ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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もしも先生が辞めたら、きっとキヴォトスは鉛の気球みたいに急降下するだろう

 元々8,200cc、502馬力のトラック用エンジンを積んだ怪物バイク、今は更にエンジニア部の手が入り、600馬力近いパワーを発揮するスケルチが轟音を撒き散らし、古聖堂の廃墟から飛び出す。

「……先生、マシロさん、しっかり捕まってて……」

 イヴちゃん、先生、静山マシロさんの順で乗ってるのは、先生の盾になるためだ。今日の先生はタイトスカートのスーツに生足*1と、間違ってもバイクに乗せたくない姿だが仕方ない。

 1両しかないスケルチは当然目立つため銃弾ががんがん飛んでくるが、そもそも頑強な車両なので突撃銃の流れ弾くらいなら何とかなる。イヴちゃんが聖徒会シスターを轢殺*2しつつ、静山マシロさんが対物狙撃銃を適当にぶっ放し、牽制している間にスケルチは最高速まで――は加速できない。あちこちに放棄された車両や、アリウス側が作ったバリケードがあるからだ。先生が乗ってなければ、ブレンガンキャリアーくらいなら踏み潰して進んで構わないのだが。

(……ジル、見張りお願い……運転に集中する……)

(わかった、イヴちゃん!)

 イヴちゃんの視界と聴力での見張り、任された。

 

<<羽沼マコト側近、万魔殿親衛隊員A視点>>※10分ほど前

 どうしてあたしはこんなところにいるんだろう。さすがにもう慣れた万魔殿親衛隊員服の袖を弄りつつ、あたしは独りごちる。どこからともなくやってきた飛行船のどことなく煤けた船内で、羽沼マコト様の従兵として採用され、灰色のリュックのようなものを背負わされ、壁際に銃を持って突っ立っている元魑魅一座。それがあたしだ。

 先生の仲介があったとは言え、あたしの前歴も一切構わず採用し、何の差別もしない羽沼マコト様は自己顕示欲の凄まじさと風紀委員会への敵対心、丹花イブキ議員へのデレデレ顔を除けば尊敬すべき、事実尊敬できる上司ではあるが、時々不可解な面がある。今まさにこの瞬間がそうだ。

 呆れきった面倒臭そうないつもの顔で、棗イロハ議員が羽沼マコト様に尋ねる。

「もう一機の飛行船はいつ来るんです?わざわざイブキをあっちに乗せるのも意味がわかりませんし、あれにもティーガーが積んでありますが」

「キキキ、あれは今日は絶対飛ばん。飛行可能状態だが、今日中には飛べんことになっている。イブキをトリニティに今日連れてくる気はない」

 はぁ、と溜息を吐きつつコーヒーを飲む棗イロハ議員。

「そもそも、この2機の飛行船はアリウス分校から供与されたものだ」

「あの、パテル派、というか、聖園ミカのクーデターに助力した連中ですか?」

「そうだ。奴らは『ゲヘナと協力し憎きトリニティを倒そう。目の上の瘤の風紀委員会も排除してやる』と言ってきてな」

「それで、乗ったんですか?」

「キキキ、トリニティがアリウスのものになれば、事実上のゲヘナ=トリニティ連合が形成できる。ミレニアムが仮に中心になってレッドウィンター、山海経、百鬼夜行、後はワイルドハント辺りと組んだところで、所詮は烏合の衆」

 凄まじい野望だ。「キヴォトスを征服する」というのははったりでは無かったんだ、と改めてこの上司の凄さに打ち震えていると、棗イロハ議員が言葉の冷や水を浴びせた。

「アリウス分校の成立の経緯はご存知ですよね。ゲヘナの方が憎まれてますよ、きっと」

 平然と答える

「そうだろうな。見ろ、隠すつもりもない『危険物』『爆発物注意』のコンテナの壁を」 壁際のコンテナ群につかつかと歩み寄り、軽く蹴りを入れる羽沼マコト様。悲鳴を上げそうになるのを堪えたのは、尊敬する上司の前で無様を示したくない一心だ。

「安心しろ。中身はとうに抜いてある。まあ、今朝、メディアのフリをした連中の工作員がまた仕込んでいったがな。それも排除済だ」

「つまり、乗ったフリをしただけですか」

「トリニティと風紀委員会が本当に倒れ、アリウスがゲヘナと協調するならそれでよし。アリウスが負ければ我々は被害者面をしておけばいい。この船自体は何らかの形で落とされるから、準備はしておけ」

 羽沼マコト様の発言の直後、飛行船後部から爆発音、船が地震のように揺れ始めた。

「キキキッ、どこに落ちたい?」

「遠慮したいところです。パラシュートは?」

「従兵!最後に積んだ段ボールがあるな?」

 あたしは慌てて段ボールの中から、自分が背負っているのと同じリュックを2つ取り出す。

「操縦席の連中はもうつけている。飛び降りてから右側のヒモを引け。いいな?」

 棗イロハ議員とあたしはこくこく頷く。

 無造作にポケットに突っ込まれた羽沼マコト様のスマフォがちらりと見える。『丹花イブキ議員はご指示通り、トリニティの連絡機で――』という通知。そんな指示を出していたか、従兵のあたしにはわからない。

「さて、空の旅としゃれ込むとしよう。キキキッ」

 それに気付いているのかいないのか、まさに悪魔のように、羽沼マコト様は嘯いた。

 

