ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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超能力は縛りを設ければ強くなるかも そうでもないかも

 イヴちゃんの寝てる布団の横で目が覚めた。この表現が正しいかわからんけど。まあとにかく、いつものコトダマ空間だ。ノックの後、百合園セイアさんが入ってきた。

「お邪魔するよ」

 勝手知ったる人の家という感じで冷蔵庫を開けて顔をしかめる。整然と、しかし冷蔵庫一杯に詰め込まれた飲み物と食べ物のラインナップが変わってるが、どれも初心者向けとは到底言い難い品揃えだ。

「一番上の横倒しになってる緑キャップに瓜みたいなのが描いてある、キューリ水*1は何とか飲めますよ」

「ありがたい助言だね」

「……セイアさん……?こんばんは……」

「ああ、こんばんは、イヴ。今日はちゃんと起きている、というのも変な表現だが」

「今日も色々あったから、寝ててもいいよ」

「……ううん、頑張る……」

 布団から半身を起こして起き上がるイヴちゃん。コトダマ空間の認識はやっぱりできてないからか、百合園セイアさんとは違う方向を見てるけどそれはしょうがない。今日の掛け布団は無地だ。

 僕はイヴちゃんのお腹に背中を預けるように座った。程良い柔らかさと暖かさ。めっちゃ気持ちいい。このまま寝たいくらい。

 

 イヴちゃんが昨晩の話を百合園セイアさんに訥々と説明した。可愛い声がお腹を通じて全身に響いてサイコ~。なんて思ってるのがバレたら怒られそうだけど。

「サンクトゥス分派は補習授業部に対して何らかのリアクションは取っていない、はずだ。とはいえ、ティーパーティーの誰かが純文学部と陸上部に接触したというのは間違いないのだろう?少なくとも目立って接触するのは勧めないな」

「……やっぱり、そうですか……」

 目に見えてしょんぼりとした百合園セイアさんがイヴちゃんに近づいて頭をぽんぽんと撫でる。まあ夢の中のイヴちゃんは感覚が無いので、あんま意味無いんだが。

「『はず』というのは?」

「分派の統制が完全なのはフィリウス分派だけだからだ。私は表向き病気静養中、ミカは派閥の掌握を始めたところ。中小派閥にはそれほどのカリスマ性がある指導者の記憶が無い。例外があるかもしれないが」

「……勝手にしてる可能性はある、と……?」

 僕の助言に従って取ったらしいペットボトルを開けて飲んで顔をしかめた百合園セイアさんが頷いた後、声に出さないと判らないことを思い出したのか続ける。

「ああ。補習授業部に対しては恐らく無いと思うが、確約はできないというところか。何しろ、ティーパーティーを前面に出すリスクに見合うほどの利益がない」

 なるほどなあ、と唸るイヴちゃんと僕。

「ところで、前から気になっていたのですけど」

「何だい」

「ナギサさんとミカさんに接触はしてないのです?」

「やってるんだがね。当人達が私の存在を思い出すほど嫌、と拒絶しているのか、別の理由があるのか、一度も接触できてない」

「……夢の中に、入れないことが……?」

「ナギサとミカに限らず、接触できてない人間はいる。前、ジルが言っていた仮説に則れば、『アクセス権を与えてくれない』場合と、『そもそもアクセス出来ない』場合があるのかもしれない。ちなみにだが、先生にもまだ1度しか接触できてない。本来なら、毎日でも情報共有したいところなのだが」

「……便利で使い放題、無料というわけにはいかないのですね……無理しないでください……」

「ありがとう。ま、どっちみち私はもう社会的には死んでるからな。仮にナギサやミカと接触したところで亡霊が夢枕に立った扱いで終わりかもしれないが」

 ふふふ、と笑った後に溜息をつく百合園セイアさん。僕達も釣られて溜息をつく。

「あれ、そうなると先生にはセイアさんの名前を出しても良いのですか?」

「真にやむを得ない場合ならな。ただ、このトリニティに限らず、どこに目と耳があるかはわからないから、極力避けてほしい」

 

