ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
えへん、と咳払いしてスライドを切替える阿慈谷ヒフミさん。
『合格までのロードマップ』と題され、「苦手を洗い出すくん→勉強→模試→(対策)→勉強→模試(繰り返し)→試験合格!!」と書かれている。
「流れとしては以上ですが、皆さん、異論はありませんか?」
すっと手を挙げる浦和ハナコさん。「ハナコちゃんどうぞ」という阿慈谷ヒフミさん。
「異論というほどではないのですけど、一つ提案があります」
「何でしょう?」
「このペーパーを解き終えたらご飯の時間ですよね。ご飯を食べて少し休憩してから、先生が採点してくださっている間に、あのプールの掃除をしませんか?」
「え、使わないプールの掃除とか要る?」
至極真っ当な下江コハルさんの疑問の声。
「確かに、必要か疑問はあるな」
「実際、使うかは別としてですけど、この教室の窓から、すごく目につくのですよね。この建物の中はイヴちゃん達に綺麗にしてもらったと聞きましたし、凄く快適なのですけど、あのプールだけ半端に綺麗にしてもらってるから、なおのこと気になると言いますか」
イヴちゃん達が掃除してたの、誰に聞いたんだろう。先生かな。しかしプールなあ。
掃除したのが暗くなり始めてた時間帯だったし、放水車で土埃だとかヘドロとかぶっ飛ばしただけだから、端っことかが半端に汚れてるんだよな。確かに、半端に掃除してほったらかし、みたいに見えんこともない。
「"うーん、まあ、作業範囲と時間的にはそんなにかからなさそうだし……どう、ヒフミ、イヴ"」
顔を見合わせて一瞬考え込む阿慈谷ヒフミさんとイヴちゃん。
「心残りを残すのも、良くないですかね……」
「……手早く、片付けましょう……あ、私一人でやっても……」
「イヴちゃん、それは駄目です。こういうのは人手を出してぱっと皆でやらないと」
悪戯っぽく微笑む浦和ハナコさん。まあ、ありじゃないか。
「あれ、でも皆さん、水着は持ってますか?」
「こういうこともあろうかと思って、水着を忘れた生徒向けの予備をちゃーんと探しておきました♥」
浦和ハナコさんが立ち上がり、教室の後ろに置かれていた段ボールを開いて中から透明ビニールに包まれた水着を大量に取り出す。パッケージがかなり古びてはいるけど、未開封っぽい。
あー、まあ元々校舎として使ってたんだもんな。あるか。しかし準備万端だな。こういうの、やりたかったのかな。
まずはということで、かりかりとペーパーを解いていく3人と、教室内を歩き回って見守る先生。同じ教室内の離れた場所で初等部のわからないままだった部分から勉強している下江コハルさん。隣でイヴちゃんがじっと見守っていて、質問に答える態勢。
下江コハルさん、じっと見られてるのがほんのちょっと嫌そうな雰囲気があるけど、イヴちゃんは聞かれると打てば響くわかりやすい解説と答えをパパッと出せるので、少しずつ集中できてきたみたいだ。
勉強に熱中している間に、3人ともペーパーが全部終わったようだ。
「"じゃあ、お昼休みを挟んでプールの掃除だね。えっと"」
「あ、先生はご飯の支度は結構ですよ。その間、採点の続きを優先してください。もちろん、お昼休みもちゃんと取ってください」
「"えっ、でも"」
「そうですよ。先生も一緒にお掃除♥してほしいですし」
「"えっ、私も?!"」
「こういうのは、皆でやることに意義がありますから」
「"でも私も水着とか持ってきてないよ"」
ニッコリ微笑み、一番大きな水着(新品未開封)を取り出す浦和ハナコさん。
