ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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被弾してぶっ壊れた時にお湯ぶちまけたりしそうでちょい怖い車内ポット でもあると便利

 ゲヘナ行きの道路を行くイヴちゃんのスケルチと追随する阿慈谷ヒフミさん操縦のⅡ号戦車。4人乗ってる戦車が大体200馬力で、スケルチは400馬力以上出力があるので、かなり絞って巡航している。まあどっちにせよ、片道2車線の高規格幹線道路にしては空いてるとはいえ、他の車両もそんなに多くは無いけど走ってるし、全速力なんて中々出せないけど。

 このくらいの速度でも、スマフォのナビを信じれば、何も無ければ21時過ぎには余裕を持って会場に着ける。

 ゲヘナ行きのルートでは寂れた地域行きなので交通量は少なめ、信号にもほとんど引っかからずに快適な道中。

 でも、不思議な程に正義実現委員会の子達と遭遇しない。

(……わざと、この道は開けてるみたい……)

(ゲヘナ自治区との境界には割と兵力貼り付けてる感じだったけど……)

 無線での雑談を聞く限り、阿慈谷ヒフミさんは初めて乗る戦車の運転に集中していて、下江コハルさんは当初張り切っていたけど、何事もないので段々集中力が切れてきたっぽい。白洲アズサさんは一応警戒は怠ってないけど、無駄口に応える余裕はたっぷり。先生はゲヘナとトリニティから提供されている治安維持機関向け情報を見て唸っている。

 バックミラーでは、ヘルメット越しにも楽しそうな浦和ハナコさんがキョロキョロと辺りを見渡している。

 

 車長としてハッチから身を乗り出してる下江コハルさんが完全に飽きてダレ、車両事故にだけ意識を向けるくらいには何事も無く、ゲヘナ自治区に入って走ることしばし。目的地は進行方向正面のやや左、11時方向。

 夜風に吹かれて寒くなってきたっぽい下江コハルさんがくしゃみをして、先生が上着を貸してあげた辺りで、左手側、2時方向のかなり遠くで夜空を彩る閃光、遅れて爆音。

(……光って、爆音まで何秒あった……?)

(光がそんなに大きくなかったから大体だけど、20秒ってところかな。7kmくらい離れてるから、まだ大丈夫)

『"温泉開発部が大規模な活動をしてるみたい。試験会場方面に向けて緩やかに移動中だけど、風紀委員会はもう出動してるみたいだから――"』

「……先生、話し中にごめんなさい。前方に検問です……。風紀委員会の……」

 僕は右側に意識を向けてて気付かなかった。

『突破しますか?』

 ナチュラルに治安機関の検問をぶっちぎっちまおうという提案が出てくる阿慈谷ヒフミさんこえー。まあ、風紀委員会を騙ってる偽検問の可能性とかも全然あるんだけど。ゲヘナだし。

『"別に、やましいことはしてないし、時間的にもまだ相当余裕があるから、止まろう。みんな、いい?"』

 ほんのちょっと嫌そうな雰囲気を漂わせる阿慈谷ヒフミさんも含め、全員が了承した。

 

 路肩に止まってパトランプをピカピカさせているのは、灰色に塗られたSd.Kfz.250っぽいハーフトラックだ。車体横にはマークと『風紀』としっかり描かれていて、パッと見、本物に見える。

 車両後ろから銀髪ツインテ、白ブラウスが似合う褐色肌の人物ともう1人、風紀委員会の制服を着た子が出てきた。銀鏡イオリさんだ。間違いなく本物だわこれ。

 イヴちゃんはゆっくりブレーキを掛けて停止、エンジンはかけたまま、浦和ハナコさんと一緒に一旦降りた。

「はい、止まって。って、イヴじゃないか」

 小さく微笑んで手を挙げる銀鏡イオリさんが、同じくちゃんと止まったⅡ号戦車に目を向けた。

「えーと、そっちの戦車の正実*1のも、こないだの合同演習で見たような」

「しっ、下江コハルです」

 最近落ち着いてたと思ったけど、恥ずかしそう、というか、人見知り全開な感じで、エンジン音に負けないよう、顔を赤らめつつも声を張り上げる下江コハルさん。後部ハッチが開き、先生が身を乗り出して降りた。

「"や、イオリ、こんばんは"」

「げ、先生」

 げ、って。やっぱり脚舐めたんかな、この反応だと。先生は嘘くさい泣き真似をする。

「はいはい、そういうの良いから。戦車は全部ハッチを開けて、中見せて。あと、トリニティに身分照会だけするから」

 指示に従い、ハッチを開ける補習授業部一同。部下の子が近づいて行き、銀鏡イオリさんが後ろから近づいてきたもう1人の無線を持った子に指示をした。

「身分照会は、どれくらいかかりますか?」

「面倒だけど、まだ直接正実にこっちから照会できないから。本部から連絡して、5分」

 3時方向で更に大きな閃光、10秒ほど間を置いて爆発音が伝わってきて、銀鏡イオリさんが顔をしかめた。

「15分!」

「"やっぱり、照会は必要かな"」

「例えイヴと先生だけでも、照会は必要だから」

 うーん、融通効かないタイプだなー。マニュアル遵守って感じ。ゲヘナだと少数派っぽそう。いや風紀委員会自体がそうか。まあ、言ってる事は間違ってはないんだろうけど。

 エンジンを掛けたままのⅡ号戦車車内で、先生と入れ替わりに車内に入った浦和ハナコさん含めて何か打合せをしているっぽい。まあ、15分くらいだと実害も無いし、イヴちゃんにも声掛けられてないから、無理矢理突破って線はない、よな?

