ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。(『ヨハネの黙示録』12:7-9)


聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の主、その栄光は全地に満つ

 あっさり片付けられるアリウス分校先遣隊。

「制圧完了だ」

「ティーパーティーに何かあれば、正義実現委員会は動くはずです。定時連絡が途絶えている以上、既に動いていてもおかしくありません」

「ハスミ先輩にはもう連絡したから!」

「……スズミさんとレイサさんにも……」

「先生の指揮があって助かりました。これで、アリウス分校の増援が来ても正義実現委員会が……」

 僕達から見て左手奥、体育館の壁がぶち破られる。穴の奥に外のプールが見える辺り、旧第18校舎の壁から廊下と、まっすぐ穴を開けて誰かが入ってきたらしい。

「正義実現委員会は動かないよ。私がそう命令してるから。あと、通信妨害もしてるからね。やっほ、イヴちゃん、答え聞きに来ちゃった」

 ピンクのゴリラ、もとい、聖園ミカさんだった。

 

 聖園ミカさんの後ろから、ぞろぞろとアリウス分校生が入ってくる。

「数が多い。大隊*1の半分近くか?」

 冷静に白洲アズサさんが分析し、浦和ハナコさんが挑発がてらだろう、口にする。

「パテル分派の方々が見当たりませんが?」

「えっと、誰だっけ。私、人の顔と名前覚えるの苦手なんだよね。なんてね。浦和ハナコさんでしょ。ちゃんと部下と、これから部下になる人の名前は覚えるようにしたんだよね。偉くない?」

 くすくすと笑う聖園ミカさん。

「パテル分派にも近衛も腕っぷしも強い子もいるけど、連れてきてないよ。アリウス分校の子達の方が数が多いからね。同士討ちしたくないからさ。私が頼んだのは、補習授業部が勉強に集中するための通信妨害だけ」

 恐らく真犯人を推理していたであろう浦和ハナコさんと、クーデターの危険性を百合園セイアさんから聞かされていたイヴちゃん以外は動揺している。

「この人達はこれから、正義実現委員会にも、自警団にもかわって、トリニティの公的な武力集団になるんだよ。でも、その前に、イヴちゃん、答え、聞かせてくれる?イヴちゃんがパテル分派の下についてくれるなら、補習授業部の全員はパテル分派に入れてあげるし、自警団全員は無理かもだけど、根性無しの彼女さん(宇沢レイサさん)*2とスズミちゃんだっけ?は考えてあげる」

 宇沢レイサさんを揶揄されて一歩前に出ようとするイヴちゃんを僕は必死に抑える。

(イヴちゃん!駄目だ!相手が強すぎる!先生の指揮を待たないと!)

(……許せない……)

 ミカエル・ニンジャはYHVH(ヤハウェ)に一番似た者、神の右腕のニンジャだ。イヴちゃんが3番目の人の子のニンジャソウルの持ち主であっても格が違いすぎる。

「"ミカ……?"」

「先生、久しぶり。ついでに先生も私の味方をしてくれたら嬉しいけど、そうはいかないよね」

 一応、イヴちゃんは怒りに目を燃やしながらも、皆を見る。皆、その視線に頷く。

「……お断りします……」

「そっか、やっぱりそうだよね。残念。正義実現委員会と自警団の一部をリサイクル出来て助かるかな~って思ってたけど、もうアリウス分校の子とパテル分派の子達だけでいいや」

