ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
僕達がやってきたのはゲヘナの外れ。今回温泉開発部が試掘している地点に近づくにつれ、徐々に建物がちゃんと管理されているのがすぐ判るくらいには状態が良くなっていく。
キヴォトスというかゲヘナでは日常茶飯事なのか、明かりもついたままだし、流れ弾やら爆発やらがあっても、多分通常の生活が営まれているのだろう。キヴォトス人たくましいなあ。
イヴちゃんは先生の要請で、ビデオ撮影モードにしたスマフォをライダースーツの胸ポケットに突っ込んでから、周囲を見渡した。
建物屋上や屋根の上から、小火器の発砲炎がちらつく。時折、照明弾を打上げているのはもっと奥に陣取っている野砲か何かのようだ。
(……あっちは、風紀委員会……向こうにいるのは、全員、温泉開発部かな……)
(近い順に仕留めて、接近して確認する?)
(……そうだね……)
風紀委員会も、テロリスト側も新しい戦術は貪欲に吸収しているということなんだろう。
高所にいる温泉開発部員を、風紀委員会の子達と共同したイヴちゃんが排除すると、しばらくすると、白洲アズサさんが回り込んでいるのに迅速に反応できていたのが見失ったりと、目に見えて地上にいる温泉開発部員の反応が鈍くなった。
Ⅱ号戦車が一旦下がって砲塔を後ろへ向け、助走をつけて無人のハーフトラックに体当たり。凄まじい衝突音と共にハーフトラックが吹き飛び、温泉開発部員達を巻き込んでなぎ倒し大混乱に陥れた。
Ⅱ号戦車はそのまま左手の崩れかけた平屋の廃屋に突っ込む。操縦をミスった……訳では無さそうだ。旋回して狙いをつけた機関砲が素早く発砲を再開した。
廃屋と瓦礫を壕に見立てた即席掩体壕ってところかな。マジで阿慈谷ヒフミさんキレッキレやな。
解囲を試みていた風紀委員会の子達と合流できてからは侵攻速度がぐっと上がり、10分かそこらで温泉開発部が防御の重心としていたであろう試掘地点にたどり着いた。
美食研究会は風紀委員会と接触した時点で撤退したらしい。判断が早い。
防衛地点の中心地には、対砲兵射撃か何かで破壊されたらしき75mm砲の残骸。その横に高さ20mくらいの工事用足場と、試掘用のボーリングマシ……ん?何あれ?
(……小さい、タワー……ううん、大きなドラム缶……?)
直径4m、高さ8mってところか?イヴちゃんの言うとおり、金属製のダークグレーに塗られた味も素っ気もない、上から下まで太さが変わらない塔というか煙突というか、そういうものが工事用足場の真ん中にでんと居座っている。
正面にはゲヘナと温泉開発部のマークが堂々と描かれていて、動作中なんだろう、赤いLEDランプが点滅していて、各所から蒸気を噴き出している。
『掘削機は撃たないで!あれはゲヘナの財産だ!』
早いところぶっ壊してしまった方が良さそうだという補習授業部の空気に気付いたのか、ちょっと慌てた様子での銀鏡イオリさんの指示というか要請。
「……勝手に、持ち出されたんですか……?」
イヴちゃんの疑問に数秒の沈黙。
『……温泉開発部は、ゲヘナの正規の部活だ。予算は万魔殿が承認している』
マジで?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
戦闘そのものより混乱に陥った補習授業部の面々を先生が立て直し、最後に残っていた温泉開発部の防衛部隊を排除し終えた。幹部らしき子の姿が見当たらないのが気になるけど、掘削機*1がある以上、ここが最終防衛地点なのは間違いないだろう。
風紀委員会の子達の救護と、倒れてる温泉開発部員の拘束にイヴちゃんと下江コハルさんが手を貸し、先生と他の面々は風紀委員会との折衝をしている。ホログラムで天雨アコさんが疲れた顔を見せている。
下江コハルさんが転んで膝をかなりすりむくというか抉ってしまって痛そうにへたり込んでいる風紀委員会の子に駆け寄り、「染みるけど我慢して」と言いつつ聖水手榴弾の中身をそっとかけると、みるみるうちに傷が塞がった。
「あっ!ありがとうございます!!」
「ちょ、いや、皮膚が塞がってるだけだからちゃんと安静にしててね?!」
ぎゅっと抱きつかれてちょっと困惑している下江コハルさん可愛い。
あらかた拘束し終えた頃に、銀鏡イオリさんがやってきた。
「イヴ、コハル、悪かった。手間をかけさせた。コハルも頑張ってくれたな」
「あっ、えっ、いえ」
爽やかで面倒見が良い先輩なんだなあ、というのを感じさせる銀鏡イオリさんの笑顔に、多分人見知りを発動してめっちゃキョドる下江コハルさんと、頷くイヴちゃん。
「……大丈夫です……私達にも、多分必要な事ですし……」
「ああ、先生から聞いた。確かに、今日、万魔殿からティーパーティーに依頼がなされているらしい。風紀委員会でも掴んではいたんだが、まさか試験に使うなんてな」
