ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
浦和ハナコさん、先生、阿慈谷ヒフミさん、下江コハルさん、イヴちゃん、白洲アズサさんの並びで座り、一同に紙コップに入ったホット紅茶が行き渡ったところで、浦和ハナコさんが紙コップを掲げ、高らかに宣言した。
「さあ、では、記念すべき第1回、補習授業部の水着パーティを始めましょう♥」
「何で、どうしてこんなことに……」
「でも、あの状況では脱ぐしか」
「脱いで下着でも別に良かったのだが」
「あうう……脱がないとどうしようもないというか……」
「どうして皆そんなに脱ぎたがるの?!露出は犯罪なんだよっ?!」
下江コハルさんがツッコミで怒鳴ったと同時に、旧校舎屋上の避雷針に雷が直撃したらしい。重低音が響き渡り、小さく校舎と体育館を揺らした。先生と下江コハルさんが小さく身体を跳ね上げて驚く。
イヴちゃんはくすくす笑い、自分が笑われたのだと思ったのだろう、下江コハルさんにキッと睨みつけられた。
きょとんとしたイヴちゃんが口を開く。
「……雷、鳴ってると楽しくない……?」
「はあ?!」
呆れ顔の下江コハルさん、浦和ハナコさんの助け船というか相槌で話が逸れていく。
「雨が降ってるのを家の中から見るのは楽しい、みたいなものでしょうか?」
うんうんと頷く阿慈谷ヒフミさん。
「雨の日に寝るのは気持ちいいですよね」
「確かに。あれだけ快適なベッドがあるんだ。雨が続くなら、試してみてもいい」
「"雨はともかく、停電は何とかなってほしいけどね……"」
「……部屋干しで、洗濯物、乾くかな……」
皆くつろいで、思い思いにお菓子を食べたりしている。先生が持ってきたお菓子が地下のお菓子群に添えられているけど、低カロリーのものが中心で、みんな軽くつまんだだけで違うお菓子に人気が集まっている。
先生はお菓子の人気そのものより、高カロリーのお菓子をもりもり平然とつまむ、イヴちゃん含む皆の代謝とかに思うところがあるっぽい、ちょっと切ない顔をした。
まあうん……先生、イヴちゃんが頑張って教えたストレッチは毎日やってくれてるみたいだし、運動もしていけばきっと大丈夫。多分。恐らく。メイビー。
先生の素敵体型に思いを馳せていると、話題がいつの間にか水着パーティそのものの意義に戻っていた。
「っていうか、それなら部屋で大人しく休んでたらいいじゃない!ベッドに入ってたら下着でも関係無いし!」
「あら、でも、みんな寄り添って、お互いの弱い部分を曝け出し合う……。停電に抗う、ランタンのか細い明かり、雰囲気は最高です!」
満面の笑みで、ハートを飛ばすかのような浦和ハナコさん。とても楽しそうに続ける。
「折角の休み時間なのですから、そうやって有意義に過ごすのもいいのでは?」
「あはは……まあ、合宿の定番、といえばそうでしょうか。寝る前というのもありなんでしょうけど」
阿慈谷ヒフミさんが皆を見渡す。
「コハルもイヴも寝るのが早かったし、私は寝る時間が少なかったからな。今日からはちゃんと寝るが」
「え、何してたの?もしかして先生と?!」
下江コハルさんが白洲アズサさんと先生の間に視線を高速で往復させる。
「"えっ、私?!"」
流れ弾が急に来たので慌てふためく先生。
「ふふ、恋愛のお話も含めて、何でもありの雑談の時間が取れたのはむしろ幸いだったのかもしれませんね」
「確かに、相互の連携のためにも情報交換は大事だな」
うんうんと頷きあう白洲アズサさんとイヴちゃん。
「恋愛の話なの今の?!」
「私、こういうことを凄くしてみたかったのですよね。なので、ちょっとテンションが上がっています」
「気持ちはわかる。私も補習授業部に来てからずっとそうだ」
掛け値無しに楽しそうな浦和ハナコさんに、意外(?)にも、白洲アズサさんが同意する。
「何かを学ぶ。ご飯を作って食べる。洗濯、掃除。1つ1つが楽しい。水着の活用方法も初めて知った」
「そうですよ。水着はどこに着ていっても恥ずかしくない服ですからね。何しろ、人間は水の中でだけでは生きられません。陸上でも必ず着ている服です」
「……つまり、水陸両用だから、陸上でも運用できる……?」
おお~と納得した白洲アズサさん。イヴちゃんもどうしたん?なんか汚染されてない?
