ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

171 / 209
『耐用年数が1年未満又は取得価額10万円未満の消耗性工具、器具、備品で使用中のものは、原則として資産には該当しません』(総務省『地方公営企業法の適用にあたって』)


むちっ♥むちっ♥って擬音がしたら補習授業部が来た合図だ んなわけねえだろ

 お昼ご飯はレトルトのガパオセットにこれまたレトルトのコンソメスープ、サラダはイヴちゃんがさらっと切ったレタスとトマト。

 お昼休みも勉強しなきゃ、と慌てふためく下江コハルさんを皆で「休憩を挟まないと却って効率が落ちる」と宥めて昼休みを取り、夕方まで勉強。

 

 お茶の時間に、無人操縦のヘリがやってきたので先生とイヴちゃんが屋上に上がって誘導。といっても無人操縦だし、特に何がどうこうって訳でも無かった。白と青の連邦生徒会カラーに塗られた機体の状態は可も無く不可も無く。シャーレ運用の前提ではないのを回してもらったようで、シャーレのマークは描かれてない。燃料は途中で空中給油してもらってるらしくほぼ満タン、無装甲非武装のヘリなので燃費良好、ゲヘナ往復+シャーレに戻るのも十二分に余裕を持って入っている。

「"うーん、危ないかな、ヘリは"」

「……あまり、お勧めはできないかなと……」

「"そっかあ……コハルに操縦任せたら喜んでくれるかなって思ったけど"」

 溜息を吐く先生。

 でかでかと連邦生徒会のマークが描かれてるから、昼間なら大丈夫なんだろうけど、夜はなあ。

 本当にヤバい地域だと、攻撃ヘリかガンシップ化した護衛のヘリ、さもなくばSEAD(防空網制圧)的な砲爆撃を事前に行ってからでないと飛ばせない地域とかがあるんだとか。キヴォトス、どないなっとんねん。

 

 ちょっと早めに切り上げて、これまた早めの晩ご飯もレトルトのビーフパイ。*1にサラダ、インスタントのパスタスープ(クラムチャウダー味)。味は気が利いてるって感じで美味しい。ただ、選んでくれた子達には悪いけど、今日の陰鬱な雰囲気をどうにか出来るほどではなかった。

 

 夜が遅くなるということで、1時間程度の仮眠の時間を取ったけど、寝室では皆寝返りを打ったり、スマフォを眺めたりとごそごそしているのが伝わってきた。気が急いてだろうけど、あんまり眠れなかったみたいだ。

 言葉少なめなまま、ゲヘナに出発する準備を整えて旧校舎の電気を消し、施錠する一同。

「ゲヘナ、初めて行きますが、こんなことでっていうのは不思議な気持ちですね」

「わ、私はこの間、正義実現委員会と風紀委員会との合同演習で行ってきたばっかだし!」「イヴちゃんも、自警団の仕事で行ったことがあるんでしたか?」

「……その前に、温泉とヒノム火山に遊びに行ったこともあります……」

「温泉、いいですね~。開いてる温泉があったら帰りに寄れませんか?」

「"帰り道に寄れそうならね。調べておくよ"」

 

 やっとちょっとだけ雰囲気が和らいだ頃に、正義実現委員会本部前の駐車場スペースに到着。

 ファン・レイン号含めてもっと奥の車庫内でメンテ中の戦車や装甲車以外は全部出払っていて寂しい状態。事前にこっちに来させておいたイヴちゃんのモンスターバイク、スケルチだけを、街灯が照らしている。

 一番端に青いビニールシートが被せられた2mくらいの高さの何かの小さい山みたいなのがあり、その上に宇沢レイサさんが座ってぼんやり星を眺めていた。

 イヴちゃんの表情が小さく緩む。

「……レイサちゃん……」

「あっ!イヴちゃん!コハルさん!先生と……その、皆さんも……」

 ああ、そうか。宇沢レイサさん、何気に補習授業部の面々と顔合わせるの初めてか。白洲アズサさんとは1回だけ顔合わせたけど、大して喋ってないしな。かなりマシになったとはいえ、人見知りはまだ克服完全には出来てないのか、それとも油断してたのか、ちょっと言葉尻が小さくなってしまった。