何考えてるんだろうな、と呟いて顔をしかめた銀鏡イオリさん。本当、何考えてるんだろうな。
風紀委員会の子達からの差し入れの飲み物と板チョコレートをもらって一息ついた頃、先生達がやってきた。
「アコちゃん、結局どうする?私もついていければ良いんだけど……」
『戦車運搬車1台と、整備要員を回しました。帰りまでは面倒を見られませんからね』
「"ありがとう、アコ"」
『先生に借りを作りすぎると後が怖いですから。では、私達はこれで』
Sd.Kfz.9/2っぽいトレーラーとクレーン付の車両がⅡ号戦車の前にやってくるのと入れ替わりに、撤収していく風紀委員会の子達。ツナギを着た整備要員らしき子達3人が手際よくトレーラーにⅡ号戦車を載せて固定する。僕達もSd.Kfz.9/2の車両の方に乗せてもらえるらしい。イヴちゃんもちょっと疲れたから一緒に乗せてもらって、スケルチは自動操縦で着いてきてもらうことにした。
Ⅱ号戦車の整備は走りながら、トレーラーの上でやるらしい。ちょっと絵面が怖いな……。
採掘機械から、ブザーのような大きな音がして、僕達や、撤収作業準備のために集まっている風紀委員会(と、捕虜として作業に従事している温泉開発部員)の注目が一気に無愛想な金属柱に集まった。
『500m試掘の結果、現在地点での温泉開発成功率は低いと判断されました。引続き掘削を続けます』
何となく、温泉開発部員以外にも落胆した雰囲気が漂う。しかし、確率が低くても継続がデフォルトなの、温泉開発部の機材らしいな。「中止して解体しろ!撤収作業!」という銀鏡イオリさんの声が聞こえた気がした。
会場の廃墟座標までは10分少々、襲撃などのトラブルも無く無事に着いた。Ⅱ号戦車はかなり無茶をしたからか、「あと15分くらいかかるけど鍵をして会場前に駐車していくから」というお言葉に甘えて、先に会場に入らせてもらうことにする。
まだ後1時間ちょっとはあるけど、本当に何があるか判らんしな。
念のためということで1ブロック手前で降りた。Ⅱ号戦車はいざというときに皆を乗せて逃げる足なので、先に安全確認してからでないと会場に直付けは怖かったから、そういう意味でも助かる。
補習授業部一同の足音と、静かについてくるスケルチのアスファルトを擦る音。少しずつ遠ざかっていく戦車運搬車と動作確認中のⅡ号戦車のエンジン音と、工具の音と整備員の子達の会話。
本当にエリア全体が徹底的に廃墟で、鼠やら小動物の気配も疎らだ。電気も通ってないらしく真っ暗。問題の会場以外は。元は飯屋やらが入ってたらしき4階建のボロい雑居ビルの跡地。
「え、電気ついてる?」
下江コハルさんの率直な疑問に顔を見合わせる一同。1階の窓左側からは煌々と明かりが見えていて、右側は薄いカーテンが引かれているが、これも明かりがついているのはわかる。会場裏から低音が響いてるので、多分小型の発電機か何かを持ち込んでるんじゃないかな。
「電気もですけど、あの赤いちょうちんというのでしたか、あれは……?」
「何となく、良い匂いもするような?」
「"おでん、的な匂いだね?"」
良い匂いしてるね。なんかこう、出汁とか煮物とかそういう感じの。
「イヴ、罠が無いか、私達が先行しよう」
周囲を警戒しつつ緊張感を失ってない白洲アズサさんとイヴちゃんが前に出る。
地雷やワイヤ、落とし穴の類のトラップもなく、無事全員が会場に指定された建物にたどり着いた。入口は左端。
『トリニティ補習試験会場はこちら』とA4の紙に印刷された味も素っ気も無い紙が建物入口に貼ってある。
先鋒として盾を構え、警戒しつつ建物に踏み込んだイヴちゃんをニコニコ笑顔、赤毛にポニーテール、赤い角を2本生やした、うおでっかな女の子が出迎える。真っ白な膝丈までのコックコートに、後ろに背負ってる火炎放射器がミスマッチ。
「あっ、いらっしゃい!でよかったよね?」
下倉メグさんやんけ。
TIP:温泉採掘機
10tトラック6台で1式を運搬できるゲヘナ最新鋭の温泉採掘機。分解、組立も比較的容易で、試掘はボタン1つ、成分分析まで自動的に行う。アナウンス含め設定はかなり大雑把なものから、精緻なものまで設定変更可能。Bluetoothでスマフォと接続しアプリで操作もできる。制御OSはスマフォのAndr○id的なものでミレニアム製だが、他は全てゲヘナ製。試掘が成功すれば掘削、パイプ等の設備設置まで1台で行える優れもの。汲上げ用のポンプ機能もあるが、他地点での開発に使用するため、温泉開発に成功した場合、別途ポンプを準備するのが通常の手順。他学園にも輸出されている。
今日のBloodywoodのライブ超良かったですね(予約投稿)
5/18の同人誌即売会の準備がようやく終わったので、アイデアは豊富にありますし、投稿ペースを戻していきたいところです。当日までは何やかんやあるんで難しいかもですが。
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