ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
今話、人体欠損を含む残酷な描写があります。
苦手な方向けに、次話前書きに今話のあらすじを書くので、苦手な方は飛ばして頂いて大丈夫です。
飛び上がる直前、翼がもう一つ開き、小型のアンテナが飛び出し、イヴちゃんが錠前サオリさんを凝視する。
「っ!退避!!」
錠前サオリさん含むアリウス分校生が慌てて散開。青白い極太レーザが3秒間、地面を空しく焼く。
くそ、切り札の天から降り注ぐ衛星レーザで、ダメージくらい与えられたら良かったのに。「脳波コントロールだと誤射の可能性がある」から視角でのロックオン必須になってるのは強者相手だと不利だな。でも飛び上がる時間は稼げた。スケルチを駆った静山マシロさんも時間を稼いでくれてるし、これで数分は稼げるはず。
<<槌永ヒヨリ視点>>
リーダーはイヴさんを逃しちゃったんですね。そういう事もありますよね。
「リーダーは先生の殺害におそらく成功、死体の確認をしたいそうだ。ヒヨリ」
イヴさんには雑誌や食べ物の恩義がたくさんあります。でも、撃たないとマダムに何をされるか。隣のミサキさんにも、イヴさんからもらったお土産を持って帰ったのに。
「ヘイロー破壊弾を使えってさ」
「あれは試作品じゃ……?」
「効けば儲けものってことでしょ。1発しかないけど、先生の生死確認にはそれだけの価値があるってこと」
薬莢に黒い帯が巻かれた銃弾を装填する手が震えます。
「先に撃つ。目か鼻、耳を狙ってすぐ撃って」
ミサキさんがセイントプレデターを発砲しました。普段より禍々しい弾道に見えるのは気のせいでは無いでしょう。実験に使われた生徒は一ヶ月経っても寝たきりだそうですし。
イヴさんの上空で炸裂した子弾が背中にめり込むのを見て、ふと思いました。馬鹿正直に撃たなくてもいい。外してしまえば良いんだと。私はそっと、イヴさんの赤黒い瞳からわざと照準を下げ、頬骨を狙って撃ちました。その直後、がくりとイヴさんが態勢を崩します。
「左目に命中。回収に行くよ」
え、という言葉を喉に貼り付けて、口に出さずに済ませるのに苦労しました。人生は、苦しいものですね。
<<ジル視点>>
空中でMANPADSが炸裂、先生を庇うためにイヴちゃんが背中で受けた部分、痛覚を慌てて僕が取るけど、焼けるように痛い。何だこれ。普通の弾じゃない。
(……ジル、痛――)
次の瞬間、僕が見たのは、まるで無力な僕を憎むかのように恨めしげに僕を見るイヴちゃんの左目だ。そう、左目だけがくるくると宙を舞う。慌てて掴もうとした矢先、黒いドローンがイヴちゃんの左目を攫っていった。
(追跡……)
(……駄目、墜ちる……)
痛覚遮断も引受けも限界だ。
(イヴちゃん、ごめん、僕はもう力になれない。いざとなったら、先生を)
見捨てても生きてくれ、と言い切る前に僕の意識は途切れた。
<<イヴ視点>>
ジルの存在が感じられなくなる。普通のジルの睡眠や気絶じゃ無い。喪失感、ジルが引受けてくれていた痛覚が全部戻ってきて、私は絶叫にならない、小さな悲鳴を上げる。
「……あ、ああ、あああ……!」
翼のロケットも、さっきのMANPADSでやられているみたいで、どう、どうと変な咳き込み方をしている。もう少し飛べそうだったのに。激痛とジルがいない喪失感で視野が震えて、ちゃんと着陸出来る自信が全く無い。
眼前のコンクリート2階建の小さな家くらいはありそうな家をクッションにして着地することに決めた。
盾を残った力を振り絞って放り投げる。錨と錨鎖が泥に沈むように、1階に盾がめり込んだ。
片目とこの怪我での着地で、先生は、無事。それだけを安堵する。普段なら、先生を担いで、盾も持って行くのに、今、どんどん力が抜けていくのがわかる。ミカさんに折られた脇腹の痛覚遮断も効かなくなってきた。
ジル、痛いよ。助けて。
