ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
朝ご飯、イヴちゃんと僕だけがファラフェル*1とサラダを作る音だけが食堂に響いている。先生含めて全員、シャワーを浴びて力尽きていたので、もう寝てたイヴちゃんの代わりにシャワーを浴びられた僕以外が寝ていること自体はしょうがない。
最初にぱたぱたした足音でやってきたのは先生だった。メイクでも隠しきれない目の下のクマが痛々しい。悩んでたんだろうな、多分。
「"おはよう、ごめんね、イヴ。ちょっと、ナギサとミカを捕まえようとしてて"」
「……いえ、大丈夫です。後はサラダだけなので……」
「"レトルトだと皆のやる気が落ちるかも、って頑張ってくれてるんだよね?"」
ちょっと恥ずかしそうに頷くイヴちゃん。先生はレタスを千切るのを手伝ってくれる。
「まあ、ありがとうございます。イヴちゃん」
「おはようございます、ごめんなさい」
「すまない、遅れた」
普段のつかみ所が無い雰囲気に微妙に棘*2があるような気がする浦和ハナコさんと、申し訳なさそうな阿慈谷ヒフミさんと白州アズサさん。
イヴちゃんが首を横に振る。
「……皆さん、お疲れでしたから……」
「イヴちゃんは体力ありますよね」
「見習わないとな。学生も兵士も基本は体力だ」
「夜も元気一杯ですものね♥」
鍛えてるからね。僕がだけど。
皆が分担してお茶を淹れてくれている間に目を擦りながら下江コハルさんがやってきた。鍛えているとはいえ、この年齢だと1年差はやっぱり小さくないのかもしれない。精神的なものも大きいのかもしれないけど。とはいえ、よく眠れてはいるようだ。
「……コハルさん、おはよう……」
イヴちゃんに続いて挨拶する面々に、無言で頷く下江コハルさん。精神的ショックはやっぱり大きいみたいだ。
皆、あえて昨日の話は朝ご飯の場ではしないと無言の協定が結ばれたように、誰も昨日の試験の話をしない。先生の落語の続きが浦和ハナコさんの要請で行われているだけだ。
「"それで、断ったらかんかんのうを踊らせてやるっていうんでね"」
マジで昨日の落語の続き*3やってんじゃん。ウケる。阿慈谷ヒフミさんはⅡ号戦車の操縦をしていたからだろう、イヴちゃんも無線で聴いていただけだから不思議そうに先生の動作を見ている。
下江コハルさんは親の敵のようにファラフェルを突き刺して食べて、美味しさに素直に反応すべきか困る顔をしている。イヴちゃんの愛情が籠もっているからな。
「このコロッケ、美味しいですね」
「……アビドスやその東の学園の料理です……この学園でも、少数派ではいますが、大昔にアビドスの東から来た派閥の末裔がいるとかで……」
ニコニコしながら食べている浦和ハナコさんに、イヴちゃんも微笑む。
下江コハルさんは一分一秒でも早く勉強したいと阿慈谷ヒフミさんを引っ張って出て行こうとした。困ったような顔の阿慈谷ヒフミさんにイヴちゃんは、片付けはやっておくからと頷く。
残った皆の片付けをしながら、先生が落語を語り終える。
「先生、芸達者ですね。百鬼夜行の芸能にも通じてるなんて」
「"見よう見まねだけどね。もっと短い話にしとけばよかったよ"」
感心したように拍手する浦和ハナコさんに照れる先生。そういう問題かなあ。まあ、下江コハルさんと阿慈谷ヒフミさんがオチ聞きそびれたから、そういう問題かも。
勉強をしていた下江コハルさんと、それを教えていた阿慈谷ヒフミさんが、食堂から上がってきた皆を見る。阿慈谷ヒフミさんはイヴちゃんにごめんねのジェスチャー、イヴちゃんは首を軽く横に振って答える。
「それで、先生。どうするつもりなの?」
とげとげしい言葉とは裏腹に、下江コハルさんの目には涙が溜まっていて、今にも泣き出しそうだ。目の前で答案が焼けたのがよほど堪えたらしい。イヴちゃんがそっとペットボトルの水を下江コハルさんから順に皆の席に置く。
