに向かい、誰も手をつけてないまま明日食べる予定で冷蔵されていたナンを幾つか取り出して小さめに切り、カレーととろけるチーズを詰めて2つ折にしたのを7個作り、紙皿に乗せてレンジで温めた。サイダーとアイスココアのペットボトルを取り出してポケットに突っ込んでから皆の寝室に部屋に戻るイヴちゃん。下江コハルさんは一番奥、黒板側のベッドを使っている。イヴちゃんはその隣を使うつもりみたいで、カバンを枕元に置いた。
「……コハルさん、夜食……いる……?」
「え、こんな時間に要らな……ありがと」
ベッドに潜ってスマフォを見ていたらしい下江コハルさん、ツンツンモードじゃ無くて、普通に時間遅いから要らんかな、みたいな声色だったけど、良い匂いが漏れるのに負けて手を伸ばした。顔を逸らしてるのは恥ずかしいからだろう。多分。
先生の部屋で歓談してた他の面々も礼を言いつつ、喜んでカレーナンパンを取ってくれた。
「訓練中に、こんな美味しいものをこんな時間に食べられるなんて」
感激してるっぽい白洲アズサさん。なんか感激の方向がずれてるっぽいが。
「あはは……ま、まあ、小さいからセーフですよね?」
「その分、夜にしっかり運動したら平気ですよ。うふふ」
「"私も運動しっかりしないとな。あ、美味しい。チーズが嬉しいね"」
一同の笑顔にニコニコしてから、壁の時計を見るイヴちゃん。
「……今度こそ、行きますね……」
気をつけてと見送ってくれる一同。まあ校舎すぐ出たとこなんだけど。
鳴子を避けて校舎外に出たイヴちゃん。宇沢レイサさんが小走りでやってきたところだった。ツインテールが小さく揺れている。
「……レイサちゃん……」
「あっ!!!イヴちゃん!!」
大声出ちゃってきょろきょろと辺りを見渡す宇沢レイサさん。可愛い。
校舎出てすぐのところに、ついでに掃除してもらってたベンチがある。そこに並んで腰掛ける2人。カレーナンパンを食べて表情をほころばせる宇沢レイサさん。イヴちゃんももしゃりと食べる。あ、美味しい。2人分持ってきたジュースも開けて、月明かりの下、小さな夜食会って風情でよい。
「ごちそうさまでした!美味しかったです!と、ところで勉強はどうですか?その……」
「……コハルさん……今日は、勉強、見られなかった……」
しょんぼりするイヴちゃんにあわあわする宇沢レイサさん。
「……でも、『次は一緒にやる』って約束したから……」
「それはよかった!!」
ぎゅっとイヴちゃんの右手を両手で握る宇沢レイサさん。
放課後、何があったというたわいない話をしてから、「また明日クラスで」と別れる前にふっと宇沢レイサさんが座り直した。
「そうでした!ハスミさんから伝言を預かってきたのでした!記録に残さずに、口頭で伝えて下さいということだったので、今お伝えしますね!」
首を傾げるイヴちゃん。
「『正義実現委員会の車両は全部ティーパーティーからの指示で2週間の予定が抑えられてしまい、使用許可が出せません。ですが、何とか努力してみます』ということでした」
マジか。逆に言えば、車両が必要な事態が起こりそうってコト……?!
一応、ファン・レイン号の予定も見てみたけど、全部ティーパーティー名義で予定が抑えられてしまっている。マジかあ……。
戻ると先生と阿慈谷ヒフミさんがまだ打合せをしているみたいだったけれども、下江コハルさんはもう眠りについていて、その隣に浦和ハナコさん、白洲アズサさんがそれぞれのベッドに陣取り、小声で横になって話している。阿慈谷ヒフミさんのベッドは一番手前になったらしい。
次の日、いつも通りの授業にお昼、放課後に旧校舎にイヴちゃんが一番乗りで鍵を開け、教室の窓を開けて準備をしている最中にやってきたのは白洲アズサさんだった。
「準備ありがとう、イヴ」
「……いえ……準備でき次第、始めましょう……」
腰を据えて教え始めたところで、先生がやってきた。ついで阿慈谷ヒフミさん、浦和ハナコさん、下江コハルさんの順でやってくる。
浦和ハナコさんと教えるのを交代し、イヴちゃんは隣の教室に行こうとする下江コハルさんにてくてくついて行く。
隣の教室前で立ち止まる下江コハルさんを、今度はむしろイヴちゃんが圧だけで押し込む。
「え、ちょっと、何……?」
「……次、一緒に勉強する、約束だった……」
「えっ、いや、次って」
「……明日は、短すぎる……」
「え、ええ……」
じっと無言で下江コハルさんの目を見るイヴちゃん。
「……約束、した……」
「う、うう……わ、わかった!わかったから!!」
ぐっと右手を握りしめるイヴちゃん。ちょっと悔しそうな反面、ほんの少し安堵したような下江コハルさん。良かった良かった。
ハスミからレイサへの伝言なので、詳しい部分までは伝えられてないので補足です。
車両はティーパーティーが予定を全て抑えた上で、当日に正義実現委員会及び自警団に使用許可を出す形になっています。当然、又貸しは不可ですし、先生かイヴ(自警団幹部)が正式に依頼しても「車両は全部使用中です」と塩対応される事になります。
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