 

 イヴちゃんが治安維持アプリを見ると、温泉開発部の♨マークがちょっとずつ試験会場に近づいている。風紀委員会は押されてるっぽいな。でも、銀鏡イオリさんが慌てて戻らないといけないほどでもない感じなのかな?

 浦和ハナコさんが車内から何かを抱えて路上に出てきた。

「皆さん、少し寒いですし、お茶にしませんか?ゲヘナの皆さんの分もありますよ」

 ああ、トリニティの戦車に常備されてる湯沸かし器*2か。Ⅱ号戦車も内装弄った時に積んだんだな。

 

 一瞬どうしましょう、という目を銀鏡イオリさんに向ける風紀委員会の子達。

「湯茶の提供は、常識的な範囲にあたるから構わない」

 欲しけりゃもらうといい、という回答に、嬉しそうに集まる風紀委員会の子達5人。あーうん、公務員だもんな。そういや。今まで誰も気にしてなかったんじゃないか。お土産とか普通に持ってってたし。

 答えた銀鏡イオリさんは動く様子が無い。周囲警戒は自分がやるということらしい。

 

 自分達に淹れるのと同じ紙コップ、ティーバッグ、砂糖でお茶を淹れる浦和ハナコさん。戦車のエンジングリルの上で、ティーバッグでやってるとは思えない所作の優雅さに、一同何となく見惚れている感じ。

 

 お茶を淹れるのも取るのも完全にランダムだったので、薬やら何やらを盛ったという感じでも無さそう。本当にお茶を飲むというだけのようだ。

 お礼を言って受け取った風紀委員会の子達が、銀鏡イオリさんにも持っていく。

「ありがとう。うん、美味い」

「"今日はちょっと寒いから、嬉しいね。ありがとう、ハナコ"」

「いえいえ。ドライブには休憩も必要ですし、ね」

 イヴちゃんももちろん、車内に籠もったままの阿慈谷ヒフミさん、砲塔ハッチに腰掛けて回りを見渡している下江コハルさん、降りて路肩側を警戒していた白洲アズサさんも紅茶を受け取って、しばしティータイム。

 

 道具をしまって、紅茶を片手に持って飲みながら、先生を連れてイヴちゃんの方にやってくる浦和ハナコさん。小声で先生に問いかける。無線は繋がりっぱなしだから、補習授業部一同には伝わっている。

「この後なのですけど、風紀委員会に手を貸した方が良くありませんか?万が一、試験中に会場が爆破されたりしたら……」

「"温泉開発部と交戦するってこと?"」

(……他の学園の人が、先に……ううん……)

(やっぱり、縄張り意識って出てくるかな?)

(……多分。ゲヘナの自治区内だし……)

 それなりに正義実現委員会と付き合いがあるイヴちゃんが想像して首を傾げた。下江コハルさんもちょっと嫌そうな声を出す。

『よその学園の治安維持機関に勝手に手助けなんて、そんなの、絶対嫌がられると思うけど』

「……私も、そう思います。力不足を疑ってる、と取られかねない……」

「シャーレの権限と、試験を受けるという理由を使っても、難しいですか?」

 あっ、という顔をするイヴちゃん。下江コハルさんも似たような顔をしている。

「"確かに、それなら何とかなる、かな?ちょっと、イオリと話をしてくる"」

 身分照会の結果が終わって、問題が無かったから行って良い、と声をかけに来てくれた銀鏡イオリさんと先生が話し始め、風紀委員会の無線手の子が呼ばれて再度やってきた。

 時間的にはまだ相当余裕がある。この後の試験の事を考えると、あんまり疲れる事はしたくないけど。

 でも試験会場が物理的に吹き飛んだら困る、それはそう。

*1
せいじつ、正義実現委員会の略。キヴォトスだとあんまり聞かない略し方だなあって思ってたから新鮮。

*2
見た目は普通の四角い金属の箱で、戦車の余剰電力でお湯を沸かす。保温機能付




 シャーレは自治区単位を越えた権限があるので先生的には忘れがち。ハナコも治安維持機関の人間ではないので、その辺りには感覚的にちょっと疎い感じです。
 イヴ、コハル視点だと「神奈川県警の捜査に勝手に兵庫県警が手伝いに入る」みたいなイメージだと思えば伝わるでしょうか。

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