ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
もう何人か、場合によっては全員寝てるかもしれない時間なので、忍び足を意識して、プール際から、先生の部屋に戻った先生とイヴちゃん。
先生の方針で鍵は閉めないけど、開けっぱなしにしてできる話があるので、イヴちゃんが扉をゆっくり閉めた。
まるで泥棒みたいだなと、どちらともなく顔を見合わせて、くすりと笑いが漏れる。
「……先生、私は夢――」
イヴちゃんの言葉を遮るように、こんこんと軽やかなノックがされた。
「"ごめんね、イヴ。どうぞ"」
水着のピンク髪不審者が入ってきた。
浦和ハナコさん自体ではなくて、浦和ハナコさんの服装に驚く先生とイヴちゃん。*1
先生は夜中なので小声でツッコミを入れた。
「"ハナコ?!どうしたのその服?!っていうか水着?!"」
「お邪魔します。あら、あらあら?イヴちゃんにはレイサちゃんがいるのでは……?本当に、お邪魔でしたか?真夜中に、こっそりと、パートナーがいるにも関わらずお互いを慰め合っておられた……?」
ぽっと顔を赤らめてとんでもない事を口走る浦和ハナコさんに誤解であることを力説する先生。
半分冗談だったのだろう、座って先生の話を聞いていた浦和ハナコさんが納得したところで、再度ノックがされて、同じやり取り。パックのノンカフェイン紅茶の人数分を淹れようとしていたイヴちゃんがてってっと近づき、扉を開けた。
パジャマ姿の阿慈谷ヒフミさんが立っていた。
「先生、今晩もお邪魔します。ご相談したいこ……あ、イヴちゃん。と、え、ハナコちゃん?!いや、水着?!」
困惑の余りぐるぐる目になった阿慈谷ヒフミさんが大声を出して、他の2人が起きると可哀想だと思ったのだろう。イヴちゃんが右手首を掴んで優しく部屋に引き込み、扉を閉めた。
「あら、あらあら。まさかの3人で楽しまれていたのですか?夜中の保健体育の実習、素晴らしいですね♥」
「え、あ、いえいえいえ、違いますが?!」
「"あ、そこは天丼するんだ……"」
呆れた先生と、うふふ、と笑う浦和ハナコさん、真っ赤になってぐるぐる目で頭を揺らす阿慈谷ヒフミさん。イヴちゃんは追加のお茶を淹れに戻った。
お茶請けには先生が用意してくれた、蒟蒻で出来たせんべいがある。先生も夜のカロリー気にするんだな、ってちょっとほっこりした。
誤解(?)が解け、「なぜ水着……?」という全員の疑問がスルーされた後、視線が『まずは部長から』という感じで阿慈谷ヒフミさんに集中した。
当人はやや硬い笑顔で口を開く。
「あ、あのですね。過去の出題系統のとりまとめが終わったので、そのご報告を。もちろん、明日以降見て下さったら大丈夫ですが」
「……模擬テストの範囲、一緒に決めて、作りましょう……」
イヴちゃんの提案に笑顔をやや柔らかくし、首を横に振る阿慈谷ヒフミさん。
「ありがたいのですが、その分、コハルちゃんの勉強を見てもらった方がいいかなと。私自身は現状合格ラインですし」
「……アズサさんは、ハナコさんにお任せしても……?」
「構いませんが、そのアズサさんの事で、少し相談したいことがあって伺ったのです」
「それは、私とイヴちゃんが聞いても大丈夫なものですか?」
「むしろ、一緒に聞いてもらった方がいいですね」
真面目な表情になる浦和ハナコさん。
「実はアズサちゃんが、毎晩のようにどこかに出かけていて、夜中遅くまで戻ってこないことが続いているのです。最初は慣れない場所だから寝つけないのかと思っていましたが、そうではないようで」
全員が聞き入る中、浦和ハナコさんの話が続く。
「アズサちゃんがちゃんと眠っていることを見た記憶がありません」
「確かに私も……。アズサちゃんはいつも先に起きていて、私より先に寝ている事も無かった気がします」
2人の言葉に、下江コハルさんの次に早寝で一番遅起きのイヴちゃんは首を傾げた。寝付きの良さがここで災い(?)するとは。
「アズサちゃんが何をしているかはわかりませんが、多少無理矢理にでも寝させてあげないといけないのではと思います。学業だけでなく、健康に影響が出ますから。とても不安そうなのも気になって。どんな事情かはわかりませんけど、少しでも軽減してあげたいのです」
全員頷く。苦笑いして浦和ハナコさんが続ける。
「先生も、ヒフミちゃんも、イヴちゃんもですよ。睡眠時間は大切です。試験は大切ですけど、ただ落第というだけです。身体の健康より大事ということはありませんよね?」
途中までは頷いていた一同が固まる。
「"ハナコ、その――"」
「普通なら、そうです。でも……」
急変した様子にいぶかしげに片眉を上げる浦和ハナコさん。
「……後2回、落第すると、退学、です……」
