ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
イヴちゃんは下江コハルさんに声をかけようとしたが、一瞬イヴちゃんをキッと睨んでから、あっという間に出て行った。
少しだけ間を開けて、がらんがらんと鳴子の音がしたので白洲アズサさんが飛び出していったけど、下江コハルさんが出しなに引っかかっただけらしく戻ってきた。
どことなく重苦しい雰囲気の中、改めて阿慈谷ヒフミさんが「荷物を取りに行って下さい」と促し、浦和ハナコさんと白洲アズサさんが出て行く。
先生と阿慈谷ヒフミさん、イヴちゃんだけが残り、阿慈谷ヒフミさんが深々と溜息をついた。
「1次試験で一発解決かと思っていたのですけど、難しかったですね。特にハナコちゃん、どうしたのでしょう」
「……アズサさんに教えてた内容は、おかしくなかった……はず……」
「"そうだね。変なところはなかったから……"」
「泊まりがけ自体はともかく、その分の授業の補講が後から乗っかってくるのもありますし……」
出席日数に補習授業部の生徒の方はカウントされないんだよな。イヴちゃんは監督官だから公休扱いだし授業範囲は予習済だからただちに影響はないんだけど。
阿慈谷ヒフミさんの目配せに応じて、イヴちゃんは外の廊下を見てから、教室の扉を閉めて鍵を掛けた。
「その、先生とイヴちゃんは、この補習授業部の試験全部駄目だった場合の話、聞いてますか?」
「"退学処分、だよね"」
イヴちゃんも悲壮な顔*1で頷く。
「と、とにかく、チャンスはあと2回ありますし、合格さえすれば問題はないはずです。先生もイヴちゃんもご協力お願いします」
「"もちろん。あ、ちょっとごめんね"」
「……頑張りましょう……」
先生には何かしかの連絡が来てるらしい。
頷き合う阿慈谷ヒフミさんとイヴちゃん。
「"ごめんね、ナギサから頼まれたから、ちょっと行ってくる"」
「は、はい!よろしくお伝えください!」
イヴちゃんは小さく頭を下げた。
阿慈谷ヒフミさんも寮に戻り、イヴちゃんが電気とガスを確認してから施錠した。
(お泊まりで外出もできなくはないけど、今日までと違って日中会えなくなるし、荷物は着替え持ってくるだけでしょ?友達と会えないかな。まー、もう遅い時間だから寝てたりするかもだけど)
(……1週間、長いよね……聞いてみよう……)
ぽちぽちと宇沢レイサさんグループにメッセージを送るイヴちゃん。
朝吹ソフノさんと報野モユルさん、伊落マリーさんは今日は部活の用事で無理なので、明日以降差し入れすると返事があった。
円堂シミコさんも今日は無理だけど、明日にでも頼んでた参考書を持ってきてくれるらしい。イヴちゃんは誰のものか伏せたうえで「苦手を洗い出すくんver2」を送って、追加で何か思いつくのがあればとお願いしておく。
宇沢レイサさんは今パトロールを終えたばかりで、自警団事務局にいるらしいので、イヴちゃんが「今からそっちに行きます」とメッセージを送った。
<先生視点>
ティーパーティー本部、今日は待たずにテラスに通された。お付きのティーパーティーの赤い髪の子が横に控え、ナギサがティーテーブルの席に着いている。月明かりで広々としたテラスが照らし出されている。テラスを、照らす……。こんな場面で無かったら、ちゃんと写真とメモして、イヴはじめ駄洒落が好きな子に共有するんだけど。
勧められて向かいの席に座った。
「先生、こんな遅い時間にありがとうございます」
「"ナギサこそ、ありがとう。補習授業部の話だよね?結果はもう送ってるけど、見てくれた?"」
「はい。1次試験は残念な結果だったそうですね」
「"前回はちゃんと聞けなかったけど、どうして退学までさせないといけないの?"」
「先生を血なまぐさい内容に巻き込んでしまい、申し訳ないと思います。少し長くなりますが、構いませんか?」
血なまぐさいという語に引っかかりを覚えたが、もちろん、と頷く。
「エデン条約のお話はさせていただきましたね。」
「"『トリニティとゲヘナの相互不可侵平和条約と、相互の武力を提供して治安維持と抑止に努める』だったよね"」
「はい。補習授業部の監督官を含む生徒に、エデン条約の締結を妨害する者がいます。あの中の誰かであることはわかっているのですが、絞りきれませんでした」
監督官、イヴを含めて全員か。