「"いや、いやいやいや、それ学生用だよね?!"」
「まあまあ♥皆さんはご飯の準備をお願いできますか?私はちょっと、先生とお話がありますので」
まあ実際、2人のやり取りを横で聞いててもしょうがない。お昼ご飯の支度をすることにした。
今日のお昼はビーフンセットを使った焼きビーフン。お嬢様学校らしく、お洒落な袋に入った結構お高い感じのやつに野菜と鶏肉をたっぷり切って放り込むと不思議に美味しい一品。味が薄くなるので、クレ○ジーソルトと黒胡椒で少し味付け調整。
食材を探している最中、時間節約と夜食のために気を利かせて置いてくれたのだろう「こっそりどうぞ」とメモが貼られたビニール袋。その中にはカップ麺が山のように入っていた。何故かトリニティでだけ見かけるメーカーのカップ麺*1が置いてあるのに慄然としてしまった。これ、怖いもの見たさで食べたけど、普通に滅茶苦茶不味くて、何で流通してるのか全然わからんのだよな。小売店で隣に普通に美味しいカップ麺が並んでても取扱いが中止されない辺り、誰かの支持を受けてるんだろうが。そもそもトリニティの生徒的には「割と下品で相当ジャンクなもの」扱い。まあ不味いカップ麺は今はいいや。
もうすぐ完成で良い匂いがしてきた頃に浦和ハナコさんが戻ってきた。
「皆さん、ありがとうございます。先生は採点に集中するそうなので、私が持っていきますね」
何らかの合意がなされたんだろうけど、不穏(棒読み)だなあ。
先生の分を持っていって戻ってきた浦和ハナコさんを待って、そのまま食堂で皆で食べた。良い感じの仕上がりで、皆美味しく食べられたようだ。
阿慈谷ヒフミさんとイヴちゃんが食後の全員分のお茶を準備している最中、阿慈谷ヒフミさんに耳打ちされた。
「イヴちゃん、先生とご相談したいことがあるので、一緒に来てくれますか?あっ、水着も持っていきましょう」
小さく頷くイヴちゃん。昨日の続きだろうか。
阿慈谷ヒフミさんがノックし、先生の「どうぞ」という返事で入室。イヴちゃんが続く。2人とも、水着とタオルを手に持っている。
先生も食べ終わったようで、紙皿を奥に避けて笑顔で出迎えてくれる。教室1つを先生1人で使ってるから広々を通り越して寒々、みたいな感じにならないかちょっと心配だなあ。
まあ、生徒の皆が代わる代わる来てるし、先生も生徒側の部屋に来てるしでそこまで心配するもんでもないんだろうが。
「"ヒフミ、イヴ、ビーフン美味しかったよ。ありがとう。どうしたの?"」
「先生、休憩中にすみません。出直しましょうか?」
「"大丈夫、休憩は後の時間で取るから"」
「あ、ありがとうございます。あの、昨日お願いし忘れていたことと、お2人にお伝えすることが……」
一旦立ち上がって鍵を掛ける阿慈谷ヒフミさん。
「今朝、ティーパーティーの方と友達に試験の過去問と回答を依頼したところ、送られてきたデータの中に、ハナコちゃんの1年の時の答案を見つけてしまいまして……」
「"見せてもらっていい?"」
「どうぞ。イヴちゃんも見てください」
表示された答案には、「1年 浦和ハナコ」の文字と、1年から3年までの試験全てを1回で受けて、全教科満点の試験結果が記されていた。
あー、うん。まじで?なんかめっちゃ賢い人やったような気がしてたけど、すげーな。
「"そもそも、1回の試験でこんなことできるんだ"」
「試験時間中に複数学年の試験を受けることはできるそうです。持ち時間は同じですから、3倍分解かないといけないので……」
「……凄い……」
(イヴちゃんならできるんじゃない?)