「そうなんです。私達は、トリニティを去らないといけないんです!!」
「退学?それは一体、どういう……」
一同を見渡してから硬い微笑みを浮かべる浦和ハナコさん。
「そんなこと、校則的に成り立たないでしょう。手続きと理由が必要ですし、下手をすると年単位の時間が……」
冗談だろう、と受け止めている浦和ハナコさんが、ふふ、と冗談めかして笑うけど、誰も反応しない。
先生が重苦しい溜息をついた。小さく震えた阿慈谷ヒフミさんと、油が切れたように固い動作で先生の方に首を向けるイヴちゃん。
「皆さん?……先生?」
先生が阿慈谷ヒフミさんとイヴちゃんの方を見る。
イヴちゃんは頷いて立ち上がり、扉を小さく開けて廊下の様子を伺ってから、先生の視線の了承を得て鍵を掛けた。
先生が浦和ハナコさんに裏事情を話す。
もちろん、桐藤ナギサさんが云々という部分は伏せているけれども。先生的に、生徒の不和を招きたくないと思ったのだろう。
話し終えた先生が、冷め切った紅茶を一気に飲み干した。
「なるほど。全員が不合格なら、退学。シャーレの権限を組み込むために、わざわざ先生を呼んだと」
あっ、と小さく声を上げる阿慈谷ヒフミさん。
「そ、そういえばハナコちゃん、本当は成績良いんですよね?!3年生の試験まで、全部満点でしたよね?」
「……ごめんなさい。過去のテスト問題を探していたら、出てきてしまって……」
阿慈谷ヒフミさん1人の責任にしたくないのだろう、言葉を挟んでからうなだれるイヴちゃん。ちらりと頷いてから、言葉を続ける阿慈谷ヒフミさん。
「今の点数は、わざとですよね?」
「ごめんなさい。知らなかったんです。まさか『全員が退学』だなんて。いえ。知らなかったから、許されるという物でもありませんが」
この場にいる全員と、他の2人に対しても、という真摯な態度で頭を下げた浦和ハナコさん。
「先生にも、ヒフミちゃんにも、イヴちゃんにも。アズサちゃんとコハルちゃんにも、申し訳ないことをしました。ごめんなさい」
先生も、阿慈谷ヒフミさんも、イヴちゃんも責める意思も様子もない。
「い、いえ……。でも、それより、なぜそんなことを?」
「ごめんなさい。それは、言えません」
息を呑む阿慈谷ヒフミさんとイヴちゃん。先生は真剣な顔で見守っている。
「私の、凄く個人的な理由なので。ですが、それで皆さんが被害を受けるのは、私の本意ではありません。なので、最低限皆さんが退学にはならないよう、今後の試験は頑張ります」
「"ありがとう、ハナコ"」
「え、いえ!?そんな感謝してもらうことでは……。むしろ私が謝罪すべきことなので、裸で手をつくだけで足りますか……?」
「それは逆に止めて欲しいですかね?!試験を頑張ってくれれば充分なので!」
ほう、と安堵の溜息をついたイヴちゃん。
「ところで、これを知っているのは、先生とヒフミちゃん、イヴちゃんだけですか?」
頷く一同。
「そうなると、アズサちゃんの不安は試験由来ではない。何か、まだ私が知らないことが……。そもそも、補習授業部の存在自体が気になりますが」
しばし天井を眺めて黙考する浦和ハナコさん。
イヴちゃんがそろりと立ち上がって、ポットからお湯を入れ、全員分の紅茶のおかわりを注いでいく。礼を言いつつ口をつける一同。
「今までのミカさんでは無理でしょうし、ナギサさんでしょうかね。エデン条約の前に。ああ、なるほど。エデン条約を妨害する疑いがある生徒の集いなのですね」
驚愕した様子の先生、阿慈谷ヒフミさん。イヴちゃんもお茶請けのせんべいをつまむ手が止まった。
ふふ、と悪い笑みを浮かべる浦和ハナコさん。
「相変わらず狡猾な猫ちゃんですね、ナギサさんは」
えっ、桐藤ナギサさんはネコなのか?!つまりヒフナギ?!
(……ジル、臭い……)
(ごめん)
百合真実(?)を知った衝撃で固まった僕を余所に(誰にも見えないから当然だけど)話は進んでいく。
「どうせならまとめて処理した方が良いというところでしょう。洗濯物みたいな扱いですね」
複雑な表情をする先生。もっと酷い例えだったのかな。
「『成績の振るわない生徒を助ける』という餌で先生も釣り上げられたというところですね。先生は、それにも関わらず私達を助けるために奔走してくださったのですね」
ひょえー。今の情報で大体の事が分かるんすげーな。僕なんかプレイヤーだったはずなのにわからんのにな。(ぼんくら寄生虫)
「『トリニティの裏切り者』を探して欲しい、ナギサ様はそう仰ってました」
「ティーパーティーホストの計画を邪魔したら当てはまるとも言える。ナギサさんらしい表現といいますか。アズサちゃんは書類自体が怪しかったですしね。コハルちゃんは、正義実現委員会の人質でしょうか」
イヴちゃんをちらりと見て納得した顔をする浦和ハナコさん。ん?
