ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
廃墟の屋上でスカートが鳴る あんま鳴っても困るけど
もう寒い時期ではないとはいえ、一戦交えて夜風に当たったあと、空腹と寒さに業務用のおでんとはいえ実に染みた。
廊下で誰かにモモトークと電話を試みている先生の傍、ビルの出口側に控えて、ぼんやり特定の場所に焦点を合わせず、眼球だけを動かして外を見るイヴちゃん。一応、周辺視を使った警戒をしてるのであってイヴちゃんがぼんやりしているからではない。これは守月スズミさんに教わった夜間巡回の時のテクニックで、広い範囲の不審な動きをするものを探す方法の一つ。本気の本気でパトロールする必要がある日だと、夜まで赤色灯だけつけた部屋で待機するとか寝てるんだとか。僕も知識としては知ってたけど、実践者からの言葉は重いね。なぜか一緒に聞いていた宇沢レイサさんも感心していて、守月スズミさんは少し呆れたような顔をしていた。
屋内側は僕がイヴちゃんの耳で注意を向けている。
下倉メグさんは全員にもうおかわりが要らないことを確認すると、火を一番弱火に落としてパイプ椅子に座り、スマフォを取り出したようだ。
浦和ハナコさんは汁まで飲み干したみたいで、完全にリラックス態勢に入って、皆の事を眺めている。
同じく食べ終えた白洲アズサさんは、戦闘も接客もする気が無い下倉メグさんを含め、周囲を警戒しているようだ。壁に開いた大穴に、足を引っ掛ける用くらいのワイヤトラップは設置したいんだろうな。
下江コハルさんは熱いのもあるだろうけど、一口一口が小さいのに、食べるペースが速い。僕達が部屋を出る前におかわりした分がそろそろ無くなるかな。
食べ終えて、汁の残りを用意された残菜バケツに流してゴミを捨てた後、こちらに近づいてくる阿慈谷ヒフミさんの足音。
「先生、テストの開始時間を早くしてもらうことはできますか」
「"今、ナギサ本人と、ティーパーティーの事務局とに連絡したけど、ナギサは出てくれなかったし、ティーパーティーも『業務時間外だから』って繋いでもらえなかった"」
盗み聞きは悪いと思いつつ、まあ聞いちゃうよね。聞く前から結果もわかってたけども。電話の奥の話し声もちゃんと聞き取れたらよかったけど、これは聴力良くても何ともならんしな。そもそも普通に考えたら業務時間外なのは間違いないし、こっちの方向でつつくのは無理か。モモトークの中身は流石に覗き見し無いけど、多分未読だろうな。
「コハルちゃん、落ち着いたらそろそろ勉強しましょう。アズサちゃんも。イヴちゃんが警戒してくれてます」
「えっ、あえっ、あ、わ、わかってるし?!」
「そうだな、時間が無い」
浦和ハナコさんが音頭を取り、下倉メグさんの許可を取って、奥の机で勉強を始める一同。
(……そうだ、ジル。外、見て回った方がいいよね……)
(そうだね、緊急時のルートとかもちょっと見たいし)
先生と阿慈谷ヒフミさんは、ゲヘナ風紀委員会か、美食研究会に直接連絡して、美食研究会の到着を何とか遅れさせるか、せめて爆破をテスト終了まで待って欲しい、という方向の打合せをしている。イヴちゃんは2人に小さく声をかけてビルの外に出る。階段で屋上に上がりたかったが、さっきちらっと見たときにはドア自体が溶接されていたみたいだった。イヴちゃんの腕力なら多分素手でぶち抜けるけど、それ自体が建物を爆発だの倒壊だのさせる要素になると洒落にならない。
崩れかけてる排水パイプやビル自体の欠け、窓枠なんかを使ってするすると屋上に登るイヴちゃん。屋上で空を見上げながら、くるりと回る。
(……星が、綺麗……)
放棄された地域で、明かりはこのビルだけだから、空が本当に綺麗だ。僕が外部から観測できないから、イヴちゃんの方が綺麗だよ、って言えないのが残念だね。鏡でもあればな。
一周回るのは一応索敵や狙撃ポイントの確認の意味もある。半端な高さの雑居ビルで、ここより高いビルで窓が破れてるとか好ポイントは数カ所あるけど、パッと見たところボロボロで汚そうだから、C&Cレベルでよっぽど気合の入った子以外は使わなさそうだ。銃器が溢れかえってるから忘れがちだけど、戦闘に加入する要員のほとんどが女の子だしね。汚ったないところが嫌いなのは皆そう。
鳥の糞やら何やらを避けながら下の通れそうなルートやら何やらをチェックするイヴちゃん。本当に明かりがないので、遠くの方は全然判らんけど。来た道を戻るくらいしか事実上の選択肢は無さそう。
ビルの真下も確認。入口を起点に、左側に工事現場とかでよくある仮設トイレが10個以上並んでいて首を傾げるイヴちゃんと僕。この人数用にしては多すぎるな。右側は廃屋。
問題は入口から奥側、さっきのおでん部屋(仮称)の大穴が開いてる側から50mくらい離れたところに、黒くて大きな塊が幾つもうずくまっていてギョッとした。
(……ゲヘナの、トラック……温泉開発部のマーク……?)