「"ナギサもミカも捕まらなかった。後一回の試験で、妨害工作をされないように何とか約束を取り付けるしかないけど、それは私がやるから……"」
「まずは、勉強するしかありませんね♥」
「90点以上か。ハナコとヒフミ、イヴは問題無いだろうが……」
「やってやるもん。100点取れば文句無いんでしょ!」
泣きそうだった下江コハルさんが怒りを湛えて先生、というかその後の課題を睨みつける。まずは心が折れなくて済んだか。怒りで無理をしているのは後が怖いけど、一応は安心って考えていいのかな。
「まあまあ、まずは弱い部分を寄せ合うところから……」
「弱い部分って何?!知りたくないし聞きたくないんだけど?!あっ、先輩にため口利いてごめんなさい!!だから許して!!」
おお、キマシタワーが建造されている。イヴちゃんに怒られつつも目が離せない。
「見事な制圧術だな」
「……制圧術なら、私なら一手前に手首の関節を極めてます……」
「その一手前に肘を極められただろう」
白州アズサさんの発言におお、と感心するイヴちゃん。女子高生の会話か?まあ格闘技好きならあるかも?そうか?
それから数日、勉強に次ぐ勉強。睡眠時間を削るのは本来良くないので、休憩時間を減らしつつ、とはいえシエスタはあった方が効率が良いんだよな。
治安維持組織アプリに、次から次へと通知が流れてくる。主に正義実現委員会宛だが。なので、イヴちゃんと下江コハルさんのスマフォはぶるぶる震えっぱなしだ。
「イヴちゃんもコハルちゃんも、ずいぶん通知が来てますね?」
「……エデン条約の関係書類を保管するそうです……。試験日翌日以降、戒厳も発令の見込みだとか……」
「……ちょっと、シスターフッドの皆さんに、話を聞いてみますね。イヴちゃん、ヒフミさんをお願いします」
席を立つ浦和ハナコさん。
「"……"」
「ナギサ様からも、ミカ様からも返事がありませんか?」
阿慈谷ヒフミさんの問いに、スマフォを困ったように眺め頷く先生。
「あーもう、うるさいうるさいうるさい!!」
バイブレーションに苛立ってスマフォの電源を切る下江コハルさん。まあ気持ちはわからんでもない。イヴちゃんもサイレントモードにする。
「"イヴ、戒厳が出るとどうなるの?"」
「……ティーパーティ、正義実現委員会と、協力要請を受けた自警団員しか外出できなくなります……。私は……というより、今回、自警団自体が協力要請の対象外です……」
表向きはイヴちゃんに対しては『補習授業部との監督官との業務の兼務が過重なため』って通知が丁寧に来てるんだよな。どっちにせよ、イヴちゃん自体も身動き取れないけど。それ以外の自警団員は別に多忙じゃ無いけど、例えばそれこそ宇沢レイサさんが助太刀にでも行かれたくないってところだろう。
「イヴ、これ教えて!!」
苛立った様子のまま、下江コハルさんがイヴちゃんを呼ぶ。
不穏な流れは補習授業部の第18校舎外で続いている。正義実現委員会に関する断続的な情報は宇沢レイサさんが送ってくれるが、自警団自体が協力から外されているから、全体像はわからない。
戻ってきた浦和ハナコさんも首を横に振る。シスターフッドも何も掴んでないってことか。
「"とにかく、試験翌日なら今のところは関係無いから、このまま勉強を進めよう"」
頷く一同。このまま終わりそうにはないけど、勉強自体はどっちにせよ必要だもんな。
かなり前ですけど、自警団イベントが来て最高でしたね。嬉しくて卒倒しました。
コハルが原作よりピリピリしているのは目の前で答案が焼けたショックを、怒りで誤魔化しているからです。
※タイトル、ニムルドレンズがブルアカ世界にあるからレンズが先か?んな訳ねーか…と思ってる間に書き間違えていたので直しています。内容には何も関係ありません。ご感想でのご指摘有難う御座います。