ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
こほん、と咳払いをしてパフェの残りを爆速で平らげ、補習授業部全員と先生を隣の席に迎えた羽川ハスミさんが、微妙に引っかかるって顔をしている。
「先生とイヴさんはわかりますが、補習授業部の皆さんは夜間外出禁止だったのでは……」
「"私が無理を言って皆を連れてきたんだ"」
「そういうハスミさんも、ダイエット中と伺いましたが」
困ったように笑う先生の発言を継ぐように、くすりと笑う浦和ハナコさんに、思い切り眉をひそめて青い顔をしてから、頭を振って切替えたらしく、小さく苦笑いする羽川ハスミさん。
「お互い、見なかったことにしましょう。それで、コハル」
「ひゃ、はい!!」
「勉強、頑張ってますか?」
「コハルちゃんは凄く頑張ってます!躓いていたところを遡って真面目に勉強してますから、きっと得点も大きく上がると思います!」
阿慈谷ヒフミさんの言葉に頷くイヴちゃんはじめ補習授業部一同と先生。
「そうですか。ありがとうございます。コハル、補習授業部が始まる前に伝えたことを覚えていますか?」
慈母のような優しい笑みを浮かべる羽川ハスミさんに、真っ赤になりながらこくこく頷く下江コハルさん。
「はっ、はい!!『一緒に正義を実現するために、きちんと勉強を、やるべきことを』って意味の事を仰ってました!!」
あー、あんときそういう話してたんだ。全然普通だったな……。勉強そのものの話しかしてなかったって事か。
この様子だと、正義実現委員会は補習授業部の内偵はしてない感じって事で良さそうだな。下江コハルさんは隠し事苦手そうだし。まあ、日常の報告的な感じでメッセージ送る程度はしてても別におかしくはないが。
いや、そうなると、桐藤ナギサさんは阿慈谷ヒフミさんの黒い噂については正義実現委員会に下ろしてない感じなのか。情によるものなのか、ティーパーティーの特に内情に詳しいだろう人の不祥事だからって線もあるけど。
「先生、ヒフミさん、イヴさん、補習授業部の皆さん。改めて、コハルのことをよろしくお願いします。コハルは、正義実現委員会の未来を背負う、真面目で熱心で、とても優秀な子ですから」
深々と頭を下げる羽川ハスミさんに、あわあわしながら駆け寄る下江コハルさん。
先生も皆も頷く。
「"大丈夫、任せて。きっと皆、合格できるから"」
先生がどんと胸を叩く。先生のテスト範囲向け教材もちょっとずつ使ってるけど、やっぱり判りやすくて頼りになるんだよな。流石本職って感じ。
皆のパフェが届いて食べ始めるのと入れ替わりで紅茶を飲み終えた羽川ハスミさんが立ち上がる。イヴちゃんはとんかつパフェだ。甘味としょっぱさが良いバランスで、意外なほど美味しい。
「それでは、皆さん、お先――」
固まった羽川ハスミさんの目線の先を見ると、見覚えのあるゲヘナ生4人組と、簀巻きにされ猿ぐつわを噛まされ米俵めいて抱えられているもう1人、愛清フウカさん。
あっ、美食研究会だ。会計のために立ち上がったところっぽい。
向こうもこっちに、というかイヴちゃんに気付いたみたいだ。人なつっこい笑顔を浮かべて歩み寄ってくる美食研究会の一同。君達テロリストだよね?って思ったけど、死人が出てないテロリストって『かなりやんちゃな問題児』くらいの扱いらしく、彼女らも天真爛漫さ一杯だ。やべーよキヴォトス。人死には出てないけど店とか吹っ飛んでるじゃん。
「あっ、イヴ!先生も!」
「やっほー!」
こっちに向かって小さく手を上げる赤司ジュンコさんと、ぶんぶん手を振る獅子堂イズミさん。
「あら、イヴ、先生。と、トリニティの皆様?皆様も限定パフェを食べに来られたのでしょうか?」
テロリストであること以外は概ね完璧女、黒舘ハルナさんの問いに、イヴちゃんはふるふると首を横に振った。
「……売り切れ、でした……」
「あら、じゃあ私達が最後だったのですね。ごめんなさい」
これに関しては別に美食研究会のせいではないんだけど、小さく頭を下げる鰐渕アカリさん。
「先生もイヴも、ホヤ&デスソースパフェ*1、美味しかったから食べてね!」
「揚げ物とパフェの取り合わせはたまに見かけるものの、マグロはチャレンジだなと興味を惹かれたのですが、丁寧な仕事のお陰で臭みもなく、良いお店でした。また来たいですね」
美食研究会的にも合格のお店らしい。それ自体は良いんだけども。
「"ハルナ達は、パフェ食べに来たの?あと、フウカはどうしたの?"」
小声でイヴちゃんに耳打ちしつつ、スマフォで各所に連絡を飛ばしているらしき羽川ハスミさんに、首を傾げつつも同じく小声で答えるイヴちゃん。
「あの、彼女達とどういったご関係ですか?」
「……逮捕して護送した時に、仲良くなった……?というか……」
どことなく弛緩した雰囲気が黒舘ハルナさんの一言で吹き飛んだ。
「ゴールドマグロを頂きに来ました。あの美味を、見世物として終わらせるなんて許せませんから。フウカさんは、目的を説明したら喜んで同行してくださいました」
「ムグーッ!」
抗議するように身体をよじる愛清フウカさん。一瞬呆然とするトリニティ側の面々。
「……駄目……」
その中で一番早く反応し、がたんと椅子を揺らして立ち上がったイヴちゃんに皆の視線が集中する。
