ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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『思惟の存在被拘束性』だっけ?文脈と社会的存在、立場で人間の思考は縛られちゃう的な 「かくあれかし」の束縛かも

 数秒の重い沈黙。先生がちらりと2人を見て、イヴちゃんのまなざしに気付いて言葉を促す。

「"イヴ?"」

「……ミカさん、どうして、アズサさんを……?」

 まあそうだよな。今の話だと、何で、ってところはわかんない。

「アリウス分校は、学ぶっていうことが何なのかわからないくらい劣悪な状態で、豊かさと平和を謳歌している私達を憎んでいる。イヴちゃんはどう思ってるかはわからないけど、ナギちゃんの統治者としての腕は悪くないし、生徒も概ね満足してるんじゃないかな」

 まあそうだろう。金銭的な豊かさで言えばトリニティは随一だ。余裕がある分、くっだらない政治的陰謀やらが無限に生えてくるのが困りものだけど。

「私達から差し伸べた手も、連邦生徒会が提供しようとする助力もね」

 ん?連邦生徒会はアリウスの場所を知らないんじゃないのか?過去に接触歴があったのか、聖園ミカさんが仲介したのか?

 なんか、聖園ミカさんの話っぷりがきな臭いというか。真実の中に巧妙に同情のミスリードを誘おうとしてないかって疑いを持っちゃうな。これもイヴちゃんにニュートラルじゃ無くて政治的な立場がもうあるから(もちろん僕はイヴちゃん最優先だから、そこに引っ張られる傾向が絶対ある)かもしれないけど。

 溜息をついて左耳横の髪をさらっと左手で掬った聖園ミカさんが続ける。

「私は、アリウス分校と和解がしたかった。でも、憎しみは簡単に拭えるものじゃなかった。誤解と疑念が歴史の中で澱のように積み重なっている。だから、ナギちゃんもセイアちゃんも意見には反対したの。政治は得意じゃないから、2人を説得する材料も交換要素も出せなかった。けど、また、今から仲良くするのってそんなに難しいかな?」

 動機はとっても良いことだと思うんだよな。正直、現状の連邦生徒会なんか全然頼りにならんってのはアビドスの現状を見て痛感しちゃったし、元身内を助けようとする気持ちは美しいと思う。裏側のプロセスが見えてるから、怪しいと思うだけで。

 でも、僕達の持ってる裏側は百合園セイアさんからもらったもの。百合園セイアさんが嘘をついてるとは思いにくいけど、政治的立場からのバイアスはもちろん発生する。

 百合園セイアさんが嘘をついてないと思う理由は「本人が得られる政治的利益が小さすぎる」ってところに尽きる。陰謀を最後の最後で潰して、フィリウス分派(桐藤ナギサさん)パテル分派(聖園ミカさん)を引きずり下ろしてトリニティ総取り独裁体制確立!!!みたいな大技っていう線だとかも一応イヴちゃんと検討してみたけど、補習授業部のゴミ箱機能がバレれば、暴力装置である正義実現委員会とついでに自警団の不興を通り越して不審を買うのは判りきってる。ティーパーティーの近衛だけで治安維持するし、どっちも解体します!!とかとち狂わない限りは正気じゃ無い。

「前みたいにお茶会でもしながら、お互いの誤解を解くことができたらいいなって。『白洲アズサ』に、和解の象徴になってほしかったの。今からでもこうして、仲良くできるよって」

 口を挟まず、続きを促すように頷く先生。

「私は詳しくは知らないけど、アリウスでもかなり優秀な生徒だったらしいの。可能性に賭けたってところかな。本当は、ナギちゃんを説得して正式に進めるべきだったのかもしれないけど、疑っちゃったっていうか。ナギちゃんは条約しか見えてないし、きっと聞いてくれない。エデン条約が成立したら、アリウス分校は、ゲヘナと一体化したトリニティを疑うしもっと憎むだろうし、和解はきっともう無理になっちゃう。だから、どうにか実現させたかった。トリニティで、アリウスの生徒が暮らせて幸せになるって、証明を」

