ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
時間を忘れるくらい勉強に熱中している間に、晩ご飯は先生と阿慈谷ヒフミさんが作ってくれた。先生の作ってくれたのは肉じゃがだった。ご飯は昨日炊いた分の残りがあったらしい。
「……先生、ヒフミさん、ありがとう……」
「……ありがと」
「いえ!順調ですか?」
「"わからないところがあったら聞いてね"」
頭を下げるイヴちゃんとそっぽを向く下江コハルさん。
今日のシャワーはちゃんと順番を決め、先生、阿慈谷ヒフミさん、浦和ハナコさん、白洲アズサさん、下江コハルさん、最後にイヴちゃんが入った。
今日も先生の部屋に集まる一同。
「そうそう、今日、ナギサ様から連絡がありまして。明日の試験なのですが、イヴちゃんも良かったら受けてほしいとのことです。『1年と2年の範囲で50点ずつ、成績に加点します』とのことですけど、どうします?」
ミネラルウォーターを飲んでいた阿慈谷ヒフミさんがニコニコ顔でイヴちゃんに告げる。
「……私の点数も、補習授業部の判定には入りますか……?」
「いえ、あくまで加点だけのようです」
元々、イヴちゃんは試験監督もやるつもりだったので、先生の方をちらっと見る。先生はうんうんと頷いている。
(……じゃあ、受けていいかな……)
(いいんじゃない?もらえるもんは貰っとこ)
イヴちゃんは頷いた。
「じゃあ、受けるって返事しておきますね」
お小遣いが増えるって事だしね。濡れ手に小麦って感じ。
今日は宇沢レイサさんは自警団のシフトの都合で来られなかった。詫びるメッセージが届いていたのに対して、イヴちゃんが「パトロール頑張って」と返している。
ベッドに入る前には、ぽつぽつと下江コハルさんが他の皆とも言葉を交すようになってイヴちゃんがニコニコ。まあ、先輩方が気を遣って話しかけてくれてるって状況にしか見えないんだけど。
今日は先生が生徒側の寝室の方に顔を出して、寝る前の水分補給やら肌のお手入れやらをしている。昨日もだったけど、うーん、何か顔が上気してるし、大人の色気が凄い。エ駄死判定されないの不思議。パジャマも昨日と同じ地味ななのに、なんかあちこち強調されてるっぽくなってるし。何なら先生のコーディネート(?)を現在進行系でしてる方の浦和ハナコさんのワイシャツもなんかボタン上から順に開いてる数が増えてる、ような……。
と思ったらエ駄死判定要員の下江コハルさんはもう力尽きたらしく寝てた。まあシャワー浴びる前とかもう知恵熱的な顔の赤さなるくらい勉強も頑張ってたもんな。
ニコニコのイヴちゃんがベッドの間の椅子に腰掛けて下江コハルさんの手をねぎらうようにそっと握る。
(イヴちゃんもそろそろ寝ないと)
(……うん、あ……)
モモトークに宇沢レイサさんからメッセージ。「パトロール中の休憩時間に5分くらいですが寄れそうです。会えませんか?」
嬉しそうに立ち上がるイヴちゃん。
「……ちょっとだけ、外に出てきます……」
「あら?嬉しそうですね?」
「……レイサちゃんが、来てくれるので……」
「あら、あらあら、まあまあ♥」
「"気をつけてね"」
「何かあったら、すぐ発砲してほしい。駆けつけるから」
「あはは……。何も無いとは思いますけど。行ってらっしゃい」
イヴちゃんはベッドの中でもぞもぞする下江コハルさんをちらっと見てから外に出た。
満面の笑顔で駆け寄ってくる宇沢レイサさん。鳴子の紐をくぐり抜けて校舎外に出たイヴちゃんももちろん笑顔。
「あ、イヴちゃん!」
「……レイサちゃん……ありがとう。嬉しい……」
宇沢レイサさんの手を握るイヴちゃん。2人で手を繋いだまま小さくぴょんぴょん跳ねて笑い合う。昼過ぎまで一緒だったけどテンション高いなあ。
「……パトロールは、大丈夫……?」