「うふふ。イヴちゃんの『良い方』ですよね?部長の阿慈谷ヒフミちゃんと、白洲アズサちゃんです。私は前一度お会いしましたけど、改めて。浦和ハナコと申します」

 小さく頭を下げる阿慈谷ヒフミさん、白洲アズサさん。

「は、はい!よろしくお願いします!」

 ビニールシートの山から飛び降りてペコリっと一礼する宇沢レイサさん。さりげなくなんか重めの確認があった気がする。

「えっと、では、イヴちゃん!めくってください!」

「……私……?」

「ハスミさんがイヴちゃんに準備してくださったものですから!」

 なるほど、と言いながらビニールシートの重石をどけてバサッとめくる。

 綺麗に白に塗装され、砲塔横に正義実現委員会のマークが黒で描かれているのが街灯の明かりで浮かび上がった、転輪も含めてばっちり整備されたⅡ号戦車がそこにあった。クルセイダーと比べて半分くらいなので、ちっこくて可愛いって印象だな。

 履帯には金属履帯と、その上にゴム履帯がつけられていて、こないだ見た時と違い、ちゃんと2cm砲も搭載されている。横の7.92mm機銃は搭載してないみたいで蓋がされている。

「あれ?今、正義実現委員会の車両は全部出払ってるんじゃ……それに、この戦車、見たこと無い……」

「はい!ええっと……今日、戦車の操縦はどなたがしますか?」

「あ、私が免許を持ってます」

 小さく手を挙げた阿慈谷ヒフミさんに、A4の紙を渡す宇沢レイサさん。先生も横からその紙を覗き込む。

「なになに……『エンジンはトリニティ製に交換、最大90km/h、それ以上も出せますがオーバーパワー気味なので履帯と熱に注意してください』」

「"『対戦車攻撃用の目標としてゲヘナから先日買ったスクラップを、倉庫にあった減価償却が終わっている古いエンジンと同じく余剰の20mm機銃、おまけでもらった予備部品に交換し動作するようにしました。購入費用10万円未満の消耗品のため、もし破損しても構いませんが、放棄した場合は回収し修理して本来の対戦車攻撃練習用標的として再度改造するので、座標と、可能であれば写真をお願いします。公道では走れるように登録済です』"」

 『標的用の消耗品として買ったスクラップがなんか知らんけど廃品とか要らんものに交換したら動くようになったんだよね、凄くない?』ってコト……?!タイピングされて印刷された味も素っ気も無い簡単なマニュアルの文言としては中々パンチが効いてる。

 ハスミパイセン、多分退学云々は知らんだろうけど、可愛い後輩達が長期間拘束されているのと、頭ごなしに車両のスケジュール他を抑えられてるのに結構思うところがあって頭来てるんかな……。助かる。

 宇沢レイサさんは下江コハルさんの方に近づく。

「『鍵は押収品保管室の鍵束の横にあるので、コハルさんが取りに行ってほしい。試験、頑張って』と、ハスミさんからです!私からも、頑張ってください!」

「は、ハスミ先輩が……?!」

「うふふ、そうなんですね。じゃあ、イヴちゃんとレイサちゃんはここで戦車を見ておいてください。私達の大事な大事な足ですから、何かあったら困りますし。さ、皆さん、鍵を取りに行きましょう♥」

「ちょ、引っ張らないで!行くから!」

「あはは……じゃあ、お願いします」

「手間をかけた。ありがとう、レイサ」

「"レイサ、ありがとう。また今度ね"」

 小さく宇沢レイサさんにウインクして、皆を引っ張るように正義実現委員会本部に入っていく浦和ハナコさん。

 

 賑やかになっていたのがあっという間に静まり返った。パトロールに出るらしい正義実現委員会の4人1組のグループが数組、浦和ハナコさん達と入れ替わりに忙しげに出てきただけで、通りかかる子もほとんどいない。

「そ、その……本当は、すごく心配で。今日も一緒について行きたかったんですが」

「……ありがとう。レイサちゃん……」

「今日も、急に日程が変わったと聞きましたし。本当は風紀委員会の方々に先に連絡したかったんですけど、それもハスミさんに止められてしまって」

「……記録が残るのを、警戒してる、のかな……」

「多分。さっきのマニュアルも手書きでしたし、私達もメッセージアプリでやり取りしたらいいところなのに。心配です」

 きゅっとイヴちゃんの右手を両手で握る宇沢レイサさん。

「……大丈夫。それに、レイサちゃん、自警団の仕事も、大事だよね……」

「ほ、本当は、今日くらいはって思いますけど。でも」

 顔が近い!顔が近い!おでこを寄せるように近づく宇沢レイサさんと、うんうん、と頷くイヴちゃん。

「イヴちゃんは強いですし、先生もいます。だから、心配はしますけど、ちゃんとトリニティで待ってます!」

「……凄く、嬉しい。レイサちゃんも、気をつけて……」

「えへへ!任せてください!」

 