 くすくすと笑い、

「ティーパーティーの命令が届くところは全部足止めしておいたからね」

「やはりあなたが黒幕でしたか。聖園ミカさん」

「うーん、推理だけで本当の『トリニティの裏切り者』にたどり着けたハナコちゃんはやっぱり部下として欲しいけど、あなたも嫌だよね」

 動揺を隠せない白洲アズサさん、下江コハルさん。阿慈谷ヒフミさんはもう動揺を収めたのか、隠したのか静かだ。

「ナギちゃんをどこに隠したのか教えてくれる?私も時間がなくってさ。全員消し飛ばしてからゆっくり探してもいいけど、面倒でしょ?」

 駄目だ、イヴちゃんが怒り狂ってると抑えられない。イヴちゃんが一歩前に出る。

「……どうしてですか……?」

「んー?部下でも無いのに教えてあげないとだめ?ま、いいか。ゲヘナが嫌いだから。イヴちゃんがゲヘナのお姫様とつるんでるのは目を瞑ってあげようと思ってたけど、それももう嫌になっちゃった」

「それで、エデン条約を取り消すと?」

「そ。角が生えた奴らなんかと平和条約だなんて冗談にも程があるよね。裏切られるに決まってるじゃんね?背中を見せたらすぐに刺されるよ?ナギちゃんも優しすぎるっていうか、変なところでお人好しっていうか。おとぎ話じゃないんだから、あるわけないのにね。私達はもっとドロドロした現実って世界の住人なのをいい加減わかってもらわないと。大丈夫。痛いことはしないよ。残りの学園生活はずっと檻の中かもだけどね」

「"じゃ、じゃあ、エデン条約はやっぱり平和条約……?"」

「うん、そう。素直でおバカなナギちゃんに、武力同盟として使おうなんて無理無理」

 くるりと周り、くすくす笑う聖園ミカさん。

「でも、アリウスと和解したかったっていうのは本当のこと。同じゲヘナを憎む仲間として、ある意味、トリニティより純粋な憎しみを持っている」

「一般的なアリウス生の憎しみだけで言えば、トリニティを憎む気持ちも同じはずだ」

 絞り出すような白洲アズサさんの声に、くすくすと笑う聖園ミカさん。

「だから、その憎しみの相手に取って代わるんだってば。ホストの桐藤ナギサに正義実現委員会がいるなら、聖園ミカにはアリウスがつく。和解へのステップアップってところかな」

「……旧式兵器の横流しも、していましたね……?」

「アリウスはクーデターのための道具だったのか?」

 一瞬ぴくりと眉を上げる聖園ミカさん。

「やっぱり、イヴちゃん、捨てるのは勿体ないな。それと、白洲アズサ。ありがとう。私はあなたの事はあまり知らないけど、今までもそしてこれからもスケープゴートとして活躍してもらうから、ある意味大事な仲間だよね。あなたには、ナギちゃんを襲った犯人になってもらうから」

 ある意味当たってるのが皮肉だが、笑ってる場合じゃ無いんだよな。

「罪を被る存在がいてこそ、皆がぐっすり安心して眠れるんだよね。世の中、そんなものだよね。でもさ、補習授業部が先に計画に気付くなんて、意外だったよ。水着を理由に停学か何かにしておくべきだったね、ハナコちゃん」

「"全てはティーパーティーのホストになるため?"」

「そうだよ。でも権力欲のためじゃない。ゲヘナをこの世から消すためだけ。トリニティの穏健派と、機能してないサンクトゥス派を追い出して、アリウスを代わりに入れて、公会議を開く。武力集団を入れて再編したトリニティが、ゲヘナに全面戦争をしかける」

 先生も激怒して目を見開く。

「わお、先生、そんな怖い顔もできるんだ。ごめんね、説明も端折ったし」

「先生、気をつけて。かなり強い」

 白洲アズサさんの警告に微笑む聖園ミカさん。

「そうだよ、先生には前言ったけど、私、結構強いんだから。警備なんていらないくらいにはね。じゃ、補習授業部を片付けてね」

 

*1
600人近く

*2
イヴちゃんと良いところだったのを聖園ミカさんに目撃されてパトロールに戻った事を指してるのだろう。




「ミカエル」という名前を直訳すれば「神に似たるものは誰か」(mî疑問詞「誰」 + kə「~のような」 + hā ’ēl「神」)という意味になる(Wikipediaより)
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