ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
<<コハル視点>>
「テストの打ち上げをしよう」とハナコが言い出したときに、私は参加する気は全然なかった。ちょっとだけ、参加してやってもいい気持ちはあったけども、正義実現委員会の仕事にすぐ復帰したかったから。特に、エデン条約調印式なんて大きな仕事、エリートである私に相応しい仕事だったし。
でも、ハナコの目を見て、「今日だけはいいかな」という気持ちになってしまった。ちょ、ちょっとだけ。
止めとけばよかった、と思ったのは、打ち上げ会場が寮の個室、ヒフミの部屋になってからだった。それまでは、皆で買い物をして、「昼休みにはイヴ達とローテーションでご飯を買いに行っている」みたいな話をしたり、テストの成果で盛り上がったりしてたのに。
ヒフミの部屋はメタルラックが窓まで潰して設置されていて、モモフレンズ?グッズで占領されている。天井からも山のようにぬいぐるみやグッズが吊されていて、えっちな儀式を通り越して、普通に危ない儀式をしてそうな雰囲気しかない。床とテーブルはちゃんと綺麗なのが逆に怖い。ベッドも2段ベッドの上段にモモフレンズが文字通り山のように積まれていて、帰ろうかと思った。
でも、何だかんだ言ってこの面子といるのは楽しい。なるべく視界にヒフミ、ハナコ、アズサの顔とテレビだけしか入れないようにすれば大丈夫。大丈夫なの、これ?
エデン条約調印式には、見覚えのある先輩達も映っていて、アズサの選んだフライドチキンをつまみながらテレビの向こうを見てるっていうだけで別世界のように思える。
「先生とイヴが来られなかったのは残念だな」
「あはは……。お二人ともお仕事ですから仕方ないですよ」
「あ、見てください、イヴちゃんが映ってますよ」
わざとだろう、行儀悪くチキンの骨で画面を指すハナコ。私の一番のライバルにして、不本意ながら*1友達と言ってやってもいい、御蔵イヴのいつも通り何を考えてるかわかりにくい顔が映る。わかりにくいだけで、「真面目な顔をしてないといけない」くらいの事を考えてるのはわかる。
小さく溜息。
「正義実現委員会を背負って立つエリートの私も、やっぱり行っておくべきだったかな」
「大丈夫ですよ。どっちみち、まだ、補習授業部から正義実現委員会に籍が戻ってないのでしょう?」
うっ、と言葉を詰まらせる私。
「あれ、そうなんですか?」
「補習授業部自体を解散させる手続きと同時にしているから、時間がかかっているらしい」
「イヴちゃんは……そうか、監督官でしたね」
一緒にテストを受けていたから忘れがちだったけど、あいつは立場が違う。そこにちょっと悔しい思いをした。
だらだらと、でもとても楽しい時間。「クロノスの偏見に満ちた報道にツッコミを入れてるだけで半日は潰せる」とニコニコ顔のハナコの解説を聞きながら、ヒフミの選んだねばねばオクラ山芋*2サラダを食べる私達。今日はこんなだらだら楽しい時間が流れるんだろうな、と、思っていた。
寮の窓をビリビリと震わせて、何かが通り過ぎるまでは。
テレビの中では大変な事になっている。爆弾?砲弾?ロケット?何だかわからないけど、会場の古聖堂が1/3は壊れて中が剥き出しになっている。クロノスと、それ以外のメディアのヘリも何機か撃墜されたみたいだ。
顔色を変えてがたりと立ち上がるアズサ。「サオリ……!?」と呟いて飛び出しかけるアズサの手を、反射的に私は掴む。どこかのライバルに触発されてちゃんとしてなかったら、間に合わなかったかも。あのぼんやりした奴にちょっとだけ感謝する。
って、アズサ、力、強い!
「アズサちゃん!」
「アズサちゃん、待ってください!何か、心当たりがあるんですか?!行くにしても、準備してから、皆で行きましょう!」
「ちょ、良いから手伝ってよ!」
何とかアズサを宥められた。
<<ジル視点>>※アズサを宥める5分前
条約調印式が始まる直前、イヴちゃんは右脇腹に気をつけながら久々にパルクールで古聖堂の屋根によじ登る。報道ヘリの音がうるさくて、聴力は当てにならないかもしれない。
古聖堂の周囲を見渡すと、3時方向からだけ、白く濃い霧だか煙幕だかが会場に押し寄せてくる。
(……ジル、霧……?!)
(こんなピーカン晴れで霧なんかおかしい!とにかく霧の向こうから、何か来る!来たら撃って!)
僕が観測を補助しながら、古聖堂の屋根より下を、音より早く飛んで来た飛翔体に
(……早い……!)
ざっと12発、撃墜できたのは3発ってところか。霧から古聖堂までは数百m、目視で2割なら悪く――。
(イヴちゃん、正面!)