「"……条約の締結まで、このまま隔離するだけじゃだめなの?"」
「補習授業部に禁止されているのは夜間外出だけですし、誰かが会いに来ることは禁止されていません。それだけではとても」
悲しげに小さく顔を横に振るナギサ。
「ですが、先生はご協力くださるのですか?」
何も無ければ、そのまま蹴ってしまっていたかもしれない。
「"生徒を疑うのは、そもそも私のやり方じゃない。けど、ナギサも私の生徒だからね。どこまで協力できるかははっきり言って今の段階では確約できないっていう前提でだけど、ちゃんと話は聞きたい"」
考え込む仕草を見せるナギサ。
「"それにさっき『血なまぐさい』って言ったよね?退学を指してそういう言葉が出るのはちょっと違和感があるんだけど"」
くすり、とナギサが笑う。
「先生、大変失礼ですけど、思っていたより鋭い方なのですね。以前、ティーパーティーの最後のホスト、『百合園セイアさんは入院中』とお伝えしたことは覚えていますか?彼女は体調不良では無く、襲撃を受けて死亡しているのです。それも、エデン条約に反対する誰かにという線が濃厚です」
身体の頑丈さに特筆するものがあるキヴォトスの生徒が。思わず息を呑んでしまった。胃がずしんと石を飲んだかのように重くなる。
それに、ティーパーティーのトップを襲撃したということは。
「"ナギサも、身の危険を感じてるってことだね?"」
「ええ、お恥ずかしい話ですが。セイアさんも私も、身体も丈夫な方ではありませんし、争いごとも不得手な方です」
何てことだ。思わずテラスの天井を見上げる。小さく頭を振ってから、紅茶をいただく。
そんな状況なら人を疑うのはおかしくない。ただ。
「"ナギサが、大変な状況なのはわかった。その上で、条約の妨害を回避しつつ、私は私なりの方針で対応する。というのでは駄目かな"」
ナギサもうっすらと微笑んで紅茶を口にする。
「今はとりあえず、それで良しとしましょうか。ですが、私は私で、炙り出しと現状の進行をしていきます。テストの目標点数が上がったり、出題範囲が急に変わったり、あるいはテスト会場が変わる、なんてこともあるかもしれませんね」
「"でも、今日のテスト範囲はそんなことなかったよね。ナギサも、迷ってるんじゃない?"」
「私は、私のすべきことを淡々となすだけです。確かに、今回のテスト範囲には工作は一切しておりませんでしたが……」
ナギサが続けるか数秒迷った後、ちらりと時計を見て、ついでお付きの子に目をやった。お付きの子がこっちに近づいて、タブレットに表示された資料を見せてくれる。
ヒフミはブラックマーケットで銀行強盗団のリーダー格として活動している疑い。ハナコは怠業と深夜徘徊。アズサは他校からの転入前歴不明と反抗的言動。イヴは他校との繋がりが深すぎる。コハルはその友人。
背筋に嫌な汗が流れた。私自身の過去も収穫に来られている。内心、ヒフミには申し訳ない気持ちになってしまった。
「先生、今日はありがとうございました。後しばらくの期間ですが、よろしくお願いいたします」
「"ナギサの期待に添えるかはわからない。私とナギサのやり方が交わるかがわからないからね。でも、事の重大さはわかった。よかったら、条約の概要も教えてくれないかな"」
「わかりました。先生が相手とはいえ、全てお教えすることはできませんが、公式の報道発表を準備しております。その草稿をお送りします。くれぐれも内密に」
「"ありがとう。できる範囲でとしか言えないけど、他にも困ったことがあったら教えて"」
会談はこれでお終いということだろう。ナギサが立ち上がる。私も立ち上がった。
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ナギサがシャーレの先生を巻き込んだのは退学させたいのが第一ではありますが、転校なりシャーレ直属になれば少なくとも飢えたりはしないだろうという最後の良心でもあります。
1回目のテストに手を加えなかったのは、先生と補習授業部の面々に誠意を見せるのと自身への「公平なチャンスはちゃんと与えた」という言い訳のためです。
現時点でも、先生のハッキングとジルの事後処置が功を奏し、イヴが覆面水着団に協力していたことはトリニティ含め当事者以外誰も把握していません。
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