力を振り絞って、先生を盾が崩れ落ちないようにしてから、その下に隠し、手前にそれらしいワイヤーを張っておいた。
羽川ハスミさん、天雨アコさん、守月スズミさん、宇沢レイサさんに先生の座標と、怪我の状況を送っておく。左から撃たれたってことは、左手側にも敵がいたはず。追っ手が来る。先生を担いで逃げたと思わせなきゃ。
『先生を回収する車両をすぐに手配します』と天雨アコさんから返事が来た。私は、囮としての仕事をしないといけない。古聖堂は、ここから1kmくらい、2時方向。目も、背中も、脇腹もずきずきを通り越して、電流を流されてるような痛みを訴えてくる。でも、先生を守るために行かないと。
<<槌永ヒヨリ視点>> 5分後
「スクワッド全員で当たれば、今の御蔵イヴなら倒せるはずだ」
「そんなに強いの、あの子」
リーダーと、気だるげなミサキさん。全員と言っても、姫ちゃんは既に別件で離れていますが。
「ヘイロー破壊弾とやらが効いていれば問題無いだろうが、相手はあの七囚人を仕留めた相手だからな」
「はぁ……了解。それにしても、リーダーの扱いが荒いね、今回」
「例のクーデター失敗のときに、指揮官クラスがかなりやられたからな。私以外の指揮官も複数の現場を回っている」
なるほど、それでリーダーは分刻みのスケジュールなんですね。仕事ができると辛いですね。
歩くこと数分、眼前に1階が半壊した鉄筋コンクリートの頑丈そうな建物が見えてきました。イヴさんの持っていた盾と、鎖がそのまま放り出されていますが、血痕は2時方向に行っていますね。血痕を見て、改めて胸がずきりと痛みます。
「古聖堂側に逃げたか?合流を図る気かもしれん」
「盾と銃はどうする?」
「触るな。ブービートラップが仕掛けられている。恐らく建物ごと吹き飛ぶぞ。よく見ろ」
言われて始めて、ワイヤーに気付きました。リーダーとアズサちゃんは、こういうのが得意でしたね。
「盾と銃を捨てていくほど弱っているなら、私一人で当たる。計画の時間は押しているから、お前達は予定通り行動しろ。後ほど再度合流する」
「「了解」」
リーダーに押しつけるようで少し気が引けますが、自分が大怪我をさせたイヴさんの姿は見たくないので、助かりました。私達は小屋を調べず、リーダーはまるで猟犬のようにイヴさんのものらしき血痕を追います。我々は、他の戦力が必要とされる地点へ。
<<イヴ視点>>
息をして歩くだけで精一杯。
古聖堂が見えてきた。まだあの聖徒会と、アリウス分校生達が包囲攻撃している。羽川ハスミさんの髪だけがちらっと見え、安堵の溜息。
溜息の直後、背中に銃撃を受け、辛うじて木の陰に隠れる。nonfire*1の方のナイフ、落としちゃった。今転んだら、きっともう立てない。
「御蔵イヴだな。観念しろ。先生の死体はどうした?」
「……途中で、落とした……」
舌打ちする背の高い、さっきの指揮官らしい女性。
「まあいい、お前はここで仕留めるとしよう」
白兵戦を仕掛けてくるつもりらしい。キヴォトスでは珍しい。私は力を振り絞って、ジルから教わった空手を構える。女性は私のnonfireを拾い上げ、牽制のつもりだろう、左手首を狙ってくる。nonfireは良いナイフだけど、私の血管までは食い込まないはず。私はナイフを内受けで受けて、反撃の左足ハイキックを入れた。
眩暈からか、急に私の重心が狂い、左ハイキックが突然空中の何かに気を取られた女性のこめかみの少し上に直撃し、吹き飛ぶ。
私も女性の視線を追う。私の、左手首が宙を舞っていた。思わず血が噴き出してる、存在してない方の左手を伸ばす。また、黒いドローンが攫っていった。昔、鳶におやつを取られた事を思い出して、ふふ、と笑ってから私は膝をついた。
サオリが呆然としたのは、「キヴォトス人にナイフは効果が薄い」という原則を知っていて、イヴ同様「手傷を負わせて集中力を削ぐ」程度のつもりで振ったら左手首がぶった切れてしまったからです。