「もちろん、自警団としてはそう言いますわよね」
イヴちゃん的には、自警団だからってだけでも無さそうなんだけども。
「自警団に加えて正義実現委員会の方と遭遇してしまうなんて、今回は少し運が悪いようですね~」
「って言っても、腹ごなしはしないといけないし」
「『腹が減らないと戦はできぬ』って言うもんね!」
「逆かもですね~」
やる気満々で得物を構える美食研究会一同に、眉を寄せた羽川ハスミさんが答える。
「少しだけ、待ってもらえませんか?」
「増援を待つつもりですか?私達に何のメリットがあると?」
目を細める黒舘ハルナさんに、イヴちゃんが答える。
「……さっき、水族館を見てきたところです……。水族館内の図を見て、水族館のどこにマグロがいたか、教えます……」
「それに、美食研究会として、自分達が原因で美味しいスイーツが残されるのは不本意ではないですか?」
阿慈谷ヒフミさんが援護射撃の言葉を発する。その言葉というより、声に驚いた様子の黒舘ハルナさん。
「あら、その声……以前、ゲヘナの利きチョコ大会でご一緒しませんでした?」
「人違いじゃないですか?!」
阿慈谷ヒフミさんは平静を装っているけど、背中に回した両手が固く握りしめられている。出てたんやろうなあ。
「なんだっけ?」
「優勝賞品がピーピング・トムの最高級チョコの時のですね~」
「ああ、あの闇大会の。すっごくお金飛び交ってたよね」
「"お金賭けてたの?"」
ジト目の先生に手を振る黒舘ハルナさん。
「私達、利きチョコ選手側は賭けてませんわよ?」
「あの時の唐辛子チョコ、美味しかったなー」
確かゲヘナでもトリニティでもギャンブル自体は違法では無いはずだけども。カジノとかは、上流層の社交場っていう一面もあるらしいしね。
ただまあ、わざわざヤミでやるってことは、何やかしの後ろ暗いところがあるんだろうな。パッと思いつくところで主催側の脱税とか、景品が何かヤバいものだったりするんだろうか。
準優勝の商品が等身大ペロロチョコだったとか、黒舘ハルナさんと決勝を争った覆面プレイヤーが『
「皆さん、申し訳ありませんが、私達を手伝って下さいませんか?トリニティとゲヘナが微妙な時期、シャーレの主導で事態を未然に防げたという方が波風が立ちません」
あうう……と呻き声を上げた阿慈谷ヒフミさんは、羽川ハスミさん、補習授業部の皆、そして先生を見てから、要請を飲むことにしたようだ。どっちみち、外出禁止なのに黙って出てきてるっていう負い目もあるし、シャーレと正義実現委員会の要請があって、ってストーリーに乗っかった方が良いと判断したのだろう。
あっ、と気付いたらしい赤司ジュンコさんが先生にねだるように言う。
「それなら、先生、私達を手伝ってよ!」
「"ごめんね、ジュンコ。どっちもは手伝えないから……"」
「先生を見た瞬間に、こちらへの助力を頼むべきでしたね。構いません。どちらにせよ、表は封鎖されているようですし」
小さく肩をすくめた黒舘ハルナさんが近い席に座り直した。
「待ってあげるんだ?」
「ええ。ここのパフェにはその価値があります」
「"じゃあ、お茶くらいはご馳走するよ"」
「やったあ!」
「では、ありがたくいただきましょう」
「私、アイスコーヒーに納豆トッピング!」
「ふふ、お言葉に甘えて~」
「……フウカさんの、猿轡は取っていい……?」
答えを待たずに、布製の猿轡の結び目を解こうとしたけど、面倒になったのか布地をえいやと引きちぎるイヴちゃん。えぐめの音がしてギョッとしたらしき一同。
深呼吸する愛清フウカさん。
「ありがとう、イヴ。できたらほどいて欲しいけど。先生、皆さん、こんばんは」
「……お茶を飲み終えたら、すぐ縛られませんか……?」
イヴちゃんの推論に、うんうんと満面の笑顔で頷く美食研究会に、がっくりと首を垂れる愛清フウカさん。悲しい。
ドンパチ賑やかになる前にお茶を一緒にするという不思議な時間。やっとお互いに自己紹介をしてから、補習授業部の面々は残ったパフェを掻き込むとまでは言わないけど急ぎ目に食べている。
シャーベットだけを頼んでいた先生は早々に食べ終えていたので、愛清フウカさんにお茶を飲ませてあげており、鰐渕アカリさんに羨ましそうな目で見られている。ちょっと得意げにも見える愛清フウカさん可愛い。
お店の外、路地や向かいの建物に徐々に正義実現委員会の子達の姿が増えていくのが見える。美食研究会側も気付いているみたいだけど、余裕で紅茶を楽しんでいる。やべえ上に激つよな連中ならではの余裕が漂っているな。
最後まで食べてた下江コハルさんが小さくふーふーしてホット紅茶を飲み切ると、補習授業部全員が食べ終わった格好になった。
「……ゴールドマグロを諦めるなら、まだ、未遂ですが……」
「美食研究会は『Eat or Die』を看板にしております。戦いもせず引くなんて。それに、今日はあの大声の自警団の星の方もいないようですし」
イヴちゃんも特に説得に期待はしていなかったようで、小さく溜息をついた。説得技能があっても無理そうだし、これはしょうがない。
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