ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
今日は薄曇り。イヴちゃんは健康優良睡眠でちょっと朝が弱いので、下江コハルさんよりは起きるのが早いけど、他の皆よりは遅い。
別に2年の皆も先輩より早起きしなきゃみたいな事は言わないから有難いけど、洗面所やシャワーは順番待ちが発生しちゃうのはここの悪いところかな。まあ、設備使えるようにしておくと掃除も大変になるし、いうて10分刻みくらいで交代できるからそんなに困らんけど。と思いながら、まだ寝てるイヴちゃんの代わりにシャワーを待っているジルです。
「あら、おはようございます」
「おはようございます」
シャワーを使っていたのは浦和ハナコさんだった。今日も丈の長いワイシャツというかブラウスをラフに羽織って、下は何も履いてな……履いてるよね??
「ふふ、大丈夫ですよ。下着は履いてます」
下着以外も履いて、って僕の視線は軽く流して、ご機嫌そうに歩き去って行く浦和ハナコさんと入れ替わりに僕もシャワーを浴びることにした。
おねむだったイヴちゃんが起きたのはご飯の支度中。今日はちょっと眠たげな下江コハルさんも配膳を手伝ってくれている。
トーストをトースタで焼きつつ、ベーコンを焼きつつその脂を使い卵を焼いてる最中で、イヴちゃんと交代。ちょっとおっかなびっくりではあるけど、無事に卵を割って焼けて大満足。むふ、と内心ドヤ顔のイヴちゃんが可愛い過ぎる。まだ食べてないけど。
レトルトではあるけど、トマトスープにベイクド・ビーンズを入れて良い匂いのスープも温まって良い匂いが広々とした食堂を満たしてきた。
ぴろぴろん、とイヴちゃんのスマフォの通知音がする。宇沢レイサさんと、羽川ハスミさんからメッセージ。緊急という言葉はなく、ちらっと見たイヴちゃんはご飯前なので後にしようと判断したみたいだ。
浦和ハナコさんと白洲アズサさんは勉強中なので、そろそろ呼ぼうかなと思っていた頃、ちょっと慌てた様子の先生と阿慈谷ヒフミさんがどたどたと降りてきた。
「おはよう」
「……おはよう、ございます……」
「"コハル、イヴ、おはよう"」
「おはようございます!えっと、その……」
うん?回りの目を恐れるように、一瞬キョロキョロと辺りを見渡す阿慈谷ヒフミさんを先生が制止する。
「"もうご飯作ってくれたみたいだから、後にしよう。コハル、イヴ、ありがとう"」
「わ、私は別に……」
「……今日の目玉焼きは、自信作です……」
照れてわたわたしつつ、イヴちゃんが淹れる紅茶の配膳を手伝ってくれている下江コハルさんと、お茶を淹れながら胸を張るイヴちゃん。可愛い。
直後に降りてきた浦和ハナコさんと白洲アズサさんを含めて朝ご飯に舌鼓を打ち、片付けをイヴちゃんが引き受けた。
阿慈谷ヒフミさんが回りをきょろきょろと見渡しつつ手伝ってくれている。けれども、何だか凄くそわそわしている感じ。
全員階段を上がったので誰もいないのはわかりきってるはずなのに、再度、回りを見て誰もいないことを確認してから、小声で囁く阿慈谷ヒフミさん。
「イヴちゃん、今日の掲示板は見ましたか?」
トリニティで『掲示板』というと、学園運営に関する通知が張られる掲示板の事だ。高等部は第1校舎前にある。当然、一々見に行けないので、事務局の人が毎日写真を撮ってアップするというアナログなんだかデジタルなんだかわからん手法で、各種SNSにアップされている。*1
補習授業部に関する告知も当然掲示板に載っており、部発足後は、阿慈谷ヒフミさんか監督官のイヴちゃんが特に当番を決めずに見て、新しい内容があれば知らせるようにというふんわりした形の運用だった。今日はまだ見てない。
イヴちゃんが首を横に振って、食器を乾燥ラックに放り込んだ。
「片付けの続きはするので、今、見てください」
ろくな話じゃなさそうだな~。
スマフォで1時間ほど前の通知を見たイヴちゃんが凍り付いた。
『試験範囲を既存の範囲から約3倍にする』
『合格点ラインは60点以上から90点以上へ変更』
『試験開始日は明日0時00分に変更』(つまりあと24時間ない)
『会場はゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃墟の1階』
ウ……ウソやろ……こ、こんなことが許されていいのか……?!90点ってなると、浦和ハナコさん(とイヴちゃん)しか安全圏の点数取れる子がそもそもいない。
(……じ、ジル……どうしよ……?)