 今日の百合園セイアさんは現状を聞きに来てくれただけらしい。気を遣ってくれるのはありがたいけど、現状何らかの情報は無しか。

 僕は聞いておきたかった事を切り出した。

「そうそう、例のご褒美ですけど。『退学させられた全員を復学させる』なんてのは大丈夫ですか?」

 イヴちゃんがはっと息を呑んだ。

「もちろん可能だ。が、『入学手続きに信じられない時間を要されたり、手違いで受理されなくて1からやり直しを繰り返しとんでもない時間がかかる』などという可能性もある。それに、きっと居心地もあまり良くないとは思う。それでも良いなら、もちろん構わない」

「……そんなことが……?」

「最大派閥の力をもってしても、いわば1/3だからな。このトリニティ全てを統制できるとは限らない。あまり1年の生徒には知って欲しくない現実だがね」

 苦虫を噛みつぶしたような顔の百合園セイアさんと、最終防衛線は何とか確保できたなと胸をなで下ろす僕。

「ま、とにかく気をつけてほしい。何かあったら連絡する」

「こっちから連絡したいときに何ともならないのが困りものですね」

「通信傍受のおそれがあるから、安全な電子的連絡手段を今持って無くてね。部下のものを教えて、イヴの通信傍受かログを取られて、そこから通信先の座標を取られるとまずい」

「……困ったって念じるので……」

 はは、と乾いた笑いをこぼす百合園セイアさん。

 まあ百合園セイアさん側は命が掛かってるから、無理を言う訳にもいかないよな。しかし、セイアさん相手に限らず、やっぱり位置情報とかスマフォの通信内容は危ないか。

「すまないね。可能な限り様子を見に来る」

「……無理しない範囲で……お願いします……」

 僕も頭を下げた。百合園セイアさんが小さく手を振って扉を開けて出て行った。

 

 乾いた電子音が小さく鳴り響く。

 小鳥の囀りが小さく外から聞こえてくる。もそもそと他の皆が起き出す音や会話が聞こえる。

(イヴちゃん、朝だよ)

(……あと1時間……ジル、お願い……)

(まー夢の中含めて昨日頑張ったしね。しょうがない)

 ずりずりと誰かが廊下を引きずられて行く音が聞こえる。僕はイヴちゃんから主導権を預かって、ベッドから半身を起こして朝の準備をしていた。

 遠く、シャワー室の方から下江コハルさんの悲鳴が聞こえた。

(……ジル……!)

 慌ててイヴちゃんに身体の主導権を返す。

 ベッドから飛び出して盾を掴んでシャワー室に駆け込むイヴちゃん。

 生まれたままの姿の白洲アズサさんに、これまた同じく一糸まとわない姿で全身洗われている下江コハルさんがいた。

 びしり、という音を立てて完全に硬直するイヴちゃん。あっやべ、視界共有切るね。

「うん?イヴ、シャワーを使いたいのか?ちょっと待っていてほしい」

「いやちょっと!何普通に会話してるの?!」

 イヴちゃんはぎしぎしとした動きで無言、無表情で下がって、ドアを閉めた。

「……ごゆるりと……」

「ちょっと?!イヴ?!ちょっと?!」

 イヴちゃんは何も見なかったことにしようと決めたらしい。

(……びっくりした……でも、何だか、見たらいけない、って気持ちになったけど、これは……?)

(うんうん、イヴちゃん、その気持ちを大事にしてね……)

 イヴちゃん、その辺の情緒が薄かったから気にしてたんだよな。まるで自我が薄いみたいな。まさかそんなこと無いよねとは思うんだけど。

*1
キューリをすりおろした味を薄い味で再現してる飲み物。美味くない。




 前話、旧校舎に戻って着替えた後のイヴのシャツを追記しましたが、話の本題には何も関係ありません。ダサTの元ネタの音楽、毎日聴いてるはずなのに意外と出てこないものですね。

 セイアがイヴを気に入ってるのは素直で政治的な含みが無く慕ってくれる後輩であり、かつ、夢の中では嘘をつきにくいのでより信用しやすいというところから来ています。
 未来予知の力は現在の世界の状況を変数として計算するため使用エネルギーとダメージが大きいけど、夢テレパス術(仮称)はそれほどでも無いという解釈です。作中のセイアの台詞は、後輩相手に弱気な発言をしたくないという意地もありますが。

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