ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
何人も之に激する勇氣あるなし 然ば誰かわが前に立うる者あらんや
誰か先に我に與へしところありて我をして之に酬いしめんとする者あらん 普天の下にある者はことごとく我有なり
我また彼者の肢體とその著るしき力とその美はしき身の構造とを言では措じ(略)
その並列る鱗甲は之が誇るところ その相闔たる樣は堅く封じたるがごとく(略)
嚔すれば即はち光發す その目は曙光の眼瞼(を開く)に似たり
その口よりは炬火いで火花發し
その鼻の孔よりは煙いできたりて宛然葦を焚く釜のごとし
その氣息は炭火を爇し 火燄その口より出づ(略)
その身を興す時は勇士も戰慄き 恐怖によりて狼狽まどふ
地の上には是と並ぶ者なし 是は恐怖なき身に造られたり(略)
是は一切の高大なる者を輕視ず 誠に諸の誇り高ぶる者の王たるなり」(旧約聖書 ヨブ記)
※聖書におけるレヴィアタンについて触れた節
イヴちゃんも水面から足首を引き抜いてプールの逆側を向いて座り直した。ところで、聖園ミカさんとお付きの2人が横にやってくる。
聖園ミカさんはにっこり微笑んだ。お付きの2人のうち1人は何となく済まなさそうな顔、もう一人はつまらなさそうにイヴちゃんを眺めている。
「あは、気持ちよさそう。私もやろっかな。ね、先生待ってるのはほんとなの。待つの、付き合ってくれない?」
イヴちゃんは頷くけど、靴は履くつもりらしく、その場でハンカチを取り出した。
聖園ミカさんが素早く可愛らしい茶のパンプスと白いロークルーソックスを脱ぎ捨て、イヴちゃんの足首を取って逆を向け――動かない。
「イヴちゃん、力強いね?!」
「……ミカさんも……」
脚の力は3倍あるので、拮抗というか、イヴちゃんが優位でも別におかしくはないんだよな。聖園ミカさんも大概力強いけども。
「付き合ってくれるんでしょ?」
そこも込みだとは思ってなかったらしいイヴちゃんがほんの少し逡巡して、根負けして頷いた。
イヴちゃんは押し負けしなかったけど、足首がちょっと赤くなっていた。いや怖。
「あはは、気持ちいいね、これ。うちのプール、温水プールが基本じゃん?」
ぱちゃぱちゃと水を波立たせる聖園ミカさん。足首をつけ直したイヴちゃんは隣に無言で座っている。
「まだ覗き見してたこと怒ってる?」
「……少しは……」
お付きの人の、つまらなさそうな顔の子がぼそりと呟いた。
「宇沢レイサも、お前も、覗き魔のくせに」
イヴちゃんが飛び上がるように立ち上がって、その勢いのまま発言した子の前に立って見上げる。たじろいだ素振りを見せつつも、イヴちゃんを前にして引かないのだけは勇敢って言えるかも。
「……取り消して……」
「な、何を……脅迫や暴行の検挙と称して、あちこち覗き回って……」
「……私はいい。レイサちゃんの悪口は、取り消して……」
「ちょっとちょっと、駄目だよ。喧嘩しないの。ごめんね。こーら、駄目だよ」
お付きの子は聖園ミカさんにピンっとデコピンされ、結構大きい音がした。
涙目になって額を少し赤くしたけど、何だかご褒美をもらったかのように嬉しそうなお付きの子が、不承不承という感じで一歩下がる。
「ごめんね。そういう噂が立ってるみたいで。同じ派閥の子同士、仲良くしないと駄目だよ」
まあうん、イジメの現場かと思ったら告白中、みたいなパターンとか、単なる雑談だとか結構あったからな。もちろんそういった子達をぶちのめしたり検挙することはないので、気付いてた子がいて、変な噂になっちゃってたんだろう。
いや待って、さらっと同じ派閥呼びしてるが。
「……ミカさん、私は……」
「うんうん、良い返事くれるんだもんね。イヴちゃん、私ね」
月光に照らされる白いティーパーティーの制服が、まるでお姫様のドレスのようだ。
「欲しいなって思ったら、すっごく諦めが悪いタイプなんだ。今、なおさらイヴちゃんのことが欲しくなっちゃった☆」
残念ながら、目の前の天真爛漫な笑顔を浮かべるお姫様はわがまま一杯のお姫様らしいが。
プールの入口の方からこつこつと足音がして、聖園ミカさんとイヴちゃん、遅れてお付きの子2人が振り返る。
「"ミカ、お待たせ。あれ、イヴ?"」
「こんばんは、先生。イヴちゃんも一緒に話聞いてもらうことにしたから。同じ派閥のメンバーだし、いいよね?」
またもさらっと爆弾発言を2つも投げ込む聖園ミカさん。そこそこ付き合いのある先生にはパッとわかるくらい眉をひそめるイヴちゃん。
「"イヴは、いいの?"」
「……構いません……いえ、パテル分派では、ないですが……」
「後援会員なんだから一緒一緒☆ さ、先生もそこ座って。気持ちいいよ?」
滅茶苦茶乱暴なまとめ方をした聖園ミカさんがそこ、と指さしたのはプール際、さっきまで2人で座っていたところだった。
聖園ミカさん、先生、イヴちゃんの順で座り直した。イヴちゃんが水面を覗き込むと3人の顔が水面に写ってる。いやこの空間、全員めっちゃ顔がいいな。
お付きの子2人はプール出たところまで聖園ミカさんの命で下がった。
「"ちゃんと水が張れてて良かった。確かに気持ちいいね"」
「先生、気が利いた待ち合わせ場所だよね」
上機嫌な聖園ミカさん、先生、どことなく不安げなイヴちゃん。
(どうしたの?まださっきの覗き魔って言われたこと気にしてる?)