「休憩時間を減らして、ルートちょっと変えてきました!」
「……私も、一緒に行けたらいいんだけど……」
「いえ!補習の手伝いも大事な仕事ですから!コハルさんは大丈夫でしたか?」
「……ちょっと、喧嘩みたいになっちゃった……けど、大丈夫……」
「えっ?!あっ、でも大丈夫だった、んですね……?」
「……うん、ちゃんと、判ってくれたと思う……」
ううん、どうかなあ。感情的にも理性的にもちゃんと納得を得られたかはわからないけど。イヴちゃんも下江コハルさんも、ちょっと言葉が足りてない気がする。まあ、僕は傍観的な立場で見てるからそう思うだけなのかもしれんけど。
あっ、と何かに気付いた宇沢レイサさんがスマフォを取り出す。水色のスマフォカバーが可愛らしい。
「正義実現委員会のSNSでこういう発表が出てました!」
『自警団に関する発表を代理で行います。自警団の御蔵イヴは補習授業部の監督官としてティーパーティーより任命を受けており、「勉強が好きすぎて自分で補習を志願した」という噂は不適切で、補習対象者ではありません。また、同自警団の宇沢レイサも補習対象者ではありません』
小さく笑うイヴちゃん。
「『勉強が好きすぎる』ってすごいですよね」
「……そんな噂、あったんだ……」
2人でおでこをくっつけるような近い距離でくすくす笑い合う。
ほんの少しの時間の歓談を惜しむように、何回も振り向きながら宇沢レイサさんはパトロールに戻っていった。少し寂しそうに見送るイヴちゃん。
(帰ろっか。明日はテストだし、そろそろ寝ないと)
(……うん……)
宇沢レイサさんが消えていった闇の奥を見ているイヴちゃんが、かぶりを振って視線を引き剥がした。
(……何だか、少しだけ寂しくなっちゃった。ジルもいるのにね……)
(今日は大変だったからね。温かい紅茶でも淹れる?デカフェ*1の葉っぱあったし。僕がやるよ)
(……じゃあ、もらおうかな……)
全員分のお茶を淹れるとしよう。下江コハルさんは寝てたら無理に起こさなくていいけども。
翌日、普通に授業を受けて普通にお昼休み、放課後。
今日もイヴちゃんが一番乗り。窓を開けて軽く掃除をしていると、阿慈谷ヒフミさん、白洲アズサさん、浦和ハナコさん、下江コハルさんの順で集まり、最後に先生が全員分のご飯を買ってきてくれた。*2
「"じゃあ、18時から夕食を挟んでテスト、今日すぐ採点するからね"」
「よろしくお願いします!」
「……よろしく、お願いします……」
「うふふ、よろしくお願いします」
「よろしく、先生」
ふんと鼻息を鳴らしてそっぽを向く下江コハルさん。まあでも、今日は同じ教室で勉強するようなので、まだマシっていうか。
「早く始めよ、イヴ」
「……わかった……」
昨日の最初より更にやる気を見せてくれるのが嬉しそうなイヴちゃんが下江コハルさんの隣の席に座る。
あと何時間かしかないけど、イヴちゃんは遡って苦手を潰していく方針を変える気はないらしいし、下江コハルさん本人も特に異存が無いみたいだ。
様子を見に近づいた阿慈谷ヒフミさんや浦和ハナコさんを威嚇しつつ(先生は先生だからセーフらしい)勉強を進める下江コハルさん。
横で聞くとはなしに聞いていると、白洲アズサさんも順調らしい。とはいえなあ。正直何とも言えない。まあ、何とかしてくれるやろ、先生が。
最悪、退学キャンセルの大技は聖園ミカさんか、さもなくば無事先生を護衛しきったご褒美として百合園セイアさんに退学取消もしくは再編入っていう手があるので、僕は割と軽く構えていた。
本年もよろしくお願いいたします。
ナギサはイヴはいなくなる(予定)の人だから(過去出の部室の話もですが)安請負と大盤振る舞いしています。
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