ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
チェックディスクもファイル修復も上手く行かなかった。まあ大体察しはついてたけどね。これは脳のシナプス側なのか、
「パソコンがインターフェイスになっているのはトリニティ生では珍しいが便利だね」
ホアー?!作業に熱中していて
「びっくりした。百合園セイアさんの術は内部のオーナーの精神状態から影響受けるかもだから、程々にしてくださいよ」
「ふふ、そんなに驚くとはね。済まない」
「トリニティ生の記憶は大体紙の本なんですか?」
「後は、学校支給のタブレットの事もあるね。本人が一番『記憶の保存に馴染む』ものを使うんだろう」
お金持ち学園が適当に買ったと思しきあれかあ。性能的には不満が無いんだけど、かすみたいなおまけソフト一杯付いてて、イヴちゃんみたいにちょっと詳しい人からするとアンインストール作業から始めないといけないやつ。
「イヴちゃんは身体を動かしてるときもこのパソコンを使ってますけど、他の人は?」
「それは多分、君という同居人がいて交代する必要もあるから、君からはそう見えているだけなんだろう。私の術は、起きているときには使えないから、他の子の事はわからない。皆の部屋は千差万別だが、強いて共通点を言うなら窓が大きかったりする程度だな。あれが睡眠中の夢の視界と、後は現世の音を拾うのに使う程度だと思われる」
イヴちゃんはモニタとスピーカがあるから窓は小さいというか無くて良いって訳か。ふーん。で、観測者がそれを定義していってると。やっぱりコトダマ空間じゃないのこれ。イヴちゃんがコトダマ空間の完全認識に目覚めたら、空間書換の仕方も話し合いしないと、ぐっちゃんぐっちゃんになっていざというとき困るな。
キューカンバーを出してあげながら、僕は目で「何をしに来たのか」を問う。
顔をしかめながら飲む百合園セイアさんは、「テストの件さ」と答える。
「こちらのツテで調べたところ、万魔殿は『鬼怒川カスミは万魔殿元議員であり、正式な部活、温泉開発部の部長は監督者として相応しい』と答えてきたらしい」
温泉開発部の予算はちゃんと認可されているらしいし……え、元議員?!
「鬼怒川カスミは元万魔殿議員だ。票田は温泉開発部だから、議席を守るのもたやすいはず。ゲヘナの方がトリニティよりはるかに民主的というのは皮肉な気もするね」
トリニティ、普通選挙を公言するだけで睨まれるからな。僕もこの場で民主制が望ましいかなんて百合園セイアさんに聞く気にはなれない。トリニティで一番のタブーかもしれない。ちらっと浦和ハナコさんが「貴族院と庶民院の二院制にすればいい」と言ってた程度の話が窘められるくらいだからな。
「今日の話は、さっき夢の中で先生に聞いてきている。目の前で答案を焼く仕掛けはトリニティ側だろうな。そこまであえて作るなんて、よほど君達の心を折りたいのだろうな」
「下江コハルさんはちょっと危ないかもしれません。イヴちゃんがフォローしてくれるつもりみたいですけど」
下江コハルさん、確か凄い黄金の鉄の塊の魂を持ってるはずだから大丈夫だとは思うけど、途中で心が一旦折れて青ニートになっちゃうかもしれないからな。イヴちゃんは当然、友人を気にしてるし、大丈夫だとは思うけど。
「今日は情報共有とメンタルケアに来てくれたってことですか?」
「そのつもりだったが、イヴも思ったより堪えているみたいだし、無理に夢の中で起こしたくない」
百合園セイアさんがセクシーな、もといアンニュイな溜息をつく。
「もう一つ、裏切り者の排除という一点で、フィリウス派とパテル派は一致しつつあるらしい。今までばらばらだったパテル派のミカの掌握が進んでいるようだ」
「実際にはどうなんでしょうね?補習授業部自体を排除したいのかな?」
「実際に用事があるのは、事実上のファーストレディとまで噂されるヒフミ、能力を求められるハナコ、自警団と正義実現委員会の一部を抑えられるイヴといったところか?ヒフミを抑えられればフィリウス派の不正糾弾などをするにしても象徴になる」
もしくは、と言葉を切った百合園セイアさんは続ける。
「学園そのもののクーデターに使うなら、補習授業部の中、もしくは全体を裏切り者として適当にでっち上げて囮にするか、裏切り者とされた人間を焚き付けてフィリウス派にぶつけるかだろうな。どちらにせよフィリウス派は分割できる」
うーん、えげつない。っていうか、阿慈谷ヒフミさん、そんなポジションなんだ。
「ナギサとヒフミの関係は、我々サンクトゥス派も良く判っていない。正妻なのか、神秘的なお姫様なのか、ただれた愛人なのか」
ふふ、と皮肉気に笑う。高校生の世界かよ。こえーよ。
百合園セイアさんは一息ついた。
「情報提供はこんなところか。ジルはへこたれて無さそうで安心したよ」
「そういえば、先生は何て言ってました?」
「『皆の力で乗り越えるしか無い。ナギサとも話はする』だそうだ」
「まあ、先生的にはそうですよね」
当てにならんとは言わんし、先生が搦め手を考え始めないといけなくなったらお終いだよな。
「そういえば、この術は、距離があっても使えるんですか?」
「ゲヘナにいる人間相手に使ったことはある。転校する気かい?」
今の一言で通じるのは恐ろしいな。
「最悪、ヒフミ、ハナコ、イヴは『機密情報を知りすぎていて』転校も認められずに補習授業部で飼い殺しになる可能性も考えておいた方が良い」
何か、どっかでミレニアムのインガオホーの兎が鳴いた気がする。僕はぞっとした。
「サンクトゥス派が残っていれば、そうならないように助力はするがね」
また皮肉気に笑う百合園セイアさん。
「補習授業部が上手くやってくれれば、クーデターのリスクは少しは下がる、はずだ。頼りにしてるよ」
「結局それはそれとして阿慈谷ヒフミさん辺りを神輿に担ぎ上げる可能性もあるのでは?」
「ヒフミ一人なら神輿にし辛いだろう。『裏切り者がいるかも』という今の状況を利用できないからね。気絶させて拉致でもしたら別かもしれないが」
ああ、なら安心だな。あの真のアウトロー、少なくとも誰も見られてないところで、そんな事されるタマじゃないわ。
「ジルも根を詰めすぎないでくれ。といっても、明確に頼りやすいのが君達である以上、迷惑はかけるがね」
「イヴちゃんへのお礼を楽しみに頑張りますよ」
不安そうな表情で呻くイヴちゃんの頭を少しだけ撫でて、百合園セイアさんは部屋を出て行った。
鬼怒川カスミが万魔殿の元議員は温泉開発部のミニストーリー(だっけ?)と、メグからヒナへの付け届けをヒナが「古巣の悪弊は止めろ」という発言から構想を得ただけで、実際は全然違うのかもしれませんが、温泉開発部が大暴れしてても何とかなってるのはマコトの私情があるんじゃないかなと推測しています。