ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
全身の薄い神秘の防御を盾の前面に集中し、角度をつけて逸らすイメージ。上手くいかない。筋力で強引に角度をつけて逸らす。成功した。
壁に比喩ではなくプロジェクションマッピングを更にリアルにしたみたいな真っ赤な花が咲き慄然とする。
上空、ビルの隙間にそれ、もとい彼女はいた。狐面に流れる美しい黒髪、夜の冬景色をあしらった柄の和服っぽい服に九九式短小銃。放り投げて弄ぶ銃剣に月光が反射し美しくも禍々しい絵画のようだ。
狐坂ワカモさんやん……やべ〜やつ。娑婆にまだおったのか。
仮面越しに禍々しい笑みが向けられた気がする。
「あら、今のを凌ぐなんて。私の準備した狩り場を荒らした罪、死で償ってもらいます」
黒い気配、凄まじい圧。上空から撃たれる弾が重いが、さっきの花が咲く一撃は飛んでこない。確か7発目がEXスキル発動条件だったはずだが、さっきのは一撃目で発動していた。
恐らく弾に乗った神秘の蓄積量で発動……だろう。多分。普通なら弾いたり逸らしたりしているから6発以上必要になると思うが、ゲームと違って任意で神秘量を籠められる(推測)となるともっと早いかもしれない。
長期戦は間違いなくこっちに不利だ。僕はまず相手の手を止めるために狐坂ワカモさんの足下のビルに
舌打ちしながら隣のビルに飛び移り際に一発撃ち込まれ、盾の上に花が咲いた。獰猛で悪辣な笑みを浮かべられた――といっても仮面でわからないが――気がする。
10秒以内にケリをつけないと不味いが、もう早期決戦の決心は固めてある。僕は安全装置解除のキーワード「アンチアイス、オフ」を呟いて切り札の装備を発動させた。
狐坂ワカモさんが飛び移った先の対角線のビル角の出っ張りに足を引っ掛け、大きくジャンプ。
もちろん、このままでは届かない。ひゅおお、という空気を吸い込む小さな音が消え、機械の翼の上から2段目左右に装備したロケットブースタ――アサルトブーストと呼ぶことにしている――が爆発的な推力を生み出した。
この間合いの詰め方は完全に意識の外だっただろう。狐坂ワカモさんが動揺した気配を見せた隙に、盾ごと体当たりするが銃剣を先にして受けられた。
銃剣の先端が盾に突き刺さり、僕は驚愕した。ブースタの噴射が止まる。爆発まで後3秒ってところか。下手するとこのまま小さい銃剣に馬鹿でかいこの盾が貫かれた上に爆発ダメージを負いかねない。
咄嗟に左腕を通して盾に力を流して籠めるイメージ、イメージして盾を捻る。
ぴいいん、と澄んだ音を立てて銃剣がへし折れた。
「くっ?!」
「できた……!」
盾を抜く目が消えた途端、身を翻しそうになる狐坂ワカモさんに盾を叩き付けるように再度体当たりする。
「へへっ、嫌わないでくださいよ。一緒にいきましょう?」
「くっ……離れなさい!」
花びらが消えた。自爆を嫌ったのか、任意で発動を止められるらしい。左腕の盾で殴りつけるが折れた銃剣と銃身で捌かれる。
右腰のクラリオンを掴んで連射するが散弾全部直撃とは行かず最低限の被弾で凌がれる。やはりとんでもなく強い。だが、この間合いならこちらが有利だ。
向こうの銃弾はもう空で、盾を捌くのに銃を使っている都合上、今、弾を籠めることはできない。
仕込みの爆薬類や目潰しと予備の刃物に気をつける必要はあるが、このほぼゼロ距離の間合いなら、でかい盾を振り回しながら白兵もできる僕の方が相性的に圧倒的有利なのだ。盾が弾かれて左半身が戻るのを活かして、全体重をかけた一撃必倒の気概、右足ハイキックをこめかみめがけ叩き込む。
小さいけども焦りが見える。射撃戦ではなくて格闘を選んだのは正しかったみたいだな。
「っっ!!足癖が!悪い!」
「育ちが悪いもので!」
ハイキックは捌かれてしまったが、足を捕まれないように盾の重量を使って身体を戻し、左の盾突きぶん回しと左足前蹴り、右クラリオン撃ちと右足の蹴りで主導権を取らせない。
現状は皮肉られた通りの足癖の悪さも発揮できて圧倒的に有利だが、あくまでインファイトの間合いだから有利なだけ。