(さっき戦闘中に見た円筒型の機械を分割して積んでるし、多分誤爆防止用じゃない?)
エンジンは全部切ってあるし発電機の音に紛れて気付かなかったんだな。ダッシュボードに靴を脱いだ子が足を投げ出して、多分寝てたり、スマフォの反射光らしきものが見えるから、単に待機というか休憩状態みたいだけど。トイレはこの子達用でもあるわけか。
(……あの温泉掘れる機械、1セットを組み立てられる数はあるみたい……)
(他のトラックは荷台シートが掛かってるから判らないけど、予備の資材とかを積んでるやつかな?)
トラックの数を数えてスマフォで写真をパシャリ、先生と阿慈谷ヒフミさん、浦和ハナコさんに送って、飛び降りる。途中で壁に指をかけて、静かに着地するのも忘れずに。
真剣な顔かつ小声で、忙しげに電話を掛けながらビルの入口辺りをうろうろしている阿慈谷ヒフミさん。『アウトロービーチでの借りは確かにあんたにあるが』みたいな事が通話相手から聞こえた気がしたけど、イヴちゃんも僕も何も聞いてないっす。
まだおでんの匂いが漂う部屋に戻ると、スマフォじゃなくてタブレットで何か技術的な資料を読んでいるらしい下倉メグさん、集中してるのかこっちには見向きもしなかった。
勉強に勤しむ白洲アズサさんと下江コハルさん、それを教えてる先生と浦和ハナコさん。先生と浦和ハナコさんがそれぞれこっちを見て、浦和ハナコさんが頷く。
「イヴちゃん、手伝ってくださいませんか?先生はちょっとお話があるそうなので」
頷いたイヴちゃんが先生の座ってた椅子に座る。下江コハルさんの隣。
「外、何か面白いものあった?」
「……星が、綺麗だった……」
はあ~と深い溜息を吐く下江コハルさん。小さく笑って続ける。
「ま、あんたに聞いたらそんなもんよね。こんな廃墟に面白いものなんて無いだろうし」
先生は下倉メグさんに小声で、直接的な質問をし始めた。
「"ねえ、メグ。ここってひょっとしてこの後、温泉開発したりする?"」
「うん。なんでわかったの?」
キラキラしたシンプルな尊敬の目で先生を見る下倉メグさん。尻尾ふりふりが幻覚でなくて見える。いやイヴちゃんは下江コハルさんと彼女が取り組んでる課題を見てるから、視界の隅で見えそうで見えないけど。
「"よかったらだけど、時間とか、教えてもらってもいい?"」
「部長が『始める』って言ってからだから知らない!聞いてみよっか?」
先生が答える前にスマフォで電話をかけ始める下倉メグさん。
数コールで相手が出たようだ。聞き覚えのある声に高笑い、当然、鬼怒川カスミさんだろう。発電機の音で聞こえづらいけど、本人の電話越しでない声が近い、ような。あの車両群の中にいてももちろんおかしくはないけど。
「"『いかなる形であっても、採点等を含む試験全てが終わってから』か"」
先生がわざとだろう、大きめの声で繰り返す。
暗い顔をして戻ってきた阿慈谷ヒフミさん、浦和ハナコさん、イヴちゃんが小さく反応した。
「とりあえず、試験に集中すれば大丈夫、ということか?」
「……そう、です……」
あまり判って無さそうだけど、空気感は掴んでる白洲アズサさんがふんすと応え、わからないまま下江コハルさんも頷いた。
イヴちゃんは下江コハルさんに説明したそうだけど、今、説明して、混乱されるのもなって正直思うんだよな。あと20分かそこそこで始まってしまう試験そのものも軽視はできない、はず。
帽子屋さんにイヴを描いてもらいました。
https://misskey.io/notes/a8hb1xp91dvs0b9w
サンプルをキラキラした目で見るイヴの可愛さ…是非ご覧ください。
メインジャンルのウスイホンを書いて、ゲスト様の原稿を纏め、製本しイベントに出て、本の委託をし終えたら2か月近くが経っておりました。
そこから家の山盛りになってしまっていた本などの大掃除に傾倒していると更に歳月が過ぎ…。
Steve Hackett、Royal Hunt、Angra、Thy Art Is Murder、Humanity's Last Breath、Thulcandra、Alcest、明日の叙景、Deafheaven、Oceans Ate Alaska、サマーソニック、昨日は大阪フィルの『ニュルンベルグのマイスタージンガー』を見に行ったりしました。
疾病のうち一つが漸くマシになって、鎮痛剤が要らなくなった程度にはなってきたので、通院数減らして時間作れるかなと思っています。
アイデアは寧ろ多すぎて脳内に溢れて圧迫したりこぼれ落ちたりしているレベルなので、何とかかんとか続きを頑張りたいです。
書き溜め分は無く、明日はFreak Kitchenのライブなので最速でも投稿明後日ですが…。