ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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戦いにおいて我らを護り、悪魔の凶悪なるはかりごとに勝たしめ給え

 大隊規模の半数、その4割近く*1は先生の指揮下で補習授業部が片付けた。もちろん、余裕で勝てた訳では無い。下江コハルさんと浦和ハナコさんが回復してくれなかったら、一番前に出てたイヴちゃんと場合によっては白洲アズサさんもやられてたかもしれない。2人が息を切らし、青あざだらけなのがその証拠だ。

「なるほど、そっか『シャーレ』『シャーレ』ってうるさいわけだ。大人って厄介だね。予想外だし時間がかかるから、私が直接やるか」

「ミカさん!一つ聞かせてください!セイアちゃんを襲撃したのもあなたの指示ですか?!」

 不思議そうな目をしてから、聖園ミカさんは吹き出す。

「あはっ、ハナコちゃんもそんな目するんだ。そうだよ。変な事ばっか言って、楽園がどうのこうの。でもヘイローを破壊しろとは言ってない。私は人殺しじゃない。ナギちゃんと同じで、卒業まで牢に閉じ込めとこうと思ってただけなんだけど、結果ああなっちゃった。ね、実行犯の白洲アズサ、セイアちゃんがあんなことになったのが事態が大きくなったきっかけなんだよ。説明してあげてよ」

「ち、違う……あれは……」

「アズサちゃん……?!」

 話の流れを一切無視してイヴちゃんが前に出る。

(……言葉を飾ることに、もう意味は無いよね……)

(イヴちゃん、ちょっと待って……!)

 駄目だ。無理矢理止めることはできるかもしれないけど、それは僕とイヴちゃんの契約に反している。

「あは、やっぱり降伏する気になってくれた?根性無しの彼女の彼女は、やっぱり根性無しなんだね?」

 馬鹿にしきった目で聖園ミカさんが眺める。

(……レイサちゃんを馬鹿にされたの、やっぱり許せない……)

 イヴちゃんがここまで怒るのを見るのはカイザー相手以外だと初めてかもしれない。しょうがない。フォローに回ろう。

 イヴちゃんが盾を投擲、その勢いで聖園ミカさんに接近。銃撃を予想していたのだろう、一瞬虚を突かれた聖園ミカさんはぎりぎり反応してその場で盾を叩き落とし、適当に銃を乱射した。500kg近い金属塊(盾と30mm機関砲、弾薬込)が床にめり込む。イヴちゃんは左腕と盾を繋いだ鎖も引っ張って――ろくに狙いもつけられてない弾を被弾する。激痛と胃の中身の逆流を僕が全部引き受ける。イヴちゃんは全力の腰が入った中段突きを聖園ミカさんの左脇腹に叩き込んだ。

 ずしん、と体育館全体が揺れる。轟音が同時に響く。

「いっ……たあ……!」

「……ぐ……おえ……!」

 無造作に振り回されたサブマシンガンの銃身で、イヴちゃんが床にめり込んでいた盾ごと吹き飛ばされ、補習授業部の皆の前で辛うじて受け身を取って着地。たった2発もらっただけなのに、もう足ががくがくだし、イヴちゃんの吐き気を僕が引き受けきれない。イヴちゃんが晩ご飯だったものを血と一緒に床に撒き散らす。たった10秒近くの攻防で、こっちは盾によりかからないと立ってられない。

「こんなに痛かったの、箪笥の角に小指をぶつけて以来だよ。イヴちゃんって強いんだね」

 冷笑的に聖園ミカさんが笑う。普通の子相手なら肋骨が内臓に刺さるからやらないくらいの本気で打ったのに、全然効いてない。

 