浦和ハナコさんは、阿慈谷ヒフミさんを見て不思議そうな顔になった。
「あら、ではヒフミちゃんはどうして?ナギサさんと親しかったはずなのに」
「えっ?!私もやっぱり容疑者なんですか?!親しくさせていただいていたと思いますが。どうして私なんでしょう……」
覆面水着団でしょ、って先生とイヴちゃんが顔を見合わせる。映像は残ってなかったみたいだけど、当然、目撃者を皆殺しにしたわけではない。
証言は幾らでも拾えるから、トリニティの制服に
恐らくだけど、『ブラックマーケットの銀行は、通常の銀行と同じではなくて、所詮犯罪組織だからそこ自体は追及しない』って感じっぽくて、僕は内心安堵した。
問題は覆面水着団についた尾ひれなんだろうな。阿慈谷ヒフミさんには悪いけど、ちゃんと証拠隠蔽しといて良かった。お陰でイヴちゃんは何も疑惑かかってないし。
「アズサちゃんについては、現状何もわかりませんね。私から聞いてみます」
「はい、お願いします。何かわかったら、教えてください」
浦和ハナコさんが艶っぽい笑みを浮かべる。
「では、私もこの夜の密会に参加できるということでいいですか?うふふ、嬉しいです♥深夜に4人で寄り添って組んずほぐれつ、秘密の遊びなんて……。こんなに興奮することはありませんね♥」
「"い、言い方……。さ、そろそろ遅いし、ハナコの言うとおり、睡眠は大事だから、皆寝ようか"」
「はい、そうですね。ではまた明日ということで。お休みなさい、先生」
浦和ハナコさん、イヴちゃんも頷いた。
「はい、お休みなさい」
「……お休みなさい、先生……」
「"イヴは、さっきの話は"」
首を横に振るイヴちゃん。
「……大丈夫です……」
何か言いたそうな3人の視線が集まり、イヴちゃんは再度呟くように言う。
「……問題ないです……」
正直、時間がかなり遅いってのは確かなんだよな。イヴちゃんもちょい眠そうだし、一番相談しておきたい下江コハルさんに関しては、今日明日すぐどうこうできる訳でも無い。
百合園セイアさんの話についても、先生は生存自体は知ってるはずだから、これも必須ではない。
まあ、情報共有自体は出来たし、今日はこんなところだろう。
全員で紅茶とお茶請け等々を片付け、改めて「お休みなさい」と先生に挨拶し、先生もそれに応える。
先生の部屋を出たところで、3人はばったりと下江コハルさんに遭遇した。眠そうに目を擦っていたのが、眠気が一瞬でぶっ飛んだようだ。
「んん、トイレ……って、ええっ?!イヴ?!ヒフミ?!ハナコまで?!先生の部屋で一体何を?!っていうか、イヴはまた4人?!そういう大勢でないと満足できない
またって何やねん。
「バカ!ヘンタイ!!変態!!!淫乱族!!!!」
真っ赤になり、猫目になった下江コハルさんの熱い判定。
下江コハルさんのえっちな偏見がまた1ページ。
ジ?「イヴちゃんは疑惑とかかかってないんで」(ボンクラ)
ハ?コ「他の学園との繋がりが非常に強くて、後ろ盾がないから容疑者になったのですね?」
当然イヴは自分で判っているだろう、と判断したハナコは説明を省略しました。
特に初期話について『スマフォで読んでいると読みづらい』とのご意見を複数頂いたので
本編『タペストリが落ちてくる』まで修正し、あわせて、本題に影響がある変更はありませんが、各所に加筆追記等を行っています。改行だけ直すつもりが、色々と個人的に目に付くなという部分が多かったので……。今後も随時最新話投稿とあわせて改稿を行っていくため、最新話投稿ペースは落ちる可能性があります。
確かにスマフォという媒体そのものの変更に追随出来ていなかったなと反省しきりです。
大きな書き漏れ(本筋には『ただちに影響はない』ですが)は
『ミレニアムは違法建築の温床だったんだね』回で、イヴが連邦生徒会宛にビナー装甲板と交戦動画の発送。
連邦生徒会内で他の嘆願陳情苦情書類に紛れ行方不明になり、大勢に影響は出ません。
防衛室長のカヤ、連邦生徒会長代理のリンにも当然情報が届いていません。
『ドリンクバーのあるファミレスは学生の味方 なおキマシタワー建造のスペースを確保するものとする』回で、イヴが手料理をレイサに振る舞う。
レイサが満足し、イヴも友人に美味しいものを食べさせた喜びを得ました。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。