(……2学年分が限界かな……それに、今、普通に全部解いて、見直しして、満点取れてないから、満点は絶対無理……)
(無理かあ~)
(……さんはい、って言われて3倍は、無理……)
ナイスジョーク、ドヤッて感じのイヴちゃんと苦笑いする僕。
「どうして、今、ハナコちゃんがああいった点数になってしまっているのかはわかりませんが。あ、いえ、まずこれは情報共有でして。先生にお願いしたい一つは定期試験の過去の出題内容を探すのをお願いしたいのです。一部しか見つけられなくて」
「"わかった。今晩から手をつけるね。ちょっと時間をもらえるかな"」
「もちろんです。ある程度は中等部まで遡って勉強が必要でしょうし」
「……試験の過去問は、多分、図書委員会のシミコさんにお願いしてるので、図書館で保有してる分は持ってきてもらえるはずです……」
「おお!ありがとうございます!助かります!」
「"ありがとう、イヴ。じゃあ、それ以外のところを当たるようにするよ"」
「もう一つは……。その、先生もイヴちゃんも、ナギサ様から聞いていますか?」
ちらりと自分で閉めた扉、その向こうを見るように一瞬目を向けた阿慈谷ヒフミさんはこっちを見直し、2回深呼吸してから言った。
「『トリニティの裏切り者を探して欲しい』と、ナギサ様は仰っていました。エデン条約締結を妨害する誰かが、補習授業部の中にいると」
「"私も、頼まれてる"」
「……ナギサさんからではないですが、聞いています……」
(……セイアさんの名前は、出したら不味い、かな……)
(そもそも裏切り者自体はいないはずなんだけど、セイアさんが誰かに狙われるリスクはあるから、言わない方がいいと思う)
(……そうだよね……)
この2人がぺらぺら喋ったりはしないとは思うけど、念には念を入れておいた方がいい。阿慈谷ヒフミさんに接触が必要なら、百合園セイアさん本人が何とかするだろう。多分。
「その、本当に裏切り者なんているんでしょうか。一緒に勉強して、ご飯を食べて、寝て……そんな中に、他の人を陥れようとする誰かがいるだなんて、私は思いたくありません」
頷くイヴちゃん。
「"そのことについては、私に任せてくれない?ヒフミとイヴは、できる事に集中して欲しい"」
「えっ、でも……」
「"ナギサとも『できる限りのことはする』という約束をしてるんだ"」
「……ヒフミさん、お願いしましょう……。勉強に、集中しないと……」
普通に勉強に集中しないと落第だからなあ、約2名。
「あ、あうう……で、では、お願いして、いいでしょうか」
「"任せて"」
ほっと胸をなで下ろす阿慈谷ヒフミさん。
直後、こんこんと扉がノックされた。
「先生、ヒフミちゃん、イヴちゃん、そろそろ時間ですよ。あ、イヴちゃんは防水のスマフォですよね。持ってきてくださいね」
スマフォ?ナンデ?って思ったけどまあ、確かに防水スマフォだから良いかってなったイヴちゃん。
「えっ?!あっ、本当ですね?!」
「"採点がもう少しだから、ちょっとしたら行くね"」
「わ、私達も着替えていいですか?」
「"衝立があるから、その奥を使って"」
「ありがとうございます!」
「……ありがとうございます……」
先生が窓のカーテンを念のため閉めてくれるのにお礼を言って着替える2人。僕は視界共有を切った。
ちらちらと横で着替え始める阿慈谷ヒフミさんを気にしてるっぽいイヴちゃん。
(あんまりじろじろ見るとマナー違反だからね)
(……うん、難しい……綺麗だな、って思うのに、見ちゃいけないんだよね……)
(見られる方がどう思うかだからね)
(……むずかしい……)
女子ばっかりだからこの辺アバウトな子も多いみたいだしね。まあ、僕的にはイヴちゃんが嫌われるのはいやだし、そのためにはしっかりして欲しいっていう。
カップ麺には特定のモデルはありません。
ティーパーティー生徒が善意で置いてくれたもので、6人×5食の30個置いてあり、キヴォトス各地で取り扱われている美味しいものと、トリニティでしか出回っていない不味いものが2:1くらいの比率で入っています。
この不味いもの、優しい先輩が残業中に「ちょっとした悪い事」として偉い人に内緒で後輩に奢ってあげる伝統があり、ティーパーティーの麗しい思い出と共に不味い味が脈々と受け継がれています。一部のトリニティ人には非常に訴えるものがある味のようです。
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