<<風紀委員会委員A、トリニティ正門待機組>>※同じく10分ほど前

「そろそろ式典が始まったし、もう入っていいんじゃないの?」

 同僚の問いに、私は首を横に振る。

「正義実現委員会の入場許可無線がまだ」

 予定では後1、2分というところだ。相棒は良い子だが、せっかちなのが玉に瑕。

 救いなのは、こっちの車両に乗っているのが便利屋68ということだ。相棒は追加のペットボトルの水*3を便利屋68の皆に投げ渡している。特にあの、「ムツキ室長」と仲良くなったらしい。

 後ろのもう1両は、囚人護送用の車両で、美食研究会が入っていることを考えると、猛獣の檻みたいなものじゃないだけ随分マシだ。

 とはいえ、私もイライラしているのは確か。式典の最中で無ければクラクションの一つでも鳴らしたくもなる。

 正門から正義実現委員会の制服を着た子が2人走ってきて、やっとか、という気持ちになり窓を開ける。

「もう入って良いですか?」

「大丈夫ですよ。行き先は地獄ですけどね」

 何か、いや、集束手榴弾が複数投げ込まれ、同時に、ガチリという音が車外からする。吸着地雷の音だ。後ろの囚人護送車も同じ。爆音と共に私は意識を手放した。

 

<<ジル視点>>※古聖堂離脱から3分後

「"ゲヘナの飛行船が……!"」

 9時方向、ゲヘナの校章が記された飛行船が火を噴いて落ちていく。Led Zeppelinの1stのジャケそのままの風景だな。浮力が大きいからか、即座に落ちるもんでもないんだな、と一瞬感心したが、イヴちゃんが正門近くの大きな校舎横の道を右折した瞬間にそんな気持ちも消し飛んだ。

 放棄されたブレンガンキャリアー複数両を積み上げたバリケードで道が塞がっている。金田カーブで急停止をかけるイヴちゃん、スケルチに射撃が集中し、先生が小さな悲鳴を上げる。

「……先生……!」

 先生から返事が無い。脇腹、白ブラウスに血の赤が染みていく。イヴちゃんはスケルチごと校舎陰に隠れる。静山マシロさんが反撃の射撃を試みるが、相手は小隊規模*4だ。

「先生を発見、逃がすな!」

 黒キャップに黒マスク、白コートでアリウスの校章、パンツスタイルのヘソ出しの怜悧な美人。今世で見るのは初めてだが、錠前サオリさんだろう。イヴちゃんは自分を盾にしながら、先生のブラウスを引きちぎる。

(……脇腹をかすっただけ……内臓には当たってない、みたい……)

 イヴちゃんの親指くらいの太さの傷がついてしまってるので、傷跡は残るかもしれないな。とはいえ、見たところだけど内臓は確かに大丈夫そうなので、被弾したショック自体で先生は気絶しただけだろう。呼吸もしているし、ショック症状などについては判らないけど、唇の色も青白くは無い。イヴちゃんは先生のブラウスを更に素手で破いて簡単な包帯にする。

 動揺する静山マシロさんに、先生の無事を伝えると、静山マシロさんは「スケルチを貸して欲しい」と静かに言った。

「イヴさんは飛べますよね?私がこのまま9時方向に逃げますから、一旦、逆方向に逃げて、自警団か正義実現委員会の戦力が戻ってくるまで隠れましょう」

 先生の指揮があれば、逃げるだけならいけたかもしれないが、錠前サオリさん含む小隊相手の突破は無理だろう。

(じり貧を取るか、ドカ貧を取るか……じり貧を取って、宇沢レイサさんとかが戻ってきたらまだ何とかなると思う)

(……わかった……)

 頷くイヴちゃん。僕は猿芝居を一発打つことにし、イヴちゃんの口を借りる。先生の血が染み付いたブラウスの布切れをアリウス分校生の方向に投げ、大声で一言。

「先生が死んだ!!」

 一瞬だけしん、と銃声が静まり返る。静山マシロさんが駆る、盾とウッドペッカーを外して軽快になったスケルチの爆音と、再開された銃声に紛れ、イヴちゃんは翼の飛行機構を作動させる。ひゅおおお、と空気を吸い込む音。盾の正面を地面に向けて、魔法の絨毯のように下敷きに、先生をその上に乗せて、スーツの上着を着せ直した先生の上に腹這いになるイヴちゃん。*5

 どう、と翼に内蔵された左右のロケットがイヴちゃんと先生、盾を空に打上げた。

*1
ストッキングは破れてしまった

*2
幽霊?なので轢殺が正しいかわからないが。

*3
私達が飲んでいるのと同じ物。買ってから時間が経ってるのでぬるい。

*4
3~40人程度

*5
盾になるためでえっちな意図は無いけど何だかやらしい。




 親衛隊従兵は魑魅一座の最初に捕虜になった情報提供者(『【閑話】ゲヘナと先生の話』でゲヘナに編入した子)です。

 アロナちゃんバリアは原作同様、古聖堂で使われており、原作と違いほんの少し余力がありましたが、小隊単位の集中射撃全弾を防ぐのは無理でした。アロナちゃんバリアが無かった場合、更に2発ほど被弾していたので、頑張ってはいます。

 正義実現委員会の服は盗んだもので、2人はアリウスの工作員です。
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