 聖園ミカさんが、「まだやるかい?」と首を傾げる数秒の沈黙。それを破り、穴の空いた辺りから銃声。「敵襲です!」とアリウス分校生が聖園ミカさん。に報告する。

「通信妨害をかけておいたのに、どうして……」

 イヴちゃんがちらりと先生の方を見る。シッテムの箱だろう。あれは多分、ちゃちな通信妨害程度では止まらない。

 聖園ミカさんが反射的に壁の穴を見る。そこから、聞き覚えのある声。

「補習授業部と先生は目を閉じて!」

 まぶた越しにも判る白光。閃光弾。

「自警団の走る閃光弾と、自警団のスーパースター!宇沢レイサ、ただいま見参です!」

「……レイサちゃん……」

「く、目が……!」

 音のする方向に適当に聖園ミカさんがばらまいた弾丸が、アリウス分校生を薙ぎ倒し、掠めただけで守月スズミさんを壁側に吹き飛ばす。

「スズミさん!」

「レイサさんはイヴさんの方に!」

「イヴちゃん!?よくも!ああああっっ!!!」

 ショットガンを乱射しながらアリウス分校生を、聖園ミカさんを躱してイヴちゃんの方向に走ってくる宇沢レイサさん。

 補習授業部の面々も援護するが、聖園ミカさんにはそもそも銃弾がほとんど効いてないらしく、彼女が目が見えないまま適当にばらまいた銃弾がイヴちゃんに向けて飛んで来たのを、宇沢レイサさんが背中で3発受ける。

「うぐっ?!」

 激痛に顔を歪め凄まじい勢いで吹き飛んできた宇沢レイサさんをイヴちゃんがキャッチする。4発目をイヴちゃんが右腕で受ける。右腕が変な方向に曲がりかけるのを、辛うじて受け流したのが右脇腹に突き刺さる。宇沢レイサさんがイヴちゃんを庇うように覆い被さる状態で倒れる。

「バカレイサ!バカイヴ!!」

 下江コハルさんの投げる聖水手榴弾も、聖園ミカさんが適当にばらまいた弾がかすっただけで空中で破裂し空しく水を撒き散らすだけで届かない。辛うじて1発、床を転がしたものがイヴちゃんの手前に転がる。

 宇沢レイサさんは当たり所が悪かったのか、意識を失い、呼吸音が濁っていて、顔面蒼白で動かない。

 聖水手榴弾を。イヴちゃんが必死で右腕を伸ばす。僕が痛覚と筋肉を操作して関節を外して、何とか届かせた。瓶を必死で引き寄せて聖園ミカさんからの流れ弾と、とどめを刺そうと撃ってくるアリウス分校生達の弾雨から守るイヴちゃん。

 イヴちゃんは手榴弾の口を開けて、宇沢レイサさんに飲ませようとするけれども飲んでくれない。

 イヴちゃんは1秒考えて、自分で飲んでから、口移しで飲ませる。宇沢レイサさんの顔色が明確に良くなっていく。

 ようやく目が見えるようになってきたらしき聖園ミカさんは守月スズミさんの倒れている方に適当に弾をばらまいてる。隙を突かれた怒りなのか、単に閃光弾を警戒しての牽制なのか、イヴちゃんの30mm機関砲(ウッドペッカー)より遥かに小さいサブマシンガンの弾で壁がスイスチーズのように穴が空いていく中、アリウス分校生の増援が更に慌てて報告する。「て、敵の増援です!」

「自警団員なんてそんなにいないでしょ。何慌ててるの」

「それが、大聖堂から増援が」

「シスターフッド……?!どうして、自警団もだけど……」

「"私のタブレットは、通信妨害に強いんだよ、ミカ"」

「自警団はイヴちゃんが、シスターフッドは、私が少し約束をしたので」

 

 爆煙と共にシスター達が雪崩れ込んでくる。伊落マリーさんが、イヴちゃん達を見かけて慌てて駆け寄ってきてくれる。

 シスフの暗黒卿、もとい、歌住サクラコさんが朗々と告げる。

「シスターフッドのこれまでの慣習に反する事ではありますが、ティーパーティーの内紛に介入させていただきます。聖園ミカさん、他のティーパーティーメンバーへの傷害教唆及び傷害未遂であなたの身柄を確保します」