「"じゃあ、裏切り者っていうのは……"」

「私がそうやって動いているのが、おかしな形で伝わっちゃったのかも。何か失敗した可能性もある」

「"疑われた子が、補習授業部に入ることになった、か"」

「そう。ハナコちゃんはすごく変わったところがあるけど、本当に、本当に優秀な生徒なの。成績だけじゃなくてね。3年になってないのに、ティーパーティーの、つまり生徒会長の候補になったこともあるくらい。シスターフッドも、他の派閥も、引き入れたかったみたい。上手くは行ってないから現状があるんだけど。ミサの授業で、水着で来たことがあって。あの敬虔な空気ですごい雰囲気だったよ。あはは」

 思い出し笑いをしてから遠い目をする聖園ミカさん。

「秘密を知りすぎてるんだよね。色んなところの上層部と繋がりがあるから」

 数秒黙ってから、再度口を開く聖園ミカさん。

「コハルちゃんは、政治とは特に関係ない。普通の良い子。正義実現委員会の事実上のトップであるハスミちゃんが可愛がってるから、っていうところかな」

「"ハスミが関係あるの?"」

「うん。ハスミちゃんは、現状条約に反対してるわけじゃない。正義実現委員会とゲヘナの風紀委員会の合同演習や、人材の交換派遣もハスミちゃん主導でやってるくらいだからね。でも、万魔殿議長に対する懸念っていうのかな。『あまりにキレる相手だから注意しないといけない』っていう発言が拾われて。ちょっと不注意だった、っていうには酷かもだけど。褒め言葉でもあるんだろうしね。ティーパーティーと正義実現委員会の間の関係は健全なものだとは思うよ。でも、今のナギちゃんは万が一も疑う姿勢だから、誰でも良かったんじゃないかな。『退学』の一件はきっとハスミちゃんも知ってたと思う」

 純粋に政治的な重石というか人質を取られてるって事だな。健全な政軍関係が不健全になりかねないと思うんだけど、うーん。まあ、人事権を文民側が握ってると思えば……いや国外追放(退学)まで選択肢に入ってるのはやっぱおかしいやろ。

「"ヒフミはどうなの?"」

「優しくて可愛くて良い子だよね。ナギちゃんのお気に入りで、一時期、恋人なのかな?って思ってたけど。ヒフミちゃんは、ブラックマーケット含めてあちこち、怪しいところに出入りしてるのと、どこかの犯罪集団と関わりがあるっていう情報も」

 先生が聖園ミカさんに見えないように右手を握りしめたのが見えた。

「気に入ってて可愛がってる子でも、疑いの目を向けちゃうのはナギちゃんらしいよね。で『この中に裏切り者がいて、それが誰かわからない』ってなったんじゃないかな?ナギちゃんの中ではもういるのは既定路線」

「"裏切り者、か"」

「経歴を偽って入ってるって意味なら、『白洲アズサ』がそう。本人は現状そのものは何も知らないだろうけどね。あの子をこんな形で退学にはさせたくない。だから、退学から守って欲しいの。先生。それと、イヴちゃんにも、あの子に向けられる悪意からね」

 一瞬ちらっとイヴちゃんの方を見た聖園ミカさんは溜息をもう一度深くついて続ける。

「ある意味では、裏切り者は私でもあるんだよね。エデン条約に賛成の立場じゃないから。ホストじゃない私には何もできないけど」

 聖園ミカさんが姿勢を正して、プール入口に立っているお付きの子に向かって右手を挙げる。駆け寄ってきたお付きの子に小さく囁くと、背負っていたリュックから小さな水のペットボトルが3本出てきた。