距離を取られると、僕もさっきよりは神秘を乗せられるだろうが勝てる確証は全く無くなる。
ブースタは基本使い切りでもう帰って燃料を補充するまでは死重量だし、まだモビーディックワイヤーは使ってないが、さっきブースタを見せたからにはもう同じような、しかも速度が遅い手は使えないだろう。ワイヤを切られたらそれまでだ。
下がろうとし続ける狐坂ワカモさんのたもとから何かが落ちる。爆薬か閃光弾か煙幕かわからないが使わせない。
クラリオンを足下にぶっ放し、落ちた物を弾き飛ばさせつつ、右手を銃から離して下突きアッパー。
のけぞり気味に躱した仮面に拳が引っかかり仮面を弾き飛ばした。怒りと激しい動きで紅潮した綺麗な顔が露わになる。弾き飛ばした落下物は煙幕弾だったらしく、白煙がこちらに流れてくる。
絶対に逃がさな、あ?のけぞった狐坂ワカモさんがそのまま崩れ落ち――いや、落下した。ウッドペッカーを撃ち込めるだけ撃ち込んだ。空中で折れた銃剣をビルに叩き付け落下角度を変え避けられる。
かなり命中したがまだ仕留め切れてない。降りて追うか?いや、そもそもの目的は杏山カズサさんの救援であって狐坂ワカモさんを捕まえることではない。
それに僕の耳は頼もしい友人と見知らぬ誰かがこっちに向かっているのを――。
「自警団のスーパースター、宇沢レイサ!!参上です!!!!!!」
耳痛え!!!咄嗟に目を逸らして感覚遮断したのが幸いした。閃光弾の光と音らしきものが狐坂ワカモさんの落ちた方からした。守月スズミさんも来ているらしい。
あの2人がいるならまず間違いないだろう。最悪逃げられても別に問題は無い。無いよね?
僕はそこだけちょっとだけ不安になりながら逆方向のビルに飛び移った。
間に合った~~!!逃走を優先していたのか追跡者はほとんど減っておらず、8人ほどのヘルメット団員に囲まれ袋だたきにされそうになっている杏山カズサさん。
目は死んでないが弾も残って無さそうだ。ウッドペッカーなら届かなくは無いが、あと2秒欲しい。
距離を詰めるべく更にもう一つ先のビルにジャンプした矢先、杏山カズサさんの前に誰かが両手を広げ飛び出した。
「どんな事情があるかわかりませんが、寄ってたかって一人を撃ちのめして恥ずかしくないのですか?!」
涙目で足も震えているが凜々しい姿、黒髪ロングのトリニティ制服。栗村アイリさん。これは確かに杏山カズサさんも一発で落ちるだろうな。とにかくどうしても欲しい2秒がもらえた。
屋上からウッドペッカーちゃんを発砲、囲んでいる連中を火線で絡め取った。
倒れた連中に親指錠をかけるためにビルから飛び降りた。10m以上は優にあるが、ウケミすら使う必要が無さそう――とはいえ怖いので一応ウケミは使う――なのに自分とイヴちゃんの成長を感じて嬉しくなる。
「あっ、あの!助けてくださってありがとうございます!」
「……っチッ。助かった、2人とも」
子犬のように嬉しそうな栗村アイリさんと怪我をして人間不信になっている野良猫のような杏山カズサさん。駆け寄ってくる友人の足音が――。
「あっ!!!杏山カズサ!!!!!勝負でイヴさん?!!?!?!?!」
再度のすげー大声。耳が痺れた。
その声を聞いて再度舌打ちし身を翻す杏山カズサさん。
「ちっ」
「あっ、待って!」
暗がりに姿を消す杏山カズサさんとそれを追いかける栗村アイリさん。
僕の目の前で立ち止まり、固まってぐるぐる目の宇沢レイサさん。
簀巻きを通り越してとんでもない拘束になった多分狐坂ワカモさんを米俵めいて抱いて追いついてきた守月スズミさん。今宵は月も近い。
獣狩りは終わったと思いたいが、まだ後始末がある。長い夜になるだろう。疲れた。
ワカモは私の解釈では強すぎるので攻略手段を考えると間合いを詰めて銃を撃たせないに尽きるかなと……。近接戦闘も勿論全然できるし、刃物持ってるのも殺意高くていいですよね。(相対したくはない)
狐らしく扇動も得意なのでしょうが。荒事関係に高スペック過ぎる。
『撃ちのめし』は誤字で無いです。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.19