「あははっ、シスターフッドと戦うのは初めてだなー。これが切り札ってこと?ねえ、ハナコちゃん、何を支払ったの?」

「やっと顔色が変わりましたね」

「鬱陶しい自警団と一緒に、大聖堂も掃除しようと思ってたの。一気にやれるチャンスだって考えることにしようかな」

「いくらあなたが強くても、勝算はわかるでしょう」

「もう私は行くところまで行くしかないからね。『降参します』なんて言えない」

 

 宇沢レイサさんの介抱を伊落マリーさんに頼んで、イヴちゃんが盾にすがりつくように立ち上がり、再度補習授業部の面々に合流する。痛覚を僕が引き受けてても骨が何本かイってるらしく、かなりキツい。何とか立ち上がった守月スズミさん、シスターフッドと補習授業部の挟み撃ちで、アリウス分校生も掃討され、激闘の末に聖園ミカさんがやっと膝をつく。先生が広域指揮を取ったにも関わらず、シスターフッドも半壊という有様だ。

「何を見誤ったのかな。イヴちゃんを抱き込めなかったから自警団が敵に回ったせい、あの閃光弾とイヴちゃんの彼女さんがいなければ、シスターフッドは間に合わなかった?浦和ハナコを排除しておかなかったから?『浦和ハナコ』がとんでもない存在だったのはわかってたけど、無害になったと思ってたのに。アズサちゃんが裏切ったから?ううん、元々切り捨てる予定だった。ヒフミちゃんはただのナギちゃんの愛人で、コハルちゃんはただのおバカさんでしょ?どうして負けたのかな。ちゃんとパテル分派の子達を連れてくるべきだった?」

 先生が近づく。

「ああ、そうか……先生がいたね。先生を連れてきたのが間違いだったのか」

「ミカさん、セイアちゃんは……?」

 浦和ハナコさんの問いへの聖園ミカさんの深い、深い溜息。

「本当に、殺すつもりじゃなかったの。今の私が何を言っても意味無いけど」

 無茶をした分、怒り心頭の下江コハルさんに頭から聖水手榴弾をぶっかけられているイヴちゃんと、浦和ハナコさんが同時に口を開く。

「……セイアさんは、死んでないです……」

「セイアちゃんは無事ですよ。襲撃犯が見つからなかったので、トリニティの外で身を隠しています。救護騎士団のミネ団長が守ってくれています」

 体育館の流れ弾で穴だらけの天井越しに空を見て、聖園ミカさんが呟く。

「そっか。生きてたんだ。良かった」

 

 聖園ミカさんが銃を床に捨てた。

「降参。おめでとう、補習授業部、先生。あなたたちの勝ちってことにしておいてあげる。アズサちゃんは、自分が何をしてるのか、この先どうなるのか、それは判ってるよね?」

 白洲アズサさんが頷く

「トリニティがあなたを守ってくれると思う?追われ続けるよ、どこまでもね。サオリからも逃げ切れるかな?et omnia vanitas」

「わかってる。それでも私はあがき続ける。好きなように生きて、最後まであがいてみせる。それが、私のやり方だ」

 

 補習授業部と守月スズミさん、まだ意識が戻ってない宇沢レイサさん、そしてシスターフッドの面々はイヴちゃん含めて満身創痍で、聖園ミカさん単騎での強さが際だっていた。歌住サクラコさんが加わってすら厳しい勝負だったのだ。

 

 先生が、正義実現委員会に連行されていく聖園ミカさんに途中まで付き添っていく。ひとまずは終わったんだろうな。

*1
120人ってとこか




 ミカは直接戦う機会が少なく、訓練もさほど受けていないので勝てたというパワーバランスです。
もしミカが正義実現委員会か自警団、あるいはティーパーティー近衛師団の訓練をずっと受けていれば、先生の指揮ありでも引き分け、あるいは押し切られる危険性もありました。
 あるいは、パテル分派全員を連れてくればまた可能性がありましたが、ミカの『失敗時に巻き込みたくない』という善性から、通信妨害に終止しています。

 ファーストキスは吐瀉物と血の味。
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