霧の向こうから最後の1発、急上昇してイヴちゃんに向かってくる巡航ミサイルを辛うじて撃墜するイヴちゃん。悍ましい黒色の闇*3と爆風がイヴちゃんの身体をビリビリと叩く。途端に吐き気を催すイヴちゃん。朝ご飯はもう消化されてるはずだ。
(イヴちゃん、もう吐いて)
古聖堂の屋根に胃液を吐き戻す。苦痛は僕が引き受けるけど、背中をさすってあげられたらいいのに。霧が晴れ、盾に寄りかかって息を整えるイヴちゃん。
(……今のミサイル、何……何かおかしかった……)
(血液とか神経を見てる限り、生物兵器とか、化学兵器では無さそうだけど。無理せず、まずは下りて)
まさかヘイローを破壊するとかいう爆弾か?だとしたら、直撃をもらわなくてよかった。
襲撃者のMANPADS*4だろう、報道ヘリとトリニティの記録用のヘリが何機か落とされ、慌てて逃げていくヘリ群。
慎重にイヴちゃんが下りたタイミングでは、現場は大混乱だった。空崎ヒナさんに3発、剣先ツルギさんに2発が集中的に命中し、2人は立っているのがやっとという大怪我を負っているようだ。残りは無作為に会場に命中したらしい。撤去したはずの爆発物が、マスメディアに偽装された何者かに持ち込まれた形跡もあるらしい。
おまけに、アリウス分校生に加えて、何だかえっちなレオタードを着た生徒のようなものが周囲を包囲している。
「イヴさん!大丈夫ですか?!」
「……ハスミさんも……」
やはり怪我でふらついている羽川ハスミさんが、イヴちゃんに声をかけてくれる。
頷いて、現況と情報共有。こちらからはミサイルが古聖堂向け13発撃ち込まれたこと、奇妙な弾頭のあるミサイルが含まれていたこと。
「黒い何かを撒き散らす弾頭のミサイルは、それぞれ風紀委員長とツルギを狙っていたようです。目に見えて威力が違いました。直撃しなかったのは不幸中の幸いかもしれません」
「……あの、レオタード?水着?みたいな人達は……」
「あれはユスティナ聖徒会、過去のシスターフッドの前身のようです。なぜ彼女達がアリウス分校に味方するのかわかりませんが、とにかく敵で、イヴさん?」
要するにオバケだというのを認識してしまい、蒼白になるイヴちゃん。
(イヴちゃん、しっかりして!)
(……お、お化け、無理、かも……)
「大丈夫です。弾は通用します。当たれば倒せます」
試しに聖徒会にウッドペッカーを叩き込むと、確かに吹き飛んだ。途端に生気を取り戻すイヴちゃん。
「……殴れて、倒せる……?なら、同じ敵です……」
「"ハスミ、イヴ!大丈夫?!"」
無傷だった先生がやってきた。シッテムの箱バリアは無事作動したみたいだな。
「イヴさんは元々予定していた通り、マシロと共に、先生の護衛をして一旦市街地まで退避してください。市街地には正義実現委員会の4割を配置しています」
「"でもハスミ達が……"」
「市街地にも攻撃が加えられているようですが、ここよりは遥かに散発的で、主力は健在です。古聖堂の建物は見ての通りまだ持ちそうですし、無事な生徒もそれなりにいますから、ここで持久をするので、先生は正義実現委員会と、可能なら自警団も指揮に加えて戻ってきてください」
先生の言うとおり、ここで先生が指揮を取って包囲を突破しても問題無さそうだが。羽川ハスミさんが小声で囁く。
「今、正義実現委員会、風紀委員会、近衛師団、親衛隊、全てがお互いを疑っています。正義実現委員会と風紀委員会は、合同訓練を何度もしているからまだ『マシ』ではありますが、緊急時にどこまでパニックを起こさないかは断言できません。それに、先生はヘイローが無いんですよ?」
なるほど。統一した指揮下に纏めるのが難し過ぎる状況で、先生というお荷物を守り切れる保障は無いって事だな。
イヴちゃんは頷く。
(イヴちゃん、裏にスケルチを呼んであるから)
(……ありがとう……)
「……私のバイクがあります……私、先生、マシロさんの3人乗りでも十分乗れるバイクなので……」
「マシロ、聞いてましたね」
「はい、お願いします、イヴさん」
スケルチの信号は生きてるし、目立った損害も無さそうだ。イヴちゃん、先生、静山マシロさんの順で乗る。激しい銃声に紛れて、スケルチの怪物じみたエンジンが気炎を吐く。
『スケルチ、
遠くから、銃を撃ちながら空崎ヒナさんと剣先ツルギさんが声をかけてくれる。
「先生をお願い、イヴ」
「くひひ……ひひ」
「お任せしましたよ。ツルギは『武運を祈る』とのことです」
バイクが見えない位置から、助走できる距離一杯を使って古聖堂を飛び出す。
「……お二人とも、舌を噛まないように……」
大型バイクが空を飛ぶ前に言った方が良かったかも。
ヒナとツルギに直撃したのはヘイロー破壊弾頭搭載ミサイルです。神秘が多い順に狙うシステムになっており、ヒナとツルギが弱ったために、最後の高価値目標としてイヴが狙われました。
古聖堂そのものは原作と事なり崩壊しておらず、生徒の怪我人は原作と比べると圧倒的に少ないですが、ヒナとツルギのダメージは通常の弾頭ではなくヘイロー破壊弾頭を使用されたため、さほど変わっていません。また、ハスミが作中指摘している通り、正義実現委員会、風紀委員会、近衛師団、親衛隊全てが「この中に裏切り者がいるのでは?」と疑っている(事実、スパイや工作員は少数浸透しています)ことと、まさかユスティナ聖徒会が無限湧きするとは思っていないため、ハスミとアコが協議のうえ、残存兵力を糾合しての突破による解囲ではなく、防御を選んでいます。
ベアトリーチェからすると、本来このヘイロー破壊弾頭は緊急時の予備兵力だったのですが、爆弾設置工作が露見した結果、急遽投入することになりました。