(あわわあわわまだあわわわわわてる時間じゃ無いよイヴちゃん)
何言ってんだ僕、やばい。イヴちゃんも完全に麻痺してしまったみたいで、半分反射的にモモトークの未読通知をタップ。
宇沢レイサさんから『今日の19時頃、調整してもらってパトロール枠を空けました。早めに晩ご飯を食べて皆さんと来てください。正義実現委員会駐車場で待ってます』可愛らしい星擬人化キャラクタの笑顔のスタンプ付。
羽川ハスミさんから『依頼されていた件、宇沢レイサさんに伝言済みです。私からは何も回答や案内できません。直接聞いてください。必ず直接です。メッセージや電話は使わないでください』というメッセージ。スタンプも何も無い素っ気なさが、普段のスイーツなどのやり取りをしてるときと全然違い、何だか印象がぐっと違う。
イヴちゃんは両方に芋と麦と米が瓶に入ってるスタンプを送る。*2
(依頼の件って多分クルマだね)
(……ああ。ゲヘナに、行けるね……。でも……ハスミさん、何だか……怒ってる……?)
(補習授業部の通知を見たのかもね。それと、『直接』って強調してるのが何だか気になるというか)
ううん、というイヴちゃんの迷いに迷った返事。頼りなさげな立ち姿の阿慈谷ヒフミさんは、片付けを続けつつ、ちらちらこっちを見ている。
まずはすぐにでも対策を考えないと、って事で意見は一致したけど、イヴちゃんも、おずおずとこっちを見た阿慈谷ヒフミさんも途方にくれるばかりで何もアイデアが出てこなくて、心配した先生が呼びに来た。
阿慈谷ヒフミさんもイヴちゃんもとぼとぼとした歩みになってしまう移動中、何とか先生に伝えて、渋い顔になった先生と3人で教室に入る。
机を寄せて白洲アズサさんと下江コハルさんに教えていた浦和ハナコさんが顔を見上げて、眉をひそめた。
「何か、ありました?」
一瞬だけ、先生は阿慈谷ヒフミさんとイヴちゃんに視線を向ける。阿慈谷ヒフミさんはうなだれたように頷く。イヴちゃんも小さく頷いた。
「"さっき、ティーパーティーから補習授業部試験について発表があったんだ"」
先生は隠し立てしてもしょうがないと判断したみたいだ。まあ、キヴォトス全域に公開されてるしな、これ。
いやちょっと待って。これキヴォトス全域に公開してる通知でふつーにやってるんだな。こんな暴挙さらっと出しても別に問題にならないのか。って思ったけど、そもそも試験失敗したら退学っていう前提が暴挙なだけで、試験範囲がどうこうなっても本当は『ただちに影響はない』なのか……。
オツヤ・リチュアルめいて静まり返る補習授業部の教室。白洲アズサさん、下江コハルさんは事情がわかってない分、単に「そんな面倒激増ある?」って顔をしているだけだが。
勇気を振り絞って声を最初に出したのはイヴちゃんだった。
「……とにかく、時間が惜しい……勉強、しましょう……」
苦い顔をしながら頷く阿慈谷ヒフミさん、浦和ハナコさん。
「そうですね」
「現地への行き方は、お任せして大丈夫ですか?」
「"最悪、シャーレからヘリを出すけど"」
この旧校舎の屋上にも一応ヘリポートがあったはず。
「さっき調べましたけど、ゲヘナの最寄り駅からタクシーを使うにしても、結構時間がかかりますから……」
「……車は、一応準備できている、はずです。けど、念のため、お願いします……」
「"わかった。午後には来てもらうようにお願いするね"」
「あっ!私!私、この間ヘリ操縦の免許取った!!」
めっちゃ嬉しそうにハイハイハイ!!って感じで手を挙げる下江コハルさん。訓練めっちゃ出てると思ったらそんなこともしてたんだ。頑張ってたのは間違いないんだな。
一瞬、ほっこりする一同と、これ以上無いドヤ顔をする下江コハルさん。