「水着はちょっと違う気が……」
「動きやすく通気性もいい。ハナコが散歩に使うのも納得だな」
「いやそれで外を歩くのは犯罪だから!納得しちゃダメ!公然淫猥罪だよ!!っていうか、イヴも何で賛成してるの?!」
これに関しては下江コハルさんに心底同意するなあ。そっちに行かないで、と目で訴えている下江コハルさん。
無情にもイヴちゃんは良く判らないという感じで首を傾げた。
紅茶を一口飲んで、白洲アズサさんが続ける。
「コハルやイヴとも、一緒に勉強するのは凄く楽しい」
「きゅ、急に何?!そんな恥ずかしい事を……!」
下江コハルさんは照れ照れ、でも胸を張る。イヴちゃんも嬉しそう。
「ま、まあ、私みたいなエリートと勉強して、タメになる事は多いと思うけどね!」
賑やかな一同を見て、部長としてというか、姉的、いや先輩的な感じかな。嬉しそうな阿慈谷ヒフミさん。
「アズサちゃん……表情も読み取りづらいくらいだったのに、良かった……」
「もちろんヒフミもだ。いつもありがとう」
ぷるぷると震える阿慈谷ヒフミさん。あ、がばっと抱きついた。
「あ、アズサちゃんっ!!うわーん!!!」
ひ、ヒフアズや~~~!!!!やった~~~~~!!!!!
イヴちゃんに異臭で怒られました。
色々な話題に花が咲いた。
水族館にゴールドマグロが来ているという話題で食いつくイヴちゃん。最近金ぴかブームが来てる感あるな。
「『幻の魚』だそうですね」
「見に行きたいのですけど、中々時間が取れなくて……」
「海、か。そういえば一度も行ったことがないな」
「そ、そうなんですか?!1回も……?!」
(海、行きたいね~)
(……うん、川とか、プールでも良いけど……)
(ふっふっふ、最適なソリューションがあるよ。全部行こう!)
(……なるほど、賢い……)
珍しく賢い寄生虫。
薄暗い体育館の中、当然オバケの話にもなろうというもので。誰言うとでもなく怪談が始まった。大半は学園の七不思議がどうのとか、正直たわいないものなんだけど、イヴちゃん的にはてんでダメだったみたいだ。
都市伝説の話から、スランピアの話になっている。
「とっくに潰れてるアミューズメント施設なのに、夜になると騒がしく、楽しげな音が聞こえてくるそうで……」
「そ、そんなわけ無いし!聞き間違えだし!」
と言いつつ、イヴちゃんに身を寄せようとして、口から魂が出たみたいな状態になってるのに気付いて、「ちょっと!」って感じで二の腕をつつく下江コハルさん。
イヴちゃんはちゃんと僕に一声掛けてからだけど、とっくに身体の主導権を放棄して引きこもってるので、口から魂が出てるんじゃなくて魂は脳内奥なんだけども、傍目からでは当然わからない。
「絶対嘘!嘘だし!全部誰かの悪ふざけか、不法占拠と盗電してるだけだし!今度ハスミ先輩と捜査してやるんだから!」
ムキになって反論してるけど、ぷるぷる震えてるし、頼れる先輩の名前を多分無意識にだろうけど出してる下江コハルさん可愛いね。
けど、スランピアってすげー興味深いよな。こうやって生徒の恐怖を吸い上げて元気○的なパワーを集めてるんだろうか?それとも金○白面の者な感じで、「恐怖した生徒の力がそのままスランピアの力になる」のか?後者ならヤバ過ぎだから違うと思いたいが。
当然、肝試しに行く生徒もいるだろうし、そういう生徒は実話怪談の文脈で言えば行方不明になったり、或いは祟られるって感じになるんだろうか。
いや、噂では経営不振で潰れてるだけであって、死傷者が出た訳じゃ無いから、そういう意味での祟り、或いはTATARIはないか。生気というか、神秘を吸われる、みたいなのは起こり得るか?
イヴちゃんは絶対行きたがらないだろうし、1人で行くのは普通にヤバ過ぎなんだけど、特異現象捜査部に振れないかな。オバケはほんとダメだもんなあ。
「イヴちゃんも、何か、とっておきがあるのでは?」
優しい笑顔で、浦和ハナコさんが僕に話を振った。怪談を喋りたくてうずうずしていたのが見抜かれたらしい。
駄目だ……まだ喋るな……。いや、しかし……。こないだ、特異現象捜査部で怪談べらべら喋ってイヴちゃんにめっちゃ怒られたもんな~。
即オチ2コマ。
気がついたら僕は怪談を熱演していた。1話目はよくある女子高生と学園的な怪談を、ジャンプスケア的手法*1をふんだんに使って、協力してくれそうな空気めっちゃ出してた先生に的をかけてやらせてもらった。
「あらあら、意外な趣味ですね」
「ま、まあ、話自体はベタだったけど?全然怖くなかったし!」
「あ、あはは……。でも、凄く熱意が伝わってきました」
白洲アズサさんは目を輝かせて僕を見ている。僕に散々脅かされた先生はニコニコ笑顔だ。
や、やっちまった~~~!!!!オバケ大好き御蔵イヴ爆誕しちゃった~~~~!!!!