 鍵を取ってきた一同が戻ってきた。浦和ハナコさんが嬉しそうに宇沢レイサさんとイヴちゃんに話しかける。

「どうでしたか?」

「えっ?!いえ、特には?!」

 小首を傾げるイヴちゃん。

「もっと押して行かないと、守りが堅いタイプじゃないですか?」

「えっ、あっ、そ、そう……そうですね?!」

 目の前でイヴちゃん攻略打合せしようとしてんじゃないっす。複雑な寄生虫心になっちゃうわ~。やっぱ端から見てもバレバレなんやんなあ。まあ、今も普通に両手でイヴちゃんのちっちゃいおてて握ってるし。何ならにぎにぎしてるし。

 阿慈谷ヒフミさんはちょっと顔を赤らめて、白洲アズサさんは不思議そうな顔で横を通り過ぎた。下江コハルさんは一瞬だけイヴちゃん達を見て「またやってる」って顔をしてから、2人を追い越して戦車によじ登る。

「戦車に乗るなら、役割を決めないと!私は車長ね!」

「あはは……私はどっちみち、操縦手ですから構いませんよ」

「では、私は砲手をしよう。といっても、自動装填の20mmか。楽そうだな」

「先生は、どうします?」

「"えっ、私?"」

「無理すれば全員乗れなくも……」

「いや無理でしょ?!4人乗りじゃないの?!」

「6人で、お肌を寄せ合って、楽しく……♥」

「だ、駄目です!!」

「そうよそうよ!駄目!!」

「あらあら、残念です」

 宇沢レイサさんと下江コハルさんからの反対意見で全員ミチミチ乗車は撤回された。

 もっと治安の良いところなら頑張ってみてもいいかも知れないけども。いやでも先生と浦和ハナコさんがデカい(何がとは言わんが)から無理かな……。

 

 打合せ途中に宇沢レイサさんがパトロールに戻る時間が来てしまい、残念そうに宇沢レイサさんはパトロールに向かった。

 パトロールアプリを確認したら、今日も正義実現委員会の人員と車両は殆どがゲヘナ自治区境界側に配備されているらしい。というか、明日のスケジュールを前倒しした感じか?

 ゲヘナにたどり着くまでは楽そうだけど、何かこれも意味がありそうなんだよな。

 

 結局、スケルチにイヴちゃんと、その後ろに浦和ハナコさんが乗ることになった。

 Ⅱ号戦車の車長に下江コハルさん、砲手に白洲アズサさん、操縦手に阿慈谷ヒフミさん、無線手というか、会話の中継を先生がやることになった。

 エンジンは一発で掛かったみたいで、嬉しそうな阿慈谷ヒフミさんの声がイヤフォン越しに聞こえてくる。

 旋回砲塔ハッチから上半身を乗り出した下江コハルさんが嬉しそうに右手を上げて、前に振り下ろす。

『戦車、前へ!私達は今、天使のように前進を開始する!』

『戦車は初めてだ。楽しみだな』

 初めての戦車指揮ってことではしゃいでるらしい下江コハルさんと、喜色が乗った白洲アズサさんの声に、浦和ハナコさんがイヴちゃんに豊満な胸を押しつけて*2うふふと笑う。

 先導のために、スケルチを緩やかに発進させるイヴちゃん。Ⅱ号戦車がゆっくり前進して続いた。

*1
ビーフウェリントンっぽいやつ

*2
しがみついてないと危ないので別におかしくはないんだが。




 ハスミは退学までは察してませんが、正義実現委員会と自警団に対する牽制であるのは当然理解していますし、結構おこです。
 会計処理上はスクラップを買った消耗品なので、治安維持アプリの対象になる装備車両としての登録が不要で、規則上何の問題も無い状態です。
 記録に残る連絡を徹底的に避けているのは、ティーパーティーから何らかの横槍を想定しているためで、
 仮にも正義実現委員会という大組織を事実上纏めている副委員長で、トリニティ仕草の1つくらいは余裕でこなせるし、事務処理も得意、だけどあまり後輩に良い例にならないから今回限りにしよう……と反省しています。

 引越しの予定はキャンセルになりました。あんしん。

 評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。