足の準備の話が終わり、小さく「仕方ないか」と呟いて勉強を再開する白洲アズサさんと、さっきのテンションが嘘のように渋々という感じでノートに目を落とす下江コハルさん。
「それにしても、露骨なやり方ですね。模試の結果を知ったのでしょうか。よほど私達を退学にしたいのでしょう」
場を盛り上げる空元気のつもりか、本人も結構動揺しているのか、浦和ハナコさんがわざとらしいくらい明るい大声で言う。さっきまでと同じような、でも違う、貼り付けたような笑顔。
びくり、と驚いた下江コハルさんが顔を上げる。すがりつくような目で、イヴちゃん、先生、阿慈谷ヒフミさん、白洲アズサさんの順番で目線を向け、震える。
「どういうこと……?退学って、なに……?」
一瞬無表情になった浦和ハナコさんが、貼り付けたような笑顔をし直す。
「このお話、そろそろお伝えしようと思ってました」
「"私から説明するよ"」
先生が1から事情を説明してくれた。
「試験に3回落ちたら、退学……?」
「なるほど」
「……言わなかったこと、ごめんなさい……」
「まさか、こんなことになるなんて思わなくて……」
どうしよう、どうしようとパニックになる下江コハルさん。
「正義実現委員会に復帰できなくなっちゃう……」
おろおろする下江コハルさんと対局に、落ち着き払った白洲アズサさん。
「とにかく、やはり今は勉強するしかない。どっちにせよ、試験は今晩。車か、ヘリで行ける」
「"ヘリは非武装で装甲無しの7人乗りのが出せるみたい"」
先生が見せてくれた連邦生徒会の返信メッセージについた写真のヘリはUH-1っぽいやつ。装甲無しってのが
メッセージには『連邦生徒会の備品と兼務のため、他のヘリはスケジュールが埋まっていて申し訳ない』という趣旨の事が書かれている。
「無装甲のヘリでゲヘナの治安が悪い地域を飛ぶのは怖いですね」
「車が前提、最悪ヘリで手前まで行って徒歩かな」
「"ヘリは自動操縦に対応してるみたいだから、全員降りてヘリだけ帰せるみたい"」
ネットの地図アプリ曰く、ゲヘナの中でも比較的トリニティ寄りの位置ではあって、ヘリなら準備含めて30分かそこら、車なら2時間ちょっとってところらしい。
ううう、と呻き声を出しながら真っ青になって震える下江コハルさん。自信なさげな表情を一瞬だけした阿慈谷ヒフミさんが、もごもごと口の中で何か言ってから、あえて明るい声を努めて出しているのがありありわかる声色で、皆に向けて告げる。
「とにかく、試験を受けなければ何も始まりません。夜出発するので、今日1日、夕方までは勉強しましょう!」
重苦しい空気での同意。下江コハルさんは、先生、阿慈谷ヒフミさん、イヴちゃんを睨みつけ、半分涙目ですがるような表情をしてから、唇をきっと結んでノートに向き直った。
ナギサ様(そうだ!ミレニアムのスパイ(確定)と他のスパイがいるにせよ、情報に対策される前の速度で意思決定したらいいのでは!!)(大意)
当日朝、自分で起草して自分で稟議、書類を朝一でティーパーティーの子に貼りに行かせています。
PUNKSPRINGめっちゃ良かったですね。どのバンドも素晴らしかったですが、Yellowcard最高でした。あれ、もう先週の話……!?
社畜場の都合でお引越しが発生する可能性があるので、もし発生したら更新頻度ががた落ち君してしまいます。あれば活動報告などでお伝えします。
無いにしても、現状社畜場の労役が大炎上しててかなり時間削られてるのですが……。盛り上がるところですし、アイデアは一杯あるんで頑張りたい……。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。