やっちゃったもんはしょうがない。僕は本命、とっておきの話をすることにした。
廃墟好きの正義実現委員会のあるスナイパーが相棒と2人、廃遊園地にパトロールを口実に遊びに行った時の話。まだ、遊具類が撤去されていなかったその遊園地で、ミラーハウス*2に踏み入った2人ははぐれてしまった。
とはいえ、所詮は小さい迷路。慌てず脱出した彼女は相棒を待ちながら、見事な夕焼けと、影絵のように浮かび上がる大観覧車を眺めていた。
やっと追いついてきた相棒が、同じく観覧車に目をやって、てっぺん近くにあるゴンドラを指さし、『あれ、動いてない?』と指摘した。
思わず吹き出す。電気なんて通ってないし、メンテも長いことされていないのだ。でも、確かに、小さく揺れているような。風か何かだろうと思った彼女は愛銃のスコープを覗き込んだ。そして、すぐに後悔した。
中に、裸の人間が、みっしりと、でたらめに詰め込まれている。そして、こちら側に頭があった人間が、一斉にこっちを見た。
思ったより話し方が上手いこと行ったのか、下江コハルさんは涙目で、先生に泣きつくか僕をぶつか迷っているみたいだ。
阿慈谷ヒフミさんもぶるっと身を震わせてくれた。先生もちょっと怖がってくれたみたいで嬉しい。
「そういうお話、お好きなんですね。イヴちゃんはよくお祈りに行ってるそうですし、今度、怪談が好きなシスターに紹介しますね♥」
僕的にはめっちゃ嬉しいけど、これもイヴちゃんに怒られるな~。
白洲アズサさんの目線に話芸への尊敬が含まれてきた気がした。イヴちゃんに求められたらどうしよう。
話が無事水着に戻り、イヴちゃんも引きこもっていた脳内から戻ってきて、案の定、しっかりお叱りを受けてしまいました。
(いやほんまごめん。でもさあ、何かこう……半端にヌルい話をされると『ヌルい!!点て直せ!!』って感じで、おたくの血が騒いじゃって……)
まあ正直、1話目を話してる途中に思いついたくらいの言い訳なんだけど。
(オバケ、マジで危ない案件になる可能性があるんだよ。先生が引きつけられて事故があっても不味いし、早めに拾っておくのは大事かなって)
(……オバケの話されたら、全部ジルに振るから……。あと、オバケが実在するなら、絶対に現場はジルにやってもらうからね……)
はい。反省しております。追加で僕の手料理1品で手を打ってもらった。
反省している間に、水着から例の犯罪組織の話に話題が転換していた。
「シスター達から聞いた話ですけど、キヴォトスのどこかの無法地帯では、水着姿で覆面を被っている犯罪集団があるそうですよ」
「……覆面、水着団……?」
「ふふ、流石、自警団も掴んでましたか」
「み、水着に、覆面……?!ド変態じゃん?!見た目からもう、何もしてなくても『犯罪者集団』じゃない!!」
目を見合わせて苦笑いする先生、阿慈谷ヒフミさん。
「そういう集団があるくらいには普遍的な服装という事なのかなと。ですから、コハルちゃんも今度一緒に」
「しないし!!!!」
白洲アズサさんが、旧校舎に仕掛けた罠と警報の配置を改めて説明した。
首を傾げる下江コハルさん。
「トリニティの、それも学園の敷地内でこんなに仕掛ける必要ある?」
「私は、あると思う。爆薬類が使えなくなったから、警報中心に切替えたし、今日から夜の見張りは止めるが……」
「……見張りも、してくれてたのですね……」
「"みんなのためにやってくれてたんだよね。ありがとう。でも、皆心配するから、睡眠は大事だよ"」
頷く一同、小さくうつむく白洲アズサさん。
「うん。ありがとう、先生、みんな。だが、この世界は、全てが無意味で、虚しいものだ」
(……あ、前、アズサさんが言ってた、
どっかの特殊OSじゃないんだから。いや惜しい、か?惜しくはない。
(『Vanitas vanitatum, et omnia vanitas.何という空しさ、何という空しさ、全ては空しい。』色即是空、空即是色*3にもちょっと似てるというか。物質は仮のものであって、儚いってことだね)
ふぅん、って感じのイヴちゃん。まあこんなん判らんよな。僕も知ってるだけで理解だの共感だのは出来てないし。
「私はいつか、裏切ってしまうかも。皆の事を。信頼を、心を」
白洲アズサさんの重苦しい吐息と共に吐き出すような言葉は、皆を考え込ませた。
直後、電気が復旧した。雨も上がってるらしい。
「今回はこれでお開きですね。さ、洗濯をしましょう。楽しかったですね♥」
「そうだな。2回目も楽しみにしている」
頷くイヴちゃん。
「いや、2回目とか無いから?!こんなの最初で最後だし!」
猫目で真っ赤な下江コハルさんがぷりぷり怒っている。可愛い。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
凹んで愚痴を前話後書きで書いてしまいましたが、高評価入れてくださる方が沢山おられてとても嬉しいです。10評価も光栄です。
今回の怪談は作者オリジナルです。
女子高生か遊園地のお気に入り実話怪談を紹介したかったのですが、引用の範囲だと話の良さを生かし切る自信が無く……。