「喉渇いちゃった。よかったら2人ともどうぞ」

「"ありがとう"」

「……ありがとう、ございます……」

 ペットボトルの口を開けて、こくこくと飲む聖園ミカさん。喉が小さく動くのが何だか艶めかしいな。

「そうそう、それで。ある意味というと、もう一つ。調和を保っていたトリニティを変質させて、巨大な怪物(リヴァイアサン)に変質させようとしてる。ナギちゃんも、トリニティから見れば裏切り者なんじゃない?」

 ペットボトルの水をもう一口、飲み干したらしく後ろ手に置いた。

「話が長くなっちゃったね。私が伝えたかったのと、お願いしたかったのはこんなところかな」

「"ミカ自身は、大丈夫なの?"」

「あはっ、先生、私のこと心配してくれてるの?大丈夫、私、こう見えて結構強いんだから」

「"うん。でも、戦うことだけじゃなくて。心配事とか、そういうことがあれば聞くよ"」

 真剣に伝える先生に、鳩が豆鉄砲を食ったような顔を一瞬した後、花がほころぶように、徐々に笑顔を見せる聖園ミカさん。

「ふふ、先生。私、先生のこと好きになっちゃいそう。もし困ったら、お願いするね。先生、今日のお話、すっごく楽しかった。イヴちゃんも、付き合ってくれてありがとうね」

 立ち上がって頷く聖園ミカさんに、お付きの子2人が近づいてくる。ハンドタオルで足を当然のように拭かせて、ソックスとパンプスを履き、ゴミのペットボトルを拾わせると、先生とイヴちゃんの挨拶に軽く手を振って、お付きの子2人を従えたまま去って行った。

 改めて、本当にお姫様って感じだったな。

(……む、難しい話だった……)

(お疲れ様、イヴちゃん)

 緊張感から解放されて深々と溜息をついたイヴちゃんと、「お疲れ様」とそっと肩を撫でてくれる先生。

「……先生、ちょっと、相談したいことが……」

「"うん、イヴがいいならこれからでも。遅い時間だけど大丈夫?"」

 こくこくと頷くイヴちゃん。パッと立ち上がり、再度ハンカチで足を拭いて、ひょいひょいと左右の足を前蹴りするように振り上げ、水気を切った。先生が立ち上がるのに手を貸して未開封のペットボトル2本を持つ。

 夜更かしはあんまりして欲しくないけど、今情報共有しとかないとってのはそうなんだよな。

 しかし、来客の多い日だった。




 ミカがイヴについて言及してないのは、もちろん本人が目の前にいる上に、セイアの現状情報共有をできているほどの相手にわざわざ説明をする必要が無い、という常識的な判断をしたからです。
 もし、イヴがその場にいない場合は
「ミレニアムの生徒会の事実上のトップ(早瀬ユウカ)と、技術の最先端の部活(エンジニア部)と深い繋がりがある。で、自警団っていうのもよくないかな。正義実現委員会じゃなくて、『正義実現委員会、ひいてはティーパーティー、トリニティそのもののありように疑問があるからわざわざ入る』なんて言われる組織を組織化して役職付に収まってる。しかも、先生の目の前で言うのも何だけど、百鬼夜行の生徒会の顔役(和楽チセ)と、シャーレで仲良くなっちゃったんでしょ?ゲヘナ万魔殿の議員とも太いパイプがあるのは、まあ、ナギちゃん的にはプラスかもだけど、差し引きでシロにはならなかったみたい。あとは、特定の反企業(カイザー)姿勢。それと、疑惑の人物のヒフミちゃんとも付き合いがあって、肩入れしてるアビドスだっけ?そことも親しい。アビドスって、今は学校の治安維持組織もないんでしょ?犯罪集団って、そこで活動してるんじゃないの?って思われたかも。普段ならよその学校の子と親しいくらいなら『面白い人脈があるね』くらいなんだけど、時期が時期だけにだし、相手の学校も不味いよね」
 くらいの解説をします。ゲーム開発部は対外的にも弱小部活でクリエイト系なので除外。カイザー相手の訴訟を断念した経過も関わってないので触れません。

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