(……それもある。ただの噂だってわかってるんだけど……)
(「も」ってことは、他にも?)
(……今、この話……)
(ああ。まあこっちは心配してもしょうがないっていうか……とりあえず、聞くだけ聞かないと、始まらないよ)
(……うん……)
不承不承を絵に描いたらこうなるだろうって感じのイヴちゃんを余所に、聖園ミカさんが話を進めていく。イヴちゃんには、横で聞いていてもらえればいいくらいの感じらしい。
聖園ミカさんの話が進む。「自分は頭が悪いから、整理しながらゆっくり話す」という、まあ一流の韜晦って感じだ。
三大派閥の他にシスターフッドや救護騎士団の前身となった派閥があり、派閥同士の争いが続いていたこと。戦わずに1つの学園となるための話し合いをしたのが『第1回公会議』で、その結果生まれたのがトリニティ総合学園であること。
「分派の余波が無いって言えば嘘になるけど、大半の子は知らないんじゃない?でも、その時、最後まで反対していたのが『アリウス』。元々は私達と変わらず、経典の解釈の違いが少しあったくらいだって聞いてる。ゲヘナの事を心底嫌ってたのも含めてね」
そんな大昔から対立してたのか、ってうんざりするけど、その辺には触れずに話が進んでいく。
「『アリウス』は連合を作ることに大反対して、連合になったトリニティ総合学園はその力を使ってアリウスを大弾圧した。大きい力っていう玩具を持つと、使いたくなるのはよくあるでしょ。丁度良いターゲットだったんじゃないかな?」
言葉を句切って、先生を見据えていた聖園ミカさんはちらっとイヴちゃんを見て、再度先生を見た。
「アリウスは潰されかけて、キヴォトスのどこかに隠れた。連邦生徒会でもわからないような場所にね。そんな学園あったっけ?って感じでしょ?」
最後のは明確にイヴちゃんに向けての言葉。頷くイヴちゃん。
「それで、そのアリウスがどう今に関わってくるかって話なんだけど。うーん、どう説明したらわかりやすいかな。まず、補習授業部は、裏切り者を探すための部活。ナギちゃんがどうしてこんなに神経質になってるか。先生もイヴちゃんも、セイアちゃんが入院してるって聞いてるよね?本当は違うの」
「"ミカ、その先は言わなくていいよ。私はセイアの話は聞いてるし、イヴも知ってるから"」
先生のその言葉を聞いて、背筋がピンと伸びて堂々としていた聖園ミカさんの全身の力が抜けたのが傍目にもわかった。そのまま後ろに上半身を倒す聖園ミカさん。
「"ミカ?!"」
「大丈夫、この話、どうしようか緊張してたのが気が抜けただけだから。そっか、ナギちゃん、先生には話したんだね。ティーパーティーの他には、シスターフッドくらいしか知らないだろうし。そっか、そうなんだ」
くすくすとひとしきり笑ってから、聖園ミカさんが身を起こした。
「慎重を通り越して臆病になってる今のナギちゃんに話させた先生の手管は気になるところだけど」
右手を地面についた少し気の抜けた姿勢で、それでも真面目な顔をする聖園ミカさん。
「ナギちゃんの言う『トリニティの裏切り者』は誰だか教えてあげる。白洲アズサが今のお話の『アリウス分校』の出身。私が書類の改ざんをして、トリニティに連れてきたんだから、裏切り者の身元保証をしてもいいくらい」
またしてもくすくす笑う聖園ミカさん。
「ナギちゃんが進めてるエデン条約は、『第1回公会議』の再現なの。学校が合併する訳では無いけど、
いきなり振られて首を傾げるイヴちゃん。羽沼マコトさんとは結構色々喋ってるしな。
(うーん、この話の流れだと『イヴちゃんと宇沢レイサさんが将来的な部下になる』みたいな話のことじゃないかな)
(……ああ……ありがとう、ジル……)
「……トリニティ自警団の私達を『部下として使える』……って言ってました……」
ううん、と悩みつつ答えるイヴちゃんに、良く出来ました、という顔をする聖園ミカさん。
「戦力は当然、2つの学園から供出された生徒から成立する。トリニティとゲヘナの戦力を合わせた一種の武力同盟ってこと。連邦生徒会長がいない、今の時期にね」
「"ナギサが何をするつもりか、心配してるってことだよね?"」
我が意を得たりと頷く聖園ミカさん。
「連邦生徒会を襲撃して、連邦生徒会長にだってなれる。ミレニアムっていう若い第3勢力を破壊してもいい。何をしたいかはわからないけど、これははっきり言える」
さっきまでの微笑みとは一転、チェシャ猫のような笑みを浮かべる聖園ミカさん。
「補習授業部っていう気にくわない生徒を排除する前例がある。きっと自分が気に入らないものを排除するよ。アリウス分校がそうされたみたいに」
補習授業部とアリウスを重ねられると当事者としてキツいな。それに、何だか説得力がある気もしなくもない。いや、まさにこれがイヴちゃんに聞かせようとしてる、術中にはめられてるんじゃないか?
ミカはパワータイプですが、筋力に超大量の神秘を爆盛してトータル怪力を出すタイプなので、単純な筋力だけで言うとまだイヴの方が強いです。
神秘込パワー比べするとイヴが負けます。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
評価10、本当に光栄です。続きのアイデアはもりもりあるので頑張ります。時間と体力が許